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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
戦いを知らぬ男
53/162

53.境界線

あぁぁぁぁ!!

早く過去編を書きたくてしょうがない!

「おお、かかったかかった」


 巌人はぐいっと引っ張られるような感覚にそう呟いて、両手に握る竿に力を込める。

 場所はコテージの近くを流れる川。

 巌人は水着をつけ、その上からジャージを羽織ってその畔の岩の上に座っており、巌人がその握っていた竿を上げると同時、ピシャンと水が跳ねて川魚が姿を現す。


 ──なんてことは無く。


 そこにかかっていたのは足の生えている魚型のアンノウンで、それを見た巌人はうへぇと眉をしかめた。


「なんで特務ってこういうアンノウンを壁の内に放置してるんだろうねぇ……」


 巌人はそう呟く。

 その魚型のアンノウンはアンノウンであれど闘級が一にも届かない出来損ないである。

 故に一般人でも簡単に捕縛でき、その上危害を受ける可能性も極めて低いため、結果として後回しとなり──現代に至ってもなお、こうして壁の内に取り残されているわけだ。


「まぁ、ポジティブに考えろよ。野生動物が絶滅した今、釣りっぽいことが出来て良かったじゃねぇか」


 そう言って巌人の言葉に答えを返してきたのは、黒いビキニに身を包む中島先生だ。

 彼女はその上から黒いジャージを羽織ってはいるが、それでも尚大人の魅力というものは隠しきれておらず、巌人はその姿をチラリと横目で見て、気がつけばゴクリと喉が鳴っていた。

