ゼロで飛ぶ者達へ
FSX-0の完成後に続き、正式採用型であるFX-0も続々とレシフェの航空工廠で産声をあげた。
さらに、今回は念には念を入れ、安全を考慮して二座型のFSX-0-T1が1機製造され、ネオやエルの指導による機体の転換訓練が行われることとなった。
その飛行特性などから、FX-0のパイロットはベレンを操縦していた者達から優先して選出されて転換訓練が行われた。
パイロットは全部で45名。
その中には、エスパーニャより死に物狂いで超大型機で帰還した1000名近くの優秀な兵士達が25名含まれており、サルヴァドールからは第二中隊を率いたサントスら5名のパイロットが選出された。
ネオは、レンゲルが非常に優秀なために、FX-0こと「ゼロ」のパイロットになることを希望したが、グラント将軍と本人の希望から、彼は引き続きサルヴァドールの部隊の総隊長を継続することとなった。
エスパーニャから戻ってきた兵士が結構な比率で混じっている要因は、かねてよりグラント将軍が説明したように、エスパーニャ出兵に向かった者達こそが一軍の優秀な人材であるためである。
その中でもすぐさま空戦理論やE-M理論に適応した、エース候補ともいうべき人材がFX-0のパイロット候補として見出されたのだった。
FX-0のパイロットとなれなかった者達も、戦闘機適正アリと判断された人材は量産によって、すでに合計200機を越えたベレンとサルヴァドーレに振りわけられていった。
ただし、ベレンはあれから約20機程度しか増産されておらず、レシフェには計55機しか存在しない。
残りの150機以上は、全てサルヴァドールである。
元々、ベレンは第一次侵攻へ対応するために、航続距離やコストなどを極力抑えてサン・パウロといった空母などを用いての作戦を想定した急造仕様の存在であった。
そのため、FX-0の量産が開始されると同時に量産は中止されることが予め決っていたものの、超大型機との戦闘で4機も消耗し、4名もの王国空軍兵士が殉職したことで、第一次侵攻が終了したのと同時に早い段階で生産を打ち切ってサルヴァドールだけに一本化されたのだ。
既にある程度組みあがってどうしようもない機体以外は解体され、ベレン修理用の予備資材として流用された。
現在のレシフェの航空戦力は、超大型機イアンサンが1機、空中給油機のノバイグアスとパラナグアの2機体、ルーク1機、ルクレール1機、サルヴァドール158機、ベレン55機、名前が決ってない訓練機20機、FSX-0が1機、FSX-0-T1が1機、FX-0が8機(最終的に15機程度まで増産予定)
こういう状況である。
FSX-0と0-T1については、双方ともにアサルトパックが装備できるため戦力として換算されている。
複葉機も、13mmとはいえ波動連弾を装備しているので最悪は戦闘に用いる予定。
グラント将軍からしてみれば、正直にいって超大型機90機と戦うには心もとない戦力であった。
しかし、土壇場でネオがルシア達コルドバへの地対空ミサイルの情報公開に踏み切り、地対空ミサイル部隊が展開可能となったことで、レシフェ国土内の防空戦闘能力は大幅に上昇している。
実は、グラント将軍はネオ達らに報告をせずに裏で地対空ミサイル発射部隊を組織して訓練させていた。
それまでは高射砲によって超大型機と戦う防衛部隊を、そのままミサイル部隊に転換したものだが、高射砲では超大型機の装甲は貫けないため従来では殆ど無意味な存在であった。
だが、地対空ミサイルならば十分な防衛が行える可能性があり、どうしても首都など重要都市がある場所にはこれらの部隊を配備しておきたかったのである。
要の地対空ミサイルと、地対空ミサイルのためのレーザー照射装置などは、海軍と同一のシステムを導入することでメーカーに大量発注をかけて効率よく数を用意した。
これが海軍が依頼した所と同一のメーカーであったため、リヒター大将は早い段階で地対空ミサイルを空軍も配備することを知っていたが、特に批判などをすることはなかった。
むしろ価格が落ちるので、双方にとってデメリットは少なかったのだ。
ここで問題になるのは、大量発注にメーカーによる供給が追いつかなくなって海軍の巡洋艦などへの配備が遅れることだが、メーカーには意外にも余裕があってそういうことはなかった。
海軍戦力は、戦艦ミナス・ジェライスと、元同型艦の改装空母サン・パウロが中心となり、巡洋艦や潜水艦といった存在が防空にあたる。
前回とは異なり、今回は潜水艦を除いた艦船艦全てに巡航ミサイルと地対空ミサイルが配備されている。
リヒター大将は「90など足りないぞ……我が艦隊を相手にするなら300はもってこい」と意気込んでおり、現状でレシフェ王国海軍は間違いなく世界最強といっても差し支えは無かった。
そんなこんなでレシフェ王国が第二次侵攻に対しての布陣を整える中……ネオは必死にFX-0への誘導兵器搭載を可能とするために、ダヴィらと共に格闘を続けていた。
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「ネオさん。ゼロは、今まで以上にE-M理論の知識が必要になりますね。失速したエネルギーの回復が難しいです」
「ああ、それに関しては本当にすまないと思ってる……ターボファンエンジンは完成間近ではあるんだが、NRCの第二次侵攻は予想では5日後……流石に間に合いそうにない」
