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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
望んだ青春
43/162

43.各々の恋愛事情

ローファンタジー部門、なんと日刊7位でした!

(ひゃっほう! 最悪のタイミングでストック尽きたぜ!)

 巌人は近くの木を背もたれにして腕を組むと、衛太への視線を向けた。


「で、真剣な話、その送り主とか分かってるのか?」

「あぁ、いや、下駄箱に入ってたからよく分かんねぇけど……中になにか書いてねぇかな」


 衛太はそう言いながらも、その手紙をピリピリと開けてゆく。

 巌人は一瞬『中身確認する前に僕のところに来たのか……』と思ってしまったが、そう考えてみるとなかなかのチェリーボーイっぷりである。行動だけ見れば見れば可愛いものだ。恋は芽生えないが。

 巌人がそんな失礼なことを考えていると、衛太はその中に入っていた手紙へと視線を下ろしていた──のだが、


「えーっと……は? え、ちょ……、お、おい巌人……、こ、ここ、これ見てくれ」


 その手紙を見てキョドりまくりの衛太。

 それには思わず巌人も首をかしげてそのラブレターを受け取る。

 そこに書かれていたのは、何だか見ているこっちがキュンキュンしてしまうような恋文であり、その最後にはその送り主の名前が書いていた──のだが、



「い、委員長……だよな? この名前」



 そう、その送り主とは──あの委員長だったのだ。

 青髪お下げにメガネの委員長。

 巌人のオーバーダイSRBを真っ先に買いに来た彼女。魔法使いの格好をして頬を赤らめていた彼女。先ほど巌人へと絶望を運んできた彼女。

 それらを思い出して巌人はこう結論出す。


「あの娘は……絶望に耐えられる覚悟があるなら、いいんじゃないか?」

「お前ッ、委員長と何があった!?」


 それに対して巌人は「なぁに、大したことじゃないさ」とそう虚空を眺めて口にした。

 それには思わず衛太も、


(ま、まさかっ、元彼と元カノの関係性ッ!?)


 そうして衛太は考える。


 それは、雪の降るある日のこと。

 クリスマスソングが遠くから聞こえ、巌人と委員長は白い息を吐きながら向かい合っていた。

 巌人の顔には真剣な表情が、委員長の顔には困惑したような表情が。


『委員長、僕……好きな奴が、出来たんだ』

『……えっ?』


 委員長は愕然とした。

 今までずっと一緒にいた二人は、俗に言う幼馴染という関係性だった。そしてそれは、中学一年生の夏に恋人同士へと変わっていった。

 そして今──幼馴染の関係性へと戻ろうとしていた。


『い、いやッ! それ以上は聞きたくないっ!』


 委員長はそう言って頭を横に振った。

 お下げ髪が左右に揺れ、被っていたニット帽が地面にパサリと落ちる。

 それは巌人がかつて彼女へと送った──彼女の最も大切なプレゼントであった。

 それを見て巌人は目を伏せると、懐へと手を伸ばし──



『紹介するよ、僕の新しい彼女──オーバーダイSRBだよ』



 と、そこまで考えたところで衛太は叫んだ。


「おっ、お前っ! 何でッ、何で幼馴染を捨ててまでシャンプーに走りやがった!?」

「いきなり何のことだよ!?」


 そうして巌人は身に覚えのなさすぎる言葉を吐きかけられたのだった。




 ☆☆☆




 衛太は毎日毎日早く学校へと登校してきている。

 それは野球部の朝練があるからに他ならず、朝練のない今日も彼はついつい癖でかなり早い時間帯に登校してきたとの事だった。

 恐らくそのラブレターは早い段階──衛太が学校に来てから他の生徒達が来るまでの時間帯に衛太の下駄箱へと投入されたのだろう。

 その為か約束の時間は衛太が巌人に相談してから二十分後のことであり、その時間は、巌人と話をしている間にもすぐにやって来てしまった。


(や、やっべぇぇッ! き、きき、緊張してきた……ッ)


 場所は人気のない校舎裏。

 今はミスコンテストの会場入りやらその他の出店の売切れ間際ということもあり、この校舎裏は間違いなく知るものぞ知る隠れスポットとなっているだろう。

 告白にこの場所をチョイスするのは、流石は超真面目で頭もいい委員長だ。

 巌人は──草むらの陰からそう呟いた(・・・)


「って言うかおい!? なんでお前がここに居るんだよ!?」

「何って……、やだなぁ、衛太君ってばー。親友の一大事、そこに居合わせないわけにはいかないだろー?」

「棒読み酷いぞ!?」


 そう言って衛太は巌人へと叫ぶ。

 けれども巌人はなにかに気がついたかのように真面目な顔付きになると、口に人差し指を当てて「しっ」と言うと、全力でステルス能力を発揮。まるで影に溶け込んでいくかのごとくその場から姿を消した。

 そして、その直後に校舎の角から姿を現す委員長。

 全く、その感知能力と反射速度は、つい十数分前は目の前数メートルで行われていた会話すら聞き取れない男のソレではないだろう。そして無駄にレベルの高いその隠密スキルに衛太は思わず愕然としてしまった。

