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夕霧の正体

「わかったけど、そいつを見張る前に教えてくれ、倉庫の中身は?」

「そう大したものじゃないわね」


 涼子は動かず、相変わらず角から倉庫の方を見ていた。


「本当は誠司君も、とうに予想済みでしょ?」


 軽く言いつつ、それでも涼子は俺の耳元に囁いてくれたけど。



『あそこにあるのはね――血液よ! それも大量の』



 顔を話してから、小首を傾げる。


「確証はないにしても、密かに誠司君も予想してなかった?」

「いや……まあ、予想の一つだった」


 結構それでも、衝撃だったぞ。


「確かに可能性は考えたけど、血液なんて生で保存効かないだろ? 例え冷凍しても」

「それはそうだけど。でもそれって、この世界の常識なのよ」


 涼子は倉庫の方から視線を外さず、教えてくれた。


「たとえばあたしがいたような剣と魔法の世界だと、『状態保存の魔法』なんてのもあるわよ。本来、食物を長く保たせるための術だけど」

「魔法か……夕霧ならあり得るか」


 そういや、夕霧が張った防御フィールドって、どちらかと言えば魔法の類いだ……的なことを述べたのは、他ならぬ俺である。

 どうやら俺の思い込みは当たってたらしい。


 ただ、それでも疑問はある……ああ、あるとも。




「となるとだ」


 もはや俺は見張りそっちのけで、囁いた。


「夕霧は本当はヴァンパイアだってことになる。でも、彼女は昼間堂々と出歩いてるぞ? それはどうなるんだっ」

「それもさー、昼間にヴァンパイアは動けないって認識、こっちの世界のものでしょ? しかも、単なる噂というか伝説止まりだし」

「まあ……そりゃ確かに」


「でも、これまたあたしのいた世界の話になるけど、向こうじゃ、人間とヴァンパイアのハーフなんてのもいるわけよ。その場合、両者の間に生まれた子供は、普通に昼間でも活動できちゃうわよ。向こうじゃ、ハイブリッドって呼ばれてるけど。確率的に、なかなか少ないんだけどね」


「それは……どうして?」

「ハイブリッドが生まれるには、ある条件が必要だから。その条件のせいで、なかなか生まれないのよ。知りたければ、夕霧さんに訊いて。あたしが教えるのはちょっとね」

「……う」


 そこで俺は嫌なことを思い出した。

 俺に警告したあの二人、二人ともやたらと存在感あったが、特に女性の方が夕霧に雰囲気が似ていた。


 もしかしたら、あいつも人間とのハーフじゃないのか?


 だとすれば、似たような立場の夕霧を気にする理由もわかる……まあ、あんまり味方って気がしないけど。


 映画館の影に隠れたまま、その推測を涼子に話すと……彼女も大きく頷いた。




「あり得るわね、うん。となると、男の子の方は女ヴァンパイアの使徒かしら」

「いやぁ……あの態度は、なかなかそんな感じじゃなかった。むしろ、女性の方があいつに従ってると思う」

「……興味深い話だけど、見張りが交代するみたい。尾行するなら、今だわっ」

「ど、どれっ」


 今更だが、俺も慌ててレンタル倉庫の方を見た。

 確かに、倉庫の近くで、目つきの悪い中年と割と若い男が、密かに話し合っている。そのうち、目つき悪い方が片手を上げて、その場から遠ざかり始めた。


 隣のビルから出てきたように見えるので、元々はそこで見張っていたのだろう。


「どこかへ帰る気かな」

「みたいね。残る方を見張ってもしょうがないし、あたしはあいつを尾行するわっ。誠司君はどうするの?」

「俺は――」


 一瞬迷ったが、決断した。


「戻って夕霧と話し合う。彼女の正体が予想通りなら、そろそろ本気で質問する時だ」

「いいの、本当に?」


 立ち去りかけた涼子は、危惧するように俺を見た。


「さすがに正体に関することは、なかなか打ち明けてくれないかもよ」

「それでも、俺は尋ねるしかない。このことをうやむやにしたままにはできないからな」

「わかった。じゃあ、あたしはとりあえず尾行ね。後で、成果を教えてね?」

「そっちも期待してる……ただ、注意してくれよ。バックにヤバい奴がいるんだから」


 涼子は答えず、「心配しないで」とばかりに手を振り、たちまち足早に去った。

 まあ、彼女なら大丈夫だろう。


 ……むしろ心配なのは、この俺である。


 夕霧が人間じゃないと知ってから、こういう日も来そうだと思っていたけど、まさか昨日の今日とは思わなかった。


「でも、話さないわけにはいかないよな」


 思わず独白した俺は、そのまま地下鉄の入り口へと歩き出した。 



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