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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
棺の再臨
78/162

78.各地での戦い

 紡が南雲家へと到着した頃。

 カレンは、両手で振りかぶった巨大なハンマーをその巨体へと叩きつけた。

 ギィィィィィンッ!

 周囲へと金属と金属が衝突したような高い音が響き渡り、それには思わず彩姫も耳を塞いだ。

 けれどもそんな事で手を休める彼女ではない。


「はぁっ!」


 瞬間、その巨体の足元の地面が陥没し、ドゴォォォォンッ! と音を立てて巨体の身体が地面へと倒れ伏す。

 それにはカレンも思わずガッツポーズをするが。


「カレン! 深追いは禁物です! この相手は格上、極シロクマの時のように守る対象はいないのですし、あそこまで早い足も持っていないと見えます! ここは巌人さまが来るまでの時間稼ぎを!」

「わ、分かったっす!」


 彩姫の声に反応したカレンは、そのまま彩姫の近くまで後退してくる。

 その様子にはその地に伏していた巨体もククッと肩を震わせた。


『く、くくくっ、そんな程度の実力でこの俺に対抗しようというでやんすか? 舐められたもんすねぇ?』


 その巨体――機械王ゴレームの言葉に思わずカレンが驚きに目を見開いた。

 のだが。


「す、すこし口調が被ってるっす!」

『い、いきなり何の話でやんすか……。意味わからないっす』

「ほら! キャラ設定がきちんと出来てないからそうなるっすよ! ちゃんと『やんす』か『~っす』の片方に決めるっすよ」

『え……、じゃあ『やんす』で――って、何の話してるでやんすか!?』


 今の会話で稼げた時間、およそ十秒前後。

 あわよくばそのまま巌人が来るまで待ち続けようと考えていたカレンは「むっ」と小さく呟き、彩姫はその腕のステータスアプリへと視線を下ろした。


「って言うかなんで巌人さまから連絡ないんですか!? もう送ってから二十分以上経ってるんですよ!?」


 それに対する答えは『講演を聞くときはステータスアプリの電源は切るのがマナーだ』と巌人が考えているからなのだが……、そんなことを知らない彩姫からしたら。


「も、もしかして……、どこかで神獣級のアンノウンと戦っているのでは!?」


 と思うのも、ある意味仕方ないことである。

 そんなことを考えていると、機械王ゴレームも流石にイラッときたのだろう。グガラァァァァァ! と両手を地面へと叩きつける。

 瞬間、アスファルトの道路がゴレームを中心に砕け散り、咄嗟に反応したカレンは彩姫の身体へと抱きつき、次の瞬間彩姫が空高くまで浮き上がった。

 それにより二人はそのバカ破壊力の攻撃を耐え忍び、難無きを得た訳だが――


「新たな武器の生成、お疲れ様です」


 瞬間、彩姫がゴレームへと手を向けると、彼の周囲に散らばっていたそれら地面の破片がフワフワと浮き始める。

 それには身を構えて警戒し出したゴレームではあったが。


「対象ロック――集中砲火です」


 デュババババババババババ!!

 瞬間、それらの全てがほぼ同時にゴレームへと襲いかかり、周囲へととてつもない破壊音が鳴り響く。


『ぐっ!?』


 流石は紡の血を摂取した最年少のA級隊員。

 その力は聖獣級と言えども楽観視できるものではなく、ゴレームは徐々に徐々にと後ずさってゆく。

 それを見た彩姫は効いているのだと直感し、そのままそれらの瓦礫を叩き込み続ける。

 のだが――


『ふんぬっ、うぉぁぁぁぁぁぁっ!!』


 瞬間ゴレームがその身体ごとグルリをひと回転する。

 たったそれだけ、たった一回転。

 けれどもそれだけでそれらの瓦礫はすべて破壊し尽くされ、そのここまで影響を及ぼすその風圧に、二人は思わずうぐっと歯を食いしばった。

 眼下では両足を地面につき、その金属の奥にある眼球部分を赤く光らせるゴレームの姿があり、彼は近くにあったビルの破片を握りしめると。


『遠距離攻撃出来るのはっ、なにもお前達だけではないでやんすよッ!』


 瞬間、ビルの破片が唸りをあげて二人へと襲い掛かった。




 ☆☆☆




 それとほぼ同時刻。

 彼女、中島智美は自らの身体へと視線を下ろし――歓喜に声を上げた。


「す、すげぇ! スゲェぞおい学! 身体が三年前まで戻ってやがるぜ! 見ろよこの二十代前半の若々しい肌! 敵のアンノウンに感謝したのなんざ生まれて初めてだ!」

「し、しっかりしてくださいよ先輩!」


 その言葉に彼――入境学はそう声を上げる。

 彼の視線の先には、おおよそ三年前――まだ現役だった頃の中島智美その人の姿があり、その容姿、その服装はまごうこと無く三年前の彼女そのものだった。

 黒いスーツの腰に刀を差し、今でさえもキツイその眼光は三年前の更なる恐ろしさを取り戻している。

 そんな姿を見て、学は視線をその相手へと向けた。


「ふっふっふっ……、まさかあっしの異能――『逆再生』を食らって逆に強くなる人物が存在するとは。その歳でもう既に全盛期ではないというので?」

「ん? あぁ、おかげで全盛期の身体と武器が戻ったぜ! ここは素直に感謝しとくぜ!」


 その言葉にその身体中のカメラと時計の埋め込まれたその人間モドキ――後悔王リロードは困ったように笑みを浮かべた。


「あっしの異能『逆再生』は対象の時を巻き戻す能力。その巻き戻す尺度は加減やその日の調子によって左右されるが……、こと今日に関していえば絶好調も絶好調。正確には分からないが、全力でやれば三年間前後の時を巻き戻せ――うぉっと!? ひとが異能説明している最中に何するんだ!?」

