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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
戦いを知らぬ男
55/162

55.恋バナと女子会

急展開? 次回でした。

「そんじゃ、また明日なー」

「んじゃ、おやすみ!」


 夜。

 バーベキューも終わってしばらく経ち、巌人と衛太はそう言って自らのコテージの中へと入っていった。

 そして、それを見送った女子たちは、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ときは、きた」


 紡がそう呟く。

 その言葉に全員がこくりと頷く。

 そう、彼女らはとある会議の実施を考えていた。

 その名前こそ──


「恋バナたっぷり! 夏のお泊まり女子会っすよぉー!!」

「近所迷惑! 早く寝ろ!!」

「す、すいませんっす……」


 カレンの大きなかけ声は、巌人の怒声によって台無しになった。




 ☆☆☆




「という訳で、何を話したもんっすかねぇ」


 女子会は、いきなり座礁に乗り上げていた。

 というのも、その場にいる女子たちは誰も女子会などしたことも無く、恋バナ、女子会と言ったところで何を話していいのか分からなかったからだ。

 だからこそ、自然と視線は彼女の方へと向かっていった。


「……って、なんでお前ら全員私の方見てんだよ。私はもう寝るぞ」


 そう、中島先生である。

 彼女はもう半ば布団に潜り込んでおり、女子会をしたいと言うより早く寝たいという気持ちの方が強そうだった。

 だが、それに負けるカレンではない。


「そ、そうっす! 中島先生ってなんだか師匠と仲いいっすよね! なんかあったりするんすか?」


 彼女は必死に会話のネタを探し出し──その核心に触れてしまった。

 するとそれを聞いた紡はピクリと反応し、中島先生はニタニタと笑い始めた。


「そうだなぁ。私はアイツの……姉貴みたいなもんか。一緒に風呂に入ったことだってあるんだぜ?」

「「「んなぁっ!?」」」


 カレン、彩姫、委員長から驚愕の声が上がった。

 それを聞いた紡は悔しげに歯を食いしばり、その驚愕の新事実を口にする。


「ずるい……私だって、兄さんとお風呂はいってたの、最初のちょっとだけ」

「「なっ!?」」


 カレン、彩姫から声が上がった。

 何も事情を知らない委員長は『兄弟なんだし……』と首を傾げたが、彼女はすぐに最初の中島先生の発言を思い出した。


「っていうか中島先生! なんだか仲いいなって思ってたら南雲くんと知り合いだったんですか!?」

「おうよ。確か……アイツが四歳の頃だったか? 私がちょうど十四歳の頃からの長い付き合いだ」


 そう言って中島先生は思い出す。

 自分はまだ十四歳──今の彩姫と同じ年齢の中学生だった頃。そして特務でやっと力が認められ始めた頃。

 当時から防衛大臣だった鐘倉月影の計らいで当時四歳だった巌人と出会った中島先生ならぬ、中島少女は、そのあまりの可愛らしさに目を剥いた。


『な、なんだ……。こ、この可愛らしい生物は』


 そこに居たのは、クリっとした青い瞳が印象的な、何色にも染まっていない白髪の男の子だった。


『はじめまして。ぼくのなまえは、なぐもいわとです。よんしゃいです。よろしくおねがいします』


 その声を聞いた中島少女は気がつけば幼き巌人を抱きしめており、そのもちっもちのほっぺたに頬擦りしていた。


『いわと、って言うのか! かわいいなぁ、もうっ! うりうりー!』

『そうなのよね! さっすが中島ちゃん! 巌人の可愛さにこの一瞬で気づくとは恐れ入るわ!』


 そんな出会い。

 それらを思い出した中島先生は、遠い目をしてこう呟いた。


「あの頃は可愛かったんだ……。一緒にお風呂入ったら恥ずかしがって股間隠すし、必死に何かを言おうとしてるのに噛んじゃって……もうやばかった」


 その言葉に、ゴクリと喉を鳴らす三人。

 紡と彩姫に関していえば一応巌人と風呂に入ったことはあるのだが、けれどもその時の巌人の股間のガードは完璧であり、あの純白い布がギリッギリのところでその視線を遮っていたのだ。

