成長するゼロと、南リコン大陸の変化。
「P-15?」
ルクレールの状況を検証した後、回収された新型小型機の残骸が置かれている場所へ向かったネオは、調査を行っている流体力学班などからなる調査チームから、新型戦闘機の名前について教えられた。
「ええ。全ての機体にそう書いてあります。NRCでは迎撃機という名目の戦闘機ですね……超大型機への搭載が考慮された設計ではないようですが……」
調査チームはエルの撮影した写真や実機の残骸から、機体の大きさが超大型機に搭載するには大きすぎるのだと主張した。
ネオからすると中型の戦闘機の部類に入る存在だが、これだと超大型機への積載は不可能なのだという。
「武装はNRC製の対空機銃を強引に装着しており……射撃精度は微妙です。光学照準などの類もありません。計器はアナログだらけでフライワイバイヤーの搭載も無い」
「コストカットのためか、急造仕様か、多分、そこに転がってるエンジンの残骸からして後者だろうな」
ネオはエンジンに目を向けると、エンジンが新造不能の非常に貴重なソレであることを確認しながら呟いた。
「エンジン出力的にはM3.0も不可能ではありませんが、機体構造的にはM2.0ぐらいが限界でしょうね」
ネオは、カタログスペックをある程度把握すると、調査チームのいるガレージを後にした。
ガレージを後にしたネオは、一度個室に戻って着替えてからFSX-0が整備などされている機密格納庫へと向かった。
そこでは現在、完成したばかりのFX-0の心臓部がテストされている。
すでにFSX-0-T1とFSX-0への換装作業が開始されているが、一方でエンジンテストは継続され続けていたのだ。
MX-0というコードナンバーが付けられたこれは、アフターバーナー稼動時に最大212knの推力を発生させつつも、低空飛行時の反応性も極めて良好となるだけの能力を持ち合わせており、FX-0を一段上の段階に引き上げるだけの能力を持ち合わせていた。
さらに、現状のFX-0には加速性の悪さのせいでストールを引き起こして搭載不能であった三次元式ベクタードノズルも合わせて搭載される。
FSX-0とT1はこれらが換装されて試験が行われる予定であるが、試験の状況が良好ならば既存のFX-0に順次換装されていく予定である。
FX-0についてはエンジン換装型を当初FX-0-A1と呼称変更することも軍上層部によって考えられたが、ネオが「この状況が最初の状態」として却下した。
A1という名称を追加する場合は、ここにさらに何かを追加した状態にすべきだという意見に、他の技術者たちも賛同した。
FX-0については、現状だと首都の航空工廠と首都に次ぐ技術力と製造能力がある西にある航空工廠にて量産される予定であるが、1週間のうちに完成するのは最大で10機が限度であり、ネオが必要であると試算した配備数の250機までは約1年ほどを要することがわかっている。
FX-0のコストについては、1機あたりベレンの6倍、サルヴァドールの4倍であるが、既存の機器の流用などを今回も行った影響で、コスト自体はそれなりに引き下げることには成功している。
サルヴァドールは王国空軍の大型機の120分の1の価格であることを考えれば、FX-0は30機で大型機1機分であり、そこまでレシフェの財政や軍事予算を圧迫するほどではなかった。
これについてネオは、「ステルス性」などの古代に考慮された存在が現状では全く不要であるという点から達成できるのだと考えており、ロストテクノロジーが多々存在する一方で、金属加工技術などは失わなかったことも合わせてそこまで高いコストにはならなかったのであろうと推測した。
FX-0は古代に存在した日本の国の2020年頃の貨幣価値に換算すると、1機につき約25億円である。
今後は近代化が図られるため恐らく1機あたりのコストは増大すると予測されるが、それでも45億程度と思われる。これはF-16Cやグリペンなどと同額であるが、機体性能的には大きく凌駕するものだと言える。
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「なんだあれはっ!?」
「空中で航空機が制止しているぞっ!」
数日後、同盟国の航空技術者達は、 公開されたFSX-0の飛行試験を見て驚愕した様子であった。
FSX-0は機首を真上に向けたような状態でありながら、ストールする事無く機体を制止させてホバリングするかのような状態となっている。
「あいつ、また試験項目に無いようなことを勝手に……」
その状況をただ一人ムスッとした顔で見ていたネオが呟いた。
試験パイロットは、これまで通りテストパイロットのエルである。
彼女は前日に空中機動の試験を行っており、本日はトーラス2世や同盟国の技術者達なども交えた公開飛行試験であったが、エルはFSX-0の性能に感動し、むちゃくちゃなことをやっていた。
ネオはこうなることにある程度予想が出来ていた。
前日のエルの目の輝きが尋常ではなかったからである。
――「ネオさんっ! これがゼロなんですか!? これが、新造したエンジンで作ったモノなんですか!?」――