 だが、


「あ、あれっ、平岸くん……もう来てたんだ」

「へっ? あ、はいっ! ま、まぁ、な……?」


 その緩んだ雰囲気は、彼女に声をかけられてすぐに霧散した。

 ドクドクと胸に手を当てなくても聞こえる心臓の鼓動。

 顔は湯気が出るのではないかとばかりに熱を持ち、視線を前へと向けると恥ずかしそうに顔を赤らめる委員長の姿があった。

 ──なんだこれなんだこれ。

 衛太は自分のおかしな反応に思わずそう自問し──ふと、巌人に言われた言葉が脳裏を過ぎった。


『それ、委員長からのラブレターなんだろ? 好きです、ってしっかり書かれてるんだろ? ならまぁ、ドッキリとか罰ゲームとか、そういうのは一切考えないできちんと答えてやれよ。乙女ってのは、告白にはしっかり答えてほしいもんだ。そう、少女漫画に書いてあった』


 その言葉は、最後の一言さえなければ最高だったろう。

 けれども、その最後の一言があるからこそあの男らしい。

 だけど──


(悪いな巌人、そのの言葉だけは聞けねぇや)


 衛太はしっかりと視線を彼女へと向ける。

 彼女は緊張したようにカチコチに固まっており、顔を真っ赤にして、パクパクと、何かを話そうとしては口を閉ざし、また話そうとしてを繰り返している。

 ──なんだこの子、すんごい可愛いじゃん。

 衛太は思わずそう思ってしまい、尚一層顔を真っ赤にする。

 けれども、ここで言わなければ男が廃る。平岸衛太、この前の聖獣級とのバトルに次ぐ──いや、それ以上の。一世一代の大仕事だ。

 衛太は大きく息を吸って──



「「あ、あのっ!」」



 声が──被った。

 それには二人は思わず目を点にした。どうやら緊張のあまり、相手が同じ行動をとっていることにも気がつけなかったようだ。

 そう思ってしまうと何だか笑いがこみ上げてきて、二人はどちらとも無く笑い出した。


「はっ、はははっ、なんだよ委員長、緊張し過ぎだろ」

「ふふっ、平岸くんこそっ、いつもの平岸くんっぽくないよ」


 そう言って二人は腹を抱えて、心底楽しそうに笑い合う。

 気がつけばもう既に二人の間からは緊張感は無く、衛太は、緊張すること無く、思っていたよりもはるかにスルリとその言葉を口にした。



「委員長。俺は委員長の事が好きだ。良ければ……だけど、俺と付き合ってくれないかな……?」



 その言葉に彼女は思わず目を丸くした。

 瞼を見開き、衛太へと驚きの視線を向ける。

 そして気がつけば彼女の両の瞳からは涙が溢れ出ており、彼女は、とても嬉しそうにこう告げた。



「はいっ、喜んでっ!」と。



 その時の彼女は、傍から見ていた巌人が目を見開く程に、美しかった。




 ☆☆☆




「いやー、いいもん見させてもらいましたわー。もう胸焼け酷くてごっちっぁんです」


 その後、衛太に呼び出された巌人は、その姿をいとも簡単に現していた。

 それには委員長も思わず目を剥き、その後恥ずかしさのあまり衛太の背中へと隠れてしまった。委員長、なんて可愛い生物だろうか。

 衛太はそんなことを思って思わずニヤニヤしてしまうが、それ以上にニヤニヤしている巌人に気がついて思わず額に青筋を浮かべてしまう。

 だが、今巌人を呼び出したのは他でもない。



「お前……さっき『結婚相手は決めてる』って言ってたよな。その相手、俺たちに教えてくんねぇか?」



 衛太は遠回しに言うでもなく、素直に巌人へとそう告げた。

 それにはその話を一切知らなかった委員長は驚いたように声を上げたが、空気を読んで口は挟まなかった。


「カレンちゃんに彩姫ちゃん。俺もお前とセットみたいなもんだからな。お前とセットのあの二人とはけっこう一緒にいる時間は多い。だからこそ──俺も、あの二人が本気でお前のことが好きなんだな、ってことくらいは分かってるつもりだ」


 その言葉に、困ったような笑みを浮かべる巌人。

 彼は知っていた。

 カレンが、彩姫が、自分へと好意を寄せていることに。

 けれどもカレンはその感情をハッキリ言われたくない様子であり、彩姫も確実に付き合えるタイミングを見計らっている様子だった。

 だからこそ巌人は二人の言葉に甘え、二人を受け入れも──断りもしなかった。

 だからこそ出来上がった今のハーレムであり、それは事情を知るものからすればかなり歪な存在系だ。

 だからこそ、それを知っている衛太だからこそ巌人の先ほどの言葉には目を見張った。


『すいません、将来結婚する相手は決まってるんで』


 それは、彼なりに彼女らの気持ちに整理をつけたということにほかならない。

 だからこそ気になった。

 本来はあまり口を出してはいけないことはわかっている。けれども衛太は気になったからこそそう告げて、


「うん、別にいいけどね」


 巌人がそれを断らないだろうということは、どこかで奥の方で確信していた。

 巌人はふぅと息を吐くと、二人へと視線を向ける。



「僕の将来の結婚相手は……」



 その後の言葉は風に流され、霧散され、この近辺に居る二人にしか届かなかった。

 けれどもその答えを聞いた二人は、その思いもよらない言葉に驚愕を顕にし──



「お、お前……それ、本気……なのか?」

「うん。これは……元から決めてたことだしな」



 巌人はどこか、寂しげにそういった。

なんとまぁ⋯⋯微妙な終わり方で。

今回の章は恋愛路線まっしぐらですね。アンノウンが出てくるのは甚だ疑問です。

次回! ミスコンテスト開幕!

内容は未定! 明日投稿できるかどうか、お楽しみに!

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