スーパーガールの真似事
「そうか、あたしの尾行の腕を買ってくれたわけね?」
向こうから指摘してくれて、俺はほっとして頷いた。
「俺自身で尾行してもいいけど、どう考えたって、涼子の方が向いてるもんな」
俺は遠回しに肯定し、本音も教えておいた。
「だいたい、倉庫に見張りがいるってことは、つまりは、あの倉庫に来る奴を待ち構えているってことだろ? それって本当は俺じゃなくて、借主の夕霧のことを想定しているわけだよな? それ考えると、放置もできないだろ」
「なるほど……誠司君はあくまで夕霧さんを心配していると」
「涼子のことだって心配してるさ!」
勘違いされないように、強調した。
「ただ、夕霧本人に持ちかけるわけにもいかないし、涼子ならいざとなれば逃げるのも楽そうだなと」
「大丈夫、別にあたしは気を悪くしてないから。むしろ、頼ってくれて嬉しい」
涼子はハリウッド女優みたいに、粋なウィンクをを見せてくれた。
「それに、君の想定通りに見張りがまだいたとしたら、本命に繋がる可能性もあるしね」
「まあ……うん」
俺はこれには曖昧に頷いた。
「涼子に迷惑かけるわけにもいかないから、見張りとやらが本当にいた場合、どこが家なのかだけでも、突き止めてくれると嬉しい」
「まさか、そいつの家を突き止めて、自分でなんとかするつもり?」
「いやいや、それこそまさか」
俺は苦笑した。
「自分にそんな圧倒的パワーがないことくらい、俺にはわかってるさ。でも、世の中には警察なんてものもあるわけで。どうしてもとなれば、匿名情報で流してもいいわけだし」
「なるほど」
涼子は納得したように何度も頷いた。
「ただ、俺が警告されたあの二人組……見た目よりも、かなりヤバそうだった。まさかとは思うけど、警察とも繋がってたら、もうお手上げだな」
「他にも危惧はあるわよ?」
涼子はちらっと俺を見た。
「その倉庫の場所、最初は隠そうとしていたじゃない? でも今になってそんな行動を起こすのって、そいつらに遭遇したことで、夕霧さんが本気で危ないと思ったせいよね?」
「その通り。あいつらに遭った後だと、むしろ秘密を秘密のままにしておく方がヤバいと考え直した」
「気持ちはわかるけどさー……誠司君、あたしの嗅覚をナメてない? 倉庫がどこかわかれば、多分そばにいけば、中身も推測できると思うんだけど?」
「ナメてないとも。涼子の嗅覚なら倉庫の中身もわかるだろうな、確かに」
俺は否応なくため息をついた。
「それでも俺は、倉庫を見張る奴を突き止め、あの男女二人について知っておく方がマシだと思ったのさ」
「そんなに危ない連中だったんだ!」
少なからず驚いたようで、涼子は俺をまっすぐに見た。
またしても黄金の色の瞳になっている。
「その通り。それくらいヤバそうな奴だと思ったのさ、俺は。主に男の方が、だけど。あと涼子、その黄金色の目は本当の瞳なんだろうけど、普段は隠した方がいいよ?」
「大丈夫大丈夫、誠司君みたいに、ペラペラ話さない人の前でしか、見せないから」
笑って言った後、涼子は立ち上がった。
「では、早速現場へ案内してくれる? ただし、その前に彼女を撒かないとね」
「――っ! 夕霧がそばにいたって、マジだったのか」
「マジだわよ、ええ。もうマジもマジ、大マジ」
俺の真似をして答え、涼子が目を細める。
「そういうの、あたしは特に秘密にしてあげる義理もないから、あっさり教えるけど、夕霧さんって、一種のストーカーじゃないかな」
「ええっ!?」
「……よく言えば、ヤンデレっていうのかしら、こういうの?」
「い、いや……それもあんまりいい意味じゃ使われないような。まあ、人によってはそうじゃないかもだけど」
答えた俺は、まだ疑っていた。
だいたい、俺なんか尾行してどうなるのさと思っている……当然だ。
「誠司君がどう思っていようと、とにかくここは、夕霧さんをなんとかして撒くのが重要なわけよ」
先に立ち上がった涼子をは、俺に手を差し出した。
「たまに危ないことするかもだけど、我慢してね?」
「どういう意味かな」
反射的に握った彼女の手は、普通の女の子以上に華奢で、ほっそりしていた。
「ほら、あたしってば人外でしょ? だからこの際は、ここぞという場面でちょっとスーパーガールの真似事でもしようかなと」
また片目を瞑り、涼子が笑顔を広げた。




