プランABC
翌日、ネオが目を覚ますと航空工廠の設計室内にあったソファーで横になっていた事に気づいた。
疲れすぎて寝てしまったのだろう。
ネオはやたらと体が重いことに気づいた。
いや、重いのではない、何かが乗っかっている。
意識が冴えてくると体になにやら柔らかい感触を感じた。
その柔らかい感触は息の音と共に上下に動く。
目がさえてきたので確認すると、エルが上に覆いかぶさる形で寝ていた。
「うわっ!」
ネオは驚いて起き上がるとエルも目を覚ます。
「ふぅぁあ~~~~…………う~。あっ……おはようございます」
エルは大きくあくびをした後、体を伸ばしてネオに朝の挨拶をした。
「何でいるんだっ!?」
ネオは冷や汗をかきながら、この状況について説明を求める。
「ネオさんが変なところで寝ちゃうから、ソファーまで運んだんですよ。その後で、私も疲れて寝てしまったみたいですが……」
どうやら、設計用の机の椅子の上で意識を失ったネオを、エルがソファーまで運び込んだらしいのだが、疲れすぎてて昨日の夜の記憶が曖昧だった。
変なことをしてなければいいが、これを航空工廠のメンバーやグラント将軍に怪しまれるのはマズイと焦るばかりのネオに対し、エルは特に気にする様子もなく朝食に誘うのだった。
寝癖でボサボサの頭も気にしない金髪の少女のペースに完全に乗せられ、ネオは食堂で昨日と同じように朝食を採ったが、昨日よりもこちらを見つめて周囲でヒソヒソ話をする者の数が増えていることにネオは気づいた。
エルは一切気にしていなかったが、ロリコンとか呼ばれていそうだなとネオは肩を落とした。
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トーラス2世へのお披露目は午前中のことであった。
昨日の夜の段階でギークの最終調整は終了しており、今朝のギークの具合も悪くなかった。
トーラス2世が視察した飛行試験は滞りなく終了した。
ギークの飛ぶ姿を見て、レシフェの国王はネオが本気でNRCと戦うための戦力を作れると確信し、ネオにすぐさま戦闘用航空機の開発を依頼した。
ネオはその計画の概要について説明するため、午後に第二回「レシフェ国の存続に関わる防衛戦略会議」を開くので、そこに参加してほしい旨を伝える。
トーラス2世の側近である大臣が苦言を呈すも、トーラス2世は「これは国家における重大危機である!」と大臣を一蹴し、午後の予定を全てキャンセルした上で参加することとなった。
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午後、それぞれが食事を終えた後で前回の会議のメンバーにトーラス2世とエルを追加した形で 第二回「レシフェ国の存続に関わる防衛戦略会議」が開かれた。
「一応、昨日の段階で3つのプランを練ってきました」
ネオはそう言って3つの概略図面を提示する。
「これらは将軍や陛下の意見も踏まえ、総合的に選定するのがいいと思っています。戦略上や戦術上、そして政治的な観点も必要になりますので」
ネオの発言にトーラス2世は関心する。
彼は政治には無頓着な技術者だと思っていたので、政治的なことも踏まえてプランを練っていたことを知らなかったのだ。
「まずはプランA。こいつは局地戦型迎撃戦闘機です。航続距離を度外視し、圧倒的な速度と運動性、格闘性能を持ち、修理が容易で製造コストや製造労力がかかりません」
ネオはそういって超小型戦闘機の概略図面を示した。
他の2つと異なり、この機体だけ明らかに全長が短く小型だったが、構造自体はシンプルなテーパー翼を供えたもので、強力なエンジンを持ちながらギーク並の高い運動性と格闘性能を持つ。
「次はプランB。航続距離を大幅に増やしながら、Aと同様の速度と運動性能を発揮。航続距離などの問題で機体は大型化しています。犠牲になったのは機体の装甲ですが、プランAもBも装甲については必要最低限のものしか備えていません」
逆ガルの翼形状を備えたソレは、航空工廠の者たちにとってはとても興味深いものだった。
「これがプランB……」