「知らないですよ、特務では敵の変身途中は容赦なく攻撃しろと学びましたし」


 もちろんそれを教えたのは月影である。

 学のその言葉を聞いたリロードは少し離れた場所に着地し、その視線を彼へと向けた。


「知っているぞ、貴様の名前は入境学。異能は――武器支配。この世界に存在するありとあらゆる武器を支配する攻防ともにすぐれた異能……」


 その言葉に、学は少し眉を寄せた。

 学は現時点では間違いなく絶対者に次ぐ能力者ではあるが、それでもまさか相手に自分の情報が漏れているだなんて、思いもしていなかった。

 故に少し体を硬直させ――


「油断大敵ッ!」


 瞬間、リロードの掌から波動のようなビームが学へと襲来し、智美でさえ躱しきれなかったその速度に、純粋な身体能力に劣る彼は目を見開き――


「うぉらぁっ!」


 瞬間、彼の前に躍り出た智美が、その光線を叩き斬った。

 それにはリロードも思わず目を見開き、その様子を見た学は疲れたように、それでいて懐かしそうに乾いた笑みを浮かべる。


「ば、馬鹿なッ!? あっしの異能を斬った!?」


 彼の異能は、その光線に触れるものの時間を一度だけ巻き戻すというもの。それは無機物とて例外ではなく、彼は中島の馬鹿げその身体能力にも驚いたが、けれども彼は智美の刀がただの金属へと戻るだろうということを疑っていなかった。

 だが――


「うおぅ、流石はアイツが弄った刀だけあんな。異能が全く効きやしねぇ」


 智美はそう言ってその刀へと視線を向けた。

 その雲の隙間から漏れる光に当てられて鈍く輝くその刀。

 その名は――無銘。

 正確にはその刀に名前がなく、いつの間にか『無銘』と呼ばれていただけなのだが。それは彼女の直属の上司たる『黒棺の王』がその異能を付与した刀である。

 その刀に付与された能力は――ありとあらゆる異能を切り裂く。そんな単純明快にして強力無比な能力。

 その上その刀の耐久力は彼の『鬼切炎獄』にすら追随し、純粋な攻撃力で言えば間違いなく世界最高峰の武具である。

 智美はスッとその刀を肩にかける。


「悪いがテメェの異能はもう私には効かねぇ。その上で私は体術特化のさらには全盛期ときた。相性最高、ここまで戦いやすい相手はいねぇ」


 そう呟いてニヤリと笑みを浮かべると。



「さぁ、ジャイアントキリングの始まりだ」



 そうして全盛期の中島智美――『鬼王』の戦いが始まった。




 ☆☆☆




 一方その頃。

 巌人はニマニマと笑みを浮かべていた。


「いやはや素晴らしい! 感動しましたシャンパーさん!」

「いやいや、貴方こそその歳でシャンプーの極意に至りつつある。この歳になってやっと辿り向いたその真髄……、貴方は私からすれば数百年に一度の天才だ」

 

 巌人の言葉にバリトンボイスでそう返したその白髪をオールバックにした男性――シャンプーの神ことシャンパー・リンスイン氏は、スッと巌人へと手を差し出した。


「君はいずれ、私のところまで名を轟かせるに至るだろう。今まで多くのシャンパーたちを見てきたが、その中でも君は異質……まるでなにか曲げられない覚悟を持ってシャンピングしているように思える」


 シャンピングってなんだ。

 そんなことを彼らへと聞いてみたいものだが、けれども彼らの間に存在するのはただの『いい話感』のみ。

 巌人はその差し出された手をガシッと握り返すと。


「そうですね。まさか最初はこんなにシャンピングするとは思ってもいませんでしたが、いまはもうシャンプレットしながらでもシャンパーとしての自分を誇れますよ」


 新しい単語が出てきたが、もはやツッコムまい。

 その言葉にシャンパー氏はフッと笑みを浮かべると、彼の肩をパンパンと叩いてこう告げた。


「これから君がどんな道を辿るのかは分からない。が、出来ればこれからもシャンプロードを歩み続けてくれることを願ってる。君ならばきっと、私を超えるシャンプーの神に到れるだろう」

「は、はいっ! これからも精進します!」


 彼の言葉に巌人はそう返して――


 ドゴォォォォォォンッ!


 瞬間、遠くの方からそんな音が聞こえてきて、二人は思わずそちらの方へと視線を向けた。

 けれども周囲に人の気配はなく、講演の最中になにか放送がかかっていたような気もするが、けれどもそれに熱中していた二人が聞いているはずもない。

 巌人は困惑したように首を傾げると。


「……なんでしょうね? そこらのビルでも壊してるんでしょうか?」

「あぁ、ビルの破壊工事か。ならばなんの問題もあるまいさ」


 そうして全員が避難したサッポロ駅の中で、二つの高笑いが響き渡った。

コイツら……。

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