真の姿に驚く
なぜか今回は、夕霧もかなり長い間沈黙していたが、前のように「なんなら今回はパスでもいいよ」と俺が助け船を出した途端、ゆっくりと首を振った。
「いえ……もう最大の秘密は打ち明けたのですから、大丈夫ですわ。ただ、今ここで本体に戻ることはできませんので、明日までお待ち頂けますか? 用意してまた参りますので」
「そ、そう……いや、苦労かけるな」
俺は理解を示しつつ。実は内心ではひどく疑問だった。
なんで一日待つ必要があるのだろうか?
準備期間がいる本体開示とは、なんぞや?
まさか本体がプ○デターみたいとか、そんな理由だろうか……いや、別にプレデ○ーですら、特に準備はいらないような。
まだ夕霧がなにも言ってないのに、俺はさらに先を考え、「もしプレデタ○に酷似した本体だったら、どうするか」とまで考えていた。
その場合は、ずっと夕霧の姿でいてもらいたいというのが本音だけど、そう頼んだら、プレデタ○夕霧は怒らないかな? みたいな。
もはや一番最悪なケースとして、プレデター本体説が脳内に定着している案配だった。
ただ、時間にしてわずか十秒足らずの俺の葛藤を、夕霧は密かに察知していたようだった。
なぜならすぐに「あ、あのっ。やはり今、お見せします。もったいぶってごめんなさい」と急いで訂正したからだ。
「そ、そう? いや俺は、明日まで待つけど?」
すかさずそう提案したけれど、夕霧の決心は固かった。
「いえっ。わたし自身も、思い切って最後まで見て頂いた方が、ほっとします……その後でのご不満は、その時のことですから」
などと、蒼白な顔で言ってのけた。
これはもう、俺の「本体プレ○ター説」が、かなり信憑性が出てきた気が。
ヴァンパイアだけど、見た目はアレ的な感じじゃないだろうかと、にわかに俺まで緊張してきた。
「では……しばらく……このお部屋をお借りしていいですか? 準備しますから」
「そ、そう? いいよ、もちろん」
俺は慌てて席を立った。
出て行けってことだろうと。
キッチンと繋がる手前の六畳間を隔てているのは、単なる襖にすぎないので、俺はそこを丁寧に閉めて、夕霧が呼ぶのを待つことにした。
だいたい、準備がいるというのが、ただごとではない。
本体がどのような姿でも特に差別する気はないが、その場合は本当に夕霧の姿を保持してほしいというのが、俺の偽ざる本音である。
覗きはしないものの、閉めた襖の向こうでは、なぜか衣擦れの音がしている。どうも中では、夕霧が脱いでいるらしい。
え、裸になる必要があるのか……なんか……嫌な予感しかしないが。
おなかに口があったり、目があったり、最悪やっぱりプ○デターだったり、そんな想像が脳内を駆け巡る。
なぜかしつこくプレデ○ーを想像するのは、俺の中ではアレが一番ヤバい見た目だからだけど、考えようによっては、エイリアンみたいな、途方もない本体もあり得るのか。
六畳間をいったりきたりしながら、俺は既に「どうやって夕霧を傷つけずに、普段のままでいて欲しいと頼むか」を必死で考えていた。
だがそのうち、襖の向こうから声がかかった。
「……どうぞ、お入りください」
「あ、ああ」
ていうか今の声、なにかこう……元とは変質してたぞ?
既に声からして違うんですがっ。
「じゃあ……お邪魔します」
必死に何でもない風を装い、俺は思いきって襖を開けた。
……きっと、真の姿とやらは俺がたまげるようなものに違いない。
そう思ったのは、確かに間違いなかった。
いや、キッチンに戻ると、テーブルの向こうに夕霧が裸で立っていて、素肌がなるべく見えないように、自分が脱いだ服で隠していた。
いや、これはこれで驚きだった!
なにしろ小さなテーブルの向こうにいるのは、どう見ても小学生高学年くらいの、白い肌の金髪少女だったのだ!
よくよく見れば夕霧だとわかるが、彼女は160センチを余裕で越えるのに対して、この子は外人さん風とはいえ、見た目は俺の胸辺りまでしかない、小さな女の子に過ぎない。
普通の日本人より背は高いだろうけど、十~十二歳くらいの年齢ではあるまいか?
「も、元いた世界では、時間の流れが違いますので……一日は二十四時間どころか、もっと長いです。それに、ヴァンパイアは人間より遙かに歳をとるのが遅いので。わたしの本来の年齢は、十一歳です。もちろん、時間的には誠司さんと同じくらい生きてますけど」
ずいぶんと一生懸命説明してくれた。
「あ、ああ……なるほど。いや、別に俺、そういうのは気にしないさ、うん」
しかし、外人少女風の金髪さんが、本当の夕霧だったとは。
前に「わたしはまだ子供なので」的なことを聞いた覚えがあるが、あれがまさか本当だったとは。
すっかり白人さんだし、煌めく金髪は姫カットじゃなくて、額の真ん中で髪を分けた王女様風の髪型だったが――でも、両者を比べれば、なるほど顔の特徴は同じである。
……見た目年齢は全然違うが。
「ふ、普段はこの姿だと目立つので、あえて成長した姿変化して――」
「肌の色と髪の色も日本人風にしてると?」
夕霧はコクコク頷いた……服を抱きしめてはいるが、素っ裸なので、目のやり場に困る。おまけに、薄いブルーのパンティーがテーブルの上に忘れられていたりしてな。今やサイズ違うけど。
「ありがとう」
俺は目を逸らしてかろうじて口にした。
「よく打ち明けてくれた。裸はまずいから……もう戻ってくれていいよ」
「待って!」
奥へ戻ろうとすると、夕霧が声をかけた。
「き、気にしてません?」
「いや全然。むしろ、予想以上だった」
元の想像が、○レデターだったしな。
ただ、夕霧は俺の返事がなぜか嬉しかったらしく、気がついたら、背中から抱きつかれていた。どさどさっと肌を隠していた服が床に落ちる音がした。
「嬉しいっ」
(いや、服着てから頼むっ。捕まるから!)
俺は内心で大いに焦っていた。




