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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
棺の再臨
79/162

79.地竜王ガイアス

 彩姫の異能によって宙へと浮いていた二人へと連続で巨大な瓦礫が襲来し、彩姫は全神経を集中させながらもそれらの瓦礫をかわしてゆく。


(一つでも触れたら……)


 そんな考えが頭を過ぎる。

 仮にも今は自分よりも大きいカレンを連れた状態だ。普段よりもはるかに移動速度は遅くなる。

 その上、それらは一つ一つが全て格上の聖獣級が本気で投げて寄越した殺す気の一撃。掠るだけでも墜落しかねない。

 けれども――


『ふははははっ! 少しノッてきたでやんす!』


 急に回転数の上がるゴレームの投石。


「ま、まだ本気じゃ……」


 その密度の増えた弾幕に思わず彩姫も目を見開き、それが躱すことの出来ない量だと、そこまで至るのにさして時間はかからなかった。


「あ、彩姫ちゃん!」


 近くからカレンの焦ったような声が響くが、この量は今の彩姫では到底捌き切れるようなレベルではない。

 彩姫はギリッと歯を食いしばり――


「『影蒼牙』ッ!」


 瞬間、聞き覚えのある声が響き渡り、それらの瓦礫がズダダダッと粉砕されてゆく。

 それには勝利を確信していたゴレームも『ぬぉっ!?』と目を見開き、次の瞬間焦ったように腕を顔の前へとあげた。

 ズガガッ!

 直後、そんな音と共にその腕へと斬撃のあとが刻まれる。


「へぇ、やっぱり一筋縄じゃ行きそうにないわね」


 そんな声が響き渡り、カツンとヒールの音が谺響する。

 彩姫はフラフラと地面へと地面へと降り立ってカレンを解放し、その自分たちの前に立っている人物へと視線を向けた。

 黒いマントが風に揺れ、その隙間から黒いスーツに包まれたその身体が窺える.

 その姿、見間違えるはずもない。


「「お義母さん!?」」

「……二人とも、嫁に来る気満々ね」


 まったく今さらである。

 月影は呆れたようにそうつぶやくと、それと同時に自分へと迫っていたその拳をひらりと躱した。

 ドゴォォォォォォォ!!

 瞬間その鉄槌が大地へと激突し、ゴレームは驚いたように声を上げた。


『おおっ、お前はなかなか強そうでやんすね?』

「それはどうも、ゴーレムさん」

『ゴレームでやんす!』


 ゴレームは月影の言葉にそう叫び、ダダダダっと雨のような連打を繰り出した。

 けれども――


「『影化』」


 瞬間、その連打を前に前方へと踏み込んだ月影。

 それにはそこにいた全員が驚いたが――次の瞬間、彼女の体をすり抜けたその拳に、愕然とした。


「『蒼影牙』ッ」


 瞬間、それらの拳をすり抜けた月影はそのゴレームの顔面めがけて魔法を発動し、ゴレームはその一撃が完全な不意打ちだったこともあり、とてつもない破壊音とともに後ろへと吹き飛ばされる。

 ドゴォォォォォォンッ!

 その巨体が地へと沈み、それを見たカレンと彩姫は顎を外れんばかりに開き、目を見開いた。

 ――鐘倉月影。

 この世界に存在する唯一の『影魔法』の使い手にして、全世界に存在する特務の頂点に位置する者。

 彼女と戦ったものは決まって口を揃えてこう言うのだ。


「さて、一体どう調理してあげましょうか?」


 ──────────────

 名前:南雲月影

 年齢:37

 性別:女

 職業:日本防衛大臣・特務総指揮官

 闘級:七十

 異能:熱無効[S]

