スキージャンプ型空母「サン・パウロ」
2話連続の後編となります。
エルやパイロット候補達を交えた緊急会議の後、空中給油口はそれぞれの機体の左翼の翼端に設置することとなった。
プロペラの回転モーメントによるカウンタートルクから、その方がバランスを取りやすく、操縦する際も右に流れる特性からプロペラ干渉しにくいと判断されたためである。
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数日後、ネオは一旦航空工廠から離れ、海軍工廠を訪れていた。
王国海軍大将リヒターによる、召集を受けたためである。
多忙なネオに恐縮とばかりのお願いであったが、ネオは快く海軍工廠へ向かうことを承諾した。
なぜかエルが護衛役になるなどと主張してついてきたが、特にネオは理由を伺わなかった。
普段からネオの金魚のフンであったし、別にエルがついてきても違和感がなかったのも理由の1つである。
海軍工廠では残念なお知らせが1つ飛び込んできた。
「申し訳ありません。カタパルトの開発に失敗しました!」
現在、海軍工廠では大型戦艦を突貫工事にて簡易空母に改装する作業中であったが、リヒターの努力もむなしく、ネオが作った蒸気カタパルトの基礎技術資料用いたカタパルトの開発に失敗していた。
召集の理由は、その状況でどうすべきかというのと、現在の完成度の具合を見てもらうためだった。
一方、事前にそれを想定していたネオは、特段憤る様子は無く、空母の甲板の先端部分を大急ぎで設計変更してほしい旨を伝えた。
「離陸に使う先端部分に13度の傾斜角? こんなのどうするんです?」
簡易空母の改装に携わっている技術者が首をかしげる。
空母については、過去に存在した資料を発掘する形で作られてたが、これらは皆カタパルトありきのものであり、彼らはネオが施そうとしたスキージャンプ式甲板についての理解がなかった。
何故かスキージャンプ式の存在と技術が失われていたのである。
「俺の計算だと、フル装備でなきゃ、これでやや重たい攻撃機の方も飛び立てるから」
そういってスキージャンプ式空母がどういう働きを生むのが解説したが、航空関係に疎い海軍工廠の者たちは、カタパルトは理解できてもこちらについてはきちんと理解できなかった。
仕方ないので、ネオはリヒター大将に命令を出してもらい、構造変更をしてもらうこととした。
作られている空母は、ネオが思った以上に航空空母であった。
滑走距離を稼ぐためにアングルドデッキではないものの、離着陸に関わる部分はきちんと作りこまれている。
特にネオが驚いたのは、二段式甲板を採用している点にあった。
リヒターは部下に命じて様々な古代の資料を集めており、二段式の甲板を導入していたたのである。
ただし、二段式といっても下の段から飛び立つことは想定しておらず、下の甲板は着艦した航空機を待機させ、補給などを行う簡易格納庫としての役目にのみ使うものであった。
この二段式甲板を採用した理由は、戦艦を改造して大急ぎで作る手前、艦内に十分な格納庫を作ることが出来ない一方、
補給やその他も、きちんと行えた上で離着陸可能なように空母を作りこむという、リヒター達王国海軍の狙いがあったが、時間をかけずに空母としての必要な機能を十二分に発揮させうるという意味では、非常に完成度が高いものである。
下部の甲板では、武装や燃料の補給が行えるように設備が整えられており、3つのエレベーターを用いて上部甲板との行き来を可能としていた。
しかも、やや大型のルクレールですらも、尚、余裕がある大きさにエレベーターも考慮されて設計されていたのである。
一方で翼を畳む機構がないルークとルクレールを逆手に取り、下部と上部の甲板の高さはやや低くされていた。
あまり高くしても船が安定しなくなるためであるが、割り切った設計により空母としての能力は十分であった。
上部の甲板はきちんとした装甲甲板であり、ブロック構造で修理も容易に行えるようにしていた。
リヒター達は、3週間でこれをやり遂げたというのだから恐ろしいものである。
ここに、カタパルトとアングルドデッキさえあれば、間違いなくNCRを震撼させうる存在になれたかもしれないが、
残念ながら時間と戦艦を流用した関係でそこまでの完成度には至らなかったものの、今後の戦局を考えるとこの統率力とリヒター大将の指揮能力は高く評価できると、ネオは感じていた。
実はリヒターには野望があった。
アースフィアにおいては海戦は全く重要視されず、殆どが古代に存在した、海防行動、つまり日本でいう海上保安庁のような仕事しかなかった。