FX-0に搭乗しての訓練を続けるサントスの言葉に、ネオは疲れた表情を見せながら謝罪した。
FSX-0の試験飛行によって、FX-0はM2.2クラスの最高速度を発揮し、高度2万2000mあたりまでの活動を可能なのが判明している。
これは古代の第3.5世代ジェット戦闘機として考えると非常に高性能ではあったものの、ネオが求めた第4世代戦闘機クラスの戦闘機とするにはどうしても足りない要素があった。
それは亜音速時の速度調整と加速能力であり、FX-0においてはアフターバーナーを多用しなければどうにもできなかったのだ。
これは戦闘が展開されるとFX-0の活動時間を大幅に減らしかねないものであり、ネオの頭痛の種となっていた。
ネオは、レシフェが回収して接収したNRCの超大型機のエンジンをテストし、燃費や推力などを計算していたが、単発機でもM2.5クラスの速度を余裕で発揮可能で、かつ航続力についても現用のFX-0のエンジンの10倍以上、加速力も圧倒的に優れ、長期戦を展開して燃料を減らされるとFX-0は簡単に倒されてしまう可能性がある。
かといって、FX-0にこのエンジンを搭載するためには胴体構造の大幅な設計変更が必要で今からでは間に合わない。
FX-0には空中給油機能があるため、継戦能力を回復させることは出来たが、それでどうにかできるかは敵機の情報が少なく未知数だった。
ただし、ゼロに乗る者達はこれが1から作られた航空機で、その数を増やしていくことが出来ることで、何度やられても増産が続く限りはNRCに負けないと互いに言い合って士気を上げていた。
それまで列強が襲い掛からないようにと恐怖しながら軍人として訓練し続けた者達にとっては、恐怖し続けながらこれからを生きるよりも、戦いで命を落とすかもしれないが対抗能力をもって戦闘に望む方が気が楽だったというのもある。
ネオにとってレシフェ国民のこういった部分は好きなのだが、己の野望や正義のため、どうしてもレシフェには滅んでほしくなかった。
ネオが「ひな鳥」と呼ぶゼロには、ネオが考えうる最終形態が存在し、その状態ならば、例えNRCが謎のエンジンを惜しみなく使って双発型にして制空戦闘機を作って対抗したとしても、絶対に勝てる確信があった。
その最終形態については、実は流体力学班と胴体開発班にだけ公開しており、すでにそのための各種パーツの性能を試験する段階にまできていた。
だが、それらはターボファンエンジンあってこそのものであり、ネオにとって現状では産毛の生えた飛び方を何とか覚えただけのひな鳥のような印象しかもっていなかったのだ。
「よし……決めた」
訓練が終了し、休憩に入って談笑をしているゼロのパイロット達の姿を見て、ネオはあることを決めたのだった。
すぐさま、ネオは準備に取り掛かるためその場を後にし、機密設計室に向かった。
この機密室は、ジェットエンジンやミサイル開発などが行われるようになってグラント将軍があらたに用意したもので、外部との通信を完全に遮断し、出入りも自由に行えないようになっているものである。
ネオは、本当に重要な設計などがある場合は、ここで作業をするようになっていたのだった。
机に座り、目を瞑り、しばし沈黙して意識を高めた後……ネオはバッと作業に突入していった。
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「これは……ネオ君。本気か?」
数時間後、ネオはとある設計図を完成させると、すぐさまグラント将軍のいる彼の執務室へと向かったのだった。
あまりに急いでいたため、ゼェゼェとネオは息を切らし、グラント将軍へすぐさま返答が出来ない。
「お、落ち着いてからでいいぞ」
グラント将軍はネオが一呼吸おくまで待った。
「はい。どうしてもコレは作りたいので……それも秘密裏に敵を理解するために……作るしかない……これ以上、ゼロに乗る者達を不安にさせたくないんです」
「確かに……これらに対して必要となる資材については、陛下も予めネオ君ならば自由に使わせてよいと言われている。わかった。許可しよう」
グラント将軍は考え込むことも無く、ネオの作った設計図の秘密兵器について了承した。
「人材については俺が独自に選出します。問題……ありませんね?」
その言葉にグラント将軍は優しい笑顔になった。
「構わんよ」
その後で、すぐさま真剣な顔つきになる。
ネオはその姿に何かを感じ取った。
「それとな……実は君に見せねばならぬものが出来たようなのだ……完成したゼロを見て……な。今から時間はあるかね?」
「ええ……」
ネオが頷くのを見て、グラント将軍は執務室を壁伝いに歩き、壁をトントンと叩き始める。
「む? どこだったかな……おっとこれか」
そういうと執務室の壁を押し込んだ。
壁の一部がクルッと反転し、ボタンが出てくる。
「はぁ、この歳になると物忘れが激しくてこまるのだ。しばしまたれよ」
グラント将軍がボタンを押すと、さらに壁の一部がパカッと開き、中から金庫が出てきた。
そして、ダイヤル式の金庫をカタカタと合わせると、金庫の鍵が開いて扉が開く。
中には鍵が入っており、その鍵を取り出した。
「さて、ついて着なさい」
ネオはグラント将軍に促されるまま………彼の後をついていった。




