流体力学こそ航空機の基礎 前編
トーラス2世はすぐさまグラント将軍の所へネオを伴って向かいつつ、道中でネオに必要となる人材を伺った。
ネオはトーラス2世に対し、レシフェ王国の農商務省で風力発電機器の開発を行っている開発チームのメンバーと、
水力発電の開発を行っているチームメンバー、
そして、航空機のオーバーホールを行っている王国空軍の航空工廠の人員と、施設の自由な利用を所望した。
トーラス2世は、「呼べる者は大至急呼び出す」とネオに伝え、現時点で王が持つ権限で最大限できうる助力をネオに施すことにした。
ネオが話す航空機について、絶大なる説得力があったのである。
トーラス2世は父より、「こういった時は自身も幻想に浸り、踊る方が良い」と教えられていた。
その教えを守り、幻想を現実化できると考えたのだ。
レシフェ首都にある王国空軍基地に着くと、トーラス2世はグラント将軍にネオを紹介し、ことのいきさつを説明した。
グラント将軍は当初こそネオを疑っていたものの、トーラス2世の説得とネオの話により、この話に乗ることとした。
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「しっかし、航空戦力の9割を損失とは……出兵時に疑問に感じなかったんですかぁ将軍」
トーラス2世が他の人員を探す間、ネオは基地にある航空工廠の中でグラント将軍と二人きりであった。
航空工廠では修理する航空機も何もないため、人員は第三次警戒態勢で休暇中であったのだった。
そんな中で、グラント将軍の将官としての能力を見定めるため、質問を投げかけたのだ。
ネオにとって、ろくに戦略も練ることが出来ない者が将であると、全てが水の泡と帰すからである。
いくら航空戦力を再び生み出すことが出来たとしても、ネオは軍人ではないため、
レシフェの存続はグラント将軍の力量にかかっているのだ。
「ネオ君。あの時、ワシに決定権は無かったのだ。王国空軍の戦略決定権は、王国軍総括本部の元帥である《ロバート・リー元帥》にあったのだ。……まぁ、ヤツは今回の件で、しばらく身動きは取れんがね」
グラント将軍はニカッと笑う。
ロバート・リー元帥との関係は不明だが、あまり仲は良くないようだとネオは感じた。
「君の目の前にいる壮年に入った男は、終始反対の姿勢で部下を守ろうとしたが、結果的に空軍兵だけで全体の3割もの人的損失を被ったのだ」
「あの局面、将軍ならどうしました?」
ネオはグラント将軍の戦略眼を確かめる。
その口調は先ほどまでと変わり、目上の者として認識したものとなっていた。
「航空戦力は半数は最低残す。出兵させた航空戦力の1/3がすぐに消耗しようものなら撤退であろうな」
グラント将軍のその言葉から、ネオはロバート元帥よりグラント将軍の方が優れているのではないかと考えた。
トーラス2世は、ロバート元帥を将軍の中の将軍と呼び、グラント将軍はただの武人の長であると評価していたが、
ネオにとって、9割もの航空戦力を出そう者が優秀であるとは、自身の知識からして否定的な見解をもっていた。
「ネオ君。君は陛下に1ヵ月半にNRCを撃退できうる戦力を整えるというが、具体的にはどうするというのだ? ワシがもつ王国空軍は、一軍をエスパーニャに出兵させられてしまった。よって、今王国空軍に残されたのは、ワシを含めてエースより1ランクも2ランクも落ちる者たちだ」
グラントはネオに問いかける。
ネオが幻想を語っているわけではないものの、まだ完全に信用はしきっていない。
「連中が軍用に用いる航空機は大型機ばかり。それも航空力学的には酷い産物を、理解できないような仕組みの超強力なエンジンでもって空に飛ばしている」
「エンジンは貴重なのだ。もう作れん……君は作れるといったが、それはワシ達が知るものとは違うものなのか?」
ネオの言葉にグラントは疑問をもった。
トーラス2世はネオを紹介する際に、彼は航空機エンジンを作れると言っていたからだ。
「俺が作れるのは、大きく分けて3種類のエンジンです。この世界にある航空機エンジンは、その3種類のうち、1種に極めて近い性質があるけども、航続距離が信じられないほど長い……今回はこの2種を用いて撃退します」
「そのエンジンというのは?」
「それは専門家が来てから説明します。将軍もそこに参加して下さい」
「今の時点で1つだけ聞きたいが、飛べるのだな?」
「飛べます。連中が使う大型機のいる高さまでは確実に」
「違う種類のエンジンでもって、やつらが基本的にとる高度4000mまでは、最低限飛んで撃破せしうる航空機を作る……と判断して良いのだな?」
グラント将軍のその言葉に、ネオはグラント将軍が十分なキレ者であることを理解した。
将軍は、すでに頭の中で戦略と戦術の構築が始まっているのだろうと判断する。
「その通りです将軍。戦略と戦術と航空機を操縦する人員の選定は任せますが、どういうものを作りたいのかだけは、人員が集まってから聞いて欲しい」
ネオは先走る将軍を抑えつつ、現状で教えられる限りのことを教えた。
技術的な話をしてもいいのだが、それだと2回説明するハメになるし、グラント将軍にそこまでの理解力があるかはわからない。
将軍に対して説明している間に航空工廠の者たちなども集まってきてグダグダになるのも嫌だったので待ってもらうこととしたのだ。