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勝利と損害(前編)

後編もあります。

少々遅れます。

 北部の航空基地に一行が到着すると、サルヴァドールの部隊は英雄扱いされた。

 王国海軍より、すでに王国空軍基地へは勝利の報告が届いていたのだった。


 幹部達は、信じられないといった姿で帰還した戦士達を称えていた。


 着陸したサルヴァドールは全33機。

 どれもこれも被弾しており、機体に刻まれた弾痕が、凄まじい戦場であったことを物語っているが、全ての隊員が軽症すら負わず無傷であった。


 サルヴァドールの防弾ガラスと操縦席周辺の装甲が、完全に機能していたことを意味する。

 レンゲルやサントスはネオに感謝の言葉を伝えたが、ネオはこれは君達の勝利だからとやや恥ずかしがった。



~~~~~~~~~~~~~


 翌日、両軍の損害状況が判明した。

 敵の超大型機は全機撃墜と判断されていたが、一機のみ帰還に成功したことが、王国空軍の偵察部隊の報告により明らかになった。


 また、偵察部隊によりエスパーニャ首都にいる王国空軍の者たちが近日中に処刑されることが明らかになった。


 NRCによる報復であると思われるが、これもどうすることも出来ず喪失という判断を下すしかなかった。


 レシフェ王国空軍は超大型機を1機喪失したが、ここにはなんと1800名もの王国空軍兵士が乗せられており、こちらも全滅。


 王国海軍が墜落した残骸に救助に向かったが、1000名以上の遺体しか収容できなかった。


 一方、もう1機は何とか帰還に成功するものの、攻撃を受けた被害により同じく1800名のうち412名が死亡し、200名以上の重傷者を出していた。


 この超大型機も、ほぼ大破に近い状態であり、修理不能という判定であった。


 レシフェが保有する超大型機は、イアンサンのみになったという事となる。

 

 王国海軍は、自軍の超大型機以外にも不時着した超大型機の残骸や人員を回収しており、総勢4211名を捕虜とした。


 特に、超大型機から無事なエンジンを190個以上も回収できたのは、レシフェにとって大きな戦果である。 


 超大型機以外にはベレンにも被害が出ていることが確認された。

 どこで撃墜されたかは不明だが、ベレンは24機のうち4機が未帰還となった。


 そのうち2機は、攻撃を受けて炎上していたのを目撃した者がおり、超大型機の対空機銃を受けて墜落したと思われる。


 サルヴァドールが全機無事であった一方、ベレンの部隊は少なくない被害を受けていた。


 ネオは自身が助けた女性パイロットが無事か確認をとったが、こちらは、無事にサン・パウロまで帰還に成功しており、実は彼女を助けた時点ですでに4機を喪失しており、彼女も編隊に戻ってこなかったので被害は5機だと当初思われていたことが明らかとなった。


 どうも一旦上昇した彼女だったが、隊長機を見つけることができず燃料も心もとなくなったためにサン・パウロに単独で帰還したらしい。


 ただし、サン・パウロに帰還したのは一番最後であったため、彼女よりも先にベレンの部隊は戦線を離脱していた。

 

 ネオはベレンの装甲が心もとないのは理解していたが、対空機関砲の弾幕がベレンの運動性を無視するほどに凶悪なものであることにショックを受けた。


 ベレン自体は理想の戦闘機に近いとはいえ、小型機同士の空対空戦闘でしかその能力を十分に発揮できていなかった。


 ベレンの部隊は、超大型機に艦載された小型機を何機も倒しており、サルヴァドールと異なりそちらで大きな戦果をあげていた一方で、超大型機によって4機も落とされたことになる。


 対策をとられれば、今後この被害は増える可能性が高いことが予測された。


 ネオが助けたことで、小型の迎撃機に撃墜された機体はなかったのがせめてもの救いであったが、保有エネルギーを喪失すれば、現状の小型機で十分に撃墜可能であることもネオにとってはショックだった。


 後日、ネオはベレンの部隊に展開するべき戦術を見誤ったことを謝罪しようとしたが、北部基地に訪れていたグラント将軍から「全ての者は勇敢に戦ったのだからやめなさい」と制止され、


 その上で――


「今日の戦訓を次に繋げるよう努力すればいい。誰も君を責めたりはしない」


 そういって落ち込むネオをなだめた。


~~~~~~~~~~~~~~


 一方、こちらはNRCの最南端の空軍基地。

 唯一帰還した12番艦の指揮官に対して、基地指令による尋問が行われていた。


「それで? 《ダグラス》艦長。 君は、報告書の通りの状況をその眼で見た……と」


「はい。見ました」


 背を丸めたダグラスは指令に応える。


「私が知る限り、風車が付いた航空機など、ろくに速度が出せないものだと聞いている。そもそもだ。君の部隊の者が撮影した姿の機体が、どうして空が飛べるというのだ」


 基地指令は12番艦の観測員が捕らえた写真を机に投げつけた。

 そこにはサルヴァドールの姿が映し出されている。


「私の基地の技術者は皆、風車が機体の前方についている姿をありえないと言っていた。機体の後部ではなく真正面だぞ。どんなカラクリだ」


 NRCは、ロストテクノロジー化したことによって、プロペラ機についてきちんと認知できていなかった。


 彼の基地にいる技術者は、プロペラ推進式でなければ前に進めないと主張し、12番艦の観測員が撮影したものは捏造とばかりに否定してきたのである。


「ダグラス大佐。私も優秀な君を軍法会議にかけたくはない。……だが、我々には君を擁護できる知識がないのだ。こんなものが800kmで降下してきて、20mm波動連弾を4門も装備していて、写真の通りでは10発も250kg爆弾を背負っていただと……一体なんだこれは」


