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番外編5 NRCの小型航空機開発史3

ダグラス大佐にジョナスが本音を打ち明けた翌日、ジョナスは小型航空機の仕様について第28研究開発チームに問いかけたが、それはとてもジョナスには納得できないものであった。


「XP-1というこの機体、武装は20mm波動連弾のみだと!? おまけにこのアナログ計器だらけのコックピットはなんなんだ! 中型機ですらもっと高性能なのだがな。 小型迎撃機とはわけが違うんだぞ!」


 XP-1と名づけられた対レシフェ用の制空戦闘機は、ジョナスから言わせれば性能が高いだけで制御もロクに出来ない可能性の高い極めて危険な航空機であった。


 液体燃料ロケットを武器にして搭載するのは、続くYP-2で行う予定で、XP-1は最低限の武装で超音速などを発揮させた、いわばレシフェでいうベレンと同じような存在である。


 しかし、光学照準すら搭載されないソレは、小型迎撃機より酷いものであったが、予算が確保できない第28研究開発チームにとって、あくまで音速を超えるための胴体開発のために作ったXP-1には豪華な仕様にすることなど出来なかったのだ。


「ジョナス大尉。我々には人材も時間も、そして予算も資材も限られております。XP-1はあくまで音を超えて飛べることを確認するための実験機なのです」


「ドナルド博士。敵の攻撃機はな、それなりの機動性を有しているのは映像や画像だけでわかるだろう。速度が速くたって意味が無いんだ。私が来る前に渡したE-M理論という技術文書は見たのか? レシフェの機体は技術的知識がない私ですら、E-M理論を理解した者が作ったと見分けられるような構造と機動を示している。ただ水平飛行で速くても意味がないんだ!」


 ジョナスは、かつて存在した技術やE-M理論について第28研究開発チームに予め資料を渡していたが、第28研究開発チームは予算不足だけでなく、ジョナスの主張する知識に対してよく理解ができていなかった。


 E-M理論についてはある程度の認識を示した一方で、格闘性能さえ保たせれば十分であると間違った認識を犯しており、あくまでこれは戦法に対して重要なものであって航空機をE-M理論に合わせる必要性は無いのではないかと考えていたのである。


「いいか、E-M理論というのは戦闘方法だけじゃない。それに合わせた航空機をレシフェは送り込んでくるぞ! もし仮に、ジェットエンジンというとてつもない出力のものを開発してみろ……こんなのでは勝負にならん。 私が知る限り、レシフェにはそれを生み出すかもしれない奴が潜んでいる!」


 その後、押し問答が続いたが、ジョナスは、まずはテスト飛行で音速を超えられるのを実証してから次の段階へと移行しようとしている第28研究開発チームについて、その方針の転換を迫った。


 すでに完成して飛行試験間近のロケットエンジンを搭載したXP-1、そして武装搭載型のYP-2の双方を全否定し、一蹴した上で、これらの機体を構成する翼については肯定し、翼型だけを流用してもっと先進的なもので対抗可能にすべきであると主張した。


 ジョナスがホワイトボードに書き記したものは下記のものであった。


 1.今回の機体は間に合わせのためにエンジンを単発とするが、最終的には双発のものを開発しないと加速と冗長性の点で話にならない

 2.超音速機はエンジンに合わせて胴体の形が決まる。

   よって、試作機の時点でロケットエンジンを採用して試験していては無駄に遠回りするだけ。

   最初から本命で行き、時間もないので先行量産型とすること

 3.せめて光学照準ぐらい作ってみせろ、その上で搭載しろ

 4.液体式でもロケットエンジンが作れるなら、誘導兵器の開発をなんとしてでも行うべき

 5.最高速度をM3と見積もっているが、M2.2ぐらいまでで十分。

   その分機体を軽量化し、小型化しろ。

 6.アビオニクス系は中型機から流用し、訓練機用のアナログ計器を流用するのはやめろ。


 ジョナスはこれらをほぼダグラス大佐含めた全員に強要する形で認めさせた上で、第28研究開発チームだけでは話にならないので、自分の持つ人脈を使い、兵器開発を行える別のチームを呼んで合流させることにした。


