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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
戦いを知らぬ男
61/162

61.尋問(仮)

出来立てほやほやのこのお話。

今回は間違えませんでしたよ!

 翌日。

 朝早くから巌人へと一本の電話がかかってきた。

 巌人もまさかこんなに朝早く──正確に言えば六時前から電話がかかってくるとは思いもしていなかった。

 だからこそ、その名前を見てため息を吐いた。


「はぁ、また母さんか」


 南雲月影。

 巌人のステータスアプリにはそう書いており、巌人はボリボリと頭をかく。


(一体何の用だ……? また特務関連の依頼……は中島先生経由だろうしな。じゃあ父さん関係……、ツムに関してかもしれないし……)


 そこまで考えたところで巌人は思い至った。


「あ、母さんからほとんど電話来ないから、推測建てられるだけの資料がないじゃん」


 ということに。

 彼は推測するのを諦めて素直にその通話ボタンを押すと、それと同時に浮かび上がるスクリーン。

 その向こうには満面の笑みを浮かべた彼女が映っており──巌人は、その背後を見て眉を顰めた。


『いーわとっ! 今私どこにいるか分か……』

「サッポロの監獄。背後から囚人達が手伸ばしてるから一瞬でわかった」


 そう、彼女がいたのはサッポロの監獄である。

 彼女の背後には大きな檻が写っており、その檻の隙間から囚人達がうめき声をあげながら手を伸ばしている。

 巌人は思った──捕まってしまえばいいのに、と。

 けれども彼女のことだ。巌人とてそんなミスを犯すわけもないと分かっているし──


「監獄にいる上に、こんな朝早くからの電話ときた。一体何があったんだ? 母さん」


 ──これだけ時間をかけておいて、何一つとして掴めていないこの人でもあるまい。

 巌人はそう問いかけると、彼女はニヤッと笑ってこう告げた。



『ねぇ巌人、貴方の嘘発見能力を見込んで、ひとつお願いがあるわ』と。




 ☆☆☆




 その数時間後。

 巌人は紡たち三人を連れてサッポロ郊外の監獄までやって来ていた。

 その監獄からはえも言えぬ威圧感が漂っており、初めて来た巌人もその様子に驚いたように声を漏らした。


「へぇ……こんな感じなんだ」

「ん、兄さん。来るの初めて?」

「そりゃそうだろ。一般人なんだし」


 瞬間、三つのジトっとした視線が巌人の身体に突き刺さる。


(((……一般人?)))


