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いろいろとけしからん


 しかも、煩悩に弱い俺が自分も思わず背中に手を回すと、このけしからんレオタード、背中の部分も大きく開いていて、手で直接素肌に触れてしまった。


 汗ばんだ素肌に焦るのはもちろん、「下着とかつけてないのかよ疑惑」のせいで、余計に心臓の鼓動が跳ね上がるわけである。

 おまけに下手すると、俺の自制心が決壊して、手が勝手に腰の方へ下りていったり、あるいは胸に伸びたりする可能性があった。


 そこで、渾身の自制心を発揮して自ら身を離し、「と、とりあえず警察に電話した方がよくないか?」と提案したが、なぜかぼおっとしている夕霧は俺の手を握ったまま、首を振った。


「信じて……もらえないだろうから」

「……う」


 それは確かにな。





 結局、俺は夕霧に手を引かれるようにしてバルコニーから戻り、広々とした部屋に招かれた。

 ただし、夕霧の部屋というわけじゃなく、ここも一種のリビングルームらしい。ソファーセットはあるけど、ローソファーだしな。


「わたしのお部屋でお話ししたいけど……その……ちょっと散らかってて」


 開け放たれたキッチンの方から、夕霧の声がした。

 夕霧の部屋が散らかっているというのは、どうも想像しにくいが、まあいきなり来たクラスメイトの男に、そりゃ公開したくないわな。言い訳だろうと。


 それより俺は、奥のキッチンで紅茶の用意してくれている夕霧の、後ろ姿に視線が固定されてしまって、たまらんのだが。


 なんというか、レースクィーンとかの追っかけの気持ちが否応なくわかる。

 たまに彼女が振り返ると、モロに視線が合ってしまうので、あまり見ないようにしているのだが、これもまた、自制心が試される。


 視線が勝手に後ろ姿に吸い寄せられて、どうしようもない。

 しばらくして夕霧が二人分の紅茶を用意して戻ってきた時には、むしろほっとしたくらいだ。

 汗かくわー。



「……どうぞ」

「ありがとう」


 そこでキッチンの方からスマホが鳴る音がした。

 夕霧は眉をひそめて戻り、テーブルからスマホを取り上げ、ちらっと見たのみで電源切ってしまった……は?


 すぐに戻ってきたけど、俺の隣に座るという……前じゃなくて、すぐ隣かっ。


「そういや、なにか用事あったんじゃない? さっきも説明したけど、入り口で見かけた妹が、そんなこと言ってたけど」


 紅茶のカップを手に、横を見ると――なぜかさっきより彼女の位置が近い気がする。気のせいだろうけど。


「いいの、そんなのはずっと後で」

「そ、そう?」


 本気でどうでもよさそうな声音なので、気にしなくていいのか? 

 今の電話も妹だった気がするけど。


 実のところ、ノートは貸したので、もう俺の役割は終わりなんだが、よく考えると、そもそもあの女がここを襲撃したのは、俺のせいなのだな、多分。


 俺が尾行された→家を突き止められた→さらに学校も知られて→またもや尾行されて学校からここに……おそらく、こういう流れだったと思う。


 なぜ夕霧に執着するのか知らんが。

 一応、責任を感じてその辺りを説明し、また夕霧に目をやると。

 ちょっと視線がそれていた間に、もうホント、いつの間にかすぐ隣に彼女が座っていた。互いの身体がくっつくのに、余裕があと数ミリ的な。


 気のせいではなく、見る度に近くなっている。

 ……近くない? と言いかけたが、やっぱり言わなかった。


 よく考えたら、俺に文句ないし。




「あ、あいつの正体、知ってるとか?」

「いえ、初めて会う人……なんとなく、素性はわかるけど」

「どんな素性?」


「誠司さんは気にしないで……多分、あいつはわたしを狙ったんだろうし」


 あ、また手を握られた。しかも、両手でこっちの右手を包み込むように。

 自分の家にいるせいか、今日は妙に大胆な気がする。

 あと、いつの間にかまた接近している気が。今や、俺達はくっついているんだから、気のせいではない。


 甘い香りにくらくらする……なんかこれ、リンスの香りとかではなく、もしかしてこの子本来の匂いかもしれんな。

 移り香がどうとか、あいつも言ったし。


「いやぁ、そういうわけにも」


 かろうじて思考を繋いだ。

 あの女を連れてきたのが、多分俺? という事実は変わらんしな。

 ていうか、名前で呼ぶのはもう固定ですか? まあ、これまた全然文句ないけど。


 ただ俺は、多分ここでしつこいくらいに女の素性を尋ね、対策くらいは考えた方がよかったのかもしれない。

 そうしておけば、この先の展開が多少は変わったかもしれないのだが。


 ……この時の俺は、水色のレオタード姿した夕霧がすぐ隣でくっついているという事実に気を取られていたし、胸の微かな突起はもちろん、股間にうっすらと縦筋が透けて見えているような気がして、平常心を保つのが大変だった。


 これだけくっつかれて、そんなのそばで見てたら、いろいろともう駄目だ。


「あの……つかぬこと訊くけど」

「な、なに?」

「……誠司さんは、どうやって古着を処分しているの?」

「は、はい?」


 おまけに、ふいに意味不明な質問されたりして、油断ならんし。


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