「あの翼作りてえ……」
航空工廠の者たちは、皆そのような感じで口々に言葉を発した。
彼らにとっては逆ガルの形状の意味は理解できなかったが、そそられるものがあったようだ。
しかし、特異な形状は整備性や生産性に問題を抱えてそうなのは明らかであった。
「最後がプランC。こいつはBから装甲を増加し、運動性能などは最低限のものを施した重戦闘機です。最高速度についてはAもBもCも殆ど同じですが、一撃離脱用とお考え下さい」
ネオが最後に示した機体はギークを大型化したようなシンプルなテーパー翼を供えた機体であったが、全ての機体の中で、最も積載能力が高かった。
空力性能を必要最低限にしたことで生まれた重量的余裕が、そのまま積載能力に回されていたのだった。
「以上、3プランが現在最も実現可能性が高いものです。全て一人乗りの単発機で最高速度は600km前後、敵の鈍足な大型機には余裕で追いつけます」
ネオは話を一旦終わると質問を受け付けた。
そこに旱魃入れずに質問をしたのは、トーラス2世であった。
「ネオ。プランAの意図を伺いたい。この航続距離では、レシフェの領土内が戦場となろう」
トーラス2世はプランAの運用意図についてネオに尋ねた。
国王である彼にとって、国内を戦場とすべきにはいかず、事実ならばプランAの局地戦用迎撃機は許容できるものではない。
「陛下。プランAについてはグラント将軍らと意見交換をした上で考えました。元々、自分にとって本チャンはもう1つの種類のエンジンを搭載する航空機です。今回はNRCを一旦迎撃できれば十分」
「つまり、どういうことかね。何か作戦があるのか?」
トーラス2世は、いつもの平静状態のまま落ち着いた口調でネオに尋ねる。
ネオやグラント将軍には相応の意図があるのだと思っているため憤りは感じていない。
「陛下。この私めが思う所、NRCは必ず海を越え、直接南下する形で進軍してきます。プランAの機体は降着装置が強化されている上に、短距離離陸が可能。どんな場所からも飛び立って……奴らに一撃を食らわせることが出来るのです」
「ほう……海上の簡易施設などからでも……ということかな?」
トーラス2世は、グラント将軍の話から海上に簡易的な滑走路を設けるのではないかと予測した。
まさしくそれは正解であり、トーラス2世が決して軍事に疎いわけではないことに、ネオはやや驚いた。
ネオにとっての王とは、内政や政治面のことばかり考えている存在だと思っていたが、トーラス2世は平和主義者であった一方で、軍事についてもそれなりに理解がある者であった。
「恐縮ながらご意見を……陛下。2週間あれば、軍艦に滑走路を設けるということは可能です。離着陸させる機能だけではありますが……」
ネオやグラント将軍に割って、王国海軍大将が呟く。
リヒター大将はコレまでの飛行試験や第一回会議にも参加していたが、空いた時間にネオと度々議論をかわしいた。
そこでネオから空母という存在が古代に存在したことと、そこから航空機を現代でも飛ばすことは出来ないかと前日の段階で相談を受けていた。
リヒター大将は、離着陸性能にもよるが、諸外国では小型機を艦載機として戦艦に搭載している例が極少数存在するとネオに説明すると、
ネオは艦載機を運用することを特化した戦艦を作れないかと質問したが、離着陸機能だけであれば現用の海軍工廠でも十分作れる技術力があると主張した。
そのリヒター大将の意見と、グラント将軍の意見もすり合わせた結果こそがプランAである。
「ネオよ。貴公が真打としている航空機も、そのような運用手法であるのか?」
トーラス2世は、ネオが空母と航空機の併用に特化した局地戦闘機を作る腹積もりなのかを尋ねる。
あまり航続距離が短いものでは、運用方法が限定されることに不安を感じてのことであった。
「いえ。真打たるジェットエンジン搭載型は、圧倒的に航続距離が伸びます。ただし、短距離離陸性能は持たせますがね」
ネオは最終的にレシフェで主戦力とする予定のジェット戦闘機では、艦載機としての運用も行えながらも航続距離にも余裕を持たせた主力戦闘機であることをトーラス2世に説明した。
