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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
棺の再臨
82/162

82.集結と進撃

 ゴレームが地に沈んだ轟音を聞きながら、月影は荒い息を吐き出していた。


「はぁっ、はあっ、はぁっ……、ま、魔力、全部持っていかれちゃったわ……」


 そう言って彼女は地面へと倒れ込んだ。


「だ、だだだ、大丈夫っすか!?」

「お、お義母さん!」


 二人が咄嗟に駆け寄ってきて心配そうにその近くでワタワタし出すが、それを見て月影は笑っていた。


「く、苦しいけど平気よ……、魔力が切れただけだから……、数分もあれば動けるように、なるわ」


 その言葉に安堵の息を吐く二人。

 敵を倒すことは出来たものの、その代わりに好きな人の母親が死にましたー、なんてことになれば、結婚どころか巌人にぶっ殺されかねない。

 それに――


「まだ死んでもらっては困りますよ、お義母さん。貴女には私と巌人さまのウエディングを見るまで生きていてもらわないと……」

「……貴女も、良くもまぁあんなシャンプー狂いに惚れたものね」


 そう言って月影は苦笑する。

 周囲へとなんだかいい感じの雰囲気が流れ始めて――


「……は? 何言ってるっすか? 彩姫ちゃんはどちらかと言うと愛人ポジションじゃないっすか。後からしゃしゃり出てきて何言ってるっすか」


 カレンが襲いかかってきた彩姫をさばいていると、それと同時に三人の耳へと足音が聞こえてきた。

 ――もしや敵か!?

 三人は内心でそう焦りながら、ガバッとそちらの方向へと視線を向けて――目を見開いた。


「よう……、アンタらも、なんとか生き延びてた様だな……」

「お前に関しちゃ瀕死だがな」


 そこに居たのは、体中に血液の付着している弟子屈と、彼に肩を貸しながら歩かせている智美と入境学の姿があった。

 ――のだが。


「ど、どうしたの三人とも!? その姿は!」

「……あぁ、これか」


 月影の言葉に、智美は自らの体へと視線を下ろした。

 そこには大して傷のついていない、三年前の智美の姿があり、彼女はニヤリと笑を浮かべると。


「二十代前半、ピチピチの頃の私――」

「あぁ、僕らやられるだけやられて敵に逃亡されたんですよ」


 と言おうとして、隣からどこか今よりも若々しい姿の学がその真実を口にした。

 それには独りでセクシーポーズを取っていた智美は思わず硬直してしまい、数秒後。コホンコホンと咳をしながら後悔王リロードとの戦いについて簡潔に語り出した。


「……私らの敵は私と相性抜群の奴だったんだがな。アイツ、状況が不利だと悟るや否や、周囲へと溜め込んだ超威力の異能を放ちやがった……。私は元々くらってたから何ともなかったが……学が昔の弱っちい学に逆戻りしちまったってわけだ」

「……元の体では僕より弱い人が何言ってるんですか」


 智美が学へと襲いかかり、それを疲れたように見ていた弟子屈は、ストンとその場に腰を下ろした。


「俺の場合は神獣級のドラゴンに一撃だ。今は応急処置して、折れた骨には添え木して立ってるわけだが……。たまたま近くに救護班が姿を隠してなけりゃ……、そう思うと背筋が寒くなるぜ」


 その言葉に、月影達は驚いた。

 月影はなんとか上体を起こすと、確認するためにも先程見た光景を思い出す。


「ど、ドラゴンって……もしかしてあのチラッとビルの上から見えた茶色いドラゴンの事!?」

「あぁ、あの全身が岩でできた見てぇな怪物のこったよ」


 そう弟子屈は呟き、悔しそうに舌打ちした。


「それだけじゃねぇ。ドラゴンにぶっ飛ばされる前に戦ってたオカマ野郎、アイツは俺と同格、あるいはそれ以上の化け物だったし、そいつらの話を聞くに、何でもかんでも時間を巻き戻しちまう厄介な野郎もいる。……しかも、あのドラゴンの口ぶりからして、まだアイツよりも上が残ってるみたいな感じだった」


 そう、今は亡き地竜王ガイアスは、こんなセリフを残していったのだ――真の強者を知らぬ、と。

 あのガイアスがそういったのだ。ならばそれ以上の存在を知っている――あるいはついてきている可能性が非常に高い。

 もしもそんなことになったら――


「兄さんに、頼るしか無くなる」


 そんな声が周囲に響き、直後に上空から白いもの――否、紡が降ってきた。


「うわっ!?」


 その非常識な登場に弟子屈はそう驚いたが、彼女の纏う雰囲気を見て、思わずスッと目を細めた。


「……おい、アンタ何者だ? ただもんじゃねぇだろ」

「ん。絶対者序列四位、業火のなんちゃら。はじめまして、何故か私の上にいる序列三位」


 それにはヒクヒクっと頬を引き攣らせる弟子屈。

 彼は全くその言葉を疑わなかった。なにせ彼女が強いと直感していたから。

 そして、こんな幼女に本気を出して言い合いしたら、絶対に恥ずかしい人認定されることになる――とも直感していた。


「あらツムちゃん。そんな完全装備でどうしたの?」

「神獣級の、ぶた狩ってきた」

 

