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新型機試作のためのプラン設計(前編)

長くなってしまったので分けます。

 サン・パウロでの会合の後、グラント将軍はネオにある提案を持ちかけた。


「ネオ君。他の航空工廠でも航空機の量産を行いたいが問題はないかね?」


 グラント将軍の提案はパイロット候補達全てに航空機が行き渡るよう、さらに数を増やそうと画策したものであった。


「将軍。実は自分も同じ考えをもっていました。しかも、自分は、今後ルークとルクレールの量産は別所に任せ、首都の航空工廠では新型機の開発に注視しようと提案しようかと……」


 ネオの頭の中において新たな不安が燻っていた。

 ジェット戦闘機を作る上で一番重要なジェットエンジンと誘導兵器の2つを作るのに、かなりの時間がかかるのではないかと。


 現状の体制では、とても開発に割く余裕は無い。

 現状の首都にある航空工廠の中では整備班だけ整備要員として動因し、それ以外は全て新型機と新型兵器の開発にまわしたかった。


「例によって、会議の必要性がありそうだ。ワシには君の言う新型機というのがよくわからぬので今後の方針についても説明を聞きたい」


 グラント将軍は首都に帰還後すぐに会議を開く提案をネオに持ちかけた。

 ネオもその提案を了承する。


「それと将軍」


「なにかね?」


「第一陣の出撃、自分も出撃させて下さい」


 ネオの突然の話に、グラント将軍はギョっとした。

 これから新型機を開発すると主張する人間が何を言っているのだろうか。


「正気か!?」


「ええ。無論、攻撃には直接参加しませんが、戦闘を見守る義務があると思っています。現状では統率がきちんと取れているかも不安ですので……それに、自分が作ったものが何なのか改めて理解したいですから」