 彼は咄嗟に視線を逸らす。

 だが、それを見逃す中島先生では無かったようだ。


「お? やっとわたしの魅力に気がついたか? ……見てぇなら、見てもいいんだぜ?」


 そう言って彼女はにじり寄ってくる。

 この暑さに汗をかいたのか、鎖骨のあたりに留まっていたその雫がその肌色を伝い、その大きな谷の中に落ちてゆく。

 たったそれだけのこと。それすらも蠱惑的に見えるのが大人であり、一応は子供の部類にいる巌人は再び喉がゴクリとなった。

 そして──


「……何やってるっすか」

「うおっ!?」


 その言葉に、巌人はビクリと身を跳ねさせた。

 気がつけば背後にはジトっとした視線を巌人へと向けるカレンが立っており、その瞳を見た中島先生はニヤリと笑みを浮かべた。


「おうおう、なんだぁ駒内? もしかしなくても妬いてんのか?」


 そういった中島先生は両手を組んでその豊かな胸を押し上げて見せた。

 ボヨーン。

 そんな効果音が聞こえてきそうなその双丘にカレンはヒクッと頬を引き攣らせたが、彼女は視線を自らのソレへと下げて思い出した。

 ──自分にも似たようなものがついているじゃないか、と。


「ふ、ふふんっ! 私だって結構おっぱい大きいんすからね!」


 カレンはそう叫んで、自らの胸をガシッ! と掴んだ。

 それによってプルプルとほかの場所まで振動が伝わってゆき、その若々しい艶を見た中島先生はぐぬぬと唸りをあげた。

 そして、それを呆れたように見つめる巌人。


「はぁ……、緊張して損した」


 巌人はそう呟いて再びその大岩へと腰を下ろす。

 視線の先では、魚型のアンノウンが両足をばたつかせて暴れていた。




 ☆☆☆




 コテージへと荷物を置いた巌人たちは、係員の人から近くに川があるという情報を手に入れた。

 しかしながら、その川には先に挙げた様なアンノウンもどき達が住み着いており、害にならないとわかってはいても一般人は利用したがらないとのことでもあった。

 故に、今その川はほとんど貸切状態。

 それを聞いた巌人たちは早速その川へ遊びに行くことにしたのだが──


「なんで女子ってこんなに着替えるの遅いんだろうな」


 巌人は呆れたようにそう呟いた。


「あ! 師匠っ、私も女子っすけど早いっすよ!」


 その言葉に反応してカレンがそう言って手をあげる。

 巌人はカレンへと視線を移す。

 そこには水色の水玉模様のビキニに身を包むカレンがおり、前に紡が言っていた『脱いだらすごい』という言葉を嫌でも実感してしまう。


「まぁ……、うん。カレンはカレンだしなぁ……」

「なんすかその言い方は!?」


 巌人はカレンの言葉を華麗にスルーして川へと視線を向ける。

 まぁ、カレンはこんな感じだから時間はかからないのはわかる。

 だが──


「なんで衛太まで遅いんだ?」


 巌人は、心底不思議そうにそう呟いた。

 まさかここに来て衛太が女だった、なんてことは無いだろう。普通に巌人の裸を見ても何の反応もなかったし、委員長と付き合っているし。

 それでも尚遅いというのは──


「やっぱりアイツ……、チェリーボーイって言うか乙女チックって言うか……。なんだ、オカマ?」

「ちッげぇよ!」


 衛太の叫び声が後ろから響いてきた。

 背後を振り向けば衛太が青筋を浮かべながら立っており、彼はヒクヒクと頬を引き攣らせた後──カレンと中島先生の方を見て、えへへと鼻の下を伸ばした。

 それを見て、三人は一言。


「「「委員長に言ってや……」」」

「すいません辞めてください!」


 その言葉を聞いた衛太は目にも止まらぬ速度で土下座をしており、それを背後から見ていた委員長は苦笑いは浮かべていた。

 そして、それを知ってもなお何も教えてやらない悪魔三人。


「まぁ、アレだよ衛太。別に委員長に言ったりしないって」

「そうっすよ。だから別に中島先生のなら見てもいいっすよ」

「そうだぜ? ガキに見られても減るもんじゃねぇしな。見てぇならほら、もっと近く来てもいいんだぜ?」


 悪魔である。

 衛太はその甘い言葉にゴクリと喉を鳴らし、それを衛太の背後で見守っていた委員長もゴクリと喉を鳴らす。

 全く意味合いの違うその『ゴクリ』ではあったが、そのプチ地獄絵図は一人の天使の手によって消え去った。


「そこの、ごがくゆう。うしろ、委員長、きてる」

「んなぁっ!?」


 振り向く衛太。苦笑いで手を振る委員長。

 そして一人の──スク水エンジェル。

 胸の白い部分かかれている『つむ』という単語が輝かしいほどに栄えて見え、それを見た三人はあまりの輝かしさに思わず手をかざして光をガードし、そして目を逸らして──


「あれ? 何やってるんですか?」


 その先にいた、まないt……彩姫へと視線を向けた。

 彩姫は赤色のビキニを付けていた。

 その白い肌にとても合っているその赤いビキニではあったが、如何せん、上半身に関していえば──



「まぁ、アレだ。頑張れよな」

「頑張るっすよ……」

「まだ人生は長い。諦めんなよ」

「一体何を!?」



 彩姫の悲痛に満ちた声が響き渡った。




 ☆☆☆




「はぁ……ここは天国か」


 衛太は、そんなことを呟いた。

 それを隣で聞いていた巌人はジトっという視線を衛太へと向けると、その衛太が見ている先へと視線を向ける。

 そこには紡、カレン、彩姫、中島先生、そして委員長がビーチバレーならぬリバーバレーを楽しんでおり、今まさに、ボールをレシーブした委員長が水に足を取られ、川の水に頭からダイブしているところだった。


「ほへぇ……かわいいなぁ、委員長」

「はいはい」


 衛太の惚気にそうテキトーな返事をした巌人だったが、その衛太の幸せそうな顔を見て──少しだけため息が出た。


(恋愛……ねぇ)


 巌人だって、恋愛に憧れない訳では無い。

 少女漫画を何冊も読み込んでいれば恋愛がしたくなってくるし、可愛い異性を見れば可愛いなと思うこともある。

 けれども──


「ま、僕には分からない感情だな」


 巌人はそう呟いた。

 その言葉に衛太は呆れたように巌人へと視線を向けると、この前の学園祭。あの時に言われた彼の答えを思い出す。


「あぁ、シャンプーと結婚するー、とかいう意味わかんねぇ……というか分かりたくもねぇ様なアレか?」

「おい、それだとシャンプーを馬鹿にしているように聞こえるのだが? とりあえず全世界中のシャンプーに謝れ」


 巌人の相も変わらぬシャンプー狂いに衛太はため息をつくと、彼の言葉を無視して彼女らへと視線を向ける。


「なぁ巌人。お前あの中じゃ誰が一番好みなんだ?」


 その言葉に巌人はピクリと小さく身体を跳ねさせ、レシーブを受けようとしていた彩姫がボールを取り落とした。

 衛太は巌人へと顔を向ける。

 彼の顔には真剣な表情が浮かんでおり、それを見た巌人は彼女らの方へと視線を向けた。

 そして、考えること数秒。


「可愛さはカレン、美しさなら彩姫って感じかな」


 その言葉に衛太は「ほぉ」と声を漏らし、たまたまサーブを打とうとしていた彩姫の手が空振った。

 けれど、



「けど、誰か一人だけ選ぶとしたら、ツムだろうな」



 その言葉に、衛太はすっと目を細めた。

 ロリコン。シスコン。

 そんな言葉が浮かんでくるその答えではあるが、不思議と衛太は茶化すような気分にはなれず、ただ呆れたようにため息を吐いた。


「わーったよ。変なこと聞いて悪かったな」


 衛太はそう言って立ち上がる。

 彼はぐぐぐっと背伸びをして「ううっ」と声を漏らすと、


「そんじゃ、俺もあの中に混じってハーレムでも体感してこようかねっ!」


 ニタニタと笑いながら、その楽園目掛けて駆け出して行った。

 その場に残ったのは、巌人ただ一人。

 彼は衛太に続いてその川の中へと飛び込もうとして──やめた。

 彼の視線の先には、いつの間にか笑うようになった妹の姿があり、その楽しげな笑みを見て巌人は、フッと笑みを漏らした。


「友達、出来たみたいだな」


 巌人はそう呟く。

 眼前には陸と川の──こちらとあちらの境界線。

 ソレを見てしまえば、巌人にとってその一線は超えるには難しすぎるものであり、彼はその光景を目に焼き付けて──踵を返した。


「ま、今の内にバーベキューの準備でもしておくかね」


 そう、自分に嘘をついて。


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