海軍は常に下手に見られ、空軍と異なり蔑まれることが少なくなかったのだった。
リヒターは、かつては陸軍と海軍こそ戦争の全てであり、海戦という存在が過小評価される時代となっても、航空戦力を搭載した戦艦は戦略兵器として十分な立場にあるということを知っていた。
だからこそ、航空機を新たに新造するという話を聞いた時、すぐさま資料を集めることが出来、その上で、ネオに改装空母の建造を申し入れてきたのであった。
海軍としても航空戦力を持つようになり、抑止力としての立場を誇れるようになりたいというのがリヒターの思いであり、海軍将校もそこに賛同していた。
その集大成の1つが、この空母であったのだ。
空母は、改装前の戦艦の頃と同名の《サン・パウロ》と銘が打たれていた。
かつて、レシフェの地域に存在した伝説の戦艦からとられたものであるが、実は同名の空母も存在していたことを資料を集める中で知ったリヒターは、改名しようとしたことをやめ、同一名をそのまま継続して用いることとしたのだ。
モットーは「我は導かれず。我こそが導く」
何も知らぬレシフェ国民からは嘲笑される、そのモットーの真の意味を知っていたリヒターは、こちらも継続して用いることとした。
簡易改装空母「サン・パウロ」の完成度は78%
構造変更もすぐに対応可能なものであり、きたるべきNRCとの決戦には十分に間に合うものであった。
ルークとルクレールには着艦用の降着装置が当初より設けられていたが、新たに作る予定のジェット戦闘機においては、主翼を折りたためるようにするかどうかで悩むこととなるのであった。
サン・パウロを視察してネオが気になることが出てきた。
「リヒター大将。サン・パウロの全長はいくつです?」
「改装前の段階で約240mであるな。今はいくつであろうか?」
リヒター大将は簡易設計図面の冊子をペラペラとめくる。
「デカくないですか…」
ネオが気づいたこと。
それはサン・パウロが戦闘艦としては大きすぎるということであった。
いくらロストテクノロジーばかりになったアースフィアといえど、戦艦が大型になる理由などないはずだとネオは考えていた。
「うむ。ネオ殿の言いたいことは何となく想像できるな。大艦巨砲主義は確かに一度は廃れたのだが、誘導兵器なるものが消滅してしまったのだ。よくわからんが、古代は電磁波で敵を補足できていたと資料には書いてあった……今は再び砲の時代で、やや軍艦はあの頃より大型になってはいるが……サン・パウロは例外的に大きくされたのだよ」
リヒター大将のその言葉に、ネオはギークを無人で飛行させようとして失敗したことを思い出していた。
電波が通じないということはレーダーが何らかの理由によりアースフィアでは使えないことを意味する。
惑星レベルでなんらかの変異が起きていたことに、ネオはショックを受けた。
加えて、新型航空機がエンジンが新造できないことを理由に鈍重な大型機ばかりになれば、大艦巨砲主義に近い思想が復活していても不思議ではない。
ただし、波動弾などの存在により、砲塔自体は200mm程度の口径であった。
サン・パウロの全長が240mもあったのは、移動基地としての意味合いが大きかったことによるもので、ネオの知識の中にある巡洋艦クラスのサイズがアースフィアの基本である。
ようは、この戦艦が例外中の例外であっただけである。
150m~180m前後の巡洋艦こそ、世界の主戦力の戦闘艦であり、サン・パウロは海軍の総旗艦として大型にされたのであった。
一方で、そのおかげで改装空母としてはこれ以上ないくらいうってつけの存在である。
海軍将校の中には改装を反対する者もいたが、サン・パウロは二隻あるうちの二番艦であるとして了承を得ていた。
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サン・パウロの視察が終わった後、エルに近いうちに着艦訓練試験を行うよう指示した。
着艦用の部分はすでに完成しており、改装作業と平行して行えるとリヒターも認めたためである。
「楽勝っ」
エルはルークでなら余裕であると快諾したが、パイロット候補生にも訓練が必要であるので、エルの試験が成功次第、順次着艦訓練も行うこととした。
ルークだけでなく、ルクレールのパイロット達も緊急時などに使うことを考慮し訓練させることとした。
一方で、リヒター大将の話により、ネオは誘導兵器についてどうにかするように調査しないとマズいと考えはじめていた。
次に作る予定の戦闘機には、絶対に導入したいものであったからである。
レシフェの新たな戦力が整いつつあった。
次回。「最終通告」