 ネオは責任感の強い男である。

 作った航空機については、ギークを除いて自身もテスト飛行に参加するほどである。


 元々完全な技術者ではないというのも理由の1つではあったが、それ以上に、作った兵器がどう使われ、どういうことが起こるのか見届ける義務があると考えていた。


 無論それは危険な行為ではあったが、やらねば次の戦闘機を作る心持ちになれなかった。

 そういう頑固な一面をグラント将軍も気に入っていた。


「言っても止まれるような人間ではあるまい。了解した。出撃を認めよう。ワシが思うに、君は実戦参加経験はないが、実戦に対する訓練経験があるとみている。違うかね?」


 グラント将軍は、ルークとルクレールでパイロット候補達を訓練させるネオの様子から、ネオが軍事にも関わりがある者であると見抜いていた。


 実戦参加に十分値する能力を持っていることは理解できていた。


「ええ。あります。……ありがとうございます。将軍」


 やはりなといった顔で、グラント将軍はネオをみた。

 その後、覚悟を決めた若者の背中を叩き。


「死ぬなよ。君がいなければレシフェも終わるのでな」


 そういって、鼓舞した。

 二人の様子をやや遠くから見ていたエルは、ネオから目を離すことなく黙って会話を聞いていた。



~~~~~~~~~~~~~


 その夜。


「簡単な資料ですまないが……見てのとおり、航空工廠の各班から、数名をそれぞれ別の地域の工廠へ派遣する。選ばれた者達は、そこで一旦量産作業の指揮をしてほしい。完成した機体に問題がなければ、すぐに呼び戻す」


 緊急会議が開始され、今後の方針をネオが伝える。


「それと、現在量産されている機体についてだが、パイロット候補達の希望により、正式採用のルーク型を《ベレン》、ルクレール型を《サルヴァドール》という名に変更した上で統一する」

「王国空軍の型式番号方針にのっとり、FS-1ベレンと、AD-8サルヴァドールだ」


 ルークとルクレールは、試作型としてネオが名づけたものであるが、レシフェに由来する名称ではなかった。


 なぜかエルは気に入っていたが、パイロット候補は、先行量産型にもっと適した名称を求めていたのだ。


 グラント将軍ら王国空軍幹部らも交え協議の結果、この2つの名前を正式採用することとなった。


 サルヴァドールの型式番号が1ではないのは、王国空軍にかつて中型攻撃機が存在していたため、これの後継機にあたると判断されたためである。


 ルクレールことサルヴァドールは、万能攻撃機としてネオが設計しており、拡張性も抜群の設計であった。


 このため制空戦闘も可能だが制空戦闘機という扱いではない。

 同じような設計思想で作られた航空機がかつて存在していたのである。 


 ADの略はアタック・ド・ダメージであり、FSはファイティング・サプレッションの略である。

 FSは新たに制空戦闘機のための型番として用意された。



「さて、本題だ。コレをみてくれ」


 ネオは、いつものごとく概略図面を提示した。


「これこそ、王国空軍の真の戦闘機たる心臓部の試作型のジェットエンジンだ。ジェットエンジンの祖は、実はレシプロと殆どかわらん時代に生まれている。だが、あまりにも効率が悪かったのと、強烈な出力を制御し、それに耐える構造にできず、実用化は発明されてから130年以上もかかった」


 ネオが提示したのはターボジェットエンジンである。

 この図を見てエンジン開発班はおおっと興味を抱く一方、

 排気タービン開発班は冷や汗を流している。


「まー見てのとおり、タービンの先に圧縮機を通して空気を圧縮、それを推力にして放出する。こいつは、簡単な構造のターボジェットと呼ばれるもんだが、俺が作りたいのはターボファンだ」


 そういって、もう1つの概略図面を見せた。


「これがターボファンエンジン。正面のファンや風流関係は流体力学班の技術力の見せ所、圧縮機やその他はエンジン開発班、要となるタービンはタービン開発班がそれぞれ分担して作ることになるだろうが……俺は、このターボファンを次の試作型に搭載したいと考えている」


 ネオはそういって次の戦闘機のカタログスペックをホワイトボードに書き出した。

 それは以下の内容であった。


 ・ジェットエンジンは、出来ればターボファン、もし不可能でも高出力ターボジェットを2機搭載の双発型

 ・ジェットエンジンはアフターバーナーを搭載

 ・この世界では失われた、テーパー翼でもない後退翼でもない翼型を採用

 ・現用の新造できない謎エンジンにおいても、小型機ならば簡単に超音速飛行可能であるため、

  M2.2クラスの最高速度を発揮可能であること

 ・ルーク、もといベレン並の短距離離陸性能を持ち、空母サン・パウロでの発艦と着艦が可能であること

 ・誘導兵器を新規開発し、これを搭載し、敵を15km離れた場所より攻撃可能であること

 ・誘導兵器を搭載するに伴い、消滅したどころかなぜか復元できないレーダーに代わる探知システムの開発

 ・上記が不可能な場合は、アクティブ赤外線ホーミング式とする

