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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
戦いを知らぬ男
57/162

57.血の覚醒

「はぁぁぁぁっ!!」


 ダダダダダッ!

 カレンの掛け声とともに放たれたその連打によって、その怪獣級のアンノウンは地に伏した。

 それには後ろのホール内に隠れていた人たちから歓声が上がったが、それを見た彩姫はそのホールへと近づいてゆき、付近の人たちへと声を上げた。


「特務B級隊員(・・・・)の澄川と申します! 危険ですのでこれよりこの扉を封鎖します! このホールの中にはトイレや非常食なども備わっております! 時間はかからないとは思いますが、敵勢力の殲滅が確認できるまではこのホールからは出ないでください!」


 その言葉に避難してきた人々も渋々と言った様子で頷いた。

 彼らもここまで避難してくるのにもアンノウンの姿は目撃したし、中にはなんとか怪獣級のアンノウンを集団で倒してきた者達もいる。

 それ故に、本能に刻まれた恐怖が彼らにその発言に否を唱えることを制止させた。

 それらを見た彩姫はコクリと頷くと、異能を発動させ、その鉄扉をギギギっと閉ざし、その上で内側からロックをかけた。

 これで中の人たちが外の様子を見て不用意に出てくることも、それによってこちらが不利益を被ることもなくなった。

 それに何より──


「カレン! もうやっちゃっていいですよ!」

「わかったっすー!」


 これで、目撃者は居なくなる。


消す(イレーズ)殺す(テーテン)殴る(フラッペ)蹴る(カルチャーレ)っ!」


 瞬間、酷いにも程があるその詠唱と共に彼女の身体が光に包まれ、魔法少女カレンがその姿を現す。


「華麗に可憐に今登場! 魔法少女カレン! 師匠に変わってお仕置きっすよ!」


 キランっ!

 そんな効果音が聞こえてくるそのポーズと言葉に、彩姫は何だか疲れたようにため息を吐いた。


「私よりも二歳も年上の女の子がコスプレしてキランっ! とか……。何がカレンをそんなにも狂わせてしまったのでしょうか?」

「別に狂ってないっすから……ねっ!?」


 カレンのそんな叫び声が響くと同時に、彼女は近くから現れた怪獣級アンノウンを、その生み出した血濡れのトンファーで撲殺した。

 ──魔法少女感、皆無。

 これほどまでに魔法を使ってない魔法少女というか、血濡れのトンファーが似合う魔法少女というのもなかなか珍しいだろう。

 彩姫はそんなことを思いながら──その、こちらへと向かってくる大きな影へと視線を向けた。


「まぁ、それよりも今はこっちが優先ですかね」


 次の瞬間、付近にあったコテージが粉々に砕かれ、そこから巨大な猿が姿を現した。


『フギギギギっ! だぁれもいないと思っていたらこんな所に集まっていただか! 全く、このマシンガンモンキー様に世話をかけさせてくれただんぐな!』


 どこ弁だよ。

 そんなことを聞きたくなった彩姫ではあったが、その声を聞いて彼女は困ったように呟いた。


「やっぱり聖獣級、ですか……」


 ───────────

 種族:マシンガンモンキー

 闘級:五十一

 異能:嵐激弾[A]

 体術:A

 ───────────


 その大きな猿は背中にいくつもの樽を背負っており、その腰には二丁のピストルが差されていた。

 明らかに遠近の両方に対応した万能タイプ。今のカレンや彩姫でも一対一で相手するにはキツすぎる相手。

 だが──


「なんでしょうね、あの白熊と比べたらものすごく可愛く見えるのですが……」

「なんかすんごい同感っす」


 そう、あの『極白クマ』はもっと強かった。

 戦い慣れしていなかったからこそ格下のカレンでも何とか相手出来ていたが、それでもその腕力は一撃必殺。魔法少女と化したカレンと体術のランクは同じと言えども、その力量差は傍から見ても明らかだった。

 けれど──


「なんすかね……、コイツなら勝てそうな気がするっす」


 瞬間、彼女の持っていたトンファーが光となって分解され、次の瞬間、ドスゥゥンッ! と、巨大なハンマーが生み出される。

 それにはマシンガンモンキーも思わず目を剥いたが、けれどもその背後。そこには佇む彩姫へと視線を向けて嘲笑した。


『フギギギギッ! そこのフリフリ(・・・・)はけっこう強そうだんぐな! けれどその後のまな板(・・・)はものっすごい弱そうだんぐな! 足で纏いを連れた状態で格上と戦うなんて無謀がすぎるだんぐなぁ!』