 だからこそその光景を想像して。

 ──タラーッと、鼻血が垂れてきた。


「って何考えてるんですか!? はなっ、鼻血出てますよ!」

「「「おっと」」」


 彼女らはティッシュをちぎって鼻に詰め込んだ。




 ☆☆☆




 気がつけば五人のうち三人が鼻にティッシュを詰め込んでいた。

 なんの女子会だそれは。そう問いたくなる現状だが、彼女らはそれに気づかずに話を進める。


「よく考えたら、兄さん。超優良ぶっけん」

「そうなんすよねぇ……」


 紡がいきなり呟いたその言葉に、カレンはしみじみと言ったふうに同意した。

 彼女らは思い返す、巌人のことを。


 まず顔面偏差値。

 これに関しては普段は普通だが、元々の材料はかなりの一級品であり、それを生かした学園祭の執事役は密かに学園内でも噂になっていた程だ。


 次にお金。

 これに関していえば言わずもがな。

 大量生産、極小出費。

 それゆえに南雲家にはとんでもない額のお金があり、それだけでも一生遊んで暮らせるだろう。そう思わずにはいられない。


 次に性格。

 性格は多少難はあるかもしれないが、それも巌人が相手のことを心から好きになればメリットへと変わるだろう。

 巌人は誠心誠意相手に尽くすタイプであるのは今の紡との関係を見ていれば分かる。

 家事は万能で、基本的に手は抜かない。その上疲れを知らず、常に相手のことを考えて動き、弱った時には存分に甘やかす。そしてどんな時でも味方でいてくれる。なんて出来た夫であろうか。


 そして最後に、趣味。

 これに関しては……まぁ、彼の誇る唯一にして最大のデメリットと言っても過言ではないだろう。

 ──シャンプー。

 数ヶ月単位で一緒にいる彼女らだからこそもう既に諦めがついているが、付き合って間もない相手にシャンプーがどうのこうの、と話してしまえば破局は免れ得まい。

 彼女らはそんなことを鑑みて、結論を出した。


「優良物件にも程があるっすよ! シャンプーを我慢できれば」

「そうなんですよね……。シャンプーと親バカとシスコンさえ無ければ最高ですよ」

「あとロリコンな」

「それは、すばらしい」


 結論、基本的には優良物件。

 彼女らはそう結論付けて──委員長へと、視線を向けた。


「へっ? な、なに?」


 そんな委員長へと視線を向けて彼女らは思い出す──平岸衛太という男のことを。


「ごがくゆう……」

「平岸くんっすかぁ……」

「衛太ですか……」

「平岸かぁ……」


 彼女らはそう呟いて──その先が出てこなかった。

 平岸衛太。

 顔は悪くなく、将来も有望。

 野球部でもかなり有望視されており、学園に巌人というイレギュラーさえいなければ男子の闘級ランキング、その頂上すらも狙えたであろう。


「委員長はなんで平岸君のこと好きになったっすか?」


 言葉が出てこなかったカレンは、とりあえず委員長へとそんなことを聞いてみることにした。

 すると委員長はぼふっ、と顔を真っ赤にしたが、顔を俯かせてポツリポツリと話し始めた。


「あの……、最初は、ね? 掃除当番なのに黒板消すの忘れちゃって、みんな来るよりも早く来て黒板消そうと思ってたんだけど……」


 そう言って彼女は、その光景を思い出して頬を緩めた。


「教室行ったら、黒板ピッカピカでね。衛太くんが朝早いっていうのに机に頬杖かいてて。でも制服の裾とかちょっとチョークとか付いててね? それで、なんだか面白くて優しくて、温かい人だなって……」


 彼女はそう言って「ふふっ」と笑った。

 けれども次の瞬間、彼女は悲しげな表情を見せて、あの時のことを語り出した。


「けど、あの時。シロクマのアンノウンが襲いかかってきた時。私は怖くてどうすることも出来なかった。人混みに流されて逃げることしか出来なかった。無力だった」


 ──けど、衛太くんは戦ってた。


「カレンちゃんや彩姫ちゃんは私たちよりも断然強いけど、衛太くんは多分、私と大して変わらない。私より強いのは間違いないけど、本来はあそこに立っていちゃダメなくらいだったんだと思う」


