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番外編4 NRCの小型航空機開発史2

 NRCの第二次侵攻よりしばらく前のこと、NRCの最南端基地では新型機開発の真っ只中にあった。

 そんな状況であれこれと忙しかったダグラス大佐は、ブラッドレー中将により突然呼び出しを受けた。


「司令。いかがなされましたか? この間のパイロット選定の件でしょうか」


 いつものように静かにノックした後に執務室にはいったダグラス大佐は、腰掛けながら呟いた。


「貴様は、ジョナスという男を知っているか? スティーブ・ジョナス大尉だ」


 ブラッドレー中将は両手を組んだ状態で楽な姿勢をとる。

 ダグラス大佐の前では、まるで友人に話しかけるように、このような態度をとるようになっていた。


「小型迎撃機で大型機体を撃墜したことがあるというエースでは?」


 ダグラス大佐は記憶からジョナスを掘り起こし、すぐさま回答した。


「その男が、貴様の部下になりたいそうだ。奴は本部基地に所属しているが、特別扱いでな。転属届けが通らぬ場合は軍を辞めるとまで言ってきた。どこかで我々の新型機の件について情報を得たようだ」


 そういってブラッドレー中将は机の上にパタッと、ジョナスの履歴が書かれた書類を広げる。

 そして愛用の葉巻に火をつけた。


「……奴はなぜ特別扱いか、本部所属であった君は知ってるか? 大佐」


「存じません。ただ、エースとだけ」


 ダグラスの即答にブラッドレー中将は特に表情を変えることなく、ふうと一息入れた後で再び語りだした。


「この書類の写真を見てくれ」


 そういうと、ブラッドレー中将はジョナスが入隊した頃の添付写真をダグラス大佐に見せた。


「これが撮影された日は…………70年前だ……」


「なんですと!?」


 ブラッドレー中将の台詞に真意はさておきダグラス大佐は驚いて椅子から立ち上がってしまった。


「馬鹿な。本部から左遷される前に何度か彼を見たことがありますが、その写真と殆ど遜色ない見た目でしたよ!?」


 ダグラス大佐の額に汗がほとばしった。


「私が独自の情報網を用いて知る限りのことを全て話すが、奴は古代人……らしいのだ。そして何故か入隊時から全く歳をとらん。ある程度までの期間若さを維持できるのか、老化という存在がないのか……NRC内部にはこういった人間が何人かいるのだ。だがな、問題もある」


「む? 問題とは?」


「NRCに所属するものは、全てただの軍人だ。古代の知識も記憶だけ、彼らはまるで、古代の脅威の技術によって生み出された戦闘員にしか思えん」


 ダグラス大佐はブラッドレー中将が何を言いたいのか察し、目を閉じた。


「現代の戦闘方法と合致しない……」


 その言葉にブラッドレー中将はニヤリとする。


「その通り。奴らはデカい口を叩くが、レシフェが実現化したようなエンジンを新造するような能力はない。小型機の運用を唱えたりする一方で、その戦法が実際にNRCの戦果を増加させた事例はない。奴ら自体の戦闘力は人間離れした部分もあるのだが……」


 ダグラス大佐はその言葉を聞いて再び目を見開き、目を細めてジョナスの写真を見る。


「司令。恐らく、私と司令は同じ考えに至っているのでは?」


「お前の顔に文字が浮き出てきそうだな。が、実は、私がお前と同じ考えに至った要因は奴からの報告によるものだ」


 ブラッドレーは報告書を机から出すと、ダグラス大佐に渡す。


「これは?」


「後で詳細を見るがいい。簡単に説明すると、お前が考えている通り、軍事だけでなく技術力も持った者が何らかの理由によってレシフェに渡ったことと、それが可能な人物がリストアップされている。奴が私への手土産にと上層部しか知らぬ恥部たる機密情報と共にそれを渡してきた」


 報告書の重みを感じながら、かなりの情報が記載されていることを理解したダグラス大佐であったが、ブラッドレー中将の表情からジョナスは曲者である可能性が高いことをすぐさま理解する。


