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「最終通告」

 サン・パウロ視察より戻ってから、すぐさまネオはグラント将軍をまじえて協議し、エルに着艦試験を指示した。


 そして、そこにはトーラス2世に視察に来てもらうこととした。


 ――2日後、トーラス2世は公務の予定の殆どをキャンセルし、視察に来ることとなった。


 ところで、トーラス二世はサン・パウロの改装計画こそ了承していたが、具体的にサン・パウロがどういう姿になってどういう運用になるのかについては、リヒター大将に全て任せ、了承印だけ押していた。


 そのため、空母となった異様な姿に改めて驚きを隠せないでいた。

 トーラス2世にとって、砲のない軍艦というのはありえないものであったからである。


 しかし、リヒター大将によってここに航空機が着艦して移動航空拠点とするという話を聞き、その戦略的優位性をすぐさま理解することが出来た。


「砲の時代が、また陰りを見せるのでは?」


 はっはっはっと笑いながらリヒター大将に半分冗談のつもりで問いかけたが、


「完全に無くなるということはありませぬ。ですが、今後の我が王国海軍の重要戦力として、その地位を磐石のものと致しましょう」


 ――と真剣な面持ちでリヒター大将は返答した。



~~~~~~~~~~~~~~


 着艦試験は見事に成功した。

 エルはネオの指示通り、サン・パウロの航空管制によってルークとルクレールの着艦を成功させる。


 航空空母が復活した瞬間であった。


「よいものだな……これは……」


 ネオや、リヒター達海軍将校、そしてグラント将軍ら空軍幹部がエルに拍手を送る中で、トーラス2世は一人呟いていた。 


 着艦試験は午前中のものであったが、午後、トーラス2世はネオ達視察の参加者を集めてサン・パウロ内の会議室にて会議を行うよう指示した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 午後、今まで一切会合の場に呼ばれなかったにも関わらず、なぜか視察に参加していた陸軍幹部も交え、ネオも参加する形で会議が開かれた。


 そこでトーラス2世が公開した文書は……NRCによる最終通告であった。


「ネオ。リヒター、そしてグラントよ。この1ヶ月と10日、よくぞここまでがんばってくれた。だが、ここまでが私の限界のようだ」


 トーラス2世は神妙な面持ちのまま、最終通告文書の複製をそれぞれに手渡した。


「見ての通りだ。3日後の未明までに最終通告をのまぬ場合、2週間以内にNRCは超大型機30機を派遣し、我らレシフェの国土を焼き尽くすと通告してきた。爆撃型になんら対策が取れねば、確実に首都は火の海だ。つまり、我々には最大でも2週間程度の猶予しか残されておらん」


「むぅ……空中給油機は間に合わなかったか……」


 グラント将軍は、静かにため息を吐いた。


 最終通告に書かれた内容は下記のようなものであった。


 1.レシフェの鉱物資源の採掘権の全譲渡

 2.航空戦力を全てNRCに無償提供すること

 3.レシフェ王国の首都以外の航空基地は、全てNRCに無償譲渡すること

 4.トーラス2世の王位返還

 5.トーラス2世の異母兄弟であるペドロ9世を新たに王に選定する。

 6.ペドロ9世にはNRC政府が選定した摂政をつけること。


 トーラス2世の必死の努力により、レシフェ王国自体は存続する形となっていたが、それでもNRCによる傀儡政権となるのは明らかであった。


 ペドロ9世は、まだ7つの幼子であり、王位継承順位も低く摂政が必要不可欠。

 NRCは見事にそこに目をつけていた。



「んー……NRCは航空戦力がないと考えつつも、その他の戦力による抵抗戦でむやみに消耗するのは避けたいみたいですね。それはまた好都合」


