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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
望んだ青春
39/162

39.無意識なドン

この題名見てどんな内容か当てれる人いたら天才。

 翌日。

 学校の朝のホームルーム。その場における空気は普段のソレとは多少異なっていた。

 と言うのも、


「今日から学園祭の準備期間だ。とりあえず何するか決めるところから。テメェら心してがんばれよ〜」

「「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」」


 迫り来るは──学園祭。

 学園モノにおいてソレは欠かすことの出来ない、宿泊研修や修学旅行に次ぐ、一大行事である。




 ☆☆☆




「お化け屋敷がいいと思います!」


 一人の女子がそう手を挙げた。

 一時限目──本来ならば数学の授業を行っているであろうこの時間帯は、今日は『学園祭の出し物の話し合い』という時間へと変更しており、その言葉に議長をしていたお下げ髪の委員長は頷き、書記の生徒が黒板に書き込む。

 だがしかし、それには思わぬところから反対意見が上がった。


「はい、お化け屋敷に反対。もしも本当に出てきたら物理攻撃効かないじゃん。……最悪だろ、考えただけでも寒気がする」


 そう告げたのはもちろん巌人。

 彼は『お化け怖いよぉっ!』という程そういう類の存在が嫌いなわけではないが、それでも物理攻撃が効かないという特性を持つ霊体にはかなりの苦手意識を持っていた。

 それには前の席に座っていた衛太も目を見開き、くるりと後ろを振り返ってニヤニヤと笑みを浮かべ出した。


「おいおい、無能の黒王(ブラックキング)さんよぉ。その歳にもなってお化けが怖いなんて情ねぇとは思わねぇか?」

「はいはい、聖獣殺しの英雄さん」


 そしてそれを華麗にスルーする巌人。

 それには衛太もイラッとして額に青筋を浮かべるが、その一連の流れは最近では普段から見られるソレであり、また始まった、と生徒達は呆れたような視線を二人へと向ける。

 ──ただ一人を除いて。


「ん? どうしたんですか? カレン」

「ふぇっ!? あっ、い、いや……何でもないっす」


 彩姫の声に驚いたように声を出すカレン。

 カレンはそう告げると再び巌人へと視線を戻す。

 思い出すは──昨日の夕方。巌人にあの現場を見られた時のことだった。


『はぁ……、嫌な予感がして戻ってきてみれば、まさかよりにもよってお前にソレを見られるとはな……』


 あの時、そう言って巌人は困ったように笑った。

 頭をガシガシとかき、顔には『苦い』という言葉が良く似合う笑みを浮かべていた。


『こ、これ……どういうことっすか? この酒呑童子って……、闘級も驚いたっすけど、この異能は……』

『ツムのあの炎に相応しい名前じゃないか、ってか?』


 その、まるでどんなことを聞かれるか事前にわかっていたような言葉に、カレンは内心で驚きながらもゆっくりと首肯する。

 巌人は空気を読んで首を横に振ってくれることを期待したのだろう。疲れたようにため息を吐き、


『少しだけ……、今言えることは、ツムの異能はそこに書かれている酒呑童子の異能とは違うってことだな』


 真剣に、カレンの瞳を見据えてそう言った。

 それにはカレンも思わず気圧された。それと同時に、彼女はその言葉が紛れもない真実なのだろうと直感した。

 けれども、それでも引き下がる気にはなれなかった。


『今言えること……ってことは、少なからずツムさん……は分からないっすけど、師匠は酒呑童子と関わりがあるってことっすよね?』

『……あぁ』


 少しの逡巡。

 その末に彼は頷いた。

 それは嘘をつき続けてきた彼にとって、初めてカレンに対して自らの情報を教えることに対し譲歩した結果の行動であり、けれどもそれは同時に、それ以上は話せないということを物語っていた。

 カレンもそれを察して押し黙ると、巌人はすこし強引に笑みを浮かべると、なるべく軽い様子でこう告げた。


『まぁ、アレだ。時が来ればすべて教えるよ。よく中二病とかである「時は満ちたッ!」って感じになったらさ』


 それにはシリアスに浸かっていたカレンも力技で通常運転へと引き戻され、



『……悪いな、カレン』



 最後にそう言われてしまったら、彼女に彼を責めることは、できなかった。




 ☆☆☆




 という訳で。

 彼らにしては珍しいシリアスの長続きではあったが、そろそろ彼らクオリティが限界を迎えていた。


「はい、シャンプー大見学会的な奴がいいと思います」


 酷い案もあったものだ。

 けれども周囲の空気を読むことを知らない巌人は、淡々とその概要について語り出す。


「えっと、ありとあらゆるシャンプーをショーウィンドウに展示して、もしも欲しい客がいればそれを売る。試し洗いとかもいいんじゃないか? あとは……あぁ、なんか調合したくなってきた。まぁ、あとは任せます」


