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決戦前夜(後半)

 翌日のトーラス2世の視察は見事に成功した。

 異様なまでの高音を奏でるジェットエンジンを前にして、トーラス2世は人の叫び声のようだと引き気味であったが、


 実証用の、小型でありながら尋常でない推力を発生させているソレに感動を覚えられずにはいられなかった。


 ネオは、さらにトーラス2世達に最終的に開発予定のジェット戦闘機のイラストを見せた。


 その戦闘機は双発型で、クリップドデルタ翼型である。

 真上から見ると水平尾翼と主翼が一体化しているように見えるものの、水平尾翼はきちんと可動するとネオは主張した。


 やや上半角がついた垂直尾翼を備え、全体的には空力を極め、機体全体が薄っぺらく、正面から見ると非常に流麗である。


 胴体開発班によって、すでにモックアップの開発が着々と進んでいるが、胴体開発班をして「翼も胴体も見事に計算された芸術品」と呼ぶ程、精練されたものであった。

 

 小型の模型による風洞実験では、胴体開発班も舌を唸らすほどの結果を示していた。


 その時である。

 グラント将軍が「む…これは……」と妙な反応を見せたことを、ネオは見逃さなかった。

 グラント将軍が、一体どうしてこの姿について反応を見せたかはわからないが、これと似たような何かを見たことがあるのは間違いない。


 ネオはそれを頭の中に刻みつつも、その時は追求しないでおくこととした。


「問題はエンジンです。いいですか、かつて古代に存在した戦闘機は、胴体や翼の出来は至高と開発チームが主張しつつも、実戦での評価が極めて低いものが多々ありましたが、原因は90%以上がエンジン出力の不足で、開発時にエンジンを換装したことで試作機の評価が上がったものもあれば、実戦に参加した後に新たなエンジンに換装して真逆の評価となったものもあります。 こいつを支えうるターボファンエンジンが作れなければ、パワーが足りずに欠陥機となってしまう」


 新型機はネオによって構造部材も吟味され、軽量化についてもなるべくなされるよう調整されてはいたが、全ては、ターボファンエンジンによる余裕をもった出力を持ってこそのものであり、当初よりターボジェットエンジンは代替措置としか考えていなかった。


「もう1つの問題が武装です。古代には、誘導兵器という存在がありました。およそ音速の2倍から3倍で飛び、敵まで勝手に動いて命中する魔法のような弾丸です」


「ネオよ。貴君は波動連弾はどうれんだんなどのメーカーの開発者を集めたと聞くが、良い結果を得られておらぬのか?」


 これまでになく顔を曇らせるネオを心配し、トーラス2世が問いかけた。


「それを誘導させて操作する方法は、古代では電波です……大気中に電磁波の類を飛ばして信号を送るのですが、電波が飛ばせません。リヒター大将などが認知しているレーダーなどの装置も、ルークなどを作る傍ら、これまでに簡易的なものをいくつも試作しましたが、全く使い物になりません」


「陛下。音波探知機ならば、潜水艇などを発見するため、現在でも使用可能で技術もありますが、電波探知機は、いつの日からか突然使用不能になり、現在ではその存在が完全に消滅しております。ネオ殿すら、その復元には至っておらぬ程の環境変化が、アースフィアにて起こったのです」


 リヒターがネオの説明を補足したことで、トーラス2世もようやく状況を理解してきた。


「誘導兵器というのは、既存のコンピューター……過去存在した最終戦争で消滅してから随分性能が下がったと言われる代物でもどうにかなるのか?」


 トーラス2世はネオに対し、既存のコンピューターでも電波が通れば実現可能かのかと質問した。

 最終戦争によってアースフィアに起こった変化からなのか、コンピューターの性能もかつてより大幅に劣化していた。


 地球換算で1990年代初頭程度である。


「そちらについては問題ありません。現段階での航空工廠にあるスーパーコンピューターは、私が認知する代物より随分劣化してはおりますが、自分が理想とするだけのものを作れるだけの計算が可能です。ただ、コンピューターの性能が劣化した原因も、この電磁波の関係があると思います。集積回路の周波数を高くすることが出来ないだけで、この世界のCPU、演算装置の品質は自分が知る限りの時代とは変わらんのです。ようは、計算速度を上げることが出来ないだけなんですよ」