 そう言って弟子屈へと一瞬ドヤ顔する紡。

 瞬間、ピシッと二人の間に何かえも言えぬ雰囲気が漂い始めたのを察し、カレンは話を逸らすべく口を開いた。


「は、はははっ……。と、ところで何でここで師匠の名前が出てくるっすか? 師匠は確かにこっちに来てるっぽいっすけど……」

「さっきから一向に連絡が……。凶悪なアンノウンとでも戦っているとしか……」


 カレンの言葉に彩姫も自らの意見を口にして――


『何故だ! なぜ僕の前から姿を消してしまったんだ! こんなにも愛していたのに! 結婚しようって、そう約束したあの夕焼け色の約束はどこへ消えたんだい!』


 瞬間、通話の録音だろうか。紡のステータスアプリから巌人の音声が流れ始め、その内容にカレンと彩姫はピクリと体を硬直させた。

 けれども。


『オゥマィシャンプゥゥゥ!』


 直後に響いたそんな声。

 それには二人も安堵の息を吐き、月影と智美は呆れたようなため息を漏らした。


『というわけで、僕は僕の愛する者を奪っていったあいつらを絶対に……、絶対に許しはしない! もう絶滅決定ね!もう手段選ばないから、もう本気でぶっ潰しにかかるからぁ!』


 恐ろしや、神のシャンプー、禁断症状。

 そんな一句読めてしまうようなその音声は直後にブツっと途切れ、それと共に妙な沈黙が彼女らを包み込んだ。

 けれども、そんな沈黙に屈する紡ではない。


「というわけで、暴走した兄さんを、敵にしむける。そしたらばんじかいけつ。オールおっけい」


 そう言って紡は珍しく笑みを浮かべた。

 けれども彼女らは、視界の隅で鈍く輝くその赤い宝石の存在には――気がつけなかった。




 ☆☆☆




「てっててっていっいな! てゅってゅるるいっいな! こっなゆーめあっなゆーいっぱいてゅるーるるぅぅぅ!!」


 そんな、半分くらいどこかで聞いたような歌が響き渡る。

 けれどもその歌は幼稚園で歌われるような和やかさには包まれておらず、その歌が孕んでいるのは――純粋な殺意のみ。


「てっててーれてってれー、てゅってゅてゅーるてゅってゅるーぅぅ! ふっしぎーなてってーてかっなえってくーれーるー!」


 詳しく覚えておらず、そんな感じになってしまった彼ではあったが。

 彼――巌人は、集ってくるアンノウンの群れへとキッと睨みを利かせると、その拳を握りしめた。


「そーらを自由にっ、とーびたーいか!?」


 はいっ!


「死に晒せ糞共ァァァァァ!」


 瞬間、腕のひと薙ぎでそれらのアンノウンの群れが壊滅し、大量の鮮血がお望み通り空を飛んだ。

 生き残った数体のアンノウンはこの一瞬で散っていった数百体のアンノウンの遺体を眺めていたが、気がついた時には目の前に巌人の姿が存在していた。


「さぁ、お望み通りその身を血に変えて空を飛ばしてやったぞ。次は僕の願いを叶える番だよな? まさかお前らもあのメガネみたいに何の見返りもなくタヌキをこき使ったりしないよな?」


 そう言った巌人は、その聖獣級のアンノウンの肩に手を当てると。


「お前らのボスのところまで連れていけ。もしくは今すぐにディバインシャンプー持ってこいやオラ」


 ――と、そんな光景を離れたところから見ていた紡達は、悪役がどっちかわからないその現状に絶句していた。

 そんな中でも、一番最初に口を開いたのは、それよりも酷い無双を何度か目撃したことのある智美だった。


「……もう、あいつ一人居れば特務必要無――」

「ダメよ中島ちゃん! それは私が長らく抱えてる疑問だけど口にしちゃダメな奴よ!」


 けれども咄嗟に回復した月影がその口を抑える。

 そんなことをしていると、突如として月影のステータスアプリが音を立ててなり始めた――着信だ。

 彼女はその画面に映る『南雲陽司』という名前を見て少し目を見開くと、迷うことなく通話の文字をタッチした。

 瞬間、月影のステータスアプリから陽司の声が聞こえてくる。


『月影かい? 少し時間かかかっちゃったけど、自衛隊と警察部隊も総動員させて都心に住んでいる住民の避難は完了したよ。今は特務隊員を総動員して壁から都心までのアンノウンの駆除、そして穴を塞ごうと努力してるところだよー』


 聞こえてきたのは間の抜けた声。

 その聞きなれた声に気が緩みかけた月影ではあったが、ふと、彼に聞いておきたいことが出来た。


「了解したわ。……それでなのだけど、もしかしたらちょーっとシャレにならないレベルの怪物がいそうな気配するのよね。何故かさっきから姿の見当たらないドラゴンがそれらしきことを言ってたみた――」

『やだなぁ……、そっちに巌人いるんでしょ? それでやばいとか有り得な――――あっ』


 瞬間、聞こえてきたのはそんな声。

 気がつけば周囲からは音が消え去っており、そんな中、陽司はステータスアプリ越しにこう叫んだ。


『だ、大丈夫さみんな! 周囲を見渡したら目の前に居たけど僕は死なないからね! 気持ちさえ折れなければ死な――』


 ブツッ。ツーッ、ツーッ、ツーッ……

 そんな叫びの途中で通話が切れ、月影は、黙ってその場で合掌した。



そろそろこの章も終盤へ。

次回が次々回、その次くらいには黒棺さん登場する予定です。

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