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飛べばいいってわけじゃなかった

 第一回「レシフェ国の存続に関わる防衛戦略会議」が終了して数時間後、航空工廠内では工廠の技術者とネオによる激論が交わされた。

 ネオが2時間で書き上げた概略図面に、航空工廠の者たちは否定的見解を示したのだ。


 ネオが作ろうとしたもの、それは翼以外の胴体は鋼管パイプで組み上げられた、まさに飛ぶだけでいいという代物であった。


 翼は矩形翼で、翼の下にエンジンと人が搭乗する部分を吊り下げる、文字通りエンジンを背負って飛ぶだけの翼といっていいような代物だ。


 ネオはコレを「超軽量動力評価試験機」と呼称した

 

 これなら調整を含めて1日で完成できうるため、後は残りの1日を試験飛行と最終調整に費やせば十分であり、2日というネオの発言に見合った存在である。


 動力部はむき出しの配置なので、重心配置も簡単に調整可能なネオにとっては最優なものであった。


 だが航空工廠のメンバーたちは「最低限、兵器として使うる形状を保っていなければ陛下は納得しない」として否定的であった。



 彼らは簡易的なイラストのようなものネオに提示した。

 それは、ネオからすれば航空力学的に大したことがないものであったが、金属や炭素繊維などを用いてきちんとした外観を保ったものであった。


 搭乗席のある胴体の後部にエンジンを装着。

 翼は後退角がついていたものの、後退翼といえるかどうかは定かではなく、

 双胴推進式と呼ばれる、レシフェ王国空軍ご用達の戦闘機を、プロペラ推進式にしたものである。


 航空工廠の者たち曰く、元来であればエンジンは2つの胴体の後部にそれぞれ位置するらしい。


 ネオは「なんだそりゃJ21か!」などと一蹴したが、航空工廠の者たちはネオが発する「J21」や「SAAB」という謎のコードナンバーを理解することが出来なかった。


 2時間にも及ぶ激論を見かねたのか、最終的にグラント将軍が仲裁に入り、胴体部分はきちんと作り上げるが、胴体構造についてはネオが考えたものを採用するという方向性となった。


 これによって、ネオは再び概略図面を作り直すこととなってしまった。


 会議が終了してから約10時間後、再びネオが概略図面を持ち出し航空工廠のメンバーに提示した。


 それは、鋼管パイプフレームに薄い金属板を貼り付けたもので、尾翼のみ既存のレシフェの航空機をそのまま流用したカーボン素材で形成されたものとした、シンプルなテーパー翼を採用した単翼機であった。


 あまりにもシンプルすぎる外観に、航空工廠の者たちは動揺を隠せなかった。

 この世界の航空機は、どれもこれもやぼったい胴体であったり、双胴式であったりが当たり前であったので、


 1本の細長い胴体の前方にエンジンとプロペラがあり、その後方に操縦席、さらにその後ろに尾翼という構図は珍しかった。


 また、タイムリミットの問題もあり、着陸脚も引き込み式ではなく固定式だった。


「垂直尾翼1本で安定性は大丈夫なんですか?」


 航空工廠の者の中の一人がネオに質問を投げかける。

 それに対しネオは――


「本来ならちゃんと作れば余裕なんだが、今回ばかりはわからんね。だが問題無い」


 として、安定性がやや不安定になるかもしれないことは認めつつも、飛行に支障が出るほどではないという見解を示した。


 胴体の各部分における空力特性にも、きちんと根拠をもって説明したため、航空工廠の者たちは、ネオがどこからその知識を得たのかとても興味をもった。


 たった数時間で設計図を作ったその航空機は、シンプルながらきちんとした空力計算がなされたものであり、

 上手くいけばかなりの運動性を示すとネオは主張した。



 エンジンについては、当初ネオがレシフェに訪れる前に、評価試験目的で作った直4の4.0Lの180馬力のレシプロエンジンを用いる予定であったが、胴体が思った以上に重くなるため、急遽ネオが趣味で作った水平対向6気筒の9.0Lの350馬力のものを用いることとした。


 双方共に、この世界の町工場でも作れるであろうと、ネオがどこかの場所でコソコソと作ったものであるが、


 一からネオが開発した直列型エンジンと異なり、この水平対向エンジンは、ネオが自分自身で楽しむための航空機用として、

 彼が知り尽くしている、とあるエンジンをほぼ完全にコピーしたものである。


 特段説明する必要性も無いため、航空工廠の者たちには伝えなかったが、 

 航空工廠の者たちは、ネオが航空工廠に持ち込んできたソレを見て、

 直4よりも水平対向6のエンジンのほうが、「趣味」という割にはやけに完成度が高いことに気づいていた。


 玉座の間にネオが持ち込んだのは、周囲に警戒されぬよう単気筒の簡素なものであったが、

 レシフェを訪れる前の段階で、ネオはすでにいくつかのエンジンを試作した上でレシフェにまで持ち込んでいたのだった。



 しかし、この航空機について、ネオは大きな不安があった。

 この世界にはインタークーラーの技術が消失していたのだ。


 それもそのはず。

 この世界の航空機エンジンは、ジェットでもレシプロでもない謎のロケットエンジンのようなものだった。


 一方で陸では鉄道も自動車も全て「モーター」が使われ、冷却にインタークーラーを必要としていなかったのだった。


 ネオの持つ知識では、鉄道でも昔はインタークーラーが必要であったが、技術の進歩と共にインバーター冷却なども、自然風を利用したものへと変わっていったことを彼も理解していた。