 彼女らは内心でそう呟いて、フッと笑みを浮かべた。


「兄さんが、一般人だったら。多分このほしは既に滅んでる」

「あまりにも無理があるっす」

「あえてノーコメントで」

「ねぇ? 君たち養ってもらってる立場で何言ってんの? 保護者に向かってなにその口の聞き方?」


 巌人の的確なツッコミにぐふっと胸を抑えて膝をつく三人。

 それを見て巌人は溜息をつき──こちらへと歩いてくる彼女へと視線を向けた。


「お待ちしておりました、巌人様」

「あぁ、秘書さん。お久しぶりです」


 ──巌人様。

 その言葉にぴくりと反応した彩姫ではあったが、彼女とてまさか『呼び方が被ってる』という理由だけで防衛大臣の秘書にくってかかったりはしない。

 秘書さんは巌人たちに笑みを浮かべて一礼すると、


「申し訳ありませんが一刻を争うかもしれない現状でして。ご説明は移動しながらで宜しいでしょうか?」


 そう、申し訳なさそうに告げてきた。

 巌人は彼女とそれなりに付き合いが長い。

 もちろん知らないこともあるが、過去のある一件を通し、彼女が十分に信頼出来る相手だというのは知っていた。

 そんな彼女が挨拶だけで先を急がせる。

 それはつまりかなり緊迫した状態だという事にほかならず。



「分かりました。それじゃ、案内よろしくお願いします」



 巌人は彼女へと、迷うことなくそう答えた。




 ☆☆☆




 秘書の話を聞いた巌人は、呆れたようにため息を吐いた。


「あのシャンプー潰したやつに、魔王ってやつ? それとあのテログループに研究所、それと無音のワープホールにその内通者が全員グルだったってことか?」

「はい、巌人様が高校に入学してから起こった……というか解決した事件は全て裏で『内通者』が糸を引いていたものだと考えられます」


 その言葉に巌人はコメカミをグリグリと押し込む。

 彼のアンノウンに対する基本的な行動原理としては、悪さをするアンノウンを蹴散らす、というものである。

 殺そうとしたならば殺される覚悟はあるはず。相手の領域に乗り込んできたのならばそれ相応の覚悟はあるはずだ。

 そして最後に──仲間を手を出した者にはどんな手を使おうと制裁を加える。

 そんな考えの元、巌人は行動しており、まさかその行動原理の下なんとなく倒していた相手が全員グルだったと来た。


「もしかして……、その親玉って僕のことを相当恨んでるんじゃないのか? それこそこの街ごと破壊したい勢いで」

「かも知れませんね」


 秘書さんは何でもないというふうにそう呟くと立ち止まり、目の前の頑丈なセキュリティのかかった扉。それをピピピっと操作して、溝に胸から紐で吊り下げていたカードをスライドさせる。

 プシュゥゥッ!

 瞬間、そのドアのロックが解除され、彼女はそのドアの横に身体を移動させた。


「でもそれは、巌人様がこれからお調べになることでしょう?」


 巌人は視線を扉の向こうへと移す。

 そこには今まで見てきた檻よりも遥かに頑丈であろういくつかの檻があり、その中にはそれぞれ一名の犯罪者が収容されていた。

 そして、入ってすぐのその檻の前。

 そこには月影が立っており、彼女は巌人の姿を見て笑みを浮かべた。


「待ってたわよー? よりにもよって今日本にいる『嘘』のスペシャリストが同じところにいるなんてねぇ。幸か不幸か……、まぁ来たんですからどっちでもいいわよね」


 嘘のスペシャリスト。

 間違いなく巌人と彩姫の事である。

 巌人はなんだな不名誉なその言葉に眉を顰めながらも、彼女のすぐ隣まで歩を進める。

 月影は巌人から檻の中へと視線を移し、それに少し遅れて巌人も檻の中へと視線を移す。

 そこには一人の男性が座っており──巌人は、彼の顔を見て口を開いた。



「……え、誰?」

「黒印団のリーダーだ!」



 そこに居たのは、茶髪(・・)の男であった。

 頬は見るも無残に痩せこけ、髪はボサボサ、無精髭が伸び、その上目はギラギラと血走っている。


「き、貴様っ! 覚えているぞ! 我らが野望を邪魔したオリジナルだな!」

「オリジナル……って、なんか『ユニークスキル』っぽくて、かっこいい。うらやま」

「こら、ツムちゃん。邪魔しちゃいけませんよ〜」


 黒印団のリーダー──バイソンの言葉に茶々を入れた紡は月影によって引っ張られてゆき、それを見た彩姫は巌人へと声をかけた。


「巌人さま、私のご助力必要ないですよね?」

「……そこ普通『必要ですか?』じゃないの?」

「いや……聞くまでもないかな、と。それでは向こうで待ってますね」


 彩姫はそう呟いて踵を返すと、それを見たカレンはわたわたと巌人と彩姫へと交互に視線を動かし──結果として、彩姫の方へと向かっていった。

 そして、それを見た巌人は一言。


「彩姫に弟子を取られた……」

「相変わらずですね……」


 巌人の言葉にそう返した秘書さんは、巌人へと一本の鍵を渡した。


「私たちも多少は尋問したのですがね。予想以上に繋がりというか絆というか──依存、ですかね。それが強く、あまり情報を引き出すことはできませんでした。それはこの牢屋の鍵です」


 そう言い終わると彼女は一歩下がり、巌人へとこう告げた。



「恐らく相手はもう動き出しています。出来ることならば、いち早い解決をお願いします」



 巌人はその言葉に、黙って首肯した。




 ☆☆☆


 


 ガシャン!

