夜戦
武器や兵装の開発チームと誘導兵器についての協議を行った後、夜になってしまったのでネオはルシアがいる第三宿舎に向かおうとすると、何と本人がガレージに迎えに来ていた。
それも一人でである。
ルシアは「そう身構えるな」と言いながらネオに着いてくるよう指示し、第三宿舎の士官階級でも、特に上の者しか使えない個室に案内した。
ネオが部屋内を見渡すと、テーブルには食事が並んでいる。
「夕食はまだであろう?」
そういって、ルシアはネオを食事に誘った。
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「初めて見たその瞬間から、レシフェの人間ではないと看破できた」
「その身なりは、状況によっては不利に働くぞ」
食事をして数分もしないうちに、ルシアはネオへ問いかけた。
「これは自分にとっての正装みたいなもんですから」
ネオは、自身の姿に拘りがあった。
この服装は己が所属する国家や組織のものであったが、レシフェを訪れてからも継続し、この衣服を纏っていたのである。
また、人種もレシフェの国民とは違っていたため、ルシアはすぐさま、ネオが皇帝が話していた人物であることを見抜いていた。
「姫様は、一体何の理由で自分みたいなつまらない人間を食事に誘ったんです?」
「食事に? いや、食事にも。だ」
「はい?」
ネオはルシアの言葉の意味が理解できなかった。
「単刀直入に言う。コルドバに来ないか。レシフェよりも、我が国の技術者の方が優秀だ。彼らはプロペラ機を見て、その特性などを掴んでいるぞ」
ルシアの言葉に、ネオはやや不快感を持つ。
「特性とは?」
「アレは音速を越えられぬ。ついでに、1万5000m以上の高さまで上がることができない――そうであろう?」
ルシアはネオを怒らせないよう、優しげな声質でレシプロ機の特性について主張した。
正解である。
コルドバの技術者は、レシフェの空軍基地を遠くから観察するだけで、レシプロエンジンとプロペラ機の弱点を見抜いていた。
「付近には、私以外おらぬ。そして、今の情報は機密事項だ。部下も知らん。どうなのだ? 実際」
クイッと果実酒を口に含ませながらルシアが呟く。
己の主張は、間違いなく当たっている確信をもっているかのような顔つきである。
「その通りです」
ネオの言葉にルシアはクスクスと笑いはじめる。
その笑い方は、それまでとうってかわって年齢相応の少女のようなものであった。
「ならば、レシフェに留まる理由もなかろう。我の下に来い」
ルシアはネオに対し、コルドバに来るよう求めた。
ヘッドハンティングである。
しかし、ネオはこの状況に惑わされなかった。
「確かに、貴方の国の技術者は、頭はいいかもしれない……でも、知識だけで頭でっかちな状況を、技術力があるとは言えません。本当に技術力があるなら、今日の時点でプロペラ機を持ってきて、見せ付けてきます……だから……答えはNOです」
ネオの言葉にルシアは一瞬キョトンとしたが、すぐさま笑い出した。
ネオの主張は、予算や軍の思想などの状況を鑑みない発言ではあった。
実際にコルドバの技術者が作ろうと思えば作れた可能性はある。
しかし、ネオにとって技術力とは、技術説得力という意味合いも含む。
「出来る!」というならば、ネオがトーラス2世に初めて謁見した時のように、その技術のモノを作って見せ付けて、レシフェでこれまでネオが行ってきたようにすればいいのである。
これが出来ない者は、知識があったとしても技術力があるなどとは言わない。
そういう意味では、レシフェの方が国王や将軍、そして技術員など、様々な理解者や支援者に支えられているので、コルドバより全ての面で優れており、だからこそレシフェの方が技術力があるのだとネオは考えている。
「あっはっはっはっ。気に入った。大変気に入った。我は絶対に、お前をコルドバに引き入れる」
ルシアはネオの様子を見て、ネオにさらに強く興味を抱いたのだった。
「食事が終わったら帰りますよ」
ネオはルシアとはこれ以上話す事もないし、仕事もあるということで帰宅の意思表示をする。
開発中のジェットエンジンは夜遅くまで必死に組み上げているので、自分一人、他国の皇女とお楽しみというわけにはいかない。
「帰れると思うのか?」
ルシアはニヤニヤとしながらネオを見つめる。
「知ってるかネオ。軍の宿舎というのはな、内側からも外側から開けられない形で鍵をかけられるのだ。外側から侵入やら何やらされても、どうにか出来るようにな」
そういってルシアはネオに鍵を見せつけ、その後で――
「鍵はここだぞ」
そういって胸の中に鍵を仕舞い込んだ。
ルシアは、ネオを夜の営みに強要してきたのだった。
「一国の将来を担う姫様が平民に体を預けるなど、国際問題になりますよ」
ネオは引き気味でルシアの要求を退けようとする。
「私は、有能で、強い志をもった実力ある男が好きだ。そういう者であれば、誰であっても構わぬ。まあ、経験があると言われても数回程度だが……階級や血縁など……衣も纏わぬ状況では関係が無い」
