表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/44

真の姿に驚く

 

 なぜか今回は、夕霧もかなり長い間沈黙していたが、前のように「なんなら今回はパスでもいいよ」と俺が助け船を出した途端、ゆっくりと首を振った。


「いえ……もう最大の秘密は打ち明けたのですから、大丈夫ですわ。ただ、今ここで本体に戻ることはできませんので、明日までお待ち頂けますか? 用意してまた参りますので」

「そ、そう……いや、苦労かけるな」


 俺は理解を示しつつ。実は内心ではひどく疑問だった。

 なんで一日待つ必要があるのだろうか?


 準備期間がいる本体開示とは、なんぞや? 

 まさか本体がプ○デターみたいとか、そんな理由だろうか……いや、別にプレデ○ーですら、特に準備はいらないような。

 まだ夕霧がなにも言ってないのに、俺はさらに先を考え、「もしプレデタ○に酷似した本体だったら、どうするか」とまで考えていた。


 その場合は、ずっと夕霧の姿でいてもらいたいというのが本音だけど、そう頼んだら、プレデタ○夕霧は怒らないかな? みたいな。




 もはや一番最悪なケースとして、プレデター本体説が脳内に定着している案配だった。

 ただ、時間にしてわずか十秒足らずの俺の葛藤を、夕霧は密かに察知していたようだった。

 なぜならすぐに「あ、あのっ。やはり今、お見せします。もったいぶってごめんなさい」と急いで訂正したからだ。


「そ、そう? いや俺は、明日まで待つけど?」


 すかさずそう提案したけれど、夕霧の決心は固かった。


「いえっ。わたし自身も、思い切って最後まで見て頂いた方が、ほっとします……その後でのご不満は、その時のことですから」


 などと、蒼白な顔で言ってのけた。

 これはもう、俺の「本体プレ○ター説」が、かなり信憑性が出てきた気が。


 ヴァンパイアだけど、見た目はアレ的な感じじゃないだろうかと、にわかに俺まで緊張してきた。


「では……しばらく……このお部屋をお借りしていいですか? 準備しますから」

「そ、そう? いいよ、もちろん」


 俺は慌てて席を立った。

 出て行けってことだろうと。




 キッチンと繋がる手前の六畳間を隔てているのは、単なる襖にすぎないので、俺はそこを丁寧に閉めて、夕霧が呼ぶのを待つことにした。


 だいたい、準備がいるというのが、ただごとではない。


 本体がどのような姿でも特に差別する気はないが、その場合は本当に夕霧の姿を保持してほしいというのが、俺の偽ざる本音である。

 覗きはしないものの、閉めた襖の向こうでは、なぜか衣擦れの音がしている。どうも中では、夕霧が脱いでいるらしい。


 え、裸になる必要があるのか……なんか……嫌な予感しかしないが。


 おなかに口があったり、目があったり、最悪やっぱりプ○デターだったり、そんな想像が脳内を駆け巡る。

 なぜかしつこくプレデ○ーを想像するのは、俺の中ではアレが一番ヤバい見た目だからだけど、考えようによっては、エイリアンみたいな、途方もない本体もあり得るのか。 


 六畳間をいったりきたりしながら、俺は既に「どうやって夕霧を傷つけずに、普段のままでいて欲しいと頼むか」を必死で考えていた。


 だがそのうち、襖の向こうから声がかかった。


「……どうぞ、お入りください」





「あ、ああ」


 ていうか今の声、なにかこう……元とは変質してたぞ?

 既に声からして違うんですがっ。


「じゃあ……お邪魔します」


 必死に何でもない風を装い、俺は思いきって襖を開けた。




 ……きっと、真の姿とやらは俺がたまげるようなものに違いない。

 そう思ったのは、確かに間違いなかった。


 いや、キッチンに戻ると、テーブルの向こうに夕霧が裸で立っていて、素肌がなるべく見えないように、自分が脱いだ服で隠していた。


 いや、これはこれで驚きだった!


 なにしろ小さなテーブルの向こうにいるのは、どう見ても小学生高学年くらいの、白い肌の金髪少女だったのだ!

 よくよく見れば夕霧だとわかるが、彼女は160センチを余裕で越えるのに対して、この子は外人さん風とはいえ、見た目は俺の胸辺りまでしかない、小さな女の子に過ぎない。

 

 普通の日本人より背は高いだろうけど、十~十二歳くらいの年齢ではあるまいか?


「も、元いた世界では、時間の流れが違いますので……一日は二十四時間どころか、もっと長いです。それに、ヴァンパイアは人間より遙かに歳をとるのが遅いので。わたしの本来の年齢は、十一歳です。もちろん、時間的には誠司さんと同じくらい生きてますけど」


 ずいぶんと一生懸命説明してくれた。


「あ、ああ……なるほど。いや、別に俺、そういうのは気にしないさ、うん」


 しかし、外人少女風の金髪さんが、本当の夕霧だったとは。

 前に「わたしはまだ子供なので」的なことを聞いた覚えがあるが、あれがまさか本当だったとは。

 すっかり白人さんだし、きらめく金髪は姫カットじゃなくて、額の真ん中で髪を分けた王女様風の髪型だったが――でも、両者を比べれば、なるほど顔の特徴は同じである。


 ……見た目年齢は全然違うが。


「ふ、普段はこの姿だと目立つので、あえて成長した姿変化して――」

「肌の色と髪の色も日本人風にしてると?」


 夕霧はコクコク頷いた……服を抱きしめてはいるが、素っ裸なので、目のやり場に困る。おまけに、薄いブルーのパンティーがテーブルの上に忘れられていたりしてな。今やサイズ違うけど。


「ありがとう」


 俺は目を逸らしてかろうじて口にした。


「よく打ち明けてくれた。裸はまずいから……もう戻ってくれていいよ」

「待って!」 


 奥へ戻ろうとすると、夕霧が声をかけた。


「き、気にしてません?」

「いや全然。むしろ、予想以上だった」


 元の想像が、○レデターだったしな。

 ただ、夕霧は俺の返事がなぜか嬉しかったらしく、気がついたら、背中から抱きつかれていた。どさどさっと肌を隠していた服が床に落ちる音がした。


「嬉しいっ」


(いや、服着てから頼むっ。捕まるから!)


 俺は内心で大いに焦っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