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NRCによる第二次制空戦闘準備の知らせ

 夜戦の翌日から、ルシアはネオをつけまわすようになっていた。

 元々、暇さえあれば追い掛け回すエルに加えて、もう1名増えたことになる。

 金魚のフンが2つに増えたことにネオはややしんどく感じるようになった。


 夜戦から2日後、ネオはグラント将軍に呼び出され、会議室に向かう。

 ルシアがコソコソついてきたが、グラント将軍が許可したので会議室にまで入ってきた。


「これは……」


 グラント将軍が見せた写真に、ネオは少々神妙な顔になった。


「NRC国内で内偵を続けている偵察部隊が捉えたものだ」


 そこに写されていたのは、ネオの知識からするとサーブ37ビゲンに類似する、シンプルなデルタ翼の航空機である。


 これまでのNRCの小型機と比較すると空力的に洗練され、一気に技術的には進んだ姿のものになっている。


「偵察部隊の報告では、NRC国内においては始めて音を超えた速度で飛行したと言われている。この戦闘機であれば、我々のサルヴァドールやベレンなどの撃破は容易であると……どう思うか?」


 グラント将軍は技術的知識に疎いため、ネオに尋ねた。


「エンジンの新造についての話はありますか?」


「いや、これはワシから見ても既存のエンジンを用いていると思うのだが」


「インテークがありませんからね……」


 ネオはグラント将軍と話ながら、ルシアのせいで話しにくいと感じていた。

 ジェットエンジンの単語を出したくなかったのだ。

 どうしてこの会合に彼女の参加も許可したのか、グラント将軍の考えが理解できない。


「エンジン出力的に、余裕で音速は超えますよ。エンジンよりも機体構造が保つかどうかだけで……音速の2倍を超えられてしまうと脅威でしょうね……」


「今の所、8機ほど少数生産されて試験が行われているという。問題は……NRCがこの状況に合わせ、第二次侵攻を画策している点だ。今回は前回の3倍もの勢力を、こちらに派遣するという」


 グラント将軍はさらに写真を追加した。

 そこには、戦闘準備中とみられる画像が見事にフレーム内におさめられている。


 小型戦闘機の開発など、思ったより対応が早かったなと思いつつも、ネオにとっては予想通りの展開であった。


 国力と数で勝る列強では必ずこちらと同じような思想を持つ技術者集団がおり、上層部がそれらに目を向けて資金や人員を注ぎ込めば、十分こういったものは開発できるとネオは認識していた。


 例えばコルドバの場合は、上層部が無能なのか技術者集団が頭だけで実行能力がないのか不明だが、プロペラ機すら実現できていない。

 

 しかし、NRCの場合は上層部の中にも優秀な者が少なからずいて、技術者集団もそれを生み出す技術力をもっているわけである。


「グラント、普通なら白旗ものだぞ。現状のコルドバですら対応不可能な数だ。だが、不思議なことにネオがいるレシフェなら、勝てそうだから困るな」


 それまで話をきいていただけのルシアは、その写真を見てNRCの本気度に引いていたが、一方でネオの実力ならどうにかできると考えていた。


「秘密兵器があるのだろう? ジェットエンジンというものが」


 ネオは目の前が真っ白になりそうなほど、血の気が引いた感覚を覚えた。

 彼女のいる前で、その話は一切しないように努めていたはずである。

 どうしてその名前が出てきたのか理解できない。


「そう顔色を悪くするでない。ネオ、我はな……軍人だ。戦士だ……確かに、我の目は片方使えない状態だが……左目の視力が悪いわけではない。読唇術というものさ……そなたの声が聞こえなくとも、そなたが非常に遠くでコソコソと会話する口の動きでわかった」


 ルシアは己の目の良さを誇りつつも、ネオのミスではないのだと優しげに応えた。


「コルドバの航空機関係の技術力を甘く見るなよ? ジェットエンジンについて技術者に詳細を確認したが、古代に存在したというタービン推力式エンジンだそうな。我らが製造できるかは別として、お前が言う頭でっかちな技術者は、我にそれがなんたるかを教えてくれたぞ」


 ネオは、ここではじめて彼女が参加した理由を理解した。

 彼女は頭の回転が極めて速く、また行動力もある。

 読唇術によってネオからジェットエンジンという単語を導き出した後は、すぐさまそれが何かを確認して理解するだけの力をもっていた。


「まあ、レシフェがそれを作っているとは技術者に思わせないよう、上手く誤魔化したがな。NRCに察知されるわけにもいかぬし、我としてもネオとは絶対に仲違いはしたくないのでな」