――「こんな大きくなったのにギークより素直に動きます! これなら何だってできますよ!」――
そんな感じで興奮していたエルから、ネオは嫌な予感がしていたが、的中したのだった。
テストパイロットが公開試験飛行でこういったことを勝手にするのは珍しくない。
有名どころではボーイング707のバレルロールである。
バレルロールは戦闘機では容易であったため、エルが行ったのは、フックからのホバリングもどきという、極めて危険な行為であったが、FX-0の性能を内外に示すには十分なインパクトを与えたのであった。
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「いあいです……やめてくださ~いっ」
試験飛行が終わった後のエルを摘み出すと、ネオはエルの頬を引っ張った。
「だ、れ、が、あんな危険な行動をしろと言った!」
「らって出来るじゃないですかぁ……ギークとは違ってできるじゃないですか……」
エルは前回と異なり、最初からFSX-0がそれが出来る存在であるから前回の無断飛行とは違うと主張した。
ネオから性能を十分聞かされた上の行動なのだから、問題ないだろうという態度を示す。
ネオは頬を引っ張りすぎて伸びたりするとアレなのでやや優しく引っ張っていたものの、やはり嫌悪感を感じて手を離した。
「他国や陛下に性能を見せ付けるなら、アレが最適でしょっ。今回は謝りませんからね!」
引っ張られた部分がやや赤くなっているエルは、いつものようにハムスターのようになってネオに反抗している。
「いいぜ? 別に。明日からのテストパイロットは他の人間になるだけだから」
「すみませんでした! 私のせいでFSX-0を危険に晒しましたっ! 許してください!」
ネオの必殺の一手に、当初こそ強気でいたエルはすぐさま態度を一変させ、ペコッと頭を下げる。
「確かに、ギークとかいう、解体したいのに未だに分解すらさせてくれない失敗作で出来の悪い子よりもFSX-0は優等生だ。それに、今のお前はE-M理論などをきちんと覚えているからああいったことが出来たとも言える……だがな、エンジンが1機でも停止したら復帰不能な行動はよせ。命を削る」
頭を下げるエルに対し、ネオは頭を撫でながら、自分に語りかけるように言った。
「……それ、ネオさんにも言えることでしょっ」
「そうだ。ルクレールで俺もやらかした。俺が生きてるのは敵の馬鹿が情けをかけやがったからだ」
ネオの言葉に、エルは敵がネオの知り合いであった可能性があるのを悟ったが、あえて黙っていた。
「明日は高速飛行試験がある。パイロットは変更したくない。俺の言う事は――」
「聞きます! 聞きます! 私が乗ります!」
エルはムクッと頭を上げると、ネオに近づいて自分がテストパイロットであり続けたいと訴えんばかりに顔を近づけ、ネオの要求を呑んだ。
いいようにあしらわれているなと思うネオであったが、なるべくFSX-0は自分かエル以外乗せたくなかったため、この場はそれで納めることとした。
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その日の夕方、見慣れないフォーンという優雅な音を響かせたものが近づいてくるのを感じたのでネオが急いでガレージの外に出ると、どこかで見たような姿の航空機が着陸している姿があった。
「フォルクローレの1号機が完成した。本当はもっと早くそなたに伝えるべきだったが、そなたは病室で意識を失っていたのでな」
その後ろをかけつけてきたルシアがネオに言葉を発する。
その顔は自信に満ちており、同盟国において一番速く新造エンジン型戦闘機を完成させたことを誇っていた。
「設計時にあまり気にしなかったが、意外といい音がするもんだ。キャビテーションなどを応用して高速を発揮させうる二重反転式スクリュー型プロペラは、期せずして騒音抑制効果も生んだかな?」
フォルクローレがベレンやサルヴァドールと比較して低音でありながら優雅な音を奏でて飛んできたことで、ネオは自分が設計したにも関わらずそのプロペラの偶発的な効果にやや驚きを見せていた。
フォルクローレの全体の様子を見る限り、極一部に照明を追加したなどの設計変更などは見られるものの、ほぼ完全にネオの設計時の状態を再現できており、きちんと作ったことにネオは安心した。
ただ、優雅に飛ぶのはいいが、離着陸はベレンやサルヴァドール、そしてゼロと比較すると難易度が高そうだなと改めて思うのだった。
降着装置にあるプロペラは、機首の角度によっては滑走路と接触しかねない。
離着陸の際、かなりの注意が必要でパイロットの労力が増大してしまう。
FX-0も後部にノズルがあるとはいえ、プロペラほど干渉する可能性は高く無く、比較的安全に離着陸できる。
「明日の高速試験飛行、フォルクローレも参加する予定だ。コルドバには、あそこまで高速で飛行するものを計測関係の機器がないのでな。こちらで同時にフォルクローレも試す」
ルシアは、明日の飛行試験にフォルクローレも参加することをネオに伝えると、そのままその場を去っていった。
ネオはフォルクローレの姿を見ながら、案外様になっているなと自己陶酔した――