 そう言ってシャンプーの調合セットを取り出す巌人。

 それには委員長も思わず苦笑いを浮かべたが、聖獣級から助けてもらった手前無下にもできず、書記はその案を黒板へと書き綴った。

 けれども生徒達の総意は固かった──何とか話を逸らしてしまおう、と。

 だがしかし、ここに厄介な敵が一人。


「はい、私もその案に賛成です」


 彩姫である。


「巌人さまのシャンプー狂いには正直同意しかねますが、けれどもそれは巌人さまが言ったこと……。ならば黙って賛成するのが未来の妻の役目というものです!」


 さっさと結婚しちまえよこのクソカップル。

 そう思わなくもない生徒達ではあったが、その言葉には先程までシリアスの元凶となっていた彼女も黙ってはいなかった。


「ちょ、なに言ってるっすか彩姫ちゃん! 師匠の奥さんを名乗るとか図々しいにも程があるっす! 一体何様のつもりっすか!?」


 何様のつもりだ。

 そうカレンに問われた彩姫は顎に手をやって暫しの間沈黙し──頬を赤く染めた。


「わ、私は……その、はだ……い、いえっ、何でもないです」


 瞬間、その明らかになにかがあったであろう反応に、その言葉に妙にソワソワしだした巌人に、カレンは嫌な予感がビンビン感じられ始めた。


「わっ、私の知らないところで何をやったんすか二人共!?」


 叫ぶカレン。そしてその言葉に尚一層顔を赤くする彩姫。

 それを見たカレンは巌人へと視線を向けるが、


「なぁ衛太、お前何か案とかないの?」

「なに話そらそうとしてるっすか!?」


 衛太に話しかけることで話を逸らそうとした巌人。カレンは彼の両肩をがっしりと掴んで頭を揺さぶった。

 それには巌人も焦ったのだろう。しばしの沈黙の後、色々と出任せを口にしだした。


「えぁーっと、アレだよアレ。前に彩姫と学校の階段歩いてたら思わず躓いて転げ落ち、気がついたら彩姫を押し倒してたって感じ……だったよな?」

「へっ? あ、はいっ、そうですねっ!」


 酷い口から出任せもあったものだ。

 けれどもそれが妙にリアリティのある出来事だったためか、カレンが予想以上に冷静ではなかったためか、



「なんて羨ましいことやってるっすかぁっ!?」



 まんまとそれを信じたカレンの叫び声が、クラス中に響き渡った。




 ☆☆☆




「むぅぅぅ……」


 怒ってますよ。

 いかにもそんな雰囲気のカレンは、コンコンコンッ、とリズムよく釘を打ち込んでゆく巌人へと恨ましそうな視線を向けていた。


 あの後、シャンプー大見学会は中島先生から却下され、メイド喫茶という案も出たが女子達に潰され、結果としてお化け屋敷が一年三組の出し物と決定した。

 そこまで至るのにさして時間がかからなかったこともあり、近場の木材屋から調達してきた木材を使用し、早速仕切りの壁だけでも作ってしまおうとお化け屋敷の製作に入ったのだが、


「いつまで怒ってんだよ……」


 巌人は振り向きながらそうカレンへと話しかけた。

 このクラスの作業の速さは異常であり、ほかのクラスなどは未だに何をするかで迷っている。

 だからこそ未だに余裕しかないわけだが、流石に巌人の行くところ行くところについてきてそれを繰り返されれば巌人とてそう言わざるを得なくなる。

 するとカレンは、


「ふんっ! 知らないっすもん!」


 そう言ってそっぽを向くのだ。

 はて、ならば一体どうすればいいのだろう?

 巌人はそう考えて──たまたま近くに貼ってあった、そのポスターへと視線を向けた。


「花火大会……か」


 そこには夜空に舞う花火がプリントアウトされており、上の方には大きく『花火大会』と書かれていた。


(花火大会か……、去年はたしか家でツムと一緒に見たっけか……?)


 そう、巌人は去年の花火大会は家の屋根上に登って紡と一緒にそれを見たのだった。

 あの時は巌人はジャージ姿、紡はパジャマ姿と、伝統的という単語の欠片もなかったわけだが、この学校に入ったからには一度はそういう屋台なんかも回ってみたい。

 巌人はそんなことを思って……、


「し、師匠っ! 私のお願いまだ残ってたっすよね!」


 カレンがいきなり、そんなことを叫びだした。

 ──お願い。

 それは先日の宿泊研修。あの時に助けに来るのが遅かった、という名目で取り付けられた約束であり、彩姫は『一緒にお風呂に入ること』。カレンは『取っておくっす』との事だった。

 だからこそ巌人は黙って首肯し、



「なら私に『二人っきりで花火大会に行かないか?』ってお願いしてくださいっす!」



 その奇妙なお願いに、思わず首をかしげてしまった。

 だがしかし、カレンの瞳を見ればそれが真面目なお願いであることは一目瞭然であった。

 さらに、巌人の頭の中に、先程彼女が叫んだ『羨ましい』という単語が過ぎる。

 ──異性に押し倒される。

 別に自分がそれをされた所で別に何を思うわけでもないと思うが、羨ましいというのならば、ご機嫌取りにもそれも同時進行してみよう。

 巌人はそんな考えを抱き、そしてよく知らないままに、


 ドンッ!


 気がつけばカレンの体は壁際まで追いやられており、巌人は彼女の頭のすぐ横に手を付いた。

 ──壁ドン。

 恋愛やそういうモノに疎すぎる巌人はその存在は知らなかった。けれども床に押し倒すわけにも行かず、結局その行為へと至った。

 ここは廊下。

 生徒達の往来と目のある中。

 そんな中で、巌人は彼女の瞳を見てこう告げた。



「カレン、僕と二人っきりで……花火大会に行かないか」



 もちろんカレンは、顔を真っ赤にして気絶した。


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