 瞬間、ビキリと、どこかから音が鳴った。

 気がつけば彩姫からは赤色のオーラが吹き荒れており、それを見たカレンは冷や汗を流しながら口を開いた


「あ、え、えっと、彩姫ちゃん! あんな奴の言うことなんて気にすることないっすよ! 彩姫ちゃんは私よりも綺麗っすし、その、結構可愛……」

『やーいやーい、このまな板ー! 悔しかったらかかってくるだんぐなぁー!』


 そう言って彼は片目に装着しているそのスカ○ターのようなものをピピピっと操作する。

 そして現れたのは、二人の闘級。


『なるほどなるほどぉ、そっちのフリフリの闘級は四十二、まな板の方は三十五だんぐな! この俺っちと比べて闘級差十五! 負けるわけがないだんぐな!』


 そうして彼は二人へと背中を向け、その真っ赤なお尻をぺちんペちんと叩いて見せた。

 明らかな挑発。それは誰が見ても明らかだ。

 それを見た彩姫はゆらゆらと歩き出すと、それと同時に、ジャンパーの内ポケットから1本の小瓶を取り出した。

 中には──真っ赤な鮮血。


「カレン……手を出さないで貰えますか」

「へっ? いや、でも相手は聖獣き……」


 カレンはそう言おうとして、彩姫の瞳を見て言葉が途切れた。

 そこには爛々と光り輝く赤い瞳があり、その瞳はこう、雄弁に語っていた。

 ──手を出せば殺す、と。

 カレンはビシッと彼女へと敬礼すると、彩姫はマシンガンモンキーへと視線を向ける。

 そして一言──



「いいでしょう、塵も残さず滅してあげますよ」



 彼女は、凄惨な笑みを浮かべてそう告げた。




 ☆☆☆




 澄川彩姫は、吸血鬼の亜人である。

 巌人は彩姫の見た目から『吸血姫』と、そんなことを言っていたが、吸血鬼も吸血姫も、さして出来ることには変わりない。

 その特徴としては、主に二つ

 まず一つ、少しだけ変身ができる。

 これに関しては、彩姫が今可能なのは翼をしまったり鋭い八重歯をしまったり、吸血鬼の肉体を人間に似せる程度のもので、これでも幼少期から比べればかなり進歩してきた方である。

 そして二つ──



「格上の血液を摂取することで、自身の強さが上昇する」



 彩姫はそう呟いて、その小瓶へと視線を下ろす。

 思い出すは、数日前に彼女──紡が彩姫へと告げた言葉。


『最近、無音のワープホールがでてきてる。彩姫も遭遇するかもしれないし、そのとき、格上が出てくるかもしれない。だから、これ。もしもの時のために』


 そう言って彼女は彩姫へとこの小瓶を渡した。


『ま、兄さんのだったら、間違いなく絶対者の仲間入り、しちゃいそうだから。だから、今回は私の血』


 この中身は──絶対者(ワールド・レコーダー)業火の白帝(ヴォルメカイザー)』の血液。

 それは滅多に手に入るものではなく、だからといって頼み込んだとしても簡単には手に入らないだろう。

 ならば、何故彩姫は本人からそれを自主的に受け取ることが出来たのか──その答えは単純明快。


「私も、けっこう気に入られてたんですかね」


 彼女は小瓶の栓を抜き、一気に呷る。

 それを見たマシンガンモンキーは直感した。


『ま、まずいっ! 死に晒せだんぐな! このまな板が!』


 瞬間、彼は両拳を地へとつき、その背中に背負っていた樽の入口を彩姫へと向けた。

 直後になり始める──その機械音。

 シュィィィィィンッ!

 徐々にその音は大きくなってゆき、それぞれの樽の中には光が集まり始める。


『死ぬだんがな! 嵐激弾ッ!!』


 瞬間、光が弾けて、それぞれの樽から彩姫へと一直線に光線が放たれる。

 その威力にカレンは思わず目を見開き、助けに入ろうとして──



「流石は絶対者(ワールド・レコーダー)。私の将来の義妹です」



 瞬間、それら全ての光線が赤い光に包まれ、その場で時を凍りつかせた。


「『ふぁっ!?』」


 それには思わず二人も驚愕し、思わず彩姫へと視線を向けた。

 そこには先程よりも密度の濃い赤いオーラを纏っている彩姫の姿があり、彼女は右手を突き出して、ぎゅっと拳を握った。


「合成」


 直後、それらの光線はまるで自らの意思を持つかのように姿を変え、そして一箇所に集い始める。

 数秒後にはそれら幾筋かの光線は一つの巨大な光球を成しており、彩姫の掲げる手の上に浮かぶソレを見たマシンガンモンキーは。ツーっと冷や汗を流した。

 なにせ、マシンガンモンキーの『嵐激弾』はその一つだけでも大型トラックを一瞬で粉砕してしまうほどの威力を持つ。

 それを──マシンガンモンキーの持つ全砲を用いて放たれたそれを一つにまとめるなど。考えただけでも寒気が走る。

 しかもそれが──自分に向いているのだ。


『ま、待ってくれだんぐな! 別に俺っちだって悪気があってやったことじゃないだんがな! そう、そうだ! あの研究者(・・・)におどされて──』


 マシンガンモンキーはそう叫んだ。

 これで気が引ければ重畳、攻撃をやめて話を聞く気になってくれれば大成功。いずれにせよ、隙ができればその間に接近し、その頭蓋をカチ割ってやればいい。

 それはそんなことを思っての言葉だった。

 けれど──


「へぇ、そうなんですかー」


 彼は知らなかった──その相手が、嘘を見破る能力を持っているということに。

 彩姫はそう言ってニコリと笑みを浮かべると──



「殺そうとしたんです。もちろん殺される覚悟くらいは出来ていますよねっ?」



 容赦なく、その手を振りおろした。


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