まだ、変身を三つ残してます(という疑惑)
夕霧が泣き止むのを辛抱強く待って、まず肝心な話をした。
「さっきも言ったけど、レンタル倉庫の中身、人目につかずに移す方法あるかな? なんなら、一緒に考えるけど」
そう申し出たが、夕霧曰く、「既に準備をしておりました」と教えてくれた。
「地下室のある一軒家を、来週から借りられることになったんです。倉庫には魔方陣が描いてありますが、あとは新たに借りた地下室に同じものを描けば」
俺はとっさに悩んだ。
「……ええと、それって同じ魔方陣をその地下室に描けば、倉庫の中身を一瞬で移すことができるって意味かな? つまり、一種の魔法?」
「そうです、そうです。だから、心配なさらないで……この方法なら、わたしは問題の倉庫に赴くことすらなく、移動できますから」
魔法となると、俺に手伝えることはないだろう。
「なら、上手くいったら教えてくれるかな?」
「必ず、真っ先にお伝えします!」
大きく頷いたので、俺はもうこの件には口を出さないことにした。夕霧の立場からすれば、血液の大量移動とか、現場に立ち合われたくあるまい。
危ない連中の方については、涼子と二人でこっそり探るつもりなので、最初から夕霧に相談する気はない。
「なら、そういうことで……固い話はひとまず終わりにしよう。ところで、質問あったんだよな? 今日の分?」
「は、はい……よろしいですか?」
「いいさ。ていうか、最近の夕霧って、俺に対する言葉遣い、丁寧になってない? 前はもうすこし砕けていたような気が」
「おそばにいればいるほど、そうするべきだという気がするのです。誠司さんは、わたしの恩人ですし」
「……なんの?」
不思議に思って訊いたけど、「それは、本日の分のご質問でしょうか?」と上目遣いに訊かれた。
あと、今更気付いたけど、まだ俺、夕霧に上半身抱かれたままだ。
「いや……じゃあ、今度の楽しみにとっておく」
今の可愛いい上目遣い、もう一度見たいしな。
「今日は今日で、別の質問があるんだ。まず、夕霧からどうぞ」
穏やかに勧めると、夕霧はもじもじしながら囁いた。
「それでは――誠司さんは、クラスの女の子とどこかへ出かけることについて、どう思われます? 女の子の方が誘ってきた場合ですが」
「そんなご奇特な女子がいたら、そりゃよほどのことがない限り、ありがたく――」
言いかけ、俺は夕霧の顔を見た。
……まだくっついたままだったので、こっちが顔を動かした途端、危うく夕霧の顔に唇が当たるところだった。
「もしかして……遠回しにデートに誘ってくれてる?」
「わ、わたし的には、割とそのままの意味でした」
「そ、そうかっ」
あー、抱きつかれているのが気になってきた。
胸元の深い谷間がすぐそこにあるわ、夕霧の香りがしまくりだわ、さりげなく腕に柔らかい膨らみが当たるわ。
「じゃ、じゃあ……二人でどっか行く? 詳しいことはまた決めるとして」
「は……はい」
夕霧はそっと顔を伏せた。
「嬉しゅうございます……思い切ってお尋ねして、良かったです」
やたら古風で丁寧な言い方だけど、元々これがこの子の地なのかもな……中坊妹は反対しそうだが。
なぜか感激している夕霧に、「ちょっと離れて」と言うのは非常に心苦しかったが、このままでは俺がいろいろヤバいので、そこは遠回しにいって、元の席に戻ってもらった……ずいぶんと哀しそうな様子で、お願いした俺が申し訳ない気分になったけど。
しかし、俺は俺で、思い切った質問があるので、ここは顔を合わせてちゃんと訊きたい……顔を合わせると言っても、数センチの距離じゃなくて。
「よし、なら今度は俺の質問な」
「は、はいっ。どうぞ」
いや……そう張り詰めた顔されると、言いにくいが。
だが、どうせいつかは訊くつもりだったしな。
「あのさ、夕霧ってその見た目が本当の君なのか? 実は真の姿があるのかな? という意味だけど」
「――っ!」
おぉおおお、この顔は真の姿がある感じ。
まだわたしは、変身を三つ残してますが? なんて、まさか言わないだろうなっ。
俺は内心でかなり身構えていた。




