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もう1つのゼロ

 グラント将軍に連れられ、ネオは今まで通ったこともないようなルートで首都の空軍基地の中を巡っていた。


 通路は薄暗く、やや汚れている。

 グラント将軍は滑りやすいから気をつけろと言いながら、ツカツカと通路を進み続ける。


 そして、非常に奥行きのあるエレベータに乗って地下に入り、大きな格納庫と思われる入り口に辿り着いた。

 グラント将軍は鍵を使って扉を開けると、その中は真っ暗であったが広い格納庫であることが何となくわかる。


「今、電気をつけよう」


 バシーン バシーンという電灯に通電する音と共に、それは目の前に現れた。

 見た瞬間に、ネオは全てを悟った。


「あの時、ゼロの設計図を見て妙な反応を示していたから、まさかとは思ってましたが……」


 そこにあったのは、双発デルタ翼の戦闘機である。

 しかし、ネオが見る限り、それは第四世代でもなければ第五世代でもない、第六なのか第七なのか、ともかく、ネオが知る航空機よりも格段に進んだ技術によって構成されているものであることがわかった。


 信じられないほど洗練された形状なのである。

 曲線が多用されたデザイン、胴体と完全に一体化しているようなエアインテークの構造、内側に下半角のついた垂直尾翼は、なぜか胴体の真下に展開され、上部にはイルカの背びれのごとく垂直尾翼が1つ。


 前方には後退翼なのかクリップドデルタ翼なのか不明なカナード、主翼も同様で、水平尾翼は完全に主翼と結合しており、可動したらどのような形状になるのかぱっと見ただけでは予想がつかない。


 エンジンのノズルは、これまたネオが見ただけでは理解できない三次元式ベクタードノズル。

 それは確実に古代でもネオが知る時代のものではなかった。

 だが、ある部分だけはネオもすぐさま理解できるものがあった。


 

「これはな、レシフェ王国の領土内にて発掘された古代兵器だ。レシフェのような砂漠もある地域では、稀に砂の下に埋もれて腐食や浸食もせずに形を維持したままの古代兵器が出土することがある……つい先日まで、ワシはコイツのエンジンが一体なんなのかさえ知らなかった……動かすことも出来なんだ……だが……」


「ターボファン……いや違う、コイツは……可変サイクル式ジェットエンジン!」


 その機体の周囲をウロウロと見てまわっていたネオは、インテークとエンジンノズルから覗かせる中身より、そのエンジンの正体だけ突き止めることが出来た。


「これも……ジェットエンジンというものなのだろうな……今なら動かせるのやもしれぬが……すでに数百年経過しておるので、どうなるかはわからん」


「金属疲労の状況からいって稼動は危険でしょうね……」


 機体をまじまじと舐めるようにして眺め続けるネオを、まるで息子がおもちゃを一緒に買いに来た父親のような視線でグラント大将は見守り続ける。


「上部の尾翼のような部分を見てもらいたいのだが……」


 グラント将軍の話により、ネオはハッと我に返り、すぐさま尾翼に向かった。


「なっ!? これは!?」


 そこには「P-X0」というコードナンバーが記載されている。

 そして、機体の各所に施されたエンブレムやペイントから、それがどこの国の所属であったかネオは理解することが出来た。


「どうして!? 何故!? アジアの経済大国でしかない、あの国の機体がこんな南米に!?」


 グラント将軍は見慣れない単語ばかりにやや困惑したが、ネオが何かを理解したということだけ判断することができた。


 PX-0。


 ネオすら知らぬこの機体は、アースフィアを通してレシフェの地表の裏側にある、とある国で製造されているらしきことが機体に施されたものから判断できた。


 ネオは、記憶が確かなら、PXとはその国で実験機の意味合いを持つコードであり、

 古代のその国の状況から考えると、仮にネオの記憶の中にあるその国が、ネオの記憶の中にある時代から100年ほど経過していたとしても、レシフェ国内にそんなものもってやってくるというのは理解できない。


 だが、その国なら「0」というコードに拘りを持つことと、機体の全体な印象として、その国らしさが滲み出ているものなのを理解できた。


「将軍……コイツは真のゼロかもしれません。ゼロの名前の由来となった戦闘機を作った国が、俺の知っている時期よりも後の時代で作ったんだと思います……どうしてここにあるかはわかりませんが……」


 ネオはキュッキュッとPX-0の機体表面を指で擦りながら独り言のように呟いた。

 感触から、これもネオの知らない素材の可能性が高い。


「稼動させたら何かわかるやもしれん。この機体について、今後君に一任することとした。陛下がそう申されたのと、ワシもそれが一番いいと思うのでな。……では」


 グラント将軍はそう言って、ネオに鍵を渡した。


「まさか……もう1つのゼロがあったなんて……偶然なのか、必然なのか……今は時間がないが、時間が出来たら、これについても調べよう。可変サイクル式ジェットエンジンは現段階じゃ作れないし時間がない……だが……ん?……将軍!」


