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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
望んだ青春
44/162

44.ミスコンテスト

『さぁ、始まりましたこれまた第何回か分からないミスコンテスト、フォースアカデミー編! 通称ミスアカデミー! 司会はこの私っ、これまた通称司会さんがお送りしますっ!』


 その女子生徒がそう告げて、その直後に溢れんばかりの大歓声が響き渡った。

 それには思わず巌人も耳を塞いで眉を顰め、ステージ上に映し出されたそのスクリーンへと視線を向ける。

 そこにはこのミスアカデミーのルールが記されており


『ルールは簡単っ、審査員席の三人にはそれぞれに持ち点五点満点中何点かで点数をつけてもらいまして、最高十五点、最低が三点でランキングわけしていきまーすっ!』

「ランキングわけとか、一歩間違えればトラウマもんになりそうだなぁ」


 巌人は小さくそう呟いたが、その司会さんとやらは関係ない聞いていないとばかりに口を開く。


『それでは審査員の御三名からの発表です!』


 そう言ってステージ上の三つの席、そのうちの一番の右側の席へとスポットライトが当てられた。

 そこに座っていたのは、黒いジャージを着た赤髪の女性──言わずもがな中島先生である。


『最初に登場は中島先生! 元ヤンかと思いきや元々の職業は特務隊員! そ・れ・にぃ〜? さらに驚きなのが彼女っ、完全な喪……』

「あァ?」

『……ゲフンゲフンっ、なんでもありません次行きましょー!』


 何を言おうとしていたのか。

 付き合いの長い巌人は期せずして察してしまい、目尻に溜まった涙を指で拭った。


『続きましてこの学園が誇るイケ男! 頭も良ければ顔も良い! 少しだけ性格がうざったらしいことを除けばだいたいオーケー!

 学園のヒーロー、池前池男さんでーす!』


 瞬間、響き渡る生徒達の──女子たちの黄色い歓声。

 それに対し、その池前という男はイケメンスマイルを顔に貼り付けて手を振り返す。そしてさらに一段階ボリュームの上がる女子生徒たちの歓声。

 それにはその司会さんという女子生徒は引き攣ったような笑みを浮かべたのだが──


『今日は誠心誠意、頑張ってみたいと思いますっ』


 その言葉に『いや、マイクパフォーマンスとかいりませんから』と口にした彼女。けれどもその言葉も歓声に塗りつぶされてしまい、彼女の額にはありありと青筋が浮かび上がった。

 ──あぁ、何だかあの子とは色々と合いそうだなぁ。主にこの男についての感想が。

 巌人がそんなことを思っていると、最後の三席目へとスポットライトが当てられた。

 そこに居たのは。黒髪天パの地味メガネであり──



『はい、それじゃ次。えーっと、南雲……巌人さん? ちょ、あんな地味なのあそこにいて大丈……あ、大丈夫なんですか。ならいいんですけど。という訳で、南雲巌人さんで〜す』

「おい司会ッ!」



 審査員三人目の席に座っていた巌人は、そのあまりにも失礼な女子生徒に対してそう叫んだ。




 ☆☆☆




 数分後、ミスコンテストは普通に開催されていた。

 もちろんあの後、


『はぁ? 何様ですかあなた? この司会さんに向かってその態度……ぶち殺しますよ?』

『はぁ? お前こそ何様だよマイクウ〜マン。お前なんてマイク持ってるだけの女子高生だろうが、調子のんなよ』


 という火花散る展開こそあったものの、会場中の誰もが空気を読んでその二人による喧嘩を回避させたため、何とかスムーズに進むことが出来ていた。

 そして、そのミスコンテストも出場者が少ないのなんの。もう既にクライマックスを迎えようとしていた。


『という訳でそろそろミスアカデミーコンテストも後半戦です! ここから先は……おおっと! 今写真を見た感じだとかなりレベルが高いですよ! これは司会歴○○年の私もビックリです!』


 何故だろう、要肝心の部分だけが聞こえなかった。

 巌人が司会さんへと訝しげな視線を向けていると、彼女もそれに気がついたのかピクピクと頬を引き攣らせる。

 だがしかし、巌人の視線はすぐに彼女から外れることとなる。



『エントリーナンバー六番の方! どうぞステージ上にお上がりくださーい!』



 そうして舞台裏からステージ上へと姿を現したのは、メイド服を身にまとったカレンであった。


(って、メイド服……?)


