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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
戦いを知らぬ男
64/162

64.玉藻御前

忙しい! でも書いちゃう!

という訳で三作目のお知らせです。

『silver soul online~もう一つの物語~』

今回は作者がとてつもなくVRMMOに飢えていたのでそっちの方向です。

「ふんっ」


 巌人は目前のアンノウンにヤクザキックを食らわせた。

 もちろんそのアンノウンは一瞬で命を散らし、その死体はその背後のアンノウンたちをも巻き添いに吹き飛んでゆく。


「はぁ……、本当に数が多いな」

「もう本当に嫌になっちゃうくらい……ねっ!」


 瞬間、月影の周囲から幾筋もの影の剣が生み出され、それぞれ怪獣級のアンノウンを狙い撃ちにする。

 ──影分身。

 月影の持つ『影魔法』のうちの一つで、魔力というエネルギーを使用して自分と同じ姿の分身を作るという能力だ。

 と言ってもその力は本体の半分となるため、今の彼女はせいぜいC級の上位と大差ない闘級なのだが、それも巌人がいる時点であまり関係がないだろう。

 そんな中、巌人はその新たに現れた気配に目を細めた。


「聖獣級……? いや、でも一応神獣級……なのか?」


 聖獣級と神獣級の狭間。

 せいぜいが神獣級最下位と言ったところだろうか?


「へっ? ま、まさかとは思うけど、また新しく神獣級が出てきたとか言うんじゃないわよね!?」

「あぁ、うん。そのまさかっぽい」


 巌人はそう言いながらも目の前の硬そうなアンノウンにドロップキックを食らわせる。そして絶命する哀れなアンノウン。もはや作業である。

 と、そんな中、巌人は今度は目を見開いた。


「おおっ、なんか強い奴のところに現れたと思ったら瞬殺されたっぽいよ。その弱い神獣級」

「……色々とツッコミたいところだけれど、まず一番驚きなのは何でそんなに詳しく気配がわかるのか、ってことよね……」

「そりゃ、どこかの誰かさんに子供の頃から地獄とも呼べる特訓を受けてきたからね」


 その言葉に「うぐっ」と心臓を抑える月影。

 それを傍目に巌人はその場所が近いことに気がつくと、ぎゅっと拳を握りしめた。


「よし、そんじゃ、一気に吹き飛ばすか」

「えっ? ちょ、ちょっま……」


 瞬間、巌人の拳が唸りをあげ、拳の風圧がアンノウンの群れを蹂躙した。




 ☆☆☆




 遡ること少し。

 巌人と月影の影分身が中へと入って十数分が経ち、紡たちはやっと押し寄せるアンノウンの軍勢の対処に慣れてきたところであった。


「『蒼影牙(そうえいが)』!」


 瞬間、月影の手の先から青色の影が伸びる。

 彼女はそれをアンノウンへと振ると、それはまるで切れ味のいい剣のように対象を切断してゆく。

 そして、その見事な身のこなしにカレンと彩姫は思わず息を呑んだ。

 流石は特務の頂点とでも言うべきか。

 明らかにA級隊員と互角――否、それ以上も有り得る。

 そんな月影は背後を振り返ると、紡へとこう告げる。


「ツムちゃーん! 援護射撃おねがーい!」

「ん、わかった」


 ツムは彼女の言葉にそう返すと、両手を月影と、その前方にいるアンノウン立ちへと向けた。

 そして――


「『業火滅却』」


 瞬間、彼女の両手から神炎が迸り、月影諸共通路にいたアンノウン全てを飲み込んだ。


「「ってえぇ!? 何やってるっすか(ですか)!?」」


 それにはカレンも彩姫も驚きに声を上げたが、



「熱くないって言っても息できないのは辛いわよねぇ」



 炎の中から聞こえてきたその声に、目を見開いた。

 そちらへと視線を向ければ、完全に無傷の月影が神炎から出てきており、彼女はふすぅと息を吸いこんだ。

 それを見た紡は異能を解除する。

 それと同時に神炎は綺麗に鎮火してその通路の先が顕になったが――そこはまさに地獄絵図。

 殆どのアンノウンはウェルダンすら生ぬるい、正真正銘『コゲ』になって死んでいるのだが、中には炎に耐性があった幻獣級もいたのだろう。肉が焼けたような嫌な匂いが立ち込めてくる。

 それに眉を顰めた秘書さんは、改めて彼女の異能の強さ――紡との相性の良さを思い返した。


「『熱無効』……ですか。なんだかよく分からない能力も使ってますが……、そっちの能力は未だに使えてるんですね」

「もちろんよ! それこそが私の異能だもの!」


 ――熱無効。

 それこそが月影の異能である。

 炎、熱、蒸気、それらすべてに含まれる『熱』を無効化するという能力で、その能力は自分が触れているものにも共有される。

 だからこそ紡の『炎』に無傷でいられる訳だが、炎は常に酸素を消費して成り立つもの。

 故に炎の中では呼吸ができず、彼女は息を止めながら行動しなければいけない。

 だが――それでもなおあまりあるその相性の良さ。


「私から、したら。相性さいあく」

「もうっ! ツムちゃんったら酷いこと言うんだからっ!」


 紡の言葉に月影はそう唇を尖らせる。

 確かに紡からすれば月影の異能は相性が最悪なのだ。

 体術では上を行かれ、自慢の神炎は全く効果を成さず、その上鬼の手よりも影魔法の方が強いと来た。

 闘級は紡の方が二十以上勝ってはいても二人が戦えば月影の方が勝つだろう。

 ――それが、本気の勝負でなければ、の話だが。

 それがわかっているからこそ月影はそう言ってそっぽを向き――


 ドゴォォォォンッ!!