ルシアはそういいながら食事を終えると、上級士官用の個室風呂にゆっくりと向かっていく。
「エスパーニャで拘束された女兵士達は、今頃、それを無理やり理解させられる状況にあるだろうが、それは弱者だからだ。強者には常に選択権がある! 私が就寝した後で鍵を奪っていく愚か者の草食動物か、獣か、みせてもらおうか」
ルシアはパッパッと次々に衣服を脱ぐと、風呂へと向かっていった。
口には先ほど胸の中にしまった鍵をくわえている。
「この鍵は、貴様が私を満足させれば自然に落としてしまうことであろうな」
一旦鍵を手に持ち直した後で、そういって笑いながら風呂に向かいつつ、こちらに来るよう手招きしてきた。
ネオはしばし考え込んだ後、
「最後の一線だけ死守するならいいか……最近は、随分と女性と触れ合ってなくてご無沙汰だし」
と、風呂に向かっていった。
ただし服は脱がなかった。
ネオは、エルとある程度の交流があったが、エルとは特に関係をもっていなかった。
というか、彼女は若いというより幼い感覚がするのと、様々な場面で目にする状況から、ルシアと同等の何かと予想され、迂闊に手を出すと処刑されかねないと思ったからである。
とはいえ、別段、女性に対して奥手で何も出来ないような男ではなく、むしろ普段は理性を保てるだけの力があるが、やる時はヤるという羊の皮を被った獣であり、
女性を満足させるテクニックにもそれなりに自信があった。
ネオは「調子に乗ったお姫様は、風呂で勝負を決めてやる」と体を洗うだけで彼女を満足させるため、あえて服を着たまま第一回夜戦に突入したのだった。
腕や足をまくっただけで風呂に突入してきたネオを見てルシアは驚いたが、ネオは気にせず。
「丁寧に洗ってあげますよ」といってルシアを浴槽から出した。
その体は傷が無数にあり、火傷の跡も大量にある。
女性として出っ張る部分は非常にでっぱっている一方で、体自体は華奢で筋肉質ということもなく、無駄な肉がそがれつつも、男としては無駄だと思わない部分はきちんとあるといった非常に良いスタイルであった。
顔は信じられないほど美人だが、いくつか傷があり、右目を戦場で失ったようで眼帯をつけたままである。
髪は手入れに拘っていないのか、ボサボサのミディアムヘアーだった。
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「だめっネオ行くなっ! まだ私はっ!」
数十分後、部屋の中では鍵を手に入れて外に出ようとするネオを、必死に抱きしめて制止するルシアの姿があった。
ルシアは今まで感じたこともないぐらいの快楽を風呂内でネオによってもたらされ、風呂の時点でくわえていた鍵を放してしまったのであった。
ネオは危うく排水溝に鍵を落としてしまう所であったが、何とか鍵を手に入れることが出来た。
しかしルシアは満足できず、ベッドに来るようネオを説得する。
「いや……自分、忙しいんで」
ネオは触れただけで十分満足したので、仕事モードに戻っていたが、彼女の力がかなり強く、身動きが上手く取れないでいる。
「NRCごとき何とかするから、今日はここで寝ろっ。そ、そなたも疲れているはずっ……コ、コルドバの最強の師団がきているのだ、NRCがその状況で侵攻するわけがないっ」
ルシアは、あれこれ理由を作りながら何としてでも満足するまで話さない姿勢でネオを説得していた。
「そんなに言うなら、明日満足に動けない体にしてあげます」
はぁとため息をつくと、ネオは彼女を満足させてあげることとした。
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翌日、ネオはフラフラになりながら朝食のために食堂にきていた。
すでにダヴィやエル達が先にきており、ダヴィ達第七研究開発室の者達はルシアに徹底的にやられたなとばかりにニヤニヤしている一方、
エルはふーんといった表情でネオを見ていた。
「勝ったんだ」
エルはネオの表情から、ネオが圧勝したことを読み取っている。
ネオはそれに対してサムズアップで応える。
「マジかよっ」とダヴィ達は驚きを隠せないでいた。
そのまま、ネオ達はいつものように、食堂で食事をとっていると……ストンとネオの隣に誰かが腰掛けた。
ネオがそちらの方を振り向くと、顔を赤面させた眼帯の女性が座っている。
エルはその姿を見て、フフンと鼻息で笑った。
「き、昨日は取り乱したが……我は諦めたわけではないからなっ」
そういいながら、闘将は年齢相応の少女のようになっており、モジモジと恥ずかしそうにしながら、
ガツガツと横で食事を食べ始める。
食堂の椅子は長椅子だったので、他の者などが来ると振動するが、時たまそういった振動が来るとビクッと反応していた。
ネオは、何故彼女がわざわざ食堂にきて隣に座ったのか理解しかねていたが、エルはそのことについて悟ったような表情で楽しそうに食事を口に運んでいた。