 体術:SS

 ──────────────


 ――怪物、と。




 ☆☆☆




 一方その頃。


「もうっ! 私のために戦うのはやめて!」


 そう、まるで悲劇のヒロインのようなことを言い出したのは、彼の『心壊マカオ』であった。

 それに対してチッと舌打ちをしたのは弟子屈。

 彼はその手のひらから黒色のオーラを発しながらこう叫んだ。


「このオカマ野郎! そうしてほしけりゃこいつらを止めやがれ!」


 目の前に広がるは、数多くのアンノウンの群れ。

 その最奥にその標的――マカオの姿があり、彼は弟子屈の言葉を聞いて、チッチと指を振った。


「それはあたしの愛のムチよん。あなたにはすべて受けとめてほしいのよ。……愛のムチ然り、あたしの攻め然り♡」

「ッく、き、気持ち悪ィ!」


 その上さっきと言ってること変わっているし。

 弟子屈は内心でそんなことを思いながら、そのアンノウンの群れへと異能を発動させた。


「死にさらせ!『即死宣言』」


 瞬間、彼の手から放たれた黒色のオーラがそれらのアンノウンを飲み込んでゆく。

 中には多少は耐えた者もいたが、けれどもそれらは一撃で命を刈り取られ、その後に残ったのは塵になって消えてゆくそのアンノウンの遺体のみ。気がついた時には弟子屈の姿はそこにはなかった。

 マカオはそこに弟子屈の姿がないことに驚いたが、次の瞬間、自分の立っていたその地面を見下げで緊急回避に移った。


 デュォォォォォォォッ!


 直後に彼が先程まで立っていた場所からそのオーラが上向きに吹き出され、それを見たマカオは『ヒュゥ』と口笛を鳴らした。


「さっすがダーリン♡ 地面を掘って攻撃してくるなんてぇっ! もうその勢いで私のことも掘って欲しいわん!」

「……ったく、今の攻撃でもそんな軽口叩けんのかよ」


 対して、その穴の中から出てきた弟子屈が浮かべるのは苦々しい表情。

 彼は舞う塵とその黒色のオーラに紛れて地面を『殺し』、そのトンネル型に消え失せた地面の中に隠れて奇襲を狙ったのだ。

 けれども結果は傷一つ付けられずに終わった。

 かと言って攻撃範囲を広げれば攻撃の威力が落ちる。そんな状態で有効なダメージが入るほど、彼とマカオの実力は離れていない。


(この糞オカマ……、認めるのは癪だが化物みてぇに強ぇ。流石にあの犬女程じゃねぇがな……。ここまで実力が拮抗してると範囲優先じゃ倒せやしねぇ)


 おそらくは闘級の差は二~三程度だろう。

 けれどもマカオの異能――『愛の力』は愛の力によって全体的な能力値が上昇するというもの。

 もちろんそれには生命力、回復力も含まれており、その異能は彼の『即死宣言』とはかなり相性が良い。

 つまりは――マカオは弟子屈にとって天敵のようなものなのだ。

 弟子屈はその事実に薄々気がついていたこともあり、ギリっと歯を食いしばった。


(クソッ、誰かに助けを呼ぶか? だがそんじょそこらに俺より強ぇ奴なんざいねぇ。ましてやこいつとまともにやり会えるやつなんざ……)


 そう考えたその時、彼の脳裏に一人の男の姿が過ぎった。

 あの男――

『即死宣言』――自分が相手よりも強ければ強いほどに与えるダメージの増えるというその異能。それを食らって傷付くどころか服すらも無傷だったあの男。

 絶対者第三位たる彼を一撃で沈めたあの男。

 あの男ならば、きっとこのオカマにも勝てるに違いない。


「チッ、ったく胸糞悪ぃ……」


 彼はそう呟くと、すっと構えを解いた。

 それにはマカオも困惑したように眉を顰めたが、すぐに納得したようにぽんと手を叩いた。


「なるほどん! ダーリンったらあたしと戦うのがそんなにも嫌なのね! 分かったわ、貴方だけは特別に見逃してア・ゲ・ル♡」

「はいはい、そりゃ良かったな」


 弟子屈はその言葉にテキトーに返事をすると、くるりと彼へと踵を向けた。

 彼とて特務の一員。特務隊員の必修科目――嘘の見分けはもちろん習得している。巌人や彩姫ほどの精度はなくとも、マカオがそれを本気で言っていることくらい見ればわかる。

 だからこそ、彼は舌打ちするとともに安堵した。


(クソみてぇに胸糞悪いが、このご時世、プライドだけじゃ生きていけねぇんだよ。負ける可能性があるやつとは極力戦わない。負けて死ぬ確率が高いならばその場から逃げ、自分より強いものに助けを乞う。……この時代に生きるなら、それは鉄則だ)


