番外編3 エルとのスキンシップ(後編)
本日の本編の展開は少々遅れます。
すみません。
「社会主義についてどう思う?」
ネオは、思い切ってエルに切り出した。
「別に?……むしろネオさんはどうなんですか。今、貴方の目の前に広がっている状況は、全体主義とも言うべきものですよ。レシフェの危機なので私は否定しませんけど……目的が防衛でなかったら……」
NRCが酷い国だというネオの主張に、エルはやや憤りを感じているようであった。
国家とか思想といった話は嫌いではないが、どうもネオがNRCへの批判を展開する姿勢はエルにとって嫌な気分になるものであるらしい。
これがNRCを認めるべきということに基づいて気分が悪いのか、単純に思想をネオが批判する姿勢がエルにとっていい気分ではないのかネオにとって不明だったが、ともかくその話題はしてほしくないといった様子だった。
「出撃前なのか、今日は随分おしゃべりですねっ」
「こんな身なりの女の子がベッドの上にいるのに何もしないなんて」
エルはルシアとは異なり、夜戦への強要はしていないが、何故ネオがそういった行動を自身には起こさないのか気にしていた。
ルシアとは回数が多いわけではないがそれなりにそういった事があったことを彼女は知っている。
「エル……君は、13? 14? ともかく、幼いだろ」
「なっ」
突然のネオの発言に、エルは顔が赤面した。
なぜそれをと言わんばかりの顔つきで、あまりに恥ずかしくなったのか枕を頭に被せて顔を隠した。
「ほらな。背伸びしているし、知識量もあるし、賢いかもしれんけど……幼いとなんとなく思ってたんだ。ルシアは19らしいけど、彼女も大人っぽくて驚くが、そっから逆算するとそれぐらいかなって……どーしてか俺は、お前を殺したくないような……親心みたいな感情が生まれるから想像以上に年齢が若いなとは思ってたよ」
ネオはポンポンとエルの背中を軽く叩く。
以前の模擬戦の時のように。
するとエルは突然枕をバッとはねのけ――
「に……20歳ですけど!?」
――と、頬をリンゴのごとく真っ赤にさせて鯖を読もうとしたが、ネオにはそれが嘘であることは完全にお見通しであった。
エルはやや年齢が高く見えるので、一見すると16~17ぐらいに見えなくも無い。
だが、表情や仕草などからネオは彼女の年齢を完全に認識していた。
さすがのネオもこの年齢の子に手を出すということはない。
彼女を女として認識していないのではなく、彼の中に存在する倫理というものが強い自制心の壁を形成し、彼の男性的な野生的な本能に打ち勝っているのだ。
ただし、ちょっと触れるぐらいなら神に裁かれることはないだろうと問題なさそうな範囲で彼女に触れるぐらいの事はした。
ネオは黙ったままエルを見つめ続ける。
顔には本当のことを言えと書かれているかのような雰囲気を漂わせている。
「うぅ……ネオさんが思う通りかもしれませんねっ! ふんっ」
年齢を完全に言い当てられてしまったエルは、再びまくらを取り出して頭にかぶせた。
バコン。
「あーくそっ、ブリーフィングがこんなにも長引くとは!」
そうこうしているとドアが開き、ルシアがバタバタとネオの個室に入ってきた。
ネオの個室は実はダブルベッドなのだが、最近はもっぱら彼女やエルによってベッドを独占されており床やソファーで寝ることが多い。
「また当たり前のように入ってきて……こんな時にコルドバの軍勢の所にいなくていいのか総大将」
ネオはルシアが今日も個室に入ってきたことをに冷ややかな視線を送った。
「むしろ緊張しすぎて明日に響くからな。むっ。お前らお楽しみだと!? 我も混ぜろ!」
キョロキョロと状況を見て察したルシアはネオに飛び込もうと構える。
「先に風呂に入って来い」
なぜかネオとエルはハモッてしまいお互いが視線を合わせる。
その言葉にルシアは驚いて一歩引いた。
「言っておくが、俺は風呂上りの、あのいい匂いのするコルドバの石鹸やシャンプーの香りを漂わせたお前が好きだ。今のムンムンと気迫のようなものと一緒に汗の臭いを若干漂わせる状態よりも」
ネオが優しい口調で風呂行きを促すと、彼女はルンルンと風呂に向かっていった。
なぜか衣服を脱ぎながら向かい、脱いだ衣服をネオにぶつけていったが。
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その後、ネオはエルと談笑した。
何度ネオがエルに確信を突こうとするも、完全にかわされてしまった。
やがてエルは眠気を訴えてまるで巣穴に入るがごとくベッドに潜り込み頭すら布団に埋めた状態で寝息を立てた。
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「――ということなんだが、どう思う?」
ネオは、エルが寝静まった後に風呂から上がって休憩しているルシアに問いかけた。
「確かに。そういった情報はある程度の地位のものでなければわからんが、王族の側近たる大臣などが親ならそういう知識があってもおかしくはない。だが、お前はこう言いたいのであろう? どこかの国の王族か何かで、我が何か知っているのではないか……と」
察しのよいルシアに対し、ネオはコクンと頷いた。
「むー……どう言えばよいのか……」
ルシアは頭を手で一旦抑えた後、考え込み、しばらく経過してから再び口を開いた。
「私の立場からこういう人物だ……とは言いにくい。確証ももてん。何しろ……似たような影武者だと言い切られれば、そうだとしか言えないのだから……」
「我から聞くよりも、グラントより聞いた方が彼女を傷つけずに済むぞ」
ルシアは、自分が皇女であり、皇女の立場からエルが何者であるかを列挙するのは彼女に危険性が及ぶ可能性があることをネオに指摘した。
彼女はネオに説明しなかったが、ネオは影武者や偽者といった話から、エルがレシフェに何らかの理由で逃避してきて保護されているということに感づいた。
そうであるなばら、誰かが聞いている可能性が低いとはいえこの場でルシアが彼女がどういう人物かを公開してしまうとエルはネオと共に……レシフェにいられなくなるかもしれない。
彼女の考えはとても正論であり、ネオは彼女の頭の回転の速さと彼女の王族としての配慮に脱帽した。
「レシフェに来て一番よかったのは、ゼロが作れた事よりもエルとルシアに出会ったことかも……」
ネオの突然の告白にエルが寝ていたベッドがビクッと動き、ルシアもキョトンとした。
ネオは、エルとは嫌われないように将軍から事情を伺おうと考えた。
実はゼロが完成した後、ネオはその後のアースフィアで何をやろうか決めかねていた。
そこで、エルが何か事情を抱えているならば、NRCとの一件が終わった後にエルのために何か手助けしようと思っていたのだ。
だからこそ彼女の正体を掴みたかったが、ルシアですら迂闊に話せないなら今日の所は諦めることとした。
「さーて明日は出撃だしさっさと寝るか」
そう言って床で寝ようとすると、ルシアにベッドに引き込まれる。
「今日ぐらいここで寝ろ。いい抱き枕が入荷しているぞ。非売品で本来は王族しか使えない品だ」
彼女の誘いに、ネオはただ寝るだけぞといってベッドで寝ることとした。
ネオにとってもやはり戦場に向かうというのは恐怖を感じるものなのだ。
完璧超人になりきれない自分に嫌悪しつつも、今日ぐらいは咎められないだろうとルシアの隣にきてそっと目を閉じた。




