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試製巡航ミサイル(後編)

 レシフェ王国が見事に自国領土の防衛に成功した後、トーラス2世は南リコン大陸の同盟国同士の会議に出席し、事の状況を説明した。


 NRCと戦闘になった経緯や、戦闘結果、そして自国で古代のエンジンを復元に成功したこととなどである。


 同盟国はNRCへの全面戦争を辞さない立場を決議したことと、レシフェへの支援策を行った見返りとして、トーラス2世に回収した超大型機のエンジンをいくつか提供するよう要求した。


 トーラス2世は、この要求を快く受け入れ、支援を行った規模ごとに最大で15個のエンジンを提供することとした。


 大型機は6発ほどあれば十分である。

 少なくとも、ちょっとした軍事支援を行っただけで、大型機を新たに増備できるというのは、元来は破格の条件である。


 トーラス2世は、今後も同盟国同士の繋がりを強固のものとし、レシフェとの友好性を強調する目的も含め、あえて大盤振る舞いをしたが、当然、今後の南リコン大陸のためということは同盟国の長の者達にも説明していた。


 回収したエンジンで稼動可能なものは全部で194個あったが、そのうちの90個をそれぞれの同盟国に提供することとなった。


 同盟国の者達は、トーラス2世が気前良くエンジンを提供したことに驚きを隠せないでいた。

 当然、トーラス2世としては、この得体の知れないエンジンよりもレシプロエンジンや今開発中のジェットエンジンの方に期待を寄せていたからであったが、


 同盟国の者たちは、彼らからしたら不気味すぎるプロペラ機について、未だに懐疑的で、そちらの方よりもこの謎のエンジンの方がよっぽど価値があると考えていたのである。


 ジェットエンジンについてはレシフェ最重要機密となっており、知らなかった。


 同盟国とは国交があるため、技術者や空軍の軍人を基地近くに派遣して様子を探らせていたが、技術者をして「どうして飛行しているのか理解できない」と、仮にエンジンを手に入れても満足に飛ばすことが出来ないというのも、レシプロエンジンを求めぬ大きな理由となっていた。


 また、戦略や戦術を構築する空軍の軍人達も、アースフィアの状況から小型機を新造する意味について理解しかねていたという部分もある。


 ただし、これらはNRCと戦う前の状況の話であるため、空軍の軍人は今回の戦闘結果から、小型戦闘機について考えを改める傾向にあった。


~~~~~~~~~~~~~~~


 NRCの撃退成功から数日後、トーラス2世は国民に対して緊急放送を行い、事の次第を説明した上で今後についての演説をとりおこなった。


 これらはTVによって放送されていたが、国際放送となっておりNRCも受信が可能なものである。


 内容としては、エスパーニャの出兵への謝意と、NRCの撃破の成功であるが、

 レシフェ国民は、すでにNRCを壊滅に追いやったことをある程度認知していた。


 特にトーラス2世が拘ったのはエスパーニャ出兵の理由である。

 エスパーニャに突如侵攻したNRCは南リコン大陸の国々も、視野に入れた軍事行動であった。

 

 そのためにエスパーニャに後方支援を目的に出兵させ、首都で活動を開始しようとした所でやられたが、現時点でもエスパーニャは抵抗を続けており、NRC傘下に入ったわけでもない。


 よって、NRCの行動は完全な侵略行為であるにも関わらず、先制攻撃を仕掛けようとした自衛という名目でレシフェに侵攻したことについて、怒りを見せていた。


 トーラス2世は、あえて本来は公開しないNRCの請求が書かれた公文書も公開したのだった。


 エスパーニャ出兵の件については噂レベルのものであったが、トーラス2世の演説により完全に認められた形になる。


 NRCはすでに処刑を慣行しており、おぞましいまでの数の兵士が死亡していて、

 その報告がエスパーニャで偵察を続けている偵察部隊より報告がきていたが、大半の遺族は、皆、トーラス2世に復讐を希望した。


 トーラス2世は戦力が整い次第、南リコン大陸の同盟国総出でエスパーニャに再出兵することを最後に宣言し、演説を締めくくった。


