最終決戦(中編)
長くなったので分割します。
間に合わないので後編は18時に投稿致します。
ジョナスとの約束の時刻まで12時間を切った段階で、ネオは出撃準備を整えた。
全ての準備を整え、パイロット達の控え室で顔を落して瞑想しているネオの元へルシアが現れる。
ネオは彼女が来ることを予見していた。
だからこそFSX-0ではなくT1を選んでエスパーニャに持ち込んでいたのだ。
FSX-0に乗って彼女が無理を押してフォルクローレに乗って参戦するよりも、T1からT2となった複座型の後部座席の方が安全であると考えていた。
彼女は隻眼である。
よって中型機など、やや大型の機体ならば機銃などもあるため自衛能力によってある程度戦えてきたが、純粋な戦闘機による戦闘は難しい。
訓練機で訓練していた頃は機体が低速であったために問題なかったが、着陸時の速度が非常に高速で、プロペラなどの影響で繊細な操縦が要求されるフォルクローレを持て余しているのをネオは知っていた。
ジョナスはネオをいきり立たせるために無用な殺生を行う男ではないが、NRCの立場上ツーマンセルで行動する確率が非常に高く、僚機がいる。
ネオはこの僚機が、ジョナスと同じ考えであるなどとは思えなかった。
その段階でFXA並の戦闘機を持ち出された場合はフォルクローレやAF-9ではどうしようもない。
よってネオとエルの二機のみで出撃し、敵の僚機はエルと相互で一気に撃墜すると、当初から計画している。
そんなネオに対し、ルシアは意外な意見を表明した。
それはフォルクローレの部隊を展開してジョナスとの一騎打ちのお膳立てをするというものであった。
ルシアは女の勘によって、ジョナスは中隊を率いているのではないかと予想していたのだ。
仮に僚機だけなら撤退する方向性でも良く、いないよりはいた方がいいとネオに提案した。
その上でルシアはネオの後ろで彼の最後の戦いを見守りたいと発言した。
彼女が後ろに乗るのは承知の上であったが、フォルクローレを展開することについてネオは迷った。
もし仮にそれがNRCを刺激させて敵の未知なる戦闘機の部隊が押し寄せたり、例の強力無比な陸戦兵器が現れたりしないだろうかと。
だが、彼女の勘はよく当たるという様々な者の意見からフォルクローレの部隊が協力するのを了承した。
ジョナスが指定した時刻は正午過ぎ。
現在夜中の0時を回り、周囲は暗闇に塗れている。
「エル。戦場はエスパーニャ北部の国境付近だが、北部には連合軍が展開している。空中給油をして万全の状態で戦うからな!」
ネオはコレまでに練った作戦方針を改めてエルに伝えた。
エルは特に言葉を発する事無く無言で頷く。
今回の戦いはトーラス2世など、様々な人間によってお膳立てされていた。
ジョナスが指定した北部の国境付近である荒野にはフォルクローレの部隊以外の展開は無い。
すでに制空権は完全に掌握している影響もあるが、それ以上に騎士の一騎打ちのような戦いに釘を刺すという行為を南リコン大陸の連合軍は避けたのである。
どんな手も使うNRCを考慮し、周辺に連合軍を展開していないわけではないが、この空域には18時間前から限られた者以外存在しないこととなっていた。
「随分物静かじゃないか。ずっとFXAのテスト飛行をしてたんだろう?」
ネオは普段は大人しくしていられないエルが大人しいことについて疑問を問いかける。
彼女とは久々の再会であったが、ネオに対していつものような反応を示さなかったのだ。
「すごいですよ……FXAは……でも、ギークやFSX-0の改良型程の感動は無かったかな……優等生すぎるんです。全てがカチッとハマりすぎて……飛ぶ楽しさというよりも、ただ戦うための道具に感じてしまう……どうもそれが気に入らないみたいです。やっぱ、ネオさんの作ったエンジンあってこその航空機が、私にとっては最高だから」
エルは思いの丈をネオにぶつける。
それにはネオが側にいなかったことで空しいテスト飛行であるという意味合いも含んでおり、彼女なりの愚痴のこぼしかたであった。
FXAは現時点ではすでに完成された領域にあると考えていたネオは、いつものように試験飛行と調整という作業をあえて行わなかった。
実際そういう機体ではあったが、全てが素直で全てがガッチリとしていたその機体は、エルにとって無機質な存在に感じられ不気味だったのである。
それは恐らくエンジンが原因であるなとネオは理解し、静かにエルの頭を撫でていた。
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夜明け前、しばし仮眠したネオはすぐさまフライトスーツに着替えてFSX-0-T2の始動を行った。
ルシアやエルもそれに続き、ルシアは後部座席に乗り込む。
「いいか、空に上がったら後戻りは出来ないぞ。いいんだよな」
ネオは最終確認を行うとポンと頭をルシアによって小突かれる。
「いいから行け!」
ルシアは今更なにを言うかといった態度でムスッとした。
運命共同体になることに何ら不満はなかった。
ずっと戦場で出て戦ってきた彼女にとって、ネオは十分信頼がおけるパイロットであったからだ。
「通信テスト、エル! 聞こえるか!」
「はいっ!」
「北部に行く前に燃料を補給していく。お前はあんま気にしなくてもいいんだがT2はわからん。アフターバーナーを多用すると厳しい」