 ダグラス大佐から言わせれば、このような形で機密情報を渡すのは、ブラッドレー中将に上層部をゆすらせてまで自己を転属させたいという独善的な行動である。


 チームワークというものをさほど考慮しないその姿勢に、いかに上層部がマイペース思考で保守的で活動的でない者たちばかりであるといえど、ダグラス大佐には容認にしくい人物であった。


 この者は土壇場で己の命令を聞かぬであろうということは、容易に想像できる。

 裏切りはせずとも、独断行動を起こすのであろう。


「して、ブラッドレー中将殿としては、この話を受けられるのですか?」


「私は道化ではないのだが、奴が私に渡した文書には今以上に潤沢な予算を確保できうるだけの情報と証拠が書き記されているのと、奴はこの情報を受け取った際に解体した超大型機が実は無傷であるという情報を自分は把握していると言ってきた。本意ではないが首を掴まれた感じだ」


 ブラッドレー中将は、ジョナスが大尉というさほど高い階級を保持しないながらも、70年以上生きて軍に所属していることでそれなりの人脈を確保し、情報網を敷いてこちらの動きを掴んでいたことで、彼の要望を叶えざるを得ない状況に陥ってしまっていた。


 頭を抑えつつも、話を受ける以外の方向性は無いとダグラスに主張する。


「司令。私はね、私なりの正義のためには味方を誤射できる人間です。奴が不穏な動きをして中将を揺さぶるならば、なぜか突如として飛行試験中に事故が起こるかもしれませんな」