 ネオは、原因は不明ながらも電波の影響がコンピューターの演算速度にまで及んでいることを説明した。


 アースフィアのコンピューターは、ロストテクノロジー化して劣化したというよりかは、

 既存のものがそのまま開発できる状態ながらも性能を向上させられず、リミッターがかかったような状況となっていただけであったのである。


 有線で繋がっているものであるとはいえ、演算装置の演算処理速度を狂わせたり低下させる要因があったのだった。


「ベレンやサルヴァドールには、フライバイワイヤーは搭載されておりません。しかし、次期戦闘機はこれらも搭載した真の戦闘機となるでしょう。あわせて、誘導兵器はなんとしてでも実現しようと思います。ともかく、現状では時間を下さい」


 ネオは、その件については時間が必要として、まずは戦闘機自体の完成の方を急ぐこととした。

 普段ならば会議はここで終了するが、今回は技術者だけ作業に戻らせた後、ネオを交えて戦略会議へと移行した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「よいか、空軍や同盟国の働きによって、NRCは予定通り、東の航路をとることが確定的となった」

「同盟国達はNRCが西側の平和の海を侵すならば、南リコン大陸連合による全面戦争へと至ると全会一致で決議し、NRCに2日前に通達したばかり。NRCはこれに対し、今回はレシフェだけの問題であると回答してきたのだ」


 トーラス2世はネオ達に決議書の複製を配布し、同盟国と最低限の協力体制を敷けたことと、NRCが予定通り東の進路から進軍してくることを説明した。


「サン・パウロはベレン24機がすでに配備済み。すでに着艦と発艦訓練などを艦上で行っており、いつでも出航準備は完了。巡洋艦艦隊は西側に31隻を配備し警戒中。残った戦艦ミナス・ジェライスを旗艦とし、護衛艦隊も出港準備を完了しており、やつらが来るであろう場所までは3日以内に展開完了の予定です」


 レシフェ周辺の地図に、リヒター大将が模型を使いながら説明を行う。

 ベレンとサルヴァドールは、他の地域の航空工廠での量産によって、それぞれ33機ずつ量産が完了していた。


 パイロット候補で訓練を受けていたものは55名だったが、より増えるということで事前に急遽15名が新たに選抜されて訓練を受けていた。


 しかし、小型といえどサン・パウロに同時に搭載可能な数は24機であり、残った9機は最も海に近い空軍基地にて戦闘配備が完了している。

この9名は、全て新たに選抜されたパイロット達である。


「サルヴァドールの部隊は、中隊を2つ作り、15機のみまだこちらにて待機させております。18機は北部の基地にて配備しておりますが、15機は万が一西側から来た場合への保険です」


 サルヴァドールもベレンの部隊と同様に新たに選抜された者が優先的に首都に残されている。

 ただし、人数上の問題でミックスする形となっている。


「サルヴァドールには250kg無誘導爆弾を翼面に12個搭載。やつらに痛い一撃を食らわせてやります」


「うむ」


 グラント将軍の説明に対し、トーラス2世は相槌を打つ。

 すでに最終通告から8日が経過し、残りは5日あるかないか。

 迎撃体制はほぼ整っていた。


「皆の者。ここからが正念場だ。NRCは、今回は戦争の開戦ではないと言い切っている。 南リコン同盟に今回の目的として通達してきたのは、エスパーニャ出兵の件で先制攻撃を行おうとしたことへの自衛行為だそうだ。恐らくNRCは、この攻撃で全てが終わると思っているようだが、その慢心が身を滅ぼすことを教えてやれ。レシフェの誇りを見せつけてやろうではないか!」