 ネオが配布された最終通告書の紙をピシッと叩きながら呟く。

 非常に落ち着いた様子に陸軍幹部達はざわめくが、すぐさまトーラス2世が咳払いをして静まり返らせた。


「そのようだな。まだ連中には、こちらが戦力の回復をしたことがわかっていないようだ」


 グラント将軍がネオに続く。


「ワシのもつ空軍の偵察部隊による内偵調査報告でも、やつらはルークとルクレールはただの噂にすぎない妄想の類だと考えていると回答がきていた。あのプロペラが幸いしたかもしれん」


 グラント将軍やネオ達が非常に落ち着いている様子に、トーラス2世も若干驚いていた。

 両名は本気で勝てると思っている様子である。


「ネオよ。ルークとルクレール。超大型機相手でも勝負できるうものなのか?」


 トーラス2世は、ここにきて怯えた様子を見せていた。

 空母や航空機の戦闘力は確かなもののようだが、30機におよぶ超大型機がレシフェに向かってくるなど、これまでの世界の常識からすれば首都が壊滅するのは確実であったからだ。


 レシフェ王国には超大型機は3機のみ、そのうち2機は、すでに先の件で喪失し、残りの大型機も殆どが奪われ、レシフェに残ったのは修理中などの理由によって国内に残された3機のみ。


 もし仮に9割の戦力を失っていなかったとしても、ここに超大型機2機と、大型機が37機ばかり追加されるのみ。


 これらの全ての戦力を注ぎ込んでも、超大型機30機には確実に敗北してしまうぐらい戦闘力に差があったのに、現状では2週間後に間に合うのはルークとルクレール合わせて20機、超大型機1機、大型機2機(1機は給空中油機改修中であり、飛行不能)


 そして空母サン・パウロと戦艦ミナス・ジェライス、巡洋艦などの海軍戦力のみである。


 海軍戦力はサン・パウロ以外は超大型機に無力に等しく、実質サン・パウロの護衛のためにしか使えない。


「えっ? 勝てますよ。波動連弾はどうれんだんは超大型機の装甲を容易に貫通できる、口径20mmをわざわざ採用しましたし、全長120m、全幅150mとかいうバカみたいな大きさで最高速度は350km程度ですから、無誘導爆弾を命中させることも可能。どっちかというと、戦術よりも戦略の問題なだけです。超大型機なら、ルクレール3機で波状攻撃を仕掛ければ余裕で落ちるんですが、超大型機の編隊がどこから向かってくるかで状況が変わりますからね」


 ネオは会議室にあったホワイトボードを使い、図を描き始めた。


「グラント将軍は、NRCは直接南下してくると自分にいった。首都が奪われたとはいえ、エスパーニャとはまだ戦争継続中。西側から……太平洋……じゃなかった、平和の海側から侵攻すると、かなり遠回りの曲線を描く進路となり、南リコン大陸の、他の国の領土を横断する形でないとレシフェ領空内に入ってこられない」


 ネオの話にグラント将軍が首を縦にふって頷き、リヒター大将もウムウムと頷く。


「よって、ユーロ海、東側から突撃してくる可能性が高い。もし仮に西側からきたとしても、同盟国に支援部隊を出してもらい、敵が来る方向を事前に察知できれば戦力を分散させずに展開が可能。北と南のリコン大陸を繋ぐ中間点にある運河によって、平和の海とユーロ海の行き来は簡単ですからね」



「陛下。空母サン・パウロと護衛艦は、このままユーロ海にて展開する予定であります。サン・パウロは8割完成しておりますが、5日以内に完成させましょう。わが王国海軍は、レシフェ北部のユーロ海に全戦力の5割を出撃、残り2割を平和の海での索敵行動に用います」


 リヒターが口を開く。

 その言葉には、敵の集団をレシフェ領土内の上空に到達させないという意思がにじみ出ていた。


「ルークは予め空母サン・パウロにて配備し、ルクレールはレシフェ最北の空軍基地に配備致します。後の勝負は、出たこと次第といったところで、陛下がNRCの超大型機をご覧になることがないよう、誠心誠意勤めてまいります」