 ダグラス大佐の言葉にブラッドレー中将は良い部下をもったと胸をなでおろしながらも、危険な爆弾を抱えて活動しなければならない今後を不安視した。


~~~~~~~~~~


 数日後、ジョナスは希望通り転属願いが了承され、第28開発チームにテストパイロットとして転属してきた。


 前日までジョナスの書いた報告書を見ていたダグラス大佐は、レシフェにいる人物がジョナスの関係者かもしれないという報告から、もしかするとライバルかなにか、とにかく私情があるのではないかと推測していた。


 そこで、転属理由を探るためにジョナスを夕食に誘い、彼の真意を引き出そうとする。


「大佐、小型機に搭載されてるアレ、液体燃料ロケットではないですか……試作機に例のエンジンは搭載しないと?」


 最初に口を開いたのはなんとジョナスの方であった。

 第28開発チームの開発する新型小型機は新造できないタイプのエンジンを搭載したものであろうと予測していたジョナスは、ロケットエンジンが搭載された試作機に不満を漏らしたのだ。


「君は報告書の人物と違ってエンジンは作れんのだろう? アレが我々の現段階の限界だ。新造できぬエンジンだって有限だからな。どうなるかわからんモノに潤沢に使えまい」


 ダグラス大佐はジョナスの話からジョナスが全てを認識できるほどの情報網は持っていないことに安堵するものの、一方で第28開発チームを侮辱されたような気がしたことで釘を刺した。


「エンジンはね、簡単に一朝一夕でできるもんじゃあない。それを可能とする件の人物は、恐らく私の記憶の中の人物とは合致する部分がある」


「記憶……? 君は一体何年生きているのだ」


 生理的な気持ち悪さを覚えたダグラス大佐は備えていたワインに手をかけ、飲み干した。


「時間を計測できなくなった時期があるんで、一体何年だかわかりませんが、少なくとも300年以上生きていると自負しています。この世界が滅びかける前にNRCの元となった国家にわたり、ある研究の実験体となりましたんでね」


 ダグラス大佐は、ジョナスの言葉に食事の手を止めた。

 ジョナスは歴史の生き証人であったのだ。

 

「私は、ユニバーサルセルによって生み出された完全複製体と呼ばれるものの初期のタイプです。元となった人物から記憶や細胞情報を全て読み取って同じ人物を作り出す計画のね。つまり、私の記憶は極一部だけ元となった人物のものがありますが、その者はすでに死亡し、それからいつ終わるともわからない人生の道を歩んでいる。万能細胞に寿命はないが、ケガや病気はするようだ。」


 出会った当初から不気味な、まるで死神にでも憑かれたかのようなオーラを発していると感じていたダグラス大佐は、オーラの理由を彼の言葉によって理解した。


 そして考えを改める。死神に取り付かれたのではなく、死神そのものになってしまったのだと。


「人類の英知はすごいもので、世界が滅びかける一歩手前の段階で究極の人間を作り出せる段階まできていた。私が物心ついたのは300年以上前、そこから今日まで、遺伝子に刻まれたものを頼りにこの地で軍人として生き続けている。多種多様な国家の優秀な軍人を集めた上で、NRCの元となった国を祖国にするよう刷り込んでその部分だけ遺伝子を調整し、新たな人型生命体とするユニバーサルソルジャー。それが私だ」


 ダグラス大佐は黙って話を聞いていた。

 彼はウソをついているとは思えない。

 本来ならそんなのはPTSDか何かにかかって発狂している人間が話す戯言であるが、ジョナスの言葉には妙な説得力があった。


「なぜ君は最前線で戦うのだ。 死にたいのか?」


 ダグラス大佐は、思ったことをそのまま口にしてジョナスにぶつける。

 彼は戦場で死を望む死神なのか、それともどうなのか気になったのである。


「私は指揮官になるようインプットされてないですし、適性もありません。精々前線で中退規模の隊長をやる程度。最初から興味が無い。興味があるのは、空を飛んで、そしてそこでしか得られないものを得ること。それが最も享受できるのが空軍で、そしてNRCというだけだ」


 ジョナスは、飛ぶことこそ全てという人間であった。

 それはネオと同じであった。

 だが、ジョナスにはネオのような国にすら影響を与えるというような能力はなかった。

 

 彼は初期型であり、かつ大量に量産を行うために必要な情報以外はインプットされず、その能力もない完全複製型であったのだ。


 ただし、もちうる能力はかつてのジョナスと同じかそれ以上であり、頭もキレる人物である。

 だが、ネオとは異なり戦闘技術やE-M理論は知っていても、ジェットエンジンなどの情報は知っていても、それを復元する能力は無かった。


 そんなジョナスにとってNRCの超大型機や大型機は、空を走る船であり、飛んでいるのではなく大気の上を渡っているだけという感覚である。


 だが、NRCの兵力と国力さえあれば、再びかつてのように世界最強の戦闘機を作れると思っていた。

 彼はずっと、その時を小型迎撃機の乗りながら待っていたのである。


 だからこそ、その夢が実現化したのだと思い無理をして転属してきたが、転属先の小型機がロケット実験機であるベル社のX-1と大差がない存在であることに落胆していた。


 夕食の際に真っ先に口を開いて愚痴るだけの理由があったのだ。


「大佐。レシフェにいるのは複数の人物の知識と能力を特定の人物に持たせた複合型だと思います。私は完全複製型だが、あっちは違う。どこかで眠っていて、それが目覚めてレシフェに渡った。だが、奴は私の直感では……記憶と人格は私の知る、ある男と同じもので大半が満たされている」


「それは君にとって倒すべき男なのか?」


「いや、倒すべき男なのは私の方だ、だが恐るべき能力を持って再び別の形で蘇っているかもしれないからこそ、私にとっても奴は倒すべき男になったかもしれません」


 それは曖昧な返答であったが、ジョナスがダグラス大佐になにを伝えようとしたのかダグラス大佐もなんとなく理解できた。


 その後、ジョナスはどうして転属したかという理由の一部始終をダグラス大佐に語り、己がエゴでもってこの転属をしたことを伝えたが、一方で最終目標はNRCを昔のような先進的な列強国に戻すことが夢であると伝えていた。


 ダグラス大佐に実は伝えていないことがあったが、ジョナス自体の元となる人間はNRCの元となった合衆国の人間ではなかった。本来の祖国についての愛国心などはあえて排除された上で複製されており、今のジョナスはNRCの元となった国への愛国心が植えつけられていた。それも民主主義であった頃の時代の時の状態を好むように施されていたが、300年以上生きてきたジョナスはやや達観した思考を持ち、時がくれば、そちらは再び元に戻ると考えていた。


 だからこそジョナスは、NRCがNRCらしくいられる間は、己の身を粉にして前線で活動を続けるつもりでいた一方、ネオとの決着にも執着していた。


 己がいなくともNRCはいつか元に戻るという達観した考えが、そんなやや矛盾する二面性を生み出していた。

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