 ――弟子屈雄武。

 彼は天才であり、それでいて努力家で、プライドが高い。

 それゆえに敬遠され、誤解されがちだが、プライドが高いからと言って物事の優先順位を間違えるほど愚かではない。

 死ぬ可能性が目に見えており、そこに守るものが無いのならば逃げ出すし、そのためなら自分のプライドなど自らへし折ってしまうような。

 彼はそんな男だ。

 単に『臆病』と、そう言われることもあるが、けれども生きていく上でその蔑称こそが最も大切なものなのだ。

 だからこそ、彼は頬を悔しげに歪めながらもそのビルの角を曲がり――



『なんたる貧弱よ。これが絶対者か』



 瞬間、彼の身体が弾き飛ばされたかのように吹き飛んでゆく。

 その身体はビルを数棟突き破っても威力が衰えず、彼は最終的に、数キロ先のビルの壁へと叩きつけられた。


「がハッ!?」


 彼の口から大量の鮮血が舞った。

 彼の体は壁から剥がれて地面へと落下し、それと同時に、それらの破壊されてきたビルが一斉に崩れ去ってゆく。

 ドゴォォォォォォンッ!

 周囲へととてつもない破壊音と爆風、そして地鳴りが広がってゆき、まるでそれはビルの破壊工事でも行っているのでは、と。そう思えるほどであった。

 そんな中、瀕死の重傷ではあれど、微かに意識の残した弟子屈は悲鳴を上げる体に鞭を打ってその顔を前方へと向けた。

 額からはダラダラと血が吹き出しており、意識は途切れていないのが不思議な程だ。

 けれども、彼は確信していた。

 今、自分がその相手の姿を確認しておかねばならないのだ、と。


(……くっ、か、身体が、動かねぇ……)


 彼は動きそうもない体に内心でそう吐き捨てると、必死の思い出何とか頭だけを動かすことに成功した。

 感覚からして、身体の骨は十本単位で折れていても、まだ首の骨は無事だったようだ。

 彼はその事実に少しだけ安堵したが――


『……ほう、まだ生きていたか人間よ』

「――ッッ!?」


 その姿を見て、愕然とした。

 そこにあったのは、見上げるほどに大きなその巨竜。

 その大きさはかつて巌人が撲殺した鎖ドラゴン、あの数倍はあり、その身体中から溢れ出す威圧感は――その数倍程度では済まなかった。


「ばっ、化物……」


 気がつけば弟子屈はそう呟いており、それを見たその巨大なドラゴンは『ふんっ』と鼻で笑った。


『何が化物だ。真の強者というものを知らぬ愚かなる人間よ』


 彼はその言葉にどういう意味を込めていたのか。

 それは分からないが、弟子屈にも分かっていたことがひとつ。


(こ、コイツはヤバイ……、か、勝ち目が見えねぇ。負ける姿が、想像することもできやしねぇ)


 それほどまでにその巨竜――地竜王ガイアスから感じられる威圧感は別格のもので、この竜に勝てる存在なんているはずが無いと、そう思えて仕方がない。

 それに何より――


(こ、この街が、ヤバイ! は、早く連絡を――)


 そう言って彼は腕のステータスアプリへと視線を向けた。

 けれども、不幸というのは時にして重なるもの。

 そこには画面にヒビが入り故障したステータスアプリが存在しており、彼はくっと歯をきしませる。

 対して、それを見たガイアスは。


『ふん、その怪我では連絡を取ることも出来ぬだろう。もう貴様は助からん。そこでこの街が壊れてゆく様を死ぬその時まで眺めているがいい』


 そう言ってガイアスは踵を返し、ドスッ、ドスッと歩き出す。

 その度に大地が揺れ動き、パラパラと壁から壊れた破片が落ちてくる。

 そんな中、ガイアスは笑みを浮かべると。



『そうだな……。まずはあの、ひときわ大きな建物から見せしめに壊してやろう』



 そう言ってそのほぼ(・・)無人と化したサッポロ駅――ARタワーへと視線を向けた。



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