「ですが現実に……我が軍の超大型機が29機全滅したのです」


 ダグラス大佐は、声を震わせながら指令に対して事実をつきつける。


「わかっている。本部は大パニックだ。報告書では、レシフェはエンジンの新造に成功したのではないかとあるが、偵察部隊も似たような話をもってきている。しかし、風車で800kmで飛ぶなど……どんな魔法のエンジンだ」


 自身の部隊を派遣したわけではない基地指令は、若干他人事な第三者的な態度をとっているものの、状況が切迫していることについては理解していた。


 精神的に参っているダグラスから情報を聞き出し、戦略構築のための糸口を探ろうとしているのだった。


「敵は降下してきたので、実際の速度は不明です。ですが700km近くは水平でも出していたと――」


 観測員の報告から、ダグラス大佐はレシフェの航空機が水平を保ったままでも、700km前後の速度を発揮していることに気づいていた。


「我々が持つ小型機は、最高でも水平570kmだぞ。それを超えるかッ! 笑うしかないな!」


 基地指令は、乾いた笑いでダグラス大佐を見る。

 ダグラス大佐が嘘を言っているというよりも、まだ、これが現実に起こったことであるという理解をしたくないような様子である。


「得体の知れない新造エンジンで700km前後で水平飛行して、250kg爆弾を10発以上積載して、20mm波動連弾4門装備。……そりゃ、我らの最高戦力といえど落ちるだろうな」


「思うに、胴体の空力がものすごく精練されたものである可能性があります。小型機でそんな重装備をしながら、かなりの運動性でした」


 ダグラスは自身のもつ知識と部下などの話から、ベレンとサルヴァドーレについてかなりの予測が出来ていた。


「ほぉう。それで我らはどう対抗すべきだと思うかね。私が思うに、エンジンの技術を盗むか何かするかしかないと思うが……何と笑えないことにレシフェにいた偵察部隊が全て拘束されたのだ。どうやら、敵はあえて情報を知らせるために偵察行動を見逃していたらしい」


「なんですと!?」


 ダグラスは驚きのあまりバランスを崩した。

 普段はそのようなことはないが、連日の部隊行動などによる寝不足の影響が残っていたためである。

 

「元々、民族や文化が違うのでな……現地での潜伏行動は無茶があった。我が軍の上層部が、どう落とし前をつける気か知らんが、エスパーニャで拘束中のレシフェ王国軍の兵士を処刑させるらしい。それで、レシフェに火がついたらどうなるか理解が出来んというのだ」


 それまで立ち上がって話をしていた基地指令は、呆れた顔をしながらため息を吐き、執務室の椅子に着席した。


「なんと破廉恥な!」


 ダグラスの大声は、執務室のありとあらゆるガラスを響かせる。


「だが、それが我々のやり方だ。私も当然気に入っていないが、そうやって、我々はずっと勝ち続けてきた。本来なら、弱小国なのだから、火がついたとしても、後4回ほど今回と同じ規模の部隊を派遣すれば勝てると考えるであろうし、今までの私であったならばそう思うことだろう。……だが、今のレシフェは違う。上層部にはそれがわからん。最後に偵察部隊が送って来た報告では、件の機体は1週間に50機のペースで増えるという」


「50機……」


ダグラス大佐は青ざめ、基地指令も力が抜けたような表情になる。


「そぉだ。2週間野放しにすれば、今回壊滅させた敵集団の3倍の戦力をレシフェは持つことになる。これが南リコンの同盟国総出で行われたら……」


 基地指令はたまらなくなり、葉巻に火をつけた。

 口元が寂しくなったというよりは、煙草で気を紛らわせたいという思いが強くなったためである。


「NRCは負けます」


「レシフェが、エスパーニャに再び進軍されるだけでも大変なことになるであろうな。何か策はあるかね?」


 基地指令は、地獄を見たダグラス大佐に名案はないか尋ねる。

 元々、基地指令はダグラス大佐が知識に富む男であり、先見の明がある優秀な指揮官として理解していた。


 その上で戦場を体感したからこそ、より何か発想が生まれるのではないかと考えていた。


「大型機からエンジンを抜き取って小型機を開発することです。それも、空力的に洗練され、高いエンジン出力をもったものに……NRCの小型機研究開発部門の中に1つ、かねてより私が興味を抱いている者たちがおります」


 ダグラス大佐から出た言葉に、基地指令は眉をひそめた。


「あの、音の3倍の速度で航行するとかいうモンを作れるとかヌカしてたバカ共か? やつら、一体いくつの貴重なエンジンを無駄にしてきたと――」


「彼らは古代に存在した戦闘機を復元しようと試みています。 それぐらいの戦闘力に近づけるモノを生み出さねばレシフェには勝てません」


 ダグラスの目を見た基地指令は、澄み切った眼からダグラス大佐が本気であることを理解した。

 この状況で尚、生気を失わないダグラス指令の精神力に関心した基地指令は――


「いいだろう。私が持つ権限と人脈を利用し、貴様の配下にやつらを加えてやる。 レシフェ王国空軍を迎撃できうる航空部隊を編成してみせろ! 軍法会議については、何とかしてみせよう」


 基地指令の言葉に、ダグラスはビシッと敬礼し、恩情にただただ感謝するのだった。

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