第二次制空戦闘1
ちょっと展開が続くかもしれないので前編より1という数字に変更しました。(2017/06/16/11:08)
翌日早朝、ネオはエルやルシアが寝ている間に個室を後にした。
作戦開始時間前にルクレールの状況を確認する意味合いと、一人になりたかったという理由による。
ルクレールの整備はすでに手馴れたもので、整備班はしばらく稼動がなかったルクレールを完全に整備していた。
周囲を歩いてそれをチェックしたネオは、埃1つないルクレールに感嘆とした。
航空工廠ガレージ内では整備班があれやこれやと終夜をわたって活動しており、ガレージ内も電灯が灯っている。
外にはすでにFX-0が出撃準備を完了しており、エンジンが稼動したまま放置されている。
FX-0は現状のエンジンだとコンプレッサーによる始動が必要となるため、出撃準備の20分前までにはエンジン稼動を済ませておかなくてはならない。
ジェットエンジンというのは圧力を加えた空気の風流を用いて推力を発生させるものであるが、ターボファンエンジンと異なり、ターボジェットエンジンは圧縮するための空気を吸い込む力が弱く、エンジンスタートにこういったものが基本的には必要となる。
一度エンジンさえ稼動させてしまえば熱力学的要素によって稼動を維持することが可能だが、稼動をさせる前の状況では手助けが必要となるのだ。
一般的にはスターターと呼ばれる送風機のようなもので風を送り込んで、飛行中と同じ状態にしてしまうのである。
そこから圧縮機にて空気を圧縮しつつ燃料を噴射して点火すればエンジンが作動し、後は気圧と温度差によって地球上で風が吹くのと同じ原理で高速でインテークより空気が吸い込まれ、エンジンは稼動を継続したまま待機できるのだ。
ターボファンエンジンやターボプロップエンジンはプロペラやファンによって空気が送り込まれるのでモーターなどでファンを回転させるだけで良い。
前者をエアスタート、後者をエレクトリックスタートと呼ぶが、実はエレクトリックスタートが可能な航空機でも基本的には両方のシステムで稼動できるようにしている。
これは、いざ飛行中に電気系統が故障して、さらにエンジンが停止した場合でも自動車でいう「押しがけ」と同じ原理で再始動可能なのがエアスタートであり、フェイルセーフを重要視しなければならない航空機では、安全係数を高めるために前者のみということはあっても後者のみというパターンは少ないのである。
こういったターボジェットエンジンの戦闘機というのは、古代でもスターターで稼動させていたが、燃料を送り込むポンプと空気を送り込むポンプ2つを用いてエンジンを稼動状態にしながら待機させておく。
この作業に練度が高い部隊ですら10分以上かかるため20分前にはエンジン始動作業開始となるのである。(事前準備を含めると40分近く前から作業に入る)
つまりエンジン稼動をしたままにするというのは、冬の自動車における暖機が目的ではなく、単純にこの状態にしておかないとエンジン始動までに時間がかかり、エンジンの状況によっては出撃が遅れてしまうためである。
今回の作戦では「ひな鳥」の状態であるFX-0は一旦北部の基地にて待機した後、第二陣という形での出撃となっている。
現状では新型戦闘機がいつ出現するかわからない以上、必要以上にFX-0を晒したくないというのが王国空軍やトーラス2世、そしてネオ達の一致する見解であり、なるべくなら温存しておきたい戦力でもあるためであった。
FSX-0とFSX-0-T1は共に首都防衛を目的に待機に入る。
よって出撃するのは今エンジンを始動したまま大気中の16機のひな鳥たちである。
元来は15機を予定していたが、胴体開発班やエンジン開発班などの努力によって、土壇場で1機追加される形で間に合った。
このひな鳥達の武装は高速射型20mm波動連弾を2門のみ装備された状態である。
また、サルヴァドールなどが装備するのと同様の光学照準機が搭載されている。