 第28開発チームは試作機としてYP-2の後にYP-5やYP-7などを考えており、最終的にはこのYP-7をP-7として採用しようとしていた。


 それは単発エンジンの中型機であったが、武装も貧弱でXP-1から何1つ強化されないコックピット周りであり、ジョナスには到底納得できるものではなかった。


 第28開発チームは液体燃料式ロケットによる無誘導型推進移動式ショックウェーブ爆弾を用いれば敵の戦闘機を一網打尽に出来ると考えていたが、ジョナスは「そんな感じの信仰によって、大昔にこの国は途上国に負けたことがある」と過去の歴史を持ち出して考えを改めさせた。


~~~~~~~~~


 3日後、ジョナスの提案を受けたブラッドレー中将の計らいによって、第28開発チームに新たな人材が増員された。

 彼らは兵器関係のスペシャリストであったが、航空機関係にもかなりの知識を有しており、ジョナスの集めた資料によって古代に関する技術に精通する者たちであった。


 彼らが合流したことで、XP-1やそれ以降に計画された戦闘機に代わる新たなものが思案される。

 様々な案が出されては会議で却下されていき、最終的にYP-15と名づけられたそれは、このような仕様となっていた。


 1.エンジンはどうしても貴重なのと、整備性の問題から今回は単発式とする。

 2.光学照準は一体何なのか不明なのでさっぱりわからないので今回は見送る。

 3.コックピットは中型機のものを出来る限り流用した真新しいものへ。

 4.胴体はデルタ翼によるタンデム翼に類似するものであり、非常に高い機動性を保つ。

   この翼よりもさらに高性能なデルタ翼の知識をジョナスの話によって生み出せそうなので、

   それを利用したものを次の試作機には備え付ける。

 5.武装は対空機銃を流用した20mm波動連弾2門と、液体式ロケットによる無誘導推進型ショックウェーブ爆弾、新たに《SWPM》と名づけられたものを下部に4発搭載。

 6.先行量産型を1機作るが、そのまま8機ほど量産する。


 ジョナスはHUDはおろか光学照準すら突かなかったYP-15について最後までこの部分について批判的であったが、他については重ね妥協できるとして、この案で行くことを認めた。


 機体自体はE-M理論を用いたものであり、J37ビゲンに酷似していたが、ビゲンに搭乗した経験はないものの、搭乗した人物の記憶があるジョナスはこれならば十分戦えそうであると考えたのだ。


 そして、ダグラス大佐と話し合ったジョナスは、第二次侵攻においてP-15を投入するとしても大量生産も間に合わないので、今回の勝敗についてもレシフェに譲る一方、レシフェが最終的に本土まで攻めてきた場合の決戦兵器を作ることで意気投合した。


 ここでいう本土とは現在占領中のエスパーニャ首都などを含んでいる。


 この考えにはブラッドレー中将も賛同し、戦略上レシフェの侵攻が止まらずエスパーニャなどに攻め込まれても、撃退せしうるだけの戦闘機を作らねば最終的にエンジンが新造できないことでNRCは負けるという考えを3人共にもっていた。


 ジョナスは正直にいうところ、別段NRCが滅んでも社会主義が滅びた上で同じ地域に別の国家が生まれるなら問題なかったのだが、レシフェにいるであろう人物や、レシフェがどういった形でNRCを捉えているのは不明瞭であり、NRCを壊滅した上で占領地にしてしまう可能性を考慮すると、最低限防衛しておく方が良いという考え方である。


 


