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最終決戦(前編)

 新型戦闘機が完成してから3週間後、各国に必要なAF-9の数が揃い、ついに南リコンは攻勢に出た。

 AF-9はエスパーニャにも輸出されており、南リコンは総出でエスパーニャ首都を含めた奪還作戦を開始する。


 リヒター大将は奪還の特性上、海上からの巡航ミサイル狙撃が行えない事をネオに伝えながらも、新戦力のAF-9をサンパウロから24機出撃させ攻勢を整えることとした。


 総戦力は2000機近くにも及び、そのうちレシフェがFX-0の90機とAF-9の30機、サルヴァドール300機という総戦力の2割以上の戦力を誇っていた。


 ネオはエルやルシアにジョナスの件についてすでに伝えていたが、問題はジョナスがどの段階で仕掛けてくるかという所にある。


 というのも、南リコン同盟軍の目的はあくまでエスパーニャ奪還と、その後安定化するまでエスパーニャに軍を配備して防衛網を敷くことであり、NRC本土への攻撃は行わない。


 首脳陣も世界へ向けた放送でそう明言し、ユーロ側とは不可侵条約を結んでいた。

 同じくNRCとの熾烈な戦闘を繰り広げるユーロ連合はジェットエンジンのライセンス購入へと踏み切る姿勢を見せていたが、現状では南リコンの中でジェットエンジンを作れるのはレシフェとコルドバの二国であり、ライセンスを受けても製造できるかは未知数なため慎重な姿勢を崩さないでいる。


 当のNRC側は――


「NRC内部は元々合衆制の君主社会主義国家だ。小国の集まりといっていい。 現状では完全にハト派とタカ派、つまり平和主義で対話路線の派閥と、軍事侵攻を辞さない派閥で分裂状態にある。民衆は2度の大敗から何かに目覚めつつあるようだ――」


 ――とグラント将軍は偵察部隊よりNRC内部が混乱している情報を掴んでいるが、この状況でエスパーニャに再侵攻する可能性は極めて低いと思われていた。


「ネオが唱えたミサイル防衛、これは国家を国家として成立させうるだけではなく、絶大なる抑止力を生む。エスパーニャ奪還後に長距離型のミサイルを開発できれば否応無しに本土を爆撃されかねない状況に、NRCは手を引かざるを得まい」


 グラント将軍は、王国海軍含めた南リコンの勢力が地対空ミサイルや巡航ミサイルの技術も会得したことで、既存の艦砲砲撃とは比較にならない射程により、国家を維持する防衛力だけでなく、いつでも本土を攻撃できるという姿勢から抑止力として今後の世界を南リコン全体が牽引して安定化させられると考えていた。


 南リコンは大昔から戦乱に陥る機会があまりなく、それぞれの国が独立性をもって活動し、領土争いもユーロやユーラシアといった地域などと比較すると圧倒的に少ない。


 世界が崩壊しかけた後も、南リコンは地図上の国境が書き換わる事無く、国名や首都の位置が変わってもその存在を維持し続けていた。


 そのような国はアースフィアでは他にジャパン、つまり日本ぐらいしか存在せず今回のエスパーニャ奪還にはなんとこの日本も参戦していた。


 日本の大使がレシフェを訪れたのは1ヶ月前のこと。

 エスパーニャ再出兵を掲げ各国と不可侵条約の締結などを結ぶ行動の最中、突如として彼らはレシフェに訪れた。


 そして彼らは、彼らが保持する、古代から現在まで秘匿し維持し続けてきた核融合発電技術と引き換えに、ターボファンジェットエンジンの技術の提供を求めた。


 トーラス2世はこの話に当初困惑したものの、ネオの進言により核融合発電用の核融合炉の提供を受けた方が今後のレシフェのためになると説得されると、同盟条約締結と共に互いにライセンス交換することとなった。


 ネオはPX-0の照会と、PX-0を返還すべきかどうかもトーラス2世を通して議論してもらったが、日本自体は自国に戦闘機を戻してもパーツが盗まれて技術解析どころではなくなるとしてPX-0は引き続きレシフェにて保管されることとなった。


 他方、PX-0については製造自体は日本であるのは間違いないが、その他の記録関係は殆ど失われており、どういった戦闘機であったのか、当時の日本や欧州と北リコンとの間で何があったのかについては結局不明なままであった。


 計画として次世代戦闘機開発計画の雛形たる実験機で、実戦も可能なモデルであったことがわかっているが、それ以上のことはわかっていない。


 ただし、現在にも少数存在する日本の小型戦闘機はこのPX-0と極めて酷似する形状から、PX-0の構造や運用思想などは当時のスタンダードであった可能性が極めて高いことが理解できた。


 空力や航空力学といったものが失われかけていってしまった影響で形状は似ていても同じような空力特性ではなく、空力的にはかなり不利で不安定になってしまってはいたが、間違いなくPX-0の系譜であることが外観から想像できる機体に、ネオは感嘆した。



 エスパーニャ再出兵の状況については、NRCはほぼ一方的な後退戦を強いられた。

 本土からの補給が届く前に、地上から侵攻してきた南リコン連合軍の地対空ミサイルや巡航ミサイル部隊によって彼らが作った簡易基地は次々に焼かれ、さらに超大型機や大型機はエンジンをこれ以上失うわけにはいかないと損耗を回避するために本土へ帰還。


