番外編3 エルとのスキンシップ(前編)
夜になったら何となく書きたくなりました!
この番外編3は3部構成の予定ですが、ここだけちょっとしたプロットが当初より作られています。
実はもっと早い段階で書きたかった話があったのですが、書こうと思いながらも本編に入れることができませんでした。
なので、番外編の中篇はやや過去に戻ります。
中篇、後編はもう少々お待ちください。
会議が終わって夜もふけ、ネオが自分の個室に戻ると、ベッドでパタパタと脚を上下しながらうつぶせになってペラペラとネオの技術資料を読んでいるエルがいた。
「鍵もかけないなんてお粗末だなぁ……重要な資料がこんなに溢れてるのに……」
エルは、ネオの方向へは向かずにネオに語りかけた。
「疲れてたみたいだ……それで、何の用?」
ネオは上着などをハンガーにかけ、冷蔵庫からお茶を取り出し、ベッド近くの机の椅子に腰掛けた。
「ネオさん。私にまた隠し事してる。ルクレールがなぜか整備されてた……出撃するんでしょっ?」
エルは怒り声ではなかったが、出撃することを黙っていたことに腹を立てているのはネオでも理解できた。
「新型戦闘機がどうしても引っかかるんだよ。主翼の下、ありゃあ絶対なんか積載する予定の構造だ。写真じゃなんもないが、あの翼面下はそれを予定していないとおかしい形状をしてる」
ゴクゴクと一気にお茶の入ったビンを飲み干してネオが呟いた。
「ルシア皇女は知ってるの?」
「ッフ……彼女は兵士だから、言わずとも俺の眼を見ただけで出撃するのを理解してたよ。俺に、FSX-0の方で出ろって助言してきた。女の勘だってさ……」
ネオの話を聞いて、エルはしばし沈黙した。
「俺よりも、お前の方がいろいろ隠してそうな気がするけどな」
ネオは、かまをかけてエルを揺さぶる。
以前より雰囲気、言葉遣い、仕草、それら全てが上流階級のものであり、エルは何か隠していて、特別な人間だとは思っているが、今の自分にならば教えてくれるのではないかと思った。
「いい女はねっミステリアスなんです。私に自殺願望持ちの空バカとかいうなら、ネオさんこそ自殺願望持ちのカミカゼバカですよ。ルクレールで出てどうするんですか?」
カミカゼの意味が間違ったまま伝わっていることに、ネオはため息を吐いた。
「……やることはこの間よりも少ない。今回は超大型機を海軍勢力が減らすだけ減らす。航空戦力は撃ち漏らしの掃討だ……NRCが工業力ばかりに頼った頭の弱い集団なのか、そうじゃないのか……現場で見定めるさ」
その後ネオはしばらく黙ると、立ち上がって風呂場の方へと向かった。
ネオの個室は来賓用のものである。
ただし、来賓といっても民間人用で上位階級者のためのものではない。
他国の使節団に所属する一般人や、メーカーからの出向者など、軍人に向かない者のための部屋である。
軍人でないネオに対しては軍用の宿舎は向かないと判断されたグラント将軍により、この基地に来た当初からネオはこの部屋を割り当てられていた。
当然にして、航空工廠直属の整備兵に近い者達以外もこちらのタイプを割り当てられており、ネオだけが特別というわけではない。
流体力学班、タービン班、兵器開発班などがこれらに該当するが、唯一例外として、直属ではないが軍人であるダヴィ達は軍用宿舎が割り当てられていた。
軍用の宿舎との違いといえば、軍用が極一部の上級士官用以外はシンプルすぎて寝るためだけの部屋なのに対し、こちらは最低限の様々な備品が整っており、ビジネスホテルといった佇まいである。
ネオにとっても冷蔵庫や風呂といったものはありがたかったが、最近はもっぱらこれらはルシアやエルによって使われている。
彼女達は自分達の部屋があるにも関わらず、ネオの部屋に押しかけては冷蔵庫などを有効活用していた。
最初のうちは戸惑ったり、やや苛立ったネオであったが、現在では慣れてしまっている。
ただ、慣れないことが1つ。
「おじゃましまーす」
このような感じで、さも当たり前のごとくエルが風呂などにも同行することである。
エルはペタペタと浴槽の近くを全裸であるきながら、ネオが入っている状況に構うことなく、チャプンと浴槽に入ってきた。
これは当初からそういう関係であったというわけではなく、ルシアとある程度良好な関係となったあたりからであるが、対抗意識というよりかは既成事実に近い関係をもっておかなければならないといった意識があるようで、ネオとしてはルシアとは違う野望か欲がエルにはあるのだろうと推察していた。
まぁ、自分がヘタに手を出さない人間だと思っているから平気でこういうことをするのだろうがとも思ってはいたが。
「あのさぁ……見られて恥ずかしいとかないの?」
ネオはジトーっとした目でエルを見つめる。
風呂への同行は7回目。
流石に慣れたが、エルには羞恥心というものがないのか、個室内を全裸徘徊することも全く厭わないことには呆れていた。
ルシアは一応バスローブなどを纏っているので、それなりそういった感情はあるようだが、エルには全く無いようだった。