ネオはHUDを開発して搭載したかったのだが、光学センサーなど、FCSの開発に手惑い、今回の搭載は見送りとなってしまった。
一方で計器類はサルヴァドールなどが搭載するアナログ類は排除され、全て近代化されたものとなっている。
ベレンやサルヴァドールがアナログ類になったのは、コストの問題とソフトウェアの調整などの時間がなかったためであるが、それらに対しては十分な時間的余裕があったFX-0はチグハグな状態ではあるがHUD以外は第4.5世代制空戦闘機と同等のものを持っている。
この計器類について、実はネオは若干不満があった。
当初は1枚の表示機器を用いた先進的すぎるものを要求したのだが、コンピューターの性能が劣化した現在のアースフィアだと処理速度に問題が発生したのだ。
そのため、小型ディスプレイを複数用いるタイプとなってしまい、ネオからするとやや古臭いものとなった。
ネオから言わせると「F-22のコックピットに光学照準搭載とかいう気持ち悪さ」があったが、これも現段階ではどうすることも出来ないため諦めることとした。
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夜明け前、FX-0のパイロット達はブリーフィングを終了して集まると、ネオに挨拶を交わして続々と北部の基地へ移動していった。
今回は空中給油機があるため、ネオの出撃は一番最後となり北部の基地での待機は行わない。
北部基地は現在100機以上のサルヴァドールが待機中であるが、離着陸のキャパシティの確保からネオが同行する部隊は首都から飛行し、空中給油を行った上で作戦地域に直接乗り込むこととなっていた。
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出撃の時間がきた。
「ネオさん! NRCの大編隊はこの間より遅く来るらしいです! 海軍ががんばって処理している間、空軍は状況を見定めて攻勢にでますが、くれぐれもネオさんは最前線には出られませんようっ!」
オペレーターも担当する整備兵の言葉に、ネオは無言でサインを送り、この間と同じく部隊の一番最後に続いた。
ネオの目的は敵新型機の確認と強行偵察である。
ルクレールには事前にカメラなど偵察に要する光学機器が多数搭載されていた。
エルは最後まで出撃に反対し、ルシアは最後までFSX-0へのネオの搭乗を希望したが、ネオはルクレールへの拘りが強く、また、いざという時の首都防衛用ジェット戦闘機がFSX-0-T1だけになってしまうのを危惧し、あえて今回もルクレールに命を預けた。
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数時間後、ネオは初めての空中給油を成功させ、部隊に続く形で主戦場付近まできた。
まだサルヴァドール部隊などによる攻撃は行われていないが、最前線に展開する巡洋艦などはそろそろ敵を捉え始めた頃合ではある。
「何ィ!? 高度1万1000m以上にいる!?」
ネオは機内で驚きの声を挙げた。
海上にいる王国海軍からの連絡によってNRCの状況が判明したが、彼らが早々に対策を打って出たことに驚きを隠せない。
「何でだ……どうしてプロペラ機の弱点が把握されてる……1万1000mだと短距離型の地対空ミサイルも満足に使えない……」
かねてより嫌な予感がしていたネオは、NRCがレシプロ機の弱点に気づいたのかと思い、焦り始める。
サルヴァドールは1万3000mぐらいまでは何とか飛行できるが、精々1万2000mぐらいが限界である。
しかも1万2000mともなると何とか上昇して攻撃を加えてまた落下するような形になってしまう。
NRCに空戦理論のようなものがあるとは思えないが、この対策をとられると既存のレシフェの航空機の戦闘能力は激減してしまう。
「変に攻撃を加えない方が怪しまれるが、高度限界がバレるまでタイムラグが起きてくれるか?……いや、限界を晒した方が慢心して地対空ミサイルや巡航ミサイルなども考慮せずに突っ込んでくれるか?……この場所ともなると俺がどうにか出来る状況じゃないが、どうかE-M理論の基本だけは忘れないでくれ……」