 カレンの思わぬ服装に思わず凝視してしまう巌人。

 そのメイド服は少し前に彩姫と一緒に来ていたミニスカメイド服ではなく、ロングスカートの本格的なメイド服だった。

 そのせいか、普段のカレンから感じられる太陽のようなお転婆さは感じられず、今の彼女から感じられるのは──そう、お淑やかな侍……


『ういっす! みんなお待ちかねのカレンっすよ〜!』

「「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」」


 前言撤回、ただのカレンである。

 巌人はメイド服姿でもいつも通りのカレンへと溜息をつき、そして大歓声をあげる男共を見てすこし心配になった。大丈夫かこの学校、と。


『という訳で、エントリーナンバー六番、一年三組の駒内カレンさんです! 衣装はメイド服! 素晴らしいです!』


 司会さんのその言葉には同調するかのごとく頷く観客たち。


(なんか……アレだな。光る棒を持って踊ってるオタク達を見ている気分だな)


 そんなことを思った巌人がコメカミに手を添えて呆れていると、その間に司会さんはカレンへと幾つか質問をし始めた。

 のだが──


『それでは最初の質問ですっ、好きな食……』

『師匠っすね! ……って何言ってるっすか!? 断じて違うっすよ!!』


 沈黙が──舞い降りた。

 好きな食べ物は? 師匠じゃない。

 もはや言葉のキャッチボールにすらなっていないその受け答えに司会さんも目を点にしたが、すぐに咳払いをして次の質問へと移行した。


『えーっと、次の質問でーす。普段は何を……』

『師匠のあとを付けてるっす!』


 い、言い切りやがった……。

 それを聞いていた生徒達は戦慄し、巌人は思わず頭を抱えた。

 巌人は知っていた、カレンにストーキングされている事実に。

 正確にはただただあとを付いてきて『師匠の強さの程を探るっす!』と言って止まないのだが。

 そうして巌人が頭を抱えている間にも、司会さんは残りの質問を解消するべく質問を繰り出してゆく。


『趣味は……』

『師匠観察!』

『特技……』

『師匠のモノマネ!』

『将来のゆm……』

『お、おお、お嫁さ⋯⋯って何言わせるっすか!?』


 胸焼けがしそう。

 全員が全員そんなことを思った。

 だがしかし、それでも点数をつけねばならないのが審査員という立場であり、


『四点、五点、三点! 合わせて十二点でした!』

『師匠っ!? なんか微妙に低くないっすか!?』


 巌人は巻き添えで受けた恥ずかしさを鑑みて、三点をつけた。




 ☆☆☆




『続きまして、最後から二人目ですね。学外からの出場者……しかも小学生! ロリコンたちよ歓喜しろ!』

「「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」


 気がついた時には巌人は叫んでおり、いつの間にか青色の羽織を羽織っており、その両手には光る棒が握られていた。

 それは先程までオタクをどうこうと言っていた者の姿ではなく、舞台横に立っているカレンはその姿を見て頬を膨らませて拗ねていた。

 ぺド様。もしくはシスコン。そんな単語が頭を過ぎる光景である。


『えーっと、なんだか若干一名審査員が馬鹿やってますがいってみましょー! エントリーナンバー七番! お願いしまーす!』


 その言葉と同時に沈黙が舞い降り、数秒後。

 ぴょこんと、舞台裏へと繋がるカーテンから──天使が顔を出した。


「「「「『「はぅっっ!?」』」」」」


 そのあまりの可愛らしさにその場にいる全員が胸を押さえてそう叫んだ。

 彼女はその声にビクリと反応したが、少ししてオドオドとステージ上へと歩を進めた。

 恥ずかしそうに身をよじり、その頬は真っ赤に染まっている。

