番外編6 第二次侵攻出撃前の出来事と第二次侵攻終了後
「超大型機へのP-15の艦載は認められない!? おまけに後方で空中待機ですと!?」
第二次侵攻が5日前に迫った時のこと、執務室に呼ばれたダグラス大佐はブラッドレー中将より第二次侵攻の際への超大型機への同行を拒否する本部からの通達を受けた。
完成したP-15は何とかパイロット達の育成もある程度の段階まで済み、戦闘も可能な状態となっていたが、8機しかないことと、既存の小型機より最高速が優れるといった程度の点で決戦兵器とはなりえないという評価を本部は下していた。
「本部は8機しかないというよくわからん小型機に大した期待も寄せていないということだ」
「しかし指令、最前線で例のSWPMを射出すればレシフェの混乱は必至。その状況で1機でも多く超大型機をレシフェ本土に向かわせられるかもしれません!」
ダグラス大佐とジョナスはP-15の完成度に関しては確かに納得できない部分も多々あったものの、双方共にSWPMの威力と範囲については高い評価を下している。
当初の予定では超大型機へ4機ずつ配備し、最前線でSWPMを使用した後、一旦補給に戻り、再度SWPMを装填して再び戦闘、最終的にはレシフェ本土への攻撃にも参加することを画策していたダグラス大佐にとって、この上ないまでの屈辱である。
「P-15が参戦したとて不利な状況は変わらない。にも関わらず……負ける気ですか」
ダグラス大佐は歯を食いしばった。
「ダグラス、上の連中には危機感がないのだ。 ジョナス大尉の方がよほど危機感を抱いていると言える。 彼の予測が正しければあっち側にも音を超えて飛ぶ戦闘機が完成しているやもしれん」
この状況を不服としていたのはブラッドレー中将も同様であった。
葉巻をくわえていたブラッドレー中将であったが、ダグラス大佐が目をやると灰皿にはすでに大量の葉巻が置かれていた。
普段とは比較にならない灰の多さに、葉巻でも吸わないとやってられないといった心境なのであろうと推測する。
「わかりました。では、全滅しかけるまで我々は待機と致しましょう。第二次侵攻において、我々第28開発チームは独自の行動を取ります。指令、私へレシフェ本土への攻撃指示を下さい」
思わぬ発言にブラッドレー中将は咳き込んだ。
「ゴホッ 正気か? 本土へ侵入する方法などあるのか」
「あります。ジョナス大尉と共に試験飛行を行う傍ら、レシフェの連中が察知していない空路があることに気づきました。P-15の情報がレシフェへ漏れていることは存じていますが、ある航路で試験飛行をすると、彼らがその日試験飛行をしたと報告をしないのです」
ダグラス大佐は、最南端に位置するこの基地から南へ試験飛行する際、レシフェの偵察部隊に見つからないルートを発見していた。
「して、それはどのような……」
ブラッドレー中将はまだ火をつけてさほど時間が経過していない葉巻を灰皿に埋め込み、火を消す。
「エスパーニャの東側の山側を飛行しつつ、南リコンとの境界線の間の山々を突っ切るルートです。北リコン大陸では東、南リコン大陸側へ近づくにつれ西側の進路へ。この場合、北と南を縦断する運河あたり以外での捕捉は不可能に近いことがわかっています。針を縫うように、そこを飛ばします」
「本土の警戒網は首都以外では薄いと報告がある。運河のあたりまで飛べば本土攻撃は十分可能……か」
「その通りです」
ダグラス大佐は頷いた。
ブラッドレー中将はしばし沈黙し考え込む。
「……大佐、海上に展開する航空機がこちらを発見する可能性は?」
「そこは陽動を行います。チームを2つに分け、片方を陽動と混乱、可能であれば護衛に、片方は本土攻撃オンリーです。 大混乱に陥れれば、より到達しやすくなりましょう。SWPMで首都の航空基地を攻撃でれば多大な損害を与えられるはず」
ダグラス大佐は詳細などは今思いついたのでまだ出来上がっていないとしながらも、頭の中ではすでに高速で詳細な作戦内容が組み立てられていっている。
それはガシャンガシャンと頭の中から音がしそうな勢いであった。
「大佐。侵攻を許可する。最南端である我々の基地からの超大型機の出撃は許されていないが、P-15まで不許可とはされていない。元々は後方で空中待機で、これは恐らく基地周辺を指していると思われるが命令指示は曖昧だ。存分にやりたまえ」
