鳥目
幼鳥が空を飛べる状態となったことで、ネオは次なる作業へとうつった。
かねてより実現化しようとしている空対空ミサイルである。
先の戦闘で、空対空ミサイルはまだロクに試験もしない状態で使われて戦果を出したが、それも結局は敵しかいない状況という海軍の運用方法と同じ強引なものであった。
敵と味方が識別できない状況でのフレンドリーファイアほど恐ろしいものはない。
ベトナム戦争ではレーダー機器の能力不足で、敵味方識別装置、通称IFFが存在する時代なのにも関わらず誤射が多発した。
現行の空対空ミサイルとしては非常に有名なサイドワインダーですら、現在においてもIFFによる識別が上手くいかない場合は敵と味方を簡単に誤射してしまうぐらい敵と味方の識別は難しい。
電磁波式のレーダーによる識別が不可能なアースフィアにおいて、これは非常に難しい問題であった。
誘導兵器を用いない場合はエンブレムや塗装での判別が必要となるが、そうなると迷彩を用いることが難しく、視認性に大きな障害が発生する。
ネオはサルヴァドールやベレン、そしてFX-0にはスプリッター迷彩を採用しつつも周囲を黄色のレシフェ王国の国旗と同じ色のマーカーを塗装して敵味方の判別を有視界内で行えるようにしていたが、有視界外ギリギリともなると迷彩にまぎれて視認性が大きく低下してしまうことがパイロット達から指摘されていた。
無論、これは戦闘においては優位に働くものなのでパイロット達も特に問題視はしなかったものの、それ補う何かをネオに期待を寄せる意味合いも込めて要望していた。
それに合わせ、ネオはルクレールにおいて実験しようとしていた。
赤外線吸収塗料である。
赤外線吸収塗料というのは、アースフィア内でも廃れていなかった。
赤外線吸収塗料が有効利用されているといえば、例えばクレジットカード。
磁気による読み取りからICチップ形式になった以降もこういったものはカードに施されて読み取り時に偽造か正規かの判定に利用されている。
紙幣における透かしのようなものだが、なまじICチップは複製が容易で中身のデータ次第なだけに、こういったものがフェイルセーフとして用いられているわけだ。
こういうものは赤外線に対して様々な色を返して反射してくるため、その読み取りを行える光学センサーも搭載して、色で敵と味方を判断しようと試みたのである。
しかし、ルクレールがロストした後にFSX-0にも同様の塗料を試験的に施したアサルトパックを搭載させて実験してみたが、高速で動き回る状況だと空気の壁が干渉して正常に色の読み取りが出来なくなっていた。
空が青いのが光の散乱によるものであるように、大気中には様々な光の反射が生ずる。
超高速で機体が大気の壁のようなものを纏う超音速戦闘機においては低速時こそ識別できても高速時には識別できなかった。
ネオは、色による識別は不可能と判断し、次なる知恵を絞ったが大きな壁によって挫折しつつあった。
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「敵と味方の識別か……電波の類に頼ることが出来ねえアースフィアじゃ現在位置すらロクに把握できねえからな。俺からすると誘導弾をこの状況下で実現化できたことの方がすげえよ」
毎日資料室に詰め掛けてはアレやこれやと思考錯誤を繰り返し、ついに力尽きかけようとしているネオに対し、ダヴィは慰めるかのように語りかける。
「例えば、より温度に対しての感度を上げたりするだろ。例えばFX-0のエンジン排気温度は無視するように設定みたいな……そうすると大気の状態によっては敵を敵として判別できなくなってしまう」
「光に頼るしかない以上、大気という存在は大きな干渉材料になるわけか」
「そうだ」
ネオは寝不足の状態で目をこすりながら、コーヒーを口にした。
「海軍に導入させた誘導方法は赤外線探知、赤外線アクティブ誘導、IRH誘導、レーザービームライディングの併用だ。広域を熱源探知する赤外線センサーと、狭い範囲を高精度に探知するセンサー、そしてレーザービームによる誘導専用のセンサーが巡洋艦側に、一方でミサイル自体はIRH誘導、つまりはミサイル自体に赤外線を用いて誘導する機能を持たせている」
「お前がいう、複合誘導システムってやつだろ?」
ダヴィはネオの空になったカップに新しくコーヒーを注いだ。
ネオは手でありがとうの意思表示をする。
「IRHは基本的に大気の干渉の影響で射程が短くなるが、巡洋艦に搭載される高精度なシステムによって補正誘導させるから、大幅に命中率を上げることができたわけで……今回の戦闘での小型機含めた命中率は89.92%と殆どミスがない代物。だが、高精度なシステムを重量を増加させられないゼロには載せられない」
ネオはため息を吐く。
重量や大きさという概念さえなければ巡洋艦並みに高精度なものを搭載は可能であった。
そもそも、コンピューター関係の性能が1990年代程度に落ちたとはいえ、ネオが作ったIRH含めた誘導システムは光波工学を利用したより先進的なものであり、2020年代のミサイルと比較しても遜色がない命中率を誇る。
FX-0は真後ろのエンジンの排気熱だけでなく正面のインテーク付近などから発する熱源すらも探知することが可能なセンサーもちゃんと搭載されていた。
つまるところ、誘導システムには一切の問題がなかった。
「ビーム照射させちゃだめなのか?」
「なんだって?」
ダヴィの突然の呟きにネオはダヴィが何を言いたいのか理解出来ない。
「いや、だからよ……アサルトパックはまだ全然構造的にいろいろ仕込む余裕があるだろ? 360度にビームを照射しつつもそれを受信させるようにしちゃいけないのかって思ったんだよ……別に可視光でなく不可視なもん照射しちまっても、コックピット周辺に赤外線吸収素材とか入れちまえばパイロットの目が失明するってことは無いはずだが」
「アリかもしれない……パイロットが見ている方向にも一部のセンサーを連動させて……コックピット付近に受信システムとか作れば……いけるか?……それだ! レーザービームを照射しちまおう! 急いで兵器開発班に連絡だ。赤外線関係の技術者を呼ぶぞ! お前は本当に天才かもな!」
ダヴィの助言によって何かを思い立ったネオは大慌てで机から立ち上がり、フラフラの状態で機密格納庫から飛び出していった。
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数日後、機密格納庫には兵器開発班と共にFX-0の設計変更も含めて様々なやりとりが交わされたが、詳細に計画をもっと煮詰めてからでないと設計変更は危険であるということで技術者の意見は一致した。
ネオは、急いで開発を行うと同時にさらに何か知恵を絞れないかと、PX-0のある場所……もう1つのゼロのいる場所へと向かった。