プランABCのレシプロエンジン機は、あくまで間に合わせなのである。
「ふむ……しかしなんだ……私からすると、このような小型のものを量産するというのは不思議な感覚だな……」
トーラス2世は、ギークの姿から、ネオが小型機の生産を計画することは予想していたものの、自分の知る常識とはかけ離れたものの生産を行う姿勢に違和感を感じていた。
「この世が、大型機や超大型機ばかりとなったのは、エンジンが貴重だからです。……戦闘機は、この程度の大きさで十分」
ネオの物言いは、まるでエンジンがこの世に溢れていた頃に生きていたような生き証人であるかのようなものであった。
一部の人間は、彼が過去から来た、ないし、別の世界から来た者ではないのかと考え始めるようになった。
「――落とされないように重装甲化し、落とされないように機銃などの対空防御を大量に備える。こんな、古代に存在した大艦巨砲主義のようなものがまかり通ってしまうのも、エンジンが作れなかったから――」
「大型機は不要か?」
ネオの話にトーラス2世が伺う。
大型機を生産するつもりがないのか気になったのだ。
「いえ、戦略爆撃機などは必要でしょう。ですが、今回は会議の名の通り、レシフェ存続と防衛が主体となりますので」
「なるほど。なるほど。爆撃する場所などないな」
トーラス2世はウンウンと首を立てに振った。
「それで……ネオ、グラント、リヒター、諸君らはプランAを最優と考えているのか?」
トーラス2世は確認を求める。
ここまでの説明でプランBやプランCはAの代替プランに感じてきたからだった。
「いえ、蒸気カタパルトというものを新造できれば、短い滑走距離でBもCも飛ばせます」
「蒸気カタパルト」という見慣れない単語に、周囲はザワザワとするものの、トーラス2世がオホンッと咳払いをしたことで静まり返った。
ネオは話を続ける。
「怖いのはBです。ちょっとばかり無理な設計をしている。不具合や問題が発生し難いのはAとCです」
「プランBは、Aのような機動性を皆が求めた場合で、かつ、Aの航続距離が問題になった場合の代替というわけか」
「そうです」
ネオの言葉に、トーラス2世はしばし考え込む。
プランAは弱点が明確な点から、一度NRCを撃退できたとしてもすぐに対応策をとられる可能性があった。
鈍重な大型機しか持たないNRCであるとはいえ、航続距離では圧倒的なものをもっているため、あれこれ迂回することで、プランAの手が届かない場所からの進軍も不可能ではなかった。
リヒター大将やグラント将軍を信用していないわけではなかったが、国王としては万が一国土が火の海になる可能性があるならば、プランAは許可できない。
「ネオよ。AとCの同時進行は不可能か? そのために必要な人員と資材、資金は全てこちらで用意する」
考え込んだ末、トーラス2世は己の権限をフルに用いてネオ達に人員を注ぎ込み、AとCの同時進行を提案した。
「実は、Cは頭の中に設計図があるので、生産拠点さえあればギークと同様、すぐさま試作機が作れます。単発レシプロ機としては、非常に大型の部類で余裕のある設計なので……ただし、プランCのためには排気タービンが必要不可欠です」
実はネオの中でこの3プランで最も実現可能性が高いのはプランCであった。
プランAは設計、試作、調整などが必要であったが、プランCはネオの知識の中にあったとある万能攻撃機をアイディアだけ流用し、ネオ独自にアレンジしたものを作る算段であった。
ただ、プランCの場合は、その性質上排気タービンの実用化が必要不可欠であった。
プランAへの拘りは、現状で排気タービンが実現可能か不透明であったからである。
「つまり……可能とみてよろしいなっ」
ネオのそんな思いを知ってか知らずか、トーラス2世の言葉にネオは同意した。
排気タービンについて一応トーラス2世に事情を説明したが、その場合は積載量を減らすという方法があったことも付け加えた。
レシフェの第一の救世主たるレシプロエンジンは、小型の局地専用迎撃機と、万能攻撃機の2種で決定され、会議は幕を閉じた。