~~~~~~~~~~~~~~~


 トーラス2世の演説から7日後、ネオによってリヒター大将が航空工廠に招かれていた。


「何やら見せたいものがあるそうだが、私の期待に応えてくれるものかね?」


 リヒターはトコトコとネオについてきつつも、期待を寄せながら軽い足取りで歩んでいった。

 航空工廠の、厳重にシャッターなどで管理される区画についたリヒター大将は、あるものをみせられるのだった。


「む? なんだこれは。超小型潜水艦……いや魚雷?」


 リヒターは、その物体の形状から魚雷に類似していることに気づく。


「こいつは空中魚雷っすよ。古代では巡航ミサイルっていってましたがね」


 ダヴィの突然の登場によりリヒターは驚いて妙な反応をしてしまった。

 あわてて姿勢を戻し、再び巡航ミサイルを見つめる。


「巡航ミサイル……これが……」


 リヒター大将は、名前でしか聞いたことがなかった巡航ミサイルの復元に成功したことに、喜びを隠せないでいた。


 しかし、すぐさまその存在について疑問が沸く。


「まてまてまて……順番が違うのではないか? お前達。航空機はどうした」


 ジェット戦闘機を作っているはずのネオ達が、なぜか海軍戦力向けの巡航ミサイルを開発していたことに、リヒターは疑問をもったのだった。


「航空機のためのターボファンエンジンの実証用です。ターボファンは一応形だけ完成したんですが、戦闘機に搭載させるまでに至ってません。エンジンだけ適当な胴体被せて飛ばしても勿体ないんで、こういう形式にしました」


ネオは、未だにジェットエンジンが満足なものになっていない事を、タメ息交じりにリヒター大将に説明した。


 ネオが必要としているターボファンエンジンは、アフターバーナーなども付属しており、最大推力は1つのエンジンにつき200knという凄まじいものであった。


 風洞実験用の1/1モックアップが組み立て中で、模型によって風洞実験が繰り返されている、このエンジンを搭載予定の胴体の構造重量的には、160kn程度の推力で十分ではあったが、ネオは高い要求を掲げていたのだった。


 現状で何とか作れたターボファンエンジンは、アフターバーナーなども搭載できず、最大推力も、とうていネオが満足できるものではない。

 

 そもそも、大型化もできておらず構造も非常に簡易的なものである。

 だが、推力比的に十分音速超えが可能な代物である。

 高バイパス比ターボファンエンジンのため、最大速度はアフターバーナー無しでも、意外に高いのだ。


「こいつには俺が作った慣性航法装置が積んであります」


 ネオが合図するとダヴィは予備の慣性航法装置をゴロゴロと台車で転がしてきてリヒターに見せる。


「これによって無人で指定した大体の場所まで飛びます。それもある程度の自動操縦が可能です」


 ネオがリヒターに説明しようとしたのは、つまり回収が容易な海上ならばエンジンの実証実験などを兼ねた総合試験を安全に無人で行えるであろうということである。

 

「最初にギークを作った時、正直無人で飛ばしたかった。ですが、状況が状況で不可能でした。ジェットエンジンの場合は出力がケタ違いなので、いきなり本番ではテストパイロットを殺しかねないのと……まだ戦闘機に搭載できるところまで至ってません。巡航ミサイルは、元々コスト削減の目的でかなり簡易的なターボファンエンジンを用いているものなのですが、とにかくそれが丁度良かった」


「ようは、これをテスト飛行させたいわけだな?」


 リヒター大将はニヤけ顔である。

 海軍にとっては非常に強力な新装備となるのは間違いなく、過去潜水艦にも搭載された事例などがあることから、潜水艦などに搭載して実験してみたいと思っていた。


 それはつまり、王国海軍が潜水艦でNRCの本土を攻撃可能である……ということを意味している。


「爆薬も装填してるんで、どうせなら標的にぶつけて威力も試したいです」


「つったって、実戦じゃ使えませんがねぇ」


 ダヴィの横槍に、リヒター大将は首をかしげる。


「量産が出来ないのか? 命中率の問題か?」


「万が一不発弾になったら、ジェットエンジンの技術が敵に伝わっちまいます。戦術的優位性の高い兵器なのにも関わらず、現状では使用不能に近いんすよ」


 完成した試作の巡航ミサイルは、誘導兵器の確立など、様々な部分での実験目的として有用で、時代が時代なら、すぐさま配備されうる存在であるのだが、


 用いているのがジェットエンジンな関係で、実戦に使うわけにはいかなかった。

 それでも、ネオは今後を見据えて、これを何かに命中させたかったのである。


「ちなみに音速超えも狙います。いろんな意味で貴重な情報を俺達に与えてくれるはずです。もちろん、巡航ミサイルですし、海上で使いたいんで……リヒター大将。運用試験をお願いできますね?」


「当然だとも! すぐにとりかかろうではないか!」


 リヒター大将は、すぐさま実証実験を行うことに賛同した。

 

「発射する艦船の改装などもあるが、任せてくれぃ」


 大船に乗ったつもりで大丈夫とばかりに、リヒター大将は胸を張った。

 リヒターはこれは海軍将校達にいい土産になると再び軽い足取りでガレージを後にした。

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