 その言葉に、カレンと彩姫は思い出す。

 カレンは腕を踏み砕かれ、彩姫は一撃にて沈み、それでも尚、一番の弱者である彼だけは立っていた。


「弱くても、勝てなくても。それでも必死に立ち上がる衛太くんは、私に私の生きる希望をくれたの。そして気づいたんだ、私はこの人のことが好きなんだなぁ、って」


 けど、彼女はそれを言葉にする勇気がなかった。

 もしかしたら衛太はカレンや彩姫のことが好きなのでは、という気持ちがあったから。

 ──けれど、


「最初は告白する気はなかったの。けど、衛太くんはあの件以来目に見えて女の子たちに人気が出たでしょ? それで、その……覚悟が決まった、っていうか……」


 そう言って彼女は真っ赤に顔を染める。

 もう聞いている側からすれば『お腹いっぱい』と言った感じで、紡、カレン、彩姫はニタニタと笑いながらも、彼女へとどこか羨望に近い眼差しを向けた。

 するとそれにいち早く察したのか、委員長は気を利かせて話を変えることにした。


「そ、そう言えば! シロクマを倒した南雲くん凄かったよね! なんか、こう、どかーんっ、って!」


 そう言って彼女はペコペコと虚空に向かって拳を繰り出した。

 その姿はなるほど衛太が惚れるわけで、紡たちは『か、可愛い……』と内心で思いながらも──


「はっ!? そういや師匠の闘級教えてもらって無いっす!」


 遅まきながらに、その事実に気がついた。

 そう、巌人はカレンから一方的に『弟子になったら闘級を見せてもらい、練習試合をしてもらう』という約束を取り付けられていた。

 にも関わらず、彼は練習試合こそすれどもその闘級は一度も見せたことがなく、知らず知らずのうちに無かったことにされていた。


「そもそもアレっすよね。師匠って一体何者なんすか? 異能があるのか無いのか、そのなんちゃらって奴なのかそうじゃないのか。何一つとして明言してないっすもんね」


 その言葉に苦笑する紡と中島先生。

 それを目敏く察した彩姫は、ずいずいっと紡のそばまで寄っていった。


「ツムさん、この際もう言っちゃってもいいんじゃないですか? ツムさんが全部教えてくれたら巌人さまも楽になれますよ」

「兄さんが……楽に?」


 紡は一瞬その甘言に騙されそうになったが、すぐに口をキッの真一文字に結ぶと両手でその口を押さえた。


「だめ、いったら兄さんに、きらわれる」


 そんなググもった声が聞こえて、彩姫はそんな訳ないとわかってはいても証明するすべがなく、仕方なくもう一人の事情を知ってそうな彼女へと視線を向けた。


「特務A級隊員の『鬼王』中島智美さん、貴女なら色々と知って──」

「Zzz……」

「寝るの早くないですか!?」


 時すでに遅し。

 中島先生は嫌な気配を察知しこの一瞬で睡眠についていた。

 それには彩姫も悔しげに眉を寄せ──



「に、兄さんの闘級は、知らない方が、いい」



 その言葉に、思わず目を見開いた。

 気がつけば紡はその口から手を退けており、彼女は困ったように眉を顰めながら、言っていいことだけを考えて、その箇所のみを淡々と告げた。


「えっと、兄さんの、酒呑童子が、強かった、って。あれはおかしい、過大評価。けんそんが過ぎる」


 その言葉にカレンは目を見開いた。

 酒呑童子──闘級二百超の怪物。

 彼は『少年の昔話』で語った敵を酒呑童子とは明言していなかったが、それでも今の巌人よりも強い少年が苦戦する相手など、それ以外には考えられなかった。

 だが──紡はその話自体を否定した。



「私は、ぜんぶ見てた。酒呑童子はつよかった。けど、兄さんはそれよりもずっと強い。酒呑童子じゃ、相手にならない」



 彼女は断言した。その力関係を。

 ステータスが変動する人型であり、闘級が初期で二百を超えている怪物。

 それが──相手にならない。

 なれば、彼の闘級はどれほどなのか。

 カレンたちはそんなことを思って──


「知ったらきっと、心が砕ける」



 ──兄さんは『戦い』を、知らなさすぎるから。



 彼女はそう言って、頭から布団を被った。


次回こそ急展開!

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