光波レーザー通信と海軍の新型兵器、そして――
本日番外編「NRCの小型航空機開発史2」以降の追加あります。
試験飛行で見事にエルの機転によって敗北したネオは、夕食を振舞うこととなった。
エルは、ネオが卑怯な手を使うからだと言って自身の戦法を肯定したが、ネオはどうやってエンジン停止だけですぐさまセンサー捕捉を回避したのかエルに尋ねた。
「雲の中の気温は低いんですっ。 それぐらいネオさんだってわかるはず」
エルは、ネオの問いかけに対し、一旦雲の中に入って雲の中の冷気を用いてエンジンを冷却したことでセンサー捕捉を回避したのだと主張した。
雲に入って数秒程度捕捉可能だったのは冷却中の間の熱量にFCSが正常に働いていたことによるものだったのだ。
そこから気流を捉えて上昇したエルの腕は天才的で、ネオはかく乱され、最終的に撃墜されてしまったのである。
「熱だけで感知する方法、危険かもしれませんよ……」
エルは今日の試合結果から、ネオにもっと高度で正確性の高いFCSを要求したが、現状の自分の技術的知識だとそれが限界だとエルに訴え、タメ息を吐いた。
「元々、ミサイル関係なんて元来は門外漢に近いんだよ……FCSの件もHMDの件も、周囲の技術者に俺の話と基礎技術から具現化してもらっただけに過ぎない……レーダーが使えない現状では、そうだな……古代兵器でも見つけて解析するしかないな」
ネオの言葉にエルはピクッと一瞬反応したが、ネオはその様子に気づかなかった。
~~~~~~~~~~~~~~
試験飛行が終了した次の日から、ネオはPX-0の解析とFSX-0を用いた試験飛行を中心に活動した。
ネオがややGの強くかかる試験飛行を多く行い、実戦形式に近い評価試験も行いたがる様子から、周囲もネオが戦いの準備をしているのではないかと口々に噂しはじめるようになった。
一方で、ダヴィ達は何やら独自研究を開始していた。
ネオは当初それがガスタービンエンジンだと考えていたが、一週間後、彼らによってネオは機密格納庫に招待される。
~~~~~~~~~~~~~
ネオが格納庫に入ると、彼らはFX-0のコックピット部分を流用したと思われる空間に入って何かを行っていた。
「あーマイクテスト、マイクテスト、ラウル、聞こえるか?」
中からネオには声が聞こえなかったが、ダヴィがマイクを使って何か話している様子が見えた。
ネオの体に電撃が走る。
「うーっす」
ラウルは手を振ってダヴィに何か返答しているが、コックピットを流用した試験装置と見られる場所は完全防音になっておりネオには何も聞こえない。
だが、明らかに彼らは会話をしていることが外から見ただけのネオにも理解できた。
「ベルフット、ノイズは?」
ダヴィはベルフットに向けて顔を向ける。
「室長の声自体が元よりノイズ交じりなんでどうとも。 でも外で聞く肉声と変わらんですよ」
「つまり、聞こえてるんだな! おっしゃあ! ネオも来たし終了だ!」
そういうとダヴィはコックピットを開き、バッといっきに飛び降りた。
プシューという音と共に他の第七研究開発班も風防を開いて降りてくる。
「よう! PX-0の解析ばっかで引きこもってる間に面白いもん作ってみたんだ」
Yeah!という声でも聞こえてきそうなばかりにネオに合図を送りながら、ダヴィが口を開いた。
「通信システムか……」
ネオは先ほどの1分少々程度の状況を観察しただけでダヴィが何を作ったのか全てを理解した。
「おうよ、お前の敵味方識別システムの概要をみていたら、ちぃとばかり閃いちまったんだ。光レーザーの周波数を調整してデジタル信号にすりゃ、光学レーザーが届く範囲内とはいえ、音声データを送るだけの容量はあるんじゃねーかってさ」
「本当、天才だわお前ら」
ネオは通信システムに驚嘆し、ダヴィを手放しで褒め称える。
「そんな謙遜して褒めんなよ。基礎部分を構築したのはお前だろ?」
一方、ダヴィは自分はネオのアイディアを応用しただけだとそこまで己を誇らなかった。
彼が作ったのは敵味方識別システムの応用した、音声通信システム、つまり無線であった。
敵味方識別システムは、単純に未確認、敵、味方だけの3つの判定を下すだけではない。
敵1、敵2、味方1、味方2、といった具合で多種多様な判定を行えるように調整している。
これは将来的にAWACSに類似する光学式センサーの管制機を導入して戦況判断が行えるようにするためであったが、
第七研究開発班はこの技術に目を付けたのであった。
ネオは、味方ビーコンの信号などを送る際、特定の周波数を用い、どこの部隊かなどの簡易的なデータもデジタル信号で送信可能なようにしていた。