ネオは機内で前線にいる第一陣の航空部隊の健闘を祈った。
あれこれ考えたが、この場所で指示を出してもどうにもならないと思ったのだ。
航空部隊第一陣が戦闘空域に入るのは海軍による地対空ミサイルの攻撃後に行われれる。
王国海軍が中距離地対空ミサイルで殆どを撃破してしまえばいいのだ。
一方こちらは王国海軍。
NRC領地で展開する王国空軍の偵察部隊すら察知できていなかった状況を海軍は確認した。
敵の超大型機は全ての機体が1万m以上を飛行しているということである。
これらはすでに後方にいる王国空軍の部隊へ伝えていたが、前線に展開している巡洋艦の艦隊は敵の測距に苦労していた。
「レーザー照射による捕捉がなぜか十分に行えません!」
砲撃観測員は指揮官に対して慌てた様子を見せる。
訓練時から高高度の敵を想定した訓練を行っていたが、なぜか熱などによって敵を自動追尾するレーザー照射の光学センサーは照準が上手く合わなかった。
最前線にいる巡洋艦の総指揮官はしばし沈黙する。
「もしやこれは……ミサイルは照射が無くとも付近の熱源まで接近して自動追尾するのだったな?」
そして何か理解したかのごとく、砲撃手に確認をとった。
「はい!」
「敵の根元にブチ込めばいい! 各艦に通達! 敵方角合わせ! 照準!」
指揮官は大きな声で砲撃指揮をとる。
巡洋艦はブレる光学センサーを用いながら射撃可能な段階まで手順を進めた。
「射撃準備完了! 測距と測的完了済み!」
「よしっ てぇええええええ!」
指揮官の怒号と共に、轟音が辺りに響き渡り、閃光が天空へ向かっていく。
王国海軍の者達が「光の矢」と呼ぶ地対空ミサイルの発射の瞬間である。
第一回目のミサイル狙撃が開始された。
「距離11! カウントします!」
観測員がカウントに入り時間が経過していく――そして――
「――カウント! 3! 2! 1!」
爆発の炎の後にボコォといった爆発音が後から伝わってきた。
「……状況確認!」
観測員は敵の状況を確認した。
「そんな! 命中が半分以下!? 20発以上で同時射撃したのに超大型機への命中は6! どうして……」
観測員は地対空ミサイルの命中率が訓練時と比較して圧倒的に低いことに慌てた。
「これは! 炎を纏った落下物あり! 超大型機付近でミサイルが着弾したと思われる地点から! 今確認します!」
「やはりな……やつら小型迎撃機を盾にしやがった。サルヴァドールへの攻撃は真下から来る可能性があることを予想して、付近に帯同させていたんだ」
観測員をよそに、巡洋艦隊の総指揮官はその戦術眼と戦略眼によってNRCが何をやり、何が起こったのかを理解していた。
「センサーは誤動作などしていない! 他の艦に伝えろ。 小型機を盾にしていると!」
「……まだ落下物の特定ができませんがよろしいですか!?」
「そうでなけりゃデコイだが、現状でミサイルの性質までやつらが理解しているわけがない。ネオ殿による光学探知型ミサイルの回避手法では、基本的には熱源を発さないといけないことになっているが、それなら落下物が何なのか説明できんからな……ほぼ間違いないといっていいはずだ! 今は迷っている間に攻撃を続けろ!」
総指揮官は巡洋艦へ第二回のミサイル狙撃を命じた。
とにかく超大型機の数を減らさなければいけないのだ。
状況を確認している時間などなかった。
今気にすべきことは、射撃したミサイルが空中で互いに相打ちにならないことだが、そこは海軍。
訓練によってその比率を極めて引き下げることには成功している。
「NRCの超大型機が通過する間、後3回は狙撃できる」
「次弾発射準備!」
巡洋艦隊の総指揮官は冷静に、そして迅速に艦隊をまとめ上げ、超大型機迎撃の陣頭指揮を執った。
第一回の攻撃の時点で6機の超大型機は撃墜されていたが、残りは84も存在し、NRCは多少の回避運動を行うものの方角を変える事無くそのままの距離を突き進んだ――