 ルシアは、あくまで自分だけが状況を理解しているのだと主張した。

 これまでの彼女の様子からして、それは嘘ではない可能性が極めて高いが、それでもコルドバの人間にレシフェの秘密兵器の一部の情報が漏れたのは事実である。


 ネオは、もうこれ以上の隠し事は不可能と判断した表情でグラント将軍を見る。


「ネオ。コルドバとは数百年間ずっと今のような関係を続けられている。また、彼らは他者や他国の誇りを尊重する思想をもつ国家で、ルシア様は口が堅い。コルドバとの共同戦線を考えても、師団の長たるルシア様には、それなりのことを話しても良いとワシは思う」


 グラント将軍は現状の状況では、ルシアとの隠し事はむしろマイナス面が大きいと、彼女のみ情報共有をすべきだとネオに促した。


「ルシア……ジェットエンジンは確かに開発中だ。だが、その開発はまだ道半ばで稼働中にタービンにクラックが入る原因を、今、流体力学のスペシャリスト達によって検証中。……計算よりも尋常でない極大負荷がタービンブレードにかかる。計算上では、すでに完成しているはずなんだがな」


「では、どうするのだ?」


 んんっ?とばかりにネオを優しげな表情で見つめるルシアは、ジェットエンジンとは別のものによって対応可能という、ネオの頭の中の思考を読み取っていた。


「グラント将軍には悪いけど、ジェットエンジン以外について知らないなら、まだ君には話せない」


 ネオには秘策がある。

 今、リヒター大将が大急ぎで戦艦ミナス・ジェライスと巡洋艦を改装中していて、その改装によって装備可能になる新装備である。


 地対空ミサイル。


 固体燃料式ロケットが完成した後、ダヴィ達と共に、ネオは地対空ミサイルを完成させていた。

 これは、先日ルシアが来る際に作ろうとしていた有線式空対空ミサイルではなく、巡航ミサイルと同じセミアクティブ式誘導型の装置を用いて発射するものである。


 これこそがレシフェの秘密兵器であり、例えNRCの戦闘機が音を超えたとて、艦隊や地上から捉えきれない超高高度を飛行したまま攻撃できるものでなければ、迎撃可能な力を持っている。


 超強力なレーザーを照射するため、天候をある程度無視してロックオンできるもので、

 高度3万m以上まで迎撃可能な中距離型と、高度1万5000m程度までの短距離型の2つをすでに完成させていた。


 コルドバに察知されないよう、これらは秘密裏に海軍工廠まで運び込まれ、運用試験を行う直前にまで到達していたのである。


「………グラント将軍。その写真の戦闘機は、恐らく低速状態でならばサルヴァドールやベレンで倒せます。翼の形状からいって、エネルギー損失率はかなり高いです。ですが、高速だと容易に倒されてしまうでしょう……戦闘力の決定的な差は、この小型戦闘機の武装がどのようなものかによって左右されます」


 ネオは、ミサイルについては結局話さなかった。

 ルシアはやや残念そうな顔をしたが、まだ出会って数日であり、彼女を信用しきる段階まで至っていないというのが理由である。


 グラント将軍は、ミサイルについてすでに把握しており、本来ならば一気に量産して首都の基地周辺にこれを展開したかったのだが、やはりコルドバがいる関係で展開できずにいた。

 

 将軍は、ネオが話すならミサイルについてコルドバに理解してもらった上で、レシフェ首都に配置できると思ったが、ネオが話さなかったことについて彼の性格から理解を示し、代替案を模索するしかないなと考えるようになった。


「将軍、そんな深刻そうな顔せんでください。彼らの侵攻は、また2週間先ぐらいの事なんでしょう?」


 ネオは、やや下を向いて黙っていたグラント将軍を見つめながら呟いた。


「いや、今回はもう少しかかるやもしれん。超大型機は出撃するだけでも事前準備の工程が多く、大変な代物だからな……2週間は最低あると見込んで、20日前後の余裕はあるはず……」


 グラントは自身の戦略眼によってNRCの第二次侵攻が20日後前後と予測した。

 それを聞いたネオは表情に少し余裕が出てくる。


「なんだ、じゃあ15機ばかり先にエンジン以外を作っちゃいますね。エンジン自体も各種パーツなどを量産して……本当はターボファンエンジンが欲しかったけど、今回はターボジェットでいくしかないでしょうが……アフターバーナーは完成しているんで何とかなります」


「それだけでどうにかなるのか? そんなに凄いのか」


 ルシアは自身の知識から、いくらジェット戦闘機が高性能であっても、超大型機90機を相手に戦うのは厳しいと理解しており、ネオに何か秘密兵器があることを看破していたが、


 ネオが秘密にしたいと思うものを暴くよりも、彼が快く秘密を共有してくれる仲になりたいと考え、あえてそこについては触れなかった。


 体を預ける程度では信用しないとなれば、こちらの人間性を認めてもらうしかないので、もっと積極的に彼とコミュニケーションをとろうと内心意気込むのだった。

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