 トーラス2世の発言に対し、皆一様に「おおおっ」と掛け声をあげた。

 ネオは、自身も出撃する件についてはグラント将軍からも口止めされており説明しなかったが、トーラス2世は、その表情からネオも戦いに赴くのではないかと何となく予想していた。


~~~~~~~~~~~~~~


 3日後、陸軍出兵部隊や空軍内偵偵察部隊により、NRCが予定通り約30機の編隊で東側から進軍しているという報告がきた。


 超大型機の航行速度から交戦は翌日。

 いよいよ決戦前夜となる。


 ネオはルクレールで出撃することとした。

 正式採用機がサルヴァドールと呼ばれた後も、パイロット達は試作機を愛着をもってルークとルクレールと呼んでくれていたが、ネオもこの名前を気に入っていた。


 ルークは首都の航空工廠に残す一方、ルクレールは量産された33機とは別に1機追加する形で参戦する。


 首都の航空工廠では、15機のサルヴァドールが北部への移動のために調整を受けており、明朝までに北部で移動するが、ネオも武装を施したルクレールで同行する。


 ただし、ルクレールには爆装をするための装置がないため、武装は20mm波動連弾はどうれんだん×4門のみである。

 弾頭は波動榴弾であり、弾速と相まってすさまじい威力を発揮する。

 これを各門350発の合計1400発を保有するが、毎分1500発という連射速度によって、連射するとすぐ撃ちつくしてしまう。


 これだけでも超大型機を攻撃するには十分な威力であったが、NRCが小型迎撃機を超大型機内に配備していた場合の対策としての意味合いが強い。


「ネオ君。隊長機は別にいるが、君も状況次第で指揮をとってくれ」


 離陸準備のための最終調整を手伝うネオの前にグラント将軍が現れ、伝えた。


「将軍。各部隊へは、自分の指示通り高度6000m~7000mを維持して敵を見つけて交戦するよう、別の基地にいる連中にも、今一度伝えてください。とにかく相手より高度をとって」


「部下達もわかっておるだろうが、伝えておこう。よいか、上に上がると通信方法は信号のみ。君が知る古代の空戦とは違うので気をつけてくれい!」


 グラント将軍はネオにそう伝えると、これから戦地へと赴く部下を一人一人鼓舞するために去っていった。


 彼は、年齢も年齢であるが航空機の操縦が出来ない大型機の指揮官育ちであるため、出来ることといえばそれぐらいなのだ。


「ネオ……本当に行くの?」


 少女の声が聞こえる。

 心配そうな顔をしながらエルが近づいてきた。


「ダヴィの合流によって、万が一俺が死んでもジェットエンジンは完成する。俺がやれることは――」


「ネオには、やらなきゃいけないことがあるんだよっ!」


 エルの突然の叫びにネオは驚き、すぐさま言葉を返すことが出来なかった。


「……何が?」


「ネオは、この世界で大いなる意思をもってエンジンを復活させた。それは、その後を導き、見守る責任も負うということ」


 エルはまるで自分に言い聞かせているかのようにネオに呟いた。

 その姿をネオは真剣な眼差しで見つめる。


「だからこそだ。戦場で1度でも状況をみなければ、今後、戦闘機を作るなんて、俺には出来ない」

「それに、空戦でお前に勝ったことを忘れたか? 悪いが俺は、そこらの空戦理論も知らぬ三流に負けるほどヤワじゃない」


 頑固なまでに出撃することをやめる様子が無いネオに対し、エルはさすがに諦めるしかなかった。


「わかったよ……でも、死なないで」


「当たり前だ」


 そういってネオは笑顔でサムズアップしたが、エルは泣きそうになりながらネオに対して手を挙げて応えるしかなかった。


 準備が完了した者達から順次離陸していく。

 北部の航空基地へはサルヴァドールならば数時間程度でつく。

 そこで最終調整を行った後、出撃する。


 ネオを含めて、皆、それぞれ覚悟を決めた顔をしていた。


 いよいよ決戦の火蓋が切られようとしていた。

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