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空中給油機と給油口の設置の設計変更

今回は2話連続で展開します。

次回は「スキージャンプ型簡易空母です」

「今日の訓練は、これで終わりだ! 解散っ」


 夕暮れ時、レシフェ首都の王国空軍航空工廠内のガレージ内でネオは汗を拭った。

 講義が終了して5日。ついにルークとルクレールの先行量産型が完成ししていたのだった。

 それぞれ5機ずつで、試作機と合わせて計12機となる。


 これらは訓練用にあてられ、すぐさまパイロット候補の中から優秀な人間を選抜する作業に入った。


 そこで優秀の判定を受けた者に、今回は集中的に訓練を施すことした。


 航空工廠内のメンバーとネオは、現在の体制からNRCとの初戦闘までにルークとルクレールの量産型が何機製造できるか見積もったが、そこで出た答えは、2週間後にそれぞれ20機ずつの合計40機前後であった。


 エンジンの数こそ、その倍以上を生産できたものの、やはり胴体製造はどうしても時間がかかるのでどうしようもなかった。


 訓練には戦闘を含めたものなども行われていたが、ここで見つかった欠陥は随時見直される予定であったものの、最初から極めて完成度が高かったため、現状では特に設計変更は行われていなかった。


 ネオはエルを抜いた105名のうち、補欠要因を合わせて55名を選抜して訓練を行っている。

 感覚が変わってしまわないよう、ルークのパイロット候補はルクレールによる訓練はさせず、その逆も行わなかった。



 ところで、ネオは気になったことがあった。

 エルについてである。


 ネオはグラント将軍により、彼女はNRCとの戦いに参戦しない、させないことを指示された。

 理由について問うも「それはいずれ……」として話さなかった。


 だが、彼女の待遇から、ネオは何となくNRCとの戦いは避けられるであろうことは予測していた。

 まず、彼女の階級が士官であり、他のパイロット候補よりもかなり高かったことと、

 

 士官は士官用の部屋を宿舎にて与えられるが、2名による相部屋が基本であるにも関わらず、エルはそれを単独で使い、さらにその部屋は風呂など他の下士官用の宿舎よりも設備が豪華な上級士官用のものであったのだ。


 ネオは何度かエルの部屋に招かれていたが、その違いについて気づかされることとなった。

 彼女の振舞いを考慮しても、何らかの事情を抱えた特別待遇の者であるのは間違いない。


 それらによって、事前に「彼女は参戦しないな」と何となくネオは予想していたが、的中したことになる。


 一応、エルは引き続きルークとルクレールの操縦に関わっている。

 訓練が終わった後に行われる、限界性能などを見極める試験のテストパイロットを引き続き担当している。


 ネオのE-M理論の講義の後、彼女も彼女なりに必死で勉強したようで、訓練を行っているパイロット同様、その動きは完全に運動エネルギーの保有を考慮したものとなっており、より洗練された動きにネオは感嘆した。


 その姿に「2度目の勝利は簡単じゃないね……」と唾を飲んだ。



~~~~~~~~~~~~


 エルは、ネオに対してニコニコしながら挨拶を交わした後、いつも通りルークの方へ歩んで行き、飛行試験へと向かっていった。


 もう夕暮れ時ではあるが、夜間飛行も試験内容に含まれているため、これからがエルの時間である。


 そんな彼女を手を振って見送った後、ネオは声をかけられた。

 それは、航空工廠の胴体開発班のリーダーと、グラント将軍らであった。

 彼らは緊急会議を所望し、ネオは夕食もとらぬまま会議に参加することとなった。



~~~~~~~~~~~


「空中給油だって!?」


 会議部屋で、各開発班のリーダーが集まった会合が開かれた会議室内でネオの声が響き渡る。


「はい。万が一を考えて、ルークの航続距離を伸ばすために大型機を改造します」


 胴体開発班のリーダーの質問にネオは首をかしげる。


「そんな余裕があるのか? というか、お前らどこでそんな発想を……」


「ネオ殿の資料に書いてあったではありませんか」


 ネオは赤面した。

 航空工廠内の者たちには、自身が書きまとめた航空機に関する資料の複製を渡していたが、開発班はその中に存在した空中給油機を見出したのだった。


 自分が、そのアイディアを彼らに渡していたのに失念していたのである。


「ネオ君。航空工廠はここだけではない。本来なら、ルークとルクレールの正式採用機もそこで量産すべきなのだが、大規模に展開するとNRCに察知されるのでな。だが、技術力的には、他の基地の航空工廠も、それなりのものがあるのだよ」


 グラント将軍の話から、ネオは別の航空工廠にてレシフェに残った数少ない大型機を大急ぎで空中給油機に改造するのだということを理解した。


「問題は、空中給油機関係の技術と設計変更の必要性です。なにぶん時間がありませんので、設計変更は最低限に留めねばなりませんし、我々は空中給油と空中給油機がどういったものか知りません。教えていただけませんか」