 いきなり響き渡ったその破壊音に、思わず目を丸くした。

 その破壊音が聞こえてきたのは建物の中からで、月影は影分身の視界を共有して――ため息をついた。


「はぁ……、こんな低いところで争っても仕方ない、って感じよねー。これ見たら」

「……ん、明らかに。兄さんがやらかした」


 紡の言葉に月影は頷くと、その巌人と自らの影分身がいるであろう方向を見上げて。



「巌人……怪我しないように気をつけなさいよ?」



 彼女は心配そうに、そう呟いた。




 ☆☆☆




「うん、ここだな」


 巌人はその部屋の前で立ち止まった。

 視線を上へと向ければそこにはこの部屋の名前が記されている。

 ――総合研究所、と。

 それを見て月影は嫌な予想が脳裏を過ぎった。


(研究者……、総合研究所……、無音のワープホール……)


 もしも彼がそうだとするのならば全ての辻褄が合う。

 鳴らない警報は彼がレバーを事前に下げて、警報自体の電源を切っていたからではないのか?

 彼ならば全員がこの建物からいなくなる時を見計らうことが出来るのではないか?

 もしかして自分は、難しく考えすぎていただけなのではないか?

 そう考えてみると、ますますそのような感じがしてきて、月影は額に手を添えてため息をついた。


「ん? いきなりどうしたのさ、母さん」

「いいえ、今更になって研究者の正体に気がついたっぽくて」

「……本当に今更だな」


 巌人は呆れたようにそう呟くと、そのドアノブをなんの遠慮もなく捻った。


「お邪魔しまーす」


 ドアを開く。

 目の前に広がっていたのは、かつての研究所とは比べ物にならない広さを持ったホールだった。

 そして、鼻をつくその血の匂い。

 巌人は十中八九件の神獣級だろうな、と思いながらも視線を前方へと向けて――目を見開いた。

 そして、それは月影とて例外ではなかった。


「あ、あれは……大野? 大野、通なの?」


 ──大野通。

 それこそが内通者である『研究者』の本名であり、このサッポロにおいて最もワープホールの知識に富んだ最高峰の研究者でもある。

 視線の先には倒れ伏す首なしの異形の巨体と、床に落ちている紫色の髪をした大きな頭。

 肥大化し、幾つも人間とは思えない突起などが出来ているが、それでもその顔には彼の面影がありありと残っていた。

 月影はその事実に──信頼を寄せていた人物が内通者だったという事実に思わず歯噛みをして、



『よくここまで来た、黒棺の王(ブラックパンドラー)……いや、無能の黒王(ブラックキング)だったかな?』



 その声とともに感じられた存在感に、全身の肌が逆立つような恐怖を覚えた。

 気がつけば彼女は巌人の後方まで飛びずさっており、数秒遅れて身体中から汗が吹き出してくる。

 チラッと、月影は巌人へと視線を向ける。

 巌人はその死体には目もくれずにその相手のことを見つめており、月影はその視線を追って――愕然とした。


「その耳……お前もしかして、玉藻御前か?」

『……へぇ、まさか、私の名前を知られていたとは』


 そこに居たのは、目も眩むほど美しい、金髪の女性だった。

 腰まで伸びる金髪に、両の瞳は空のように透き通った青色だ。

 彼女は白衣(はくい)緋袴(ひばかま)を身にまとっており、傍からは巫女装束を身にまとった外国人にも見えるだろう。

 ――その狐の耳と、黄金色の尻尾さえ無ければ。


「玉藻御前……? そ、それって確か、あの酒呑童子と並ぶ最強の妖怪、その一角よね……?」

「うん、通りで建物越しにもオーラが伝わってくるわけだよ」


 巌人は一歩一歩と前へと歩き出す。

 自らを前にして全く動じないその様子。

 それを見た彼女――玉藻御前はニヤリと笑みを浮かべた。


『やはり思った通りだ。貴方は今まで出会ってきたどんな存在よりも強い。見た瞬間にそれが分かった』


 彼女の瞳には、その魂は見えていなかった。

 けれども一目で分かる――その強さ。

 スクリーン越しでも窺えたが、やはり目の前にしてみるとそれとは一線を画す。


(これ程までとは……正直予想や想定をはるかに上回ってきた)


 彼の身体から溢れ出すはどす黒い真っ黒なオーラ。

 死、絶望、怒り、憎しみ。それらすべてを織り交ぜたような、何者にも染まらぬ絶対の黒。

 けれども、それを見て彼女は歓喜した。

 これは戦える――と。


「そっちも、かなり強いんじゃないか? もしかしたら今まで見てきた中で一番かもしれない」


 逆に巌人も、その強さに内心で驚いていた。

 もしかしたら、なんて言葉を使った。

 けれども彼は確信していた――こいつはきっと、あの酒呑童子よりもさらに強い、と。

 彼女の身体からは黄金色のオーラが吹き出しており、それに乗って威圧感が建物の外まで溢れ出す。


 気がつけば二人の距離は数メートルにまで詰まっており、巌人は彼女の前一メートルの場所で立ち止まった。

 構えはしない。

 その『余裕』とも取れる態度に凄惨な、それでいて最高に楽しそうな笑みを浮かべる玉藻御前。

 彼女は拳を握りしめる。


 ドゴォォォォ!


 瞬間、爆音が響き渡り、巌人の身体が(・・・・・・)一直線に壁へと激突する。

 その場に残ったのは拳を降り抜いた形の玉藻御前。

 彼女は視線をその先へと向けて、こう叫んだ。



『さぁ、戦いをしよう!』



つ、強い――ッ!?

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