ネオはそういうと、エルに先行するよう指示し、格納庫からFXAとT2がそれぞれ出てきて滑走路に向かい、飛び立っていった。
「……死ぬなよ……」
その様子を管制塔から見つめていたグラント将軍は、ネオに必ず戻ってくるよう届かない声で彼に伝えた。
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4時間後、飛び立った2機はAWACSの指示を利用して正確な飛行経路を進み、北部で空中給油を受けた。
ネオはエスパーニャに入ってから何度も空中給油の経験をしていたが、改めて、たった半年程度で随分と近代的な戦闘を行うようになったものだと、この状況に自画自賛するかのように関心していた。
「グッドラック!」
空中給油が終了し、担当者からそう通信が入るとすぐさま決戦の場所へと向かう。
フォルクローレの部隊が途中で合流し、17機に及ぶ編隊での飛行となった。
「ようやく来たな! こちらAWACSの3号機であるホークアイ。決戦場までのエスコートを頼まれている。そっち方面の様子だが、今の所、敵の大部隊の接近は確認できない」
どこからともなく通信が入ったことでネオはおどろいて周囲を見回した。
AWACSからの通信であったが、どこから通信がきたのか不明であった。
それはグラント将軍からの計らいであった。
元来はもっと西側の海岸線沿いで活動するレシフェのAWACSの3号機が、支援のために付近にまできていたのである。
長大な通信距離を持つこのAWACSは、ネオの有視界の外からレーザーで通信信号を送り込んできていた。
当初の作戦では3人で挑む決戦だったが、ネオは彼が思っていた以上に周囲に支えられていたのである。
「ネオさん。自分がどういう立場にあり、どういう者であるのかわかったでしょう? 貴方はレシフェに必要なんですよ。だからこうやっていろんな人が手を差し伸べるんです。絶対に死ねないんですからっ!」
近くを飛んでいたエルはあえて周囲にも聞こえるオープン回線で通信を行った。
フォルクローレの部隊からクスクスと笑い声の通信が入ってくる。
通信機器関係は戦場で無用な混乱を起こさないため、南リコンの部隊にも融通していた。
南リコン連合軍が圧倒的に優勢になったのも戦闘機の性能よりもこの通信システムの復活という部分が大きい。
各地で有線を切断して後退戦を行ったにも関わらず、信じられない連携行動を示す南リコンにNRCは恐怖していたが、ネオをして天才と断言できるダヴィの通信システムの出来は戦場を左右するまでの存在であったのである。
「あっちにもこの痴話喧嘩が聞こえたらテンションが下がって帰っていくかもな!」
ネオは赤面しながらも周囲の仲間に感謝し、そのままの進路で決戦の舞台へと向かった。
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「こちらホークアイ。 北部から1機の飛翔物体を確認。P-15じゃない。未確認飛行物体だ。P-15より大きい」
40分前にすでに決戦の地に辿り着いていた一行の前にホークアイからの通信が入った。
フォルクローレの部隊からは戸惑いの声が聞こえるが、静かに!とルシアが一括して黙らせる。
「ふっ……ふふふ。そなたの戦う相手は勇ましいではないか」
ルシアはたった1機で戦いに赴いたジョナスを勝算し、フォルクローレの部隊を後ろに下げた。
「エル! ホークアイと同じく1万7000mの高度まで上がってホークアイの護衛! 後は俺と奴とで決着をつける…………どうやってか知らんが、奴は単独でくることが出来たらしい。いや……奴のことだ。気に入らない部下をあえて僚機にして途中で撃ち落したかもな」
ネオはジョナスがとった行動を予測し、エルをホークアイの護衛につけさせた。
エルは無言のままネオに手で合図を送ったあと、一気に高度を上げ始める。
「……ん? 随分と恵まれた環境だ……さあ、ショータイムだ……」
遠方にて多数の機体が散らばって下がっていく様子に、ジョナスは感心しつつも静かに呼吸を整えてスロットルを最大まで上げた。
「アレか!」
機体の光学センサーによってジョナスを捕捉したネオは、敵の速度の様子から加速していると判断して同じくアフターバーナーを吹かしての最大スロットルに入れる。
「ルシア、舌出すなよ! Gで噛み切るから!」
ネオは超音速戦闘機による戦闘経験がないルシアに注意を促しつつ、さらに加速する。
双方の機体はまるでチキンレースを行うかのごとくヘッドオンの態勢に入る。
「あの機体色は……」
クリームとオレンジ、茶色などを組み合わせた迷彩を施された双発型エンジンの機体色は、間違いなくそこにジョナスが乗っているのを確信させるものだった。
その色は、ネオの元となった人物の祖国でエースの部隊のみが纏うという、中東の荒地を飛ぶための迷彩であり、ジョナスの元の人物がその迷彩の戦闘機を纏って勇敢に飛んでいた頃を彷彿とさせる。
「そっちは大好きなブルースプリッターか! お互い意味の無い迷彩を! 元の人間の意識は離れんらしいな!」
「チィ!」
二機は攻撃する事無く激突しないギリギリの距離で邂逅する。
二人にとっての最後の戦いの幕開けである――