 綺麗に整えられたボブカットに、その唇の桜色が妙に栄えて見える。

 そして身につけるは、純白色の看護服に看護帽。そしてその背中からは小さな天使の翼。

 もはや今の彼女を天使と言わずになんという。


「もうアレだな。ロリコンとかそういうの関係なしで、ずっと成長しないでほしいよな」

『同感! すっごい同感ですよ南雲さん!』


 期せずして仲違いしていた二人の意見が合致し、思わず二人はお互いにサムズアップして見せた。

 そして、それを見て頬を膨らませる紡。


「兄さん、またうわきっ」


 そう言って紡はぷいっとそっぽを向く。

 そしてそれを見て吐血するロリコン共。そして一人のシスコン野郎。

 それには思わず司会さんも冷や汗をかき、彼女は質問等を行わずこのまま審査に移るべきだと考えた。

 でなければ──きっと誰かが可愛死ぬ(・・・・)


『でっ、では審査です!』


 結果、四点、五点、五点。

 計十四点で、九歳児の幼女が高校のミスコンテスト、そのトップに躍り出た。




 ☆☆☆




『そ、それでは最後の出場者で~す……』


 司会さんは、疲れたようにそう呟いた。

 なにせ、先ほどの紡の可愛さがぶっちぎっていたせいで多くのロリコンたちが息絶え、今現在進行形で保健室へと運ばれているのだ──ちなみに巌人は何とか耐えた。流石は無能の黒王(ブラックキング)である。

 だがしかし、巌人も紡が出てきたら自分はやばいんだろうなぁ、と自覚していただけあって気を緩めていた。

 だからこそ、最後に出てきた彼女に──思わず目を奪われた。


『え、エントリーナンバー……八番、の……』


 司会さんもその美しさに思わず息を飲み、言葉が途中で途切れてしまう。

 そこに居たのは、銀色の髪を風に揺らす可憐な少女。

 純白のウェディングドレスに身を包み、その頬は微かに赤く染まり、唇には朱が塗られていた。

 いつもは編みこんでいる髪を下ろしているためか、その髪は肩甲骨のあたりまで伸びており、全体的に白い印象の中、その唇と真っ赤な瞳が非常に栄えて見えて……、


「き、綺麗だ……」


 誰かがそう呟いた。

 巌人はそれが自分では無かったことに安堵し、それと同時に心の中でそう思っているという事実に、少し頬を赤くした。

 そして、


「き、きき、綺麗です!」


 いきなり叫びだした隣の男に、思わず「はぁ?」と声を出した。

 けれどもその声を出したのは巌人だけでなく、彩姫の姿に見惚れていたその場の全員が、その無遠慮にも程がある言葉に眉を顰めた。

 けれどもその男──池前池男は周りが見えていないのか、審査員席を立ち上がってステージ上の彼女の方へと歩いていった。


「美しい! こんなに素敵な女性と出会ったのは初めてだよ! 一目惚れといってもいい!」


 なんか上から目線だなぁ。

 巌人は内心でそう呟いて苦笑いを浮かべ、なんだかとってもいい笑顔を浮かべている彩姫をみて背筋が凍った。


『なにしゃしゃり出てるんですかこのチャラ男。今すぐ黙って失せなければ○○捻り潰しますよ?』


 何故だろう。その笑顔の裏にそんな言葉が見て取れた。

 そして巌人は決断する──よし、手は出さないでおこう。彩姫の異能で○○捻り潰されたくないからな、と。

 その場にいる全ての男子がなんとなく内股になり、女子たちが空気も読まずにしゃしゃり出てきた池前に失望し、



「ぼ、僕と付き合ってくれまいか!」

「絶対嫌ですっ♡」



 ぶちゅゥッ!


 その音の直後に、悲鳴が轟いた。



 追記、ちなみに彩姫の点数は五点、五点、五点の計十五点満点となり、今年度のミスアカデミーは彩姫となった。


書いたばっかりの小説を投稿するのってなんか新鮮。

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