 秘書さんがその場を去ってから、巌人が一番最初にしたことは──牢屋を開けることだった。


「んなっ!?」


 それにはバイソンも目を見開き、直後、咄嗟にその牢屋から転げ出てくる。


(はっ! なんのミスだか知らないがこの男! 囚人を前に牢屋を開けるだなんて馬鹿じゃないのか!?)


 彼は笑みを浮かべて視線を巌人へと向けて──再びその目を見開いた。

 そこには巌人の姿があった。

 けれども彼は微笑ましそうな笑みを浮かべており、まるで執事のように一礼した。


「この前は失礼しました。私は『研究者』の遣い──まぁ、言うなれば二重スパイと言うものですね」


 何を言い出すんだこの男は。

 そう思わずにはいられないその言葉にバイソンも思わず圧倒されたが、すぐにその言葉を否定した。


「嘘だ! お前は俺らの夢を破壊したんだ! そんな奴が俺ら(・・)の味方な訳がないだろうが!」

「俺ら……ですか」


 巌人はその言葉にフッと笑みを漏らすと、淡々と言葉を紡いでゆく。


「私の承った仕事は単純明快。人間側にスパイとして紛れ込むこと。今回でいえば、貴方を捕まえたように見せかけ、尋問すると言って解放することです」

「……あぁ? それに一体なんの──」


 巌人の言葉にそう返そうとしたバイソン。

 けれども──


「ここには、極悪な収容者が沢山いますね」


 その言葉に、気がつけば彼の言葉は止まっていた。

 頬を冷や汗が伝い、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「ま、まさか……この囚人たちを脱獄させて、新たな黒印団を作り出す……と、そういう事なのか?」

「はい、流石はあの方が認めたお方だけありますね」


 その言葉にバイソンは考えた。

 今から自分が鍵を使ってこの凶悪な囚人たちを解放する。

 そうすればどんな奴だって自分に少なからず恩義を覚えるに違いない。

 けれど、それはきっとすぐに返されてしまうだろう。

 だからこそ、それ以降どうやって黒印団に留めさせるかは自分のリーダーとしての──王としての器が必要なのだ。

 気がつけば彼はニヤっと笑みを浮かべており、巌人へと先ほどとは打って変わった様子で話しかけた。


「そうか、そうだったのか! 疑って悪かったなアンタ、あまりにも演技が上手すぎてよ!」

「お褒めに預かり光栄です」


 巌人はそう言って一礼すると、ふと思い出したかのようにこんなことを口にした。


「そう言えば、ですが。貴方様にひとつ聞きたいことがあるのです」

「ん? なんだ何だ、言ってみろよ?」


 もう完全に自分の成功した未来しか見ていないバイソンは、ニタニタと笑いながらそう返事を返す。

 ここまで彼が協力的なのは非常に珍しいことであり、元々の彼の仲間が今のその様子を見れば必ずこう告げるであろう。


 ──誰になんて唆されたんだ、と。


 巌人は悲しそうにと笑みを浮かべると、ポツリポツリと言葉を紡いでゆく。



「実は……私は『研究者』からは弄られキャラ的に思われているようでして。作戦についていくら聞こうがニヤニヤと笑いながら教えてくれないのです。だから、いずれ王の器になるであろう貴方にお願いです! どうか私に、作戦について教えていただけませんか!」



 流石は嘘の常習者。

 嘘のプロフェッショナルとは、なるほど月影も良く言ったものである。


次回、未定……。

さて、いつ出来上がるのか。

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