 この自然風、つまり空冷式の台頭によってインタークーラーは滅びでしまったのである。


 これではロストテクノロジー化するのは当然の摂理であったが、これが無いということは冷却面で大きな問題を抱える。


 元々水平対向6のエンジンは空冷用として開発されたものではあったものの、


 現状の技術知識への理解不足から、

 そのまま空冷で問題が無いような胴体が作れるかは未知数である。

 

 インタークーラーなどのような冷却装置を搭載しておきたかったのだが、トーラス2世へのお披露目の日はすでに決まっているため、そのような装置を新造して組み込むにはあまりにも時間がなかった。


 ネオはこのまま事が進んでも、オーバーヒートの問題は解消できないと困り果てた。

 そこでグラント将軍にその件について問うと、将軍はネオに向かってこう主張した。



「オーバーヒートする前に着陸してしまえば良いのではないか?」―と



 日数を先延ばしにしてもらおうという腹づもりの相談に対し、グラント将軍が考えた打開策は、短時間飛行であった。

 

 トーラス2世が求めるのはプロペラ機で飛べることなのだから、

 離陸、上昇、着陸の航空機に必要な三大要件さえ満たせば十分であり、飛行時間はそこに含まれないというのが将軍の考えである。


 ネオが驚いたのは、置物といわれるグラント将軍が、王国空軍の長として十分な知識と発想をもっていたことであったが、

 将軍のその提案に乗り、当日の試験飛行のお披露目についての内容調整を任せることとした。



 概略図面が完成後、時間がないので詳細な図面の作りおこしはせず、概略図面を基に工作しながら調整を続けることとした。


 航空工廠の者たちは、風洞実験は不要なのかとネオに問いかけたが、

 カタログ上、十分な数値が出せているので今回だけは不要と、モックアップすら作らず実機を飛ばす方向性であることを告げた。


「最初のプランだったら、翼の気流試験ぐらいはしたかもな!」――とネオはやや怒り気味に反論した。



 翌日、正午を前に航空工廠の者たちとネオの終夜に及ぶ努力によって何とか最低限の形まで形成することが出来た。


 操作系や計器などは既存のものを流用し、最低限のものしか搭載できなかったが、とりあえず「飛べうる」状況まで作りこむことが出来た。


 これによって無人飛行による短距離離陸試験をネオは提案するものの、航空工廠の者たちはポカンとした表情をとる。


「いや、だから無線とか何か、そういうもので飛ばすんだよ」


「ネオ殿。無線とは一体……?」


「うそ…だろ……」


 ネオは愕然とした。

 この世界からは、エンジンだけではなく無線という存在が消滅していたのだ。


 ネオが航空工廠の中に転がるガラクタから急いで簡易ラジオ無線を作ると、交信不可能であった。

 電波が飛ばせないのだ。


 この世界では、もっぱら有線式の通信方法ばかり存在しているなと感じてはいたものの、ネオにとっては最悪の事態であった。


 短距離離陸試験ですら、有人飛行でなければならないのである。


 本来であれば危険すぎるため、プライドが許さなかったが、時間が無いので有人によるテストとなった。


 グラント将軍にとりあえず形になったので離陸ができるのかどうか調べたいとして、テストパイロットを所望した。



~~~~~~~~


 グラント将軍は昼食の時間が過ぎた頃に、航空工廠のガレージに現れた。

 ガレージでは、流体力学部門のチームに急造してもらった総金属製の固定ピッチプロペラが装着された試験機が既に準備完了していた。


 グラント将軍はその姿に「見事……だ」とボソッと一言呟いた


 グラント将軍が来る1時間程度の間に、プロペラの稼動試験は終了。

 後は、短距離でこれが離陸できるうものかのかどうか試すだけであった。


 ネオはグラント将軍の方を見ると、グラント将軍の後ろには非常に小柄の金髪の少女がいた。

 ネオの頭に不安がよぎる。


「(まさか、この子がパイロットだとか言うんじゃないだろうな)」


 その不安は見事に適中する。

 グラント将軍は、ネオに彼女をテストパイロットであると紹介してきたのだった。


「貴方がネオさん? 私が試験パイロットのエル・F・ミューイと申します。よろしくっ」


 ニコニコと、笑顔で左手を差し出すフワッとしたミディアムのボブカットのその子の姿に、寝不足で乾いた笑顔で応えながら握手をしたが、あえてネオは右手を挿し出し右手での握手を求めた。

 

 ネオの右手は不安からくる汗でびっしょりと濡れていたが、エルはその手に左手を沿え敬意を示した。


「そういうことをやっちゃダメですよっ。ちゃんと飛ばしますから」


 沈黙を続けるネオを前に、彼女は終始笑顔を崩さなかった。

 一方でネオは、その子の表情や動作に妙に気品があることに感づいていた。

 この子は年齢こそ若いが、明らかにカタギの者ではないな――と。

次回はヒロインの描写が多めになるかもしれません。

エルはメインヒロインです。

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