 胴体開発班のリーダーは、よりNRCに勝てるよう、ルークをルークの特性を生かしたまま弱点を克服できるよう、常に頭を働かせていた。


 その姿を前にネオ頼もしいと思う反面、少々曇った表情を見せる。


「実はな。レシプロ機での空中給油は殆ど行われていない。空中給油機と空中給油は、次に作る真の戦闘機で実用化しようと思ってた」


 そういってネオは会議室内のホワイトボードに簡単な図を提示した。


「空中給油は大きく分けて2種類があるが、基本的にプロペラ機では2つ以上のエンジンをもったものでないと行われていない。プロペラ機の時代が終わって実戦に投入されたからな……見てのとおり、単発プロペラ機では給油機構を破壊しかねないんだ」


 ネオは空中給油の簡単な図をホワイトボードに書き込む。

 その姿に開発班は気を落とした。


「落ち着け。不可能だとは言ってない」

「ヘリコプターつって、この世界にゃ消滅してる、こんな回転翼がある航空機でも給油例はある」


 そういってヘリコプターを描いて空中給油するイラストを描いた。

 会議にいたメンバーはヘリコプターの姿を奇怪すぎると引いていたが、ネオは話を続ける。


「2種類ってのはフライングブーム方式とブローブアンドドローグだ。前者はパイプを給油機であーだこーだと操作するので、パイロットの負担は少ないが補給用の人員が必要だし、そいつらの訓練が必要。後者はロープでやるので、パイロットの練度がきわめて重要だが、急造でこしらえることが容易で、おまけに給油を受ける側の機体も最小限の改造で済む」


「となると、後者の方しかありえない……ということですかね」


 胴体開発班のリーダーは、実現可能性があることに少しホッとしている様子だった。


「問題は、図を見てのとおりロープだぜ? 風や気流の干渉を受けるからプロペラだと常に危険が伴う。万が一の対策として考えるならいいが、俺としては前者を実用化しようと思ってた」


 そういってネオはホワイトボードにフライングブーム式の図を描いた。


「問題はこれだ。フライングブーム式は、ルークにはすぐさま対応できない」


 ネオはフライングブーム式の空中給油の図に二機の戦闘機のイラストを描き、ルクレールには○を、ルークにはバッテンを描いた。


 一番必要なルークには不可能だという言い方であるが、ネオのイラスト図面だけで航空工廠の者たちはその理由を理解した一方、グラント将軍は理解できていなかった。


「ルークは、燃料タンクがエンジンの真後ろにあるんですよ。将軍」


 理由がわからず、しどもどしている将軍にネオは理由を説明した。

 ルークは装甲を最小限にするため、前面防御を重視した設計である。

 その結果、燃料タンクはエンジンの真後ろ、つまり操縦席のすぐ前にあった。

 

 一見すると危険そうだが、エンジン自体が装甲の代わりとなるのと、長大な燃料パイプなどを省くことが出来て軽量化できるので、実はとても合理的な設計である。


 実戦ではヘッドオンなど殆どないはずなので、こちらの方が有利であった。

 

 ただ、重心の問題で操縦席の間に設ける場合は、そこまで大きな燃料タンクに出来ないという弱点がある。


 元より軽戦闘機のルークにおいて、それは全く関係の無い話であったため採用された。


 しかしながら、この設計のせいでプロペラと干渉しないようにフライングブーム式を導入しようとすると、操縦席の後部に燃料の給油口を設けねばならず、燃料ポンプや燃料を送るためのパイプなど、大規模な設計変更が必要で、時間的に不可能に近いのであった。


 一方、ルクレールは操縦席の後方に燃料タンクがあった。


 これは、ルクレールが非常に出力が高く余裕があるエンジンを生かし、全面的に防御性能を保たせているためだ。


 特にコックピット周辺はバスタブのように二重装甲が施されており、NRCが使う12mmの対空機銃すら余裕で耐える設計であった。


 また、航続距離を稼ぐために燃料タンクは操縦席の後ろに配置されており、ここにも十分な装甲が施されている。


 燃料タンクの位置から、フライングブーム式であったとしても、ルクレールなら最小限の設計変更で問題ないが、ルクレールは増槽によって、必要にして十分な航続距離の確保が可能で空中給油が必要とは思われていなかった。


「まー作っておいて、後でどうにかするって手はある。戦場で問題なのは、そういうのを想定しないでいざという時困ることだし……もしかしたらパイロット達がいい方法を思いつくかもしれない」


 ネオは、空中給油機関係の概略図面を作ることを了承し、エルやパイロット候補達とも相談して、ルークやルクレールの給油口をどこに設けるか考えることとした。


「恐らく……翼しかないですね」


「だろうね」


 胴体開発班達はネオの描いたイラストから、翼端にピトー管のように燃料給油口を作るしかないだろうなと予想し、ネオも同じ考えであった。


 燃料タンクの位置的に、胴体後部よりかは設計変更する部分も少なくなるし、パイプを設けるだけの空間的余裕がルークやルクレールの翼にはある。


「よし、取り急ぎやるぞ。エルの試験飛行を一旦中断させる。いいですね? 将軍」


 グラント将軍は同意し、ルークとルクレールの設計変更を行うこととなった。

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