~~~~~~~~~~~~~~~~


 レシフェにおいてまだジェットエンジンの開発にすら成功しなかった頃の段階で、YP-15は完成した。


 NRCには元々小型迎撃機という存在とそのパイロットが多くいたが、これらから新たにP-15のパイロット候補を30名ほど集めて訓練を開始する傍ら、ジョナスがテストパイロットとしてYP-15を飛行させた。


 YP-15は期待通りの性能を示し、M1.0を一気に突き抜けてM2.0まで加速することに成功したが、フライバイワイヤーなどが搭載されないため、凄まじい振動を抑えるのにジョナスは苦労した。


 これはタンデム翼の影響ではなく、デルタ翼の翼端による影響であった。

 デルタ翼の場合、翼の先端に高い効力がかかる。

 これを抑えるために元来はストレーキなどが必要だった。


 しかしストレーキという存在を認知しなかったジョナスや開発チームは、P-15が超高速領域で不安定になる理由を理解できなかった。


 あまり知られていないことだが、実は航空機の翼というのは完全に水平に取り付けられているわけではない。


 通常、翼は前方から後方へ斜めに下がっていく形で、揚力を発生させうるように装着される。

 こうしなければ揚力を発生させて飛ぶことが出来ない。

 

 なので、背面飛行をすると、エルロンやエレベーターなどを調整しなければ大きく機首を下げて落下していく。


 曲芸飛行用の航空機は背面飛行も可能なように取り付け角なども調整されていて、背面飛行時にも水平飛行できるように背面飛行時に自動でフラップなどが調整されるように出来ているのだが、戦闘機はそうではない。


 ネット上におけるストレーキの簡単な説明では、一般的に大きな迎角をとった場合に有効とされているが、実は航空力学的にいうと、M2.0以上の状況というのは、亜音速で大きな迎角を取っているのと変わらないのだ。


 なぜなら、大きな迎え角を取っている際の空気の流れの強さと、超音速飛行時の水平飛行の状況がほぼ同じ圧力だからである。


 タンデム翼は主翼を2つ配置することでストレーキに近い状況を発生させるが、それは純粋なデルタ翼だと、翼の翼端を除いた部分のみである。


 一般的なデルタ翼であると、翼端はその剣先のような形状からとてつもない不安定な気流を生み、それを調整できない。

 

 そこでストレーキの出番なのである。


 2020年代の最新鋭機で、翼端の効力を考慮して削り取ったようなクリップドデルタ翼ですらストレーキを装備する理由は、この超音速飛行時の安定性確保の意味合いがあった。


 クリップドデルタ翼は先端を削り取ってもデルタ翼と同等の効力があるとネット上などでは簡単に書かれているが、どちらかといえば先端形状が超音速飛行時に完全なデメリットしか生まないためにそんな形状となったのである。


 例えばF-14の場合は可変後退翼ゆえにそれを極限にまで押さえ込めたが、F-15は固定翼なのでそうはいかない。

 そうなるとああいう形状になるのだ。


 効力ではないが、気流が不安定になるのだ。


 皆さんもちょっと試して欲しいが、風呂場の水で30度と60度からなる三角定規の30度側を水面に走らすのと、90度側で走らすのでは後者の方が明らかに安定するのがおわかりいただけると思うが、それと同じなのである。


 一見すると効力的に不利そうな形状が、実は超高速領域では必ずしも不利とはならないのであるから、こういった流体力学というのは怖いのである。


 フォルクローレにストレーキを当たり前に装備させたネオはこの事実を理解し、レシフェの技術者もネオの指導によってその知識を得ていて、FSX-0とFX-0には当然のように装備されているが、ジョナスが知らなかったことでP-15にはそれを搭載できなかったのだ。


 結局、YP-15で発生した超高速領域の安定性確保については目を瞑って今回はそのまま戦闘へと向かうこととなった。


 ジョナスとしては、レシフェがどれだけの戦闘機を作るか気になっていたが、おそらく本命が別にあると推測していた――

 

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