 ネオが機体を眺め続けていると、その場を立ち去ろうとする将軍の姿が見えたのでネオは呼び止める。


「今度の戦闘も、どうも気にかかるんでルクレールで出撃します。新型機がどんなものか見ないと怖すぎる……よろしいですか?」


 ネオの言葉に、グラント将軍は振り返らないまま、右手で○のサインを出して応えた。

 グラント将軍は内心駄目だと否定したかったものの、ネオの人間性から危険な行動はしないだろうと許可を下したのだった。


~~~~~~~~~~~~~

 

 PX-0という謎の存在と出会って3日後、ついにNRCの軍勢に動きが見え始めた。

 偵察部隊より、NRCの出撃準備がほぼ完了したという連絡がくると、ネオ達はすぐさま緊急会議を開始した。


 グラント将軍は、ここで始めてネオやルシア以外にも敵の小型戦闘機の存在について公開した。

 一応、FX-0のパイロットやエルなどは知っていたが、改めて周知させる目的があった。


「敵は総数90でほぼ間違いない。偵察部隊は、この敵の新型機については見ておらぬと言ってきた。超大型機に搭載されて艦載機として出てくる可能性はあるが……なんとも言えん」


 グラント将軍は手を顎に当てて、考え込むように言葉を発する。

 ちなみに、今回の会議には戦闘機部隊を新たに組織したレシフェ各地の空軍基地の幹部達も召集されている。


 その中には、前回何も出来ず悔しい思いをした北部の空軍基地指令なども含まれていた。


 実は、ネオ達が必死でFX-0の開発を行っていた間、グラント将軍は各地で軍備を整えていた。

 サルヴァドールの量産に合わせてパイロット候補を大量に選び出し、訓練させていたのだ。

 一応、訓練はまず王国首都で最低限行ってもらっていたが、その後は各地に存在する訓練機やサルヴァドールなどを用いて行われていた。


 もしグラント将軍が何も行動を起こさないと、ネオはサルヴァドールのパイロット達の選出や育成、FX-0の様々な部分の開発、FX-0のエンジンや兵装の開発、エルとルシアの相手、コルドバ関係の雑務全て、これらを一人で裁かなくてはならなくなり、いくらキャパシティが多いネオといってもそれは不可能に近い。


 地対空ミサイルによる防空部隊など、グラント将軍は海軍のリヒター大将に負けじと空軍のリソースをフル活用して調整していた。


「ルートについては、今回もNRC側はレシフェだけの問題であると主張しているので、東側から来ることは予測されている。ただし、細かいルートはまた変わってくるであろうし、何か対策などをいくつか施してきそうではあるな」


 グラント将軍は情報不足ながらも、NRCがとりうる戦略全てを潰そうと、他の王国空軍幹部と意見交換をしながら様々なな議論を交わした。


「レシフェの者達。我々コルドバは今回、この基地には留まり人道的見地に基づく最低限の行動を行う予定であるが、過剰な武力支援は行えないのを予め留意してほしい。我としては大変不服だが、NRCとの直接戦闘は南リコン大陸全体に火種をばら撒きそうなのでな。ただ、父上も私もエスパーニャへの再出兵について同意済みだ。すでにトーラス国王陛下と約束も交わしている。今回は参戦しないことをどうか恨まないで欲しい」


 ルシアはやや肩を落として息を吐きながら呟いた。

 コルドバは今回、あくまで基地に留まって、首都に万が一侵攻された場合に自国戦力の自衛のためという名目での防衛戦闘だけ行う予定である。


 コルドバの皇帝はルシアと同じく武人気質な人間で軍事にも詳しいが、今回コルドバが参加することで全方位でNRCが侵攻してくる事態になるよりも、戦地をエスパーニャ内に限定させるほうが、各国の戦力が分散しないのでよりNRCへの抵抗力を強めると考えていた。


 また、ネオが渡した設計図のフォルクローレがまだ完成しておらず、NRCへの対抗は不可能というのもこのような判断へと至った要因である。


 ただし、コルドバはレシフェ首都付近にまで侵攻されうる場合は大型機を全機発進させて対抗するつもりであり、大型機の戦闘準備自体はすでに終わらせていた。


 これはルシアの独断行動であるが、それぐらいならば父であるコルドバの皇帝も許すであろうという判断で、予めそれについて部下達やレシフェに伝えていた。




「皆、精進しろ。NRCはどんな手でも使う。何が起こるかわからん。常に気を張って、怪しい動きがないか探るのだ。我々レシフェが、ただの弱小国などではないと思い知らせてやれ!」


 グラント将軍は会議の最後をこう締めくくり、参加者達は解散して自分達のあるべき場所に戻っていった。

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