 最後のグラント将軍の言葉に、トーラス2世は目頭が熱くなっていた。

 

「陛下、できるだけ、できるだけでいいので時間を延ばして下され。そして、彼らが東側を通るよう、同盟国との連携をとって頂きますよう」


 グラント将軍は拳に力を込め、トーラス2世に出来うる次なる仕事を依頼した。


「・・・・・・わかっておる。同盟国には、すでに連絡済みだ。連携を取る予定ではあるが、なにぶん我らは弱小国家。期待せんでほしい」


 トーラス2世は最終通告を無視し、NRCとの戦いを行う意思を決めた。

 このまま、レシフェを尊属させ傀儡政権となるぐらいなら、この者らと心中した方が良いと考えた。


「あの……我々はどうすれば……」


 陸軍大将ウィーラーは、おろおろとした姿を晒した。

 陸軍はこれまで、レシフェの状況について殆ど知らされてなかったのである、

 そもそも、レシフェ国内において陸軍とは治安維持軍や武装警察に近いものであり、戦力は海軍や空軍と比較して規模が非常に小さく、所属する人員も極めて少なかった。


 視察に突然呼ばれ、衝撃の事実を突きつけられた陸軍は状況に困惑するばかりであった。


「陸軍は……そうだな。なにか提案はあるかね? ネオよ」


 なぜかトーラス2世はグラント将軍やリヒターではなくネオに質問を投げかけた。

 立場上、リヒターやグラントといった立場の人間が提案すると組織同士の立場が崩れるからの国王なりの配慮である。


「陸から敵軍を見つけて進路を確定させることです。エスパーニャの方面へ進軍し、敵の超大型機の編隊が、どこにいてどこに向かうのか見極める偵察部隊を派遣してみては」


 実は空軍がすでにそのための部隊を派遣していたが、グラント将軍はあえてそのことについて触れなかった。


 派遣していた部隊は小規模であり、陸軍がいればより発見率が高まるためでもある。


「なるほど。良い案だ。ウィーラーよ。すぐさま出兵の準備だ」


「ははっ!」


 ウィーラーは敬礼をしてすぐさま席を立ち上がると、会議室から退席した。

 ネオの横を通り過ぎた際にチッと舌打ちしたが、特にネオが気にすることはなかった。

 元よりネオは防空戦の対空機関砲すら所持しない名ばかりの陸軍に期待などしていなかった。


 レシフェ王国では一応三大勢力体制であるといわれているが、実質的には海と空の2つであり、さらに空こそ誉れとして海や陸については蔑まれる傾向にあった。


 向上心のあるリヒターに対し、ウィーラーには、野心やら何やらは無く、トーラス2世も情報秘匿性が落ちるとしてコレまでの会合にも参加させなかった。


 ウィーラーは内心、その事に酷く憤っていたが、さらに軍人でもなければなんでもない20歳前後の素性のわからぬ男に戦略決定をされたことに、プライドを傷つけられたのだった。



 最終的に会議は「NRCとの決戦」で一致し、レシフェはNRCとの戦いに赴くこととなった。

 ただし、開戦の宣言はせず、一方的に攻撃を仕掛けてきたNRCを撃退しただけという形で政略をすすめることとなった。


 ネオは会議の最後をこう締めくくった。


「ルクレールとルークは現状の状態でも、1週間にそれぞれ20機ずつ増えていきますが、次なる戦闘機の開発を今日より開始します。音が伝わる速度の2倍近くまで飛ぶ、新型のエンジンを搭載したものです。敵に一方的に攻撃を仕掛けることが出来る武器を持ち、火力も積載力もさらに増えます。NRCが小型機の優位性に気づく前に、真の航空戦力を取り揃えられるようにします」


 ネオの言葉に心を打たれたトーラス2世は、会議が終わった帰り際、ネオに握手を求めたのだった。

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