ブラッドレー中将は元々エスパーニャへの侵攻を統括する基地の指令であった。
そのため、大半の戦力はやや西側にあるエスパーニャに展開しており、この基地にある残された戦力はこの地域の防衛用と本部より指示されている。
命令ではないものの、これを破ると流石に更迭されかねない。
だが、P-15までその命令が及ぶわけではないと判断し、ダグラス大佐の部隊の出撃を許可した。
「第28開発チームは本日付で第28航空特殊部隊へと変更する。攻撃関係などの権限も貴官に与えよう。 後で正式な書類を送るが、すでに発行済みのものとして行動してくれ」
「はっ!」
ブラッドレー中将のすばやい判断にダグラス大佐は感謝し、敬礼をした後で静かに執務室より去っていった。
ブラッドレー中将は書類発行の手続きをとりつつも、戦果を出してくれと祈るのであった。
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それから4日後、最南端の基地には一部の超大型機などが補給に訪れていた。
超大型機の乗員はP-15について特段興味を示すことはなく、そのまま立ち去り、ジョナス達もそれぞれ受けた命令から行動を開始した。
ジョナスは本土攻撃部隊に入ることを志願したものの、ダグラス大佐は何が起こるかわからないと陽動と護衛部隊の方に彼を引き入れた。
彼が操縦するのはエースと長機だけに許されたカラーリングのYP-15で、赤く塗られた機体に周囲は眺望のまなざしを向けたが、ジョナス自体は「目立ちすぎる」と嫌がっていた。
しかし己の操縦テクニックにも自信があり、そもそも誘導兵器なども存在しないとこの時点で考えていたジョナスは、しぶしぶこの色にすることを認めた。
一方で元となった人物が好んだのと同じエンブレムを付けることを要望した。
作戦内容としてはダグラス大佐が考えたもので行くこととなり、第二次侵攻終盤あたりになった段階でジョナス含めた4機はSWPMを展開し、可能であれば本土攻撃の4機と合流。
本土攻撃の4機は当日までに何度も試験飛行をしてほぼ確実に平和の海とユーロ海を結ぶ運河あたりまでは見つからないと確定したルートを飛行することとなっている。
南端から大陸側を沿う舞台と、海側へ飛行する部隊となり、ジョナスは後者として出撃することとなっていた。
本土攻撃部隊ではなくなったことについてジョナスは特に不満を漏らすことはなく、どちらかといえば護衛に絶対に回ると意気込んでいた。
――そして、彼らは夜明け前に出撃していった――
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NRCの第二次侵攻が失敗に終わって数時間後、南端の基地へ最後に戻ってきたのはジョナスだけであった。
本土攻撃部隊の4機は戻ってこなかったが、ジョナスの報告と映像や画像などにより全滅が確認された。
「悪い予感が当たった……連中、誘導兵器を使っていた。おまけに戦闘機の出来は尋常ではなくいい。亜音速でも安定性が低いP-15で、さらに光学照準すらない状況では攻撃がまともに当たらん」
戻ってきたジョナスは若干憔悴しきっていて、普段のハードな訓練飛行時と比較しても非常に体力を消耗していた。
ジョナスはドナルド達に画像の解析を急がせながらも、自分が主張していた兵器郡をレシフェが生み出していたことについてショックを受けていた。
「大尉、この基地にズタボロで戻ってきた超大型機の乗組員は皆、火の玉がこちらに向かって飛んでくるといっていた。何か心当たりは?」
ダグラス大佐は、乗組員がトラウマになるほどの誘導する火の玉の正体について伺った。
「だから、誘導兵器ですって。SWPMと似たようなものだ。速すぎてノズルから出る噴煙しか見えんのですよ」
ジョナスはレシフェがジェット戦闘機の開発に成功していたこと、誘導兵器の開発に成功していたこと、誘導するための探知関係の兵器の開発にも成功していたことをダグラスに説明した。