「見られて恥ずかしいような体してませんしっ」
「そうなのかもしれないけd――」
言い終えようとした前にネオの顔にはバシャッとお湯がかけられた。
「恥ずかしそうにされたいなら、ネオさんも少しは反応していただけると助かるのですがねっ。私そんな貧相な体してませんけど?」
エルは胸に手を寄せながら、前かがみになるような形でネオに近づき誘惑した。
確かにスタイルは良い方である。
彼女は非常に小柄で華奢だが、それにより隠されている部分があった。
下半身……つまり尻に当たる部分は小ぶりでピンと上に張ったようなネオ好みの形であるが、一方で上半身の2つの丸い何かは、それなりの大きさを誇っていたのである。
普段はダブダブのパイロット用の服装などをしているため、気づきにくい。
しかし、例えば上着だけ脱いでTシャツ姿でソファーに仰向けになってゆったりしようものなら、服が押さえつけられてその2つの丸い何かが側面より姿を現す。
ネオはエルと出会って2日目で、彼女が覆いかぶさる形で添い寝してきたことでその存在を自身の体表センサーで認識していたが、改めて生で直視すると普段の服装による全体像からは想像できないような、それなりの大きさを誇っている。(大きすぎるというわけではない)
エルはあまり胸を揺らしたくないのか、スタイルを維持したいのか、全裸で歩いたり身動きをする際には胸に手を当てて動く癖があったが、それもこれも大きさがそれなりにであるからこそ、そういうことになってしまうのであろう。
普段は軍用のスポーティな下着を上下で身に着けており、ネオの部屋では上着のTシャツを脱いで下着状態でいることも多いが、そちらはタンクトップと言われても遜色ない姿なのでネオもそこまで気にしていなかった。
「ネオさん。 死んだら化けて出ますよ」
「なんで生きてるお前が化けて出てくるんだ!?」
ネオは湯船につかりながらのエルが意味不明な言動をしたことで思わず湯船の中で滑ってしまった。
「あうっ もう! 私が地獄に化けて出ちゃいますからねっ」
エルはネオが滑ったことでどこかに触れられたのかビクッと反応したが、すぐさまネオを押し戻した。
「次の戦いで俺が死ぬ確率は0%だ。予言しとくよ」
「死んだら、私やルシア皇女といった人間に触れることも出来なくなりますよ? 今からでも出撃をやめてもいいんですよ?」
エルは訴えるような目でネオを見つめる。
ただ一個人として死んでほしくないという、私情によるものではなさそうな気配をネオは感じ取った。
こういう表情をする時、エルの背後に何かが見えそうなほどに何らかの気配を感じるのだ。
「出撃はやめない。俺が出て行っても勝敗に関わることはない。だけど、お前の未来にだって関わる問題がNRCで起こってるかもしれない……それを確かめたいだけだ」
ネオはそういうとエルの頬に手を添えた。
エルはネオの手に両手を添えてネオの体温を味わうがごとく堪能した。
「このあったかい手が結構好きです。別にネオさんに惚れたと言っているわけではないので、勘違いしないでほしいですが」
エルはややうっとりとした表情を浮かべる。
ネオが知らないことだが、彼が肉体関係的な部位にあえて触れない対応について、エルはネオを高く評価し、気に入っていた。
別に触れてきても仕方ない行動をとっているという自覚はあったが、互いにまだ隠していることが多すぎて、そういうのにのめり込めないのだ。
「そう……」
「今日は疲れてしまったので、体を洗っていただけるとありがたいです。 ルシア皇女にはやったんでしょっ?」
エルは一旦ネオの手を離すと、パシャッと湯船を手ですくって顔を洗うように水をかけた。
そして自分の顔を指さしして「洗え」と意思表示をする。
ネオは仕方が無いなと浴槽からあがると、チョイチョイと手招きしてエルに浴槽から出るよう指示した――
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ワシャワシャといった音が風呂場に反響する。
ネオがエルの頭をやさしく洗う音であった。
「――ルシアにも言ったが、それがグラント将軍や陛下にも伝えてない秘密さ。冥土の土産じゃねえぞ」
ネオはエルの体を洗う間、自身にまつわることについてエルにも話していた。
本当はルシアより先に彼女にその話をしたかったことも伝え、その上で――
「なあ、俺も話したことだしお前も教えてくれ。身分を隠してるだろ? だったら――」
「隠してませんよ。そうだな……ネオさんに今言えることは……私は影武者ですから。偽者ですから。今伝えられるのは……それだけ」
エルは意味深な言葉を口にした。
影武者ということは、彼女はどこかの国の貴族か何かの影武者なのだろうか。
しかし、ネオには影武者という言葉はどうも信じられない気がした。
このまま風呂からあがったら、まだ寝るまで時間があるので、もう少しだけ追求してやろうと思った。
彼女を洗いながら、ネオは少し前のエルとのやり取りを思い出していた――




