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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
不屈の心
35/162

35.魔法少女(物理)

少し遅れました。

題名でだいたいわかりますね。

 逃げ惑う生徒達。

 敗れたB級隊員。

 そして、遥か格上の強敵。

 それらを前に、彼女ら三人は──


「行くぞ二人とも! 漢なら根性みせろよ!」

「「女っすよ(ですよ)!」」


 ──覚悟を、決めていた。


 そう言って彼らは駆け出す。

 衛太とカレンが円弧を描くように両サイドから、彩姫が中心、その後衛に立ち、天眼通を使用して動体視力を限界まで強化した状態で、大地を削り、その岩石を飛ばし始める。


「ハァァッ!」


 彩姫の掛け声と同時に幾つもの岩石が飛んでゆく。

 それは一般人であれば少しでも触れればかなりのダメージを被ってしまうほどの攻撃。

 けれども、


『なんだぁ? 石投げてるだけじゃん』


 一撃。

 かつてカレンが行ったその方法。極白クマは腕を軽く一振りする。そしてその風圧で粉微塵に砕けてゆく岩石。

 けれどもカレンとの戦いでその選択肢も考えていた彩姫は、全く焦ることなく次の手を繰り出した。


「『重力操作』!」


 それは、先日カレンへと繰り出したあの技。

 岩石投げからの重力操作。

 通常ならば順序が逆の方が効果的なのだろうが──今回に限って言えば、彩姫には味方がいる。


「うりゃぁぁぁっ!」

「うぉらぁぁぁぁっ!」


 カレンによる両手のトンファーによる連打。

 そして衛太の殺戮罰怒による凶悪な一撃。

 重力を強くして動きが鈍くなった極白クマは頭や首にモロにその攻撃を喰らい、


『ったー、案外痛いのねぇー。そのバット』


 全く効いていないとばかりに、二人を軽く跳ね除けた。

 軽く──本当に軽く、蝿を払う程度の力加減だったろう。

 けれどもそれを受けた二人はかなりの速度で吹き飛んでゆき、なんとか着地をすることは出来たものの、今の攻撃でも数