  ・推力変更ノズルを持ち、高い運動性と格闘性も併せ持つこと



 ネオが作ろうとしているもの、それはかつてこの世界で存在したかもしれない4.0世代のジェット戦闘機であった。


 技術的に不可能な部分が多かったとして、それらに代替的なものを導入したとしても3.5世代相当である。



「いいか、現用の新造不可能なエンジンを、NRCなどの列強が惜しみなく小型機に搭載した場合、上記のものでなければ、まともに戦えない可能性が高い」

「必要不可欠なんだ。これは……」


 ネオはホワイトボードをタンタンと指で叩く。


「ネオ殿…最も最高速が高いベレンですら試験飛行時に発揮した速度は682kmなんですよ。それをいきなり時速換算で2000kmオーバーだなんて……」


 タービン開発班の一人が青ざめた顔をしてネオに呟いた。

 排気タービンの製造すら苦労した現状では、ネオの話はとても実現できそうにないと思ったのだった。


「確かに、ルークもといベレンの最高速は直線で682で、ダイブ可能速度は850kmで設計した。「ダイブ可能速度が、ベレンより高いサルヴァドールですら、885kmで設計。つまりこれは、850kmや885km以上だと、ベレンやサルヴァドールは空中分解するって意味だよな。だが、構造的な設計さえちゃんとすればM2.2ぐらい余裕だ」


「胴体開発班としては、十分理解できる話です」


 胴体開発班のリーダーはネオに同意した。


「構造部位の強化の問題となるのは、強化しても重くなってエンジンがそれを支えるだけの推力を作れなくなるだけ。圧倒的推力が存在するならば、どうとでもなる。私として興味があるのは、開発リーダーのネオさんの言う翼型の方だけですな」


 開発班は、これまでの開発経験から、ネオが提示するプランに対応する胴体は十分に製造可能であると誇示した。


 問題は心臓部が完成するかどうかと――


「ただ、探知システムとかは門外漢です。我々にはどうにも出来ません」


 誘導兵器を含めた新兵器について、皆白旗を揚げた。


「誘導兵器については新たな開発チームを作る。波動連弾などの武装関係のメーカーの人員を押さえる。お願いできますね? 将軍」


 会議を静かに聞いていたグラント将軍は頷いてYESの姿勢を示す。


 ベレンとサルヴァドーレを量産するにあたり装備された波動連弾は、既存機の流用ということで航空工廠整備班や胴体開発班によって装備されたものだが、

 新たに開発の必要性が出たことで、ネオは、グラント将軍に要望して武装開発を行っている企業の人間を招集することにしていた。


 これにより航空工廠の開発チームを「胴体開発班」「流体力学研究開発班」「タービン開発班」

「エンジン開発班」「新兵器開発班」という、5つのグループ体制で真の制空戦闘機の開発を行うことを提案する。


 提案といってもほぼ決定であり、ネオは新型機製造を行うにあたって、それぞれの班に指示を出した。


 胴体開発班ならびに流体力学班には、これから作る翼型の設計図から風洞実験を含めた実証実験を、また、流体力学班にはショックコーンなどのエアインテーク関係の開発も同時に行ってもらうことにした。


 エンジン開発班は、タービン研究開発と共同でジェットエンジン開発へ。

 新たに召集される新兵器開発班は誘導兵器と探知兵器の開発を行わせることとした。


「タービン班さー。まだどうなるかもわからんものに気落ちしてどうするんだ。俺はジェットエンジンよく理解しているから言うが、不可能じゃない! そいつでM3.0以上だって目指せるんだ」


 ネオはタービン班の士気を上げようとするも、タービン班は今回の開発にあたっては排気タービン以上に責任が重く、まるでお通夜のような状況であった。


 元々タービン開発班は技術力がそこまで高くなく、流体力学班などのエリートが集まる組織から選抜された者と比較すると、ややランクが落ちる下部組織出身の者達である。


 水力発電を研究していた頃は開発要求もそこまで高いものではなく、ゆったりと研究が出来る環境も相まって、研究技術者は性格的にも大らかでマイペースな者達が集まる傾向にあった。


 ネオはそれを理解しつつも高い要求を求め、同じく、高い理想を掲げ、知的探究心もあるエンジン開発班と組み合わせることで何とか排気タービンを完成させたが、ジェットエンジンはこの体制のままだと実現不可能なのは間違いないというのは、ネオも危機感をもった上で理解していた。


「とりあえず開発開始だ。今日からだ。いいな?」


 ネオはそういって会議を終わらせた後、グラント将軍にジェットエンジンを作りうる技術者チームは他にいないか相談を持ちかけた。


 グラント将軍は、その道については全く無知な男であったので、「リヒター大将に聞いてみてはどうか」と提案した。


 まさか、この後にとんでもない天才集団と出会うことになるとは、この時のネオやグラント将軍は知らなかった。

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