 残されたのは中型機や積載しきれなかった小型迎撃機のみであり、都市部以外では相次ぐ空爆によって地上部隊は壊滅状況となり、制空権は完全に南リコン側に掌握された。


 理由は当然、NRCがゼロサムゲームに苦しむことになったことである。

 

 元来の得意技である勝利して奪う以外では航空戦力などの各種兵器を全く増備することができないNRCにとっては、南リコンにおいて1週間に何機ものFX-0やAF-9、そして各国のレシプロエンジンやターボプロップなどの主力戦闘機が生産されては投入され、撃墜されても戦力が回復していくという状況にジリ貧となったのだ。


 第二次侵攻の後、サルヴァドール型やベレン型などの機体を裏でエスパーニャに配備されてしまった時点で膠着状態となった時にNRCは手を引けばよかったのだが、まだどうにかなると居座った結果、多大なる被害を出すこととなってしまった。


 ネオが危惧していた虎の子となる陸戦の古代兵器も、制空権を奪われた状態では機能しないのか、参戦する様子がなかった。


 仮に参戦したとしても、誘導兵器に対してどこまであの地上用の兵器が有用かいささか疑問があったネオは、恐らくアレも生産出来ない代物であるなとこの時点で予想がついた。


 そして、話は戻るが、ネオにとって今最も気になるのはこんな状況となってジョナスは参戦してくるのかであったが、ジョナスが決着を望むならば必ずどこかでメッセージを送ってくるとネオは確信していた。


 彼はそういう男なのだ。

 軍人ではあるが、軍人である前に戦士であり男であるので、そういった形で騎士道に沿ったかのような戦いを望む男なのだ。


 それを知っていたネオは、剣を研ぐように心を鋭く研ぎ、戦線の後方にてまるで猫科の動物が狩りの獲物を待つが如く静かにその時を待ちわびていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~

 再出兵から2週間で、エスパーニャの首都を含めた殆どの地域が奪還されていった。

 そこでレシフェは悲しい事実に遭遇する。

 エスパーニャの首都の基地には大量の死体があった。


 そうである。

 あの拘束されたレシフェの者たちである。


 おぞましいまでの大量の死体は、基地の近くの処理場に大量に埋められていたのだ。

 その中にはまだ死亡して間もない白骨化していない女性の死体も大量にあり、彼女達がそういう状況であったか想像するのは難しくなかった。


 トーラス2世はその一報を聞いた後、危険を承知ですぐさまエスパーニャの首都へ向かい、鎮魂と謝意を示すためにその場所に訪れたのであった。


 そこには、今までずっと謹慎中であったロバート元帥の姿もあった。

 元帥はすでに辞意を表明していたが、トーラス2世が保留していたのである。

 謹慎中ということで表舞台に立っていなかったロバート元帥は、トーラス2世が向かうと聞くとすぐさまそこに同行したのだ。


 王たる者として再出兵を最初に決めた時、その意思決定を促したのはロバート元帥ではあったが、最後に責任を背負うのは己として、トーラス2世はロバート元帥ではなく責任は自分にあると、彼らの亡骸に深い謝意を示して許しを求めた。


 ロバート元帥もその後ろで深く頭を下げ、涙を流しながら己のミスを悔やんだ。

 グラント将軍やネオ達、そして南リコン連合軍の幹部達も、その後ろで祈りを捧げた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 数日後、エスパーニャ首都の基地にいるネオに手紙が届いた。

 宛名は不明であったが、そこには時刻と座標が刻まれている。

 場所はエスパーニャとNRCの国境付近の荒野の上空であった。


 内容を見た瞬間にその手紙を握りつぶしたネオは、レシフェ首都にいるエルとFXAを召集した。

 

 そして、実戦で他のパイロット達から得た意見と、自身がここまで乗り込んできて経験したモノから改修中であったFSX-0-T1の作業を急ぐこととなった。


 T1の改良点としては、運動性と安定性をさらに上げるためのカナードの装着と、一方で効力の大きい垂直尾翼の小型化と形状の一新、20mm波動連弾はコルドバより提供された連射速度毎分5000発の1門への変更し、無駄な風流を逃がす際にこの風流をラムエアで整えて推力にする機構を改良し、超音速領域で2割程度生まれる推力を3割以上へ引き上げ。


 HMDの信頼性が非常に高いために、光学照準を取り外しHMDへ1本化して視認性を向上。


 MX-0を出力をそのままに、より整備性が向上し、コストダウンに成功したMX-0-A1へ変更。

 これに伴い、呼称をFSX-0-T2とし、対ジョナスへの決戦兵器とした。


 カナードはFXAのテスト飛行で得られたデータから新たに搭載されたもので、垂直尾翼が小さくなった分の安定性や機動性を確保するためのものである。


 最高速度的に特に影響は無く、着陸時のエアブレーキと揚力増加のフラップを兼ねている2020年代の欧州機に搭載されるものと類似する効果を生むものであった。


 現時点ではFXAと並ぶだけのものを持ちながら、エンジンを含めて全て新造できるというのが特徴である。


 ジョナスが仮にFXA並みの化け物を持ち出したとしても、ネオには十分勝算があると見積もっていた。


 ネオはT2になりつつあるT1を見つめながら、グッと拳を握り締めた。

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