これは、音声を送るかのようなそこまで高度なものではなく、もっと単純なシステムを組んであったのだが、ダヴィ達はこれらを解析し、さらに高度で複雑なデジタル信号データを送信可能なように機材をアップデートしていたのだ。
「古代の戦争は情報戦だったと、そう言ったのはお前だろ。ちなみに事後報告で悪いが、すでにリヒター大将達にこの技術データは送らせてもらった。地平線の関係上、海軍じゃその利用は限定的だが、例えば水上機を飛ばして中継させる……とかそういう方法ある。俺よりも大将達のほうがそういった知恵はあるだろう」
「それは構わない。リヒター大将は知恵を膨らませる天才だと思うから……にしたって、これは本当に凄いぞ」
機材に小規模な改良を施しただけで、短距離とはいえど相互に通信が可能になったことで、今まで以上に戦闘時に負担が減ることを理解していたネオは通信システムの復活に感動していた。
「今設計中のAWACSを、大幅にパワーアップさせられるかもしれない」
「最近じゃ怪鳥とか言われてるFX-0が魔物と呼ばれるようになってくれりゃ、言う事無しだな」
ハッハーと笑いながらダヴィはポーズをとった。
ネオはすぐさまダヴィから基礎技術や技術資料を提供してもらうと、FX-0に組み込むための各部分の計算を行い、ダヴィ達と協力してFSX-0とFSX-0-T1に通信システムを装着させた。
双方の機体の試験結果は良好であり、サルヴァドール含めてこの新型の通信システムが搭載されることとなった。
特筆すべきは超音速においてもかなりの精度で音声通信が可能な点にあり、ネオはコンピューターの性能が下がった分を補うために音声や映像、こういったデジタルデータの圧縮技術がむしろ古代と比較して大きく進歩していた影響だと分析した。
このデータにより、FX-0の初期型の構成が決まり、既存機の改修、新型機の量産が開始される。
レシフェにおいて怪鳥が次々に産声をあげることとなる。
~~~~~~~~~~~~~~~
無線通信システムの完成の報告を受けたグラント将軍は、海軍の立場のダヴィ達を王国空軍の立場から表彰するのは失礼かどうかリヒター大将と相談したが、最終的にトーラス2世の耳にその事実が入り、コレまでのネオの陳情も踏まえ、ダヴィ達は何かと活躍が絶えない流体力学班と共に国王から直々に表彰されることとなった。
トーラス2世はネオにも表彰しようとしたものの、ネオは最終的な活躍を全て合算して栄誉をいただきたいと願い出たたため、そんなネオに関心して今回は見送りとなった。
ダヴィ達は恥ずかしいと最後まで勲章の授与を見送ろうかネオと相談したが、ルシアやエルから、もらえるものを貰っておかなければ、この後に続くであろう、他のレシフェ国民が貰いにくくなり、そちらに迷惑がかかると言われ、素直に受け取ることとした。
授賞式の当日、第七研究開発班はエルに厳しくマナーなどを仕込まれ、また服も普段のツナギのような技術者が纏うものではなく王国海軍の正装を着ることとなった。
身なりも専門のコーディネイターがつくことで非常にビシッとした品性ある格好となり、第七研究開発班の5人は緊張しっぱなしであったがトーラス2世により勲章を授与され、その栄誉をレシフェに刻み込んだのであった。
~~~~~~~~~~~
受賞式の数日後、ネオは久々に海軍工廠に招待される。
息抜きも兼ねて休日気分で行くことにしたネオだが、エルだけでなくルシアまでついてくる事となり、やや落ち込んでいた。
海軍工廠につくと――
「これは! ドローン!?」
海軍工廠の格納庫の中で、ブーーーンというハチが飛行するかのような音を響かせながらフワフワと黒い物体が浮いていた。
それは全長と全幅がそれぞれ3mか4mはあろうかという、有線式の大型ドローンであった。
プロペラが2つ上部についており、小型無人ヘリコプターと言い換えることも出来る。
「む? 古代ではそう呼ぶのか。これはな、元から広域偵察を行うために少々開発していたものだが、それにレーザー無線の中継器を取り付けたのだ。ダヴィ中尉が送ってきていたガスタービンの技術データを我々なりに解析して作ってみた。エンジンが新造できなければこのようなものは生まれなかったであろうな。 まぁ、モーター式も考えてはいたんだが……」
なんとそれを操縦していたのはリヒター大将であり、リモコンでドローンを上下左右に操縦している。
他の海軍将校達はそれを見守っていた。
「モーターだと何か問題が?」
ネオは首をかしげる。
有線式であれば別段電力の心配はないはずである。
「いや、そもそもこれらを生み出せなかったのはプロペラで飛ぶという考え方が我々になかったからであるよ。 例のモーターグライダーというものは王国空軍の最重要機密であったから、我々は知る由もない。それに、翼無くして空を自由に飛ぶというのも、ネオ殿の技術資料があって、初めて理解できたことであるしな。モーターで飛ばないのは、ガスタービンエンジンの技術を我が王国海軍で発展させたかったという意味合いが強いのと、やはり上昇出力と積載能力がまるで違うのが大きい」
リヒター大将はそういってドローンの高度を上げるとドローンの下部を指し示した。
「あんな大型の通信中継機器だと、モーターではまるで出力が足りぬのでな」
ネオ達が真下から覗き込むと、ドローンの下部には巡洋艦に搭載されるものと同規模の光学センサー類の機器が搭載されている。
これにより、通信距離はFX-0などとは比較にならないほど長大で、広域通信も可能であった。
ネオがAWACSで可能とさせようとしたものを、リヒター大将はやや大型のドローンで完成させていたのである。
また、これは弾着観測などにも用いられるようになっており、カメラなども搭載された非常に高性能なもので、水上機より遠くに飛ばすことはできないものの、有線は4000mほどの長さを誇るためその範囲内で飛んで相互通信やその他の観測を可能とするものであった。
ドローンはホバリング用の大型プロペラ2つを備えているが、姿勢制御は小型モーターによって稼動するファンやフィンで動くように出来ており、燃料を満タンにした状態で連続稼動時間は6時間ほどと燃費もかなり良いものであった。
リヒター大将いわく、燃料ポンプを備えて常に燃料を送り込んで稼働時間を大幅に伸ばすことも考えられたが、それだと操作などを行う有線の長さが大幅に短くなり、活動範囲が大幅に縮小してしまうため、あえて細く絡まりにくくしている有線1本だけで稼動するようにしていた。
線が切断すると搭載される艦船に自動的に飛行して戻ってくるよう調節されているが、これは巡航ミサイルなどの誘導システムを応用している。
リヒター大将の発想力の高さ、そしてそれを実用化にまですぐに漕ぎ着けてしまう能力にネオは関心し、自分がレシフェで出来ることは少なくなってきているなと感じ始めるのであった。
「まだ、大型艦船に搭載できるまでの規模のガスタービンエンジンは作れておらんが、できればサン・パウロやミナス・ジェライスといった大型艦船はガスタービン化したいものだな」
リヒター大将は、この状態でもなお野望を滾らせ、次なる目標を作っていた。
「ネオ殿。それで今日きてもらったのは、君がドローンというものを見てもらうためではない。実はな、海軍用の戦闘機を作ってもらいたいのだ!」
リヒター大将はドローンを指定地に見事に着地させると、ネオの方を向いて呟いた。
「FX-0ではダメなのですか?」
ネオはリヒター大将の真意が読み取れず、反論に近い形で反応する。
「いや、FX-0は見事。だが、FX-0の運用は我々王国海軍の予算では非常に少数となってしまう。グラントとも相談したが、我々は我々独自のパイロットを確保し、今後、空母サン・パウロにおいては海軍のパイロット達のみで運用を行いたい。言っておくが王国空軍と仲が悪いわけではないぞ。レシフェ王国における各軍は独立性をある程度確保せねばならんのと、私に指揮権がない状態での現状でのサン・パウロを用いた作戦活動は迅速性といったものに欠けるのでな」
リヒターが言いたいことをネオは理解した。
これまでの侵攻で作戦指揮権がなかったことで、リヒターは何度もヒヤリとした経験をしていたのである。
そして王国海軍は予算不足だが、今後を見据えてそれなりの数のジェット戦闘機は欲しかったのである。
しかし、現状の2020年代の日本円換算で30億円~40億円というFX-0は王国海軍においてはあまりにも高額すぎた。
運用が不可能ではないが、精々8機程度しか保有出来ないとリヒターはネオに主張した。
ネオに対してリヒターが口頭で求めた戦闘機は下記のものだった。
1.レシプロやターボプロップではなく、ターボファンエンジンを出来れば使いたい
2.超音速航行もできるだけ可能であってほしい
3.サンパウロでの着艦が可能
4.とにかくコストを下げつつ、誘導兵器なども搭載したFX-0並の存在が欲しい
5.海軍工廠でも作れるシンプルで頑強で整備しやすい機体
現状のFX-0でも実はかなり安価なのだが、王国海軍は艦艇や巡航ミサイル、地対空ミサイルなどにかなりの規模の予算を使っており、厳しいのだった。
かといってこれらを削減して予算を確保するわけにはいかず、ネオにFX-0よりも海軍向きな存在を求めたのである。
ネオはその話を聞くと「やりましょう!」といってリヒターと約束を交わした。
ネオとしても、もっと同盟国でも開発しやすい安価でコストパフォーマンスに優れる戦闘機を作れないか気にしていたためであった。
ゼロが生まれたすぐ後、ネオによる、ゼロとは違う、新たな航空機の開発が始まった――