「電磁波の類は250年前に行われた最後の戦争と呼ばれるもので完全に封じられたはず。元来ならそういった電気の波動でもって敵や味方を探知したり誘導するのですが、件の誘導兵器、ミサイルという奴は……恐らくもっと古い方式で稼動させていて、誘導を可能としている。回避するにはフレアが必要だ」
ジョナスはソレが赤外線などの光学センサーを用いた誘導方式であると判断し、回避には最低限フレアが必要だと主張した。
P-15の後に開発する本命の戦闘機においては、双発型のエンジンだけではなく、彼らがこの段階では名も知らぬゼロとほぼ同等の装備が必要だと語気を強めた。
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数日後、トーラス2世による全世界へ向けた放送演説によってジョナスの主張が全て正しかったことが裏づけられた。
第28航空特殊部隊のメンバーやダグラス大佐、ブラッドレー中将はジョナスの話を最初から信用していたものの、思った以上にレシフェの戦力が増強したことに驚きを隠せなかった。
なにしろ、エスパーニャ首都制圧の時点で元来なら無条件降伏してもおかしくない状況だったのである。
それが世界最強と謳われるNRCの航空戦力を上回るかもしれない状況となったのだから、きっと本部などでは絶句していることであろうとブラッドレー中将は予測した。
特に本部が驚愕していたのは地対空ミサイルであった。
今回の超大型機を含めた全ての被害の7割以上はこの防空兵器によるものであったが、これを発射したのはあろうことかそれまで軽視し続けられた軍艦だったのである。
トーラス2世はCG合成映像で潜水艦からこれを発射する映像を世界に向けて発信したが、これは完全に本土攻撃を可能とするものであり、国土が離れていたにも関わらず本土攻撃が可能になりうる状況にNRCの総本部は凍りついた。
そして何よりもNRCにとって痛手となったのはトーラス2世が新造できるエンジンを南リコン含めた全ての同盟国に技術供与するということであった。
ジョナスは技術者ではないため、それがどういうエンジンなのかはわかってもそれを生み出すことが出来ない。
ジョナス以外の完全複製体も同様のユニバーサルソルジャーであり、同じ状況であった。
未だにレシプロエンジンすら捕獲できていないNRCにはエンジンを新造する技術は無く、唯一作れるエンジンは第28航空特殊部隊の液体燃料ロケットであったが、これは極秘としてブラッドレー中将が隠していたため、その存在を本部は認知していなかった。
本部においてはレシフェとの和平交渉を結ぶべきとする派閥と、P-15が出した少なくない戦果から小型機を開発すべきと主張する派閥など、混乱が拡大し、統率がとれない状況とまで至っていた。
そんな中でブラッドレー中将達は「NRC本土を防衛するための制空戦闘機の製造とそれに関わる予算申請」を行ったが、混乱した本部はこれを何も考えず満額で許可したのだった――
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数日後、莫大な予算を受けた第28航空特殊部隊は確保できうるだけの技術員を召集し、現段階において最強を誇るFX-0と対等に戦えるための戦闘機開発計画をスタートした。
そしてジョナスにより、下記の仕様を目指すことが決まった。
1.双発型にし、エンジンを潤沢に使う。
2.武装は20mm波動連弾を2門以上装備
3.液体燃料ロケットによる誘導兵器(SWPMは引き続き併用)
4.翼型はクリップドデルタ翼を採用し、高速飛行中でも機体を安定化させるよう調整
項目はP-15を作る際のものよりも少なくなっているが、これはそもそもの目標が対FX-0という側面が強かった。
ただし、彼らが知っているFX-0はターボジェットエンジン時代のFX-0であり、その後のベクタードノズルや通信機器を搭載したFX-0ではない。
ジョナスはそういったものに一気に進化しそうなことを危惧し、ターボジェットエンジン時代のFX-0にキルレシオ1:2で勝ちうる機体を望み、ダグラス大佐などもそこに同調した。
1:1以上のキルレシオであれば、国力と生産力の差で勝てると考えたのである。
NRCによる真の超音速制空戦闘機の開発が始まった瞬間であった。




