表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ネバーランド

作者: 悠太郎

いらっしゃいませ!

ようこそ、あなたのネバーランドへ。


はい、そうです。

ここがあなたの求めていた理想郷。

よくここ迄たどり着きましたね。


…さぁ早く、どうぞ中へ。


このドアの中に入ればもう、全てはあなたの自由。

ここにはあなたにとっての『悪』は存在しません。

中は人それぞれ違って観えるようですが、

あなたの生きてきた概念に合わせて負の要素は

取り除いております。


…それではごゆっくり、お過ごしください。




木製の、自分の身体よりひとまわり大きなドア。

そのドアを両手でゆっくりと開けると、眩い光が

視界いっぱいに広がる。私は眩しくて思わず目を

瞑る。



私はそっと目をあけると、目の前には季節外れの

向日葵が視界一面に広がっていた。


遠くでだれかがこちらに向かって手を振っている。

私の位置からは誰かもわからない距離だ。距離の

はずなのに…


あれはきっと、夏菜だ。


あの日と変わらない。夏菜だ。



彼女は私に向かって手を振っている。

あの日、最後に会ったあのときのように。


太陽のような周囲を明るく照らす夏菜の

微笑み。

もう二度と、出会えることはないと

思っていた。

いや、今でもそう、思っている。

思っている。想っているはずなのに。


夏菜の微笑みを感じると、私は満たされていく。

日々の枯れ果てた生活。空虚な日々。




私は毎日、楽になりたいと思っていた。

夜の帰宅途中、踏み切りの前に立ち、列車の

サイレンに耳を傾けると、鼓動が合わせて早く

なっていくのを感じていた。

赤いサイレン。大きな鉛のような怪物が機械音

とともにこちらへと向かってくる軋む音。


私は何度も列車が近づく音とともに鼓動が早く

なり、視界がサイレンの赤に染まっていく。

足が震えてくる。近づいてくる。



だが、いつも次の一歩を歩くことが出来なかった。

その場に立ちすくみ、列車が自分の目の前を通過

していく姿を、ただただ見ていた。


…そんな夜をどれだけ過ごしただろう。


そして今ついに、ついに私は夏菜のもとへ

たどり着いた。



私は少しずつ、一歩ずつ、歩み寄る。


本当は今すぐ走って夏菜のもとへいきたいのだが、

彼女を目の前にすると、私はいつも少し大人ぶる。

私が彼女より年上だからということもあって、

そんな態度になるのかもしれない。



私は今まで鎖で縛られたように感じていたこの

重い身体が、夏菜を前にして全ての鎖が外れた

ように身軽になっていく自分の身体に気づく。



夏菜、もうすぐ、いくからね。



私は涙を流していることにすら

気づかないくらい必死に、ただゆっくりと

夏菜の方へ向かっていった。




…そうです。

ネバーランドを見つけた住人は、皆幸せに

なるのです。

個々の『幸せ』という概念のみを

ネバーランドに映し出すからです。



はい、そうですね。

彼がどうやってここを見つけたのか、

何処にあるのか、不思議ですよね。

まるでおとぎ話のようですね。



でも私は確かに存在します。

人間に感情という回路がある以上、

私はあなたが願えば何処にでも、必ず現れます。



いえいえ、

あなたの願いが希薄だといっているのでは

ありません。これは何度もいう概念の要素が

かなり影響していますから。



彼にとっての自由は、過去にあるようです。

周りの人には随分反対されたそうですが、、

彼は過去を選び、幸福を得ました。

人生の出来事を未来へのスパイスにする

のではなく、終演のトビラにしたかった

のでしょう。



人間の感情という概念は難しいですね。

道徳も、きっとそんな難しい人間たちが

勝手に決めたのでしょうね。

所詮、其れがないと世界は上手くまわって

はいかなかったのでしょう。彼らは賢い。



…少し喋りすぎましたね。



あなたも本当に欲しくなったら、

願ってみては?

過去か現在か未来か。

あなたの概念で形は違うでしょうけどね。




それではまた、あなたが本当に必要とした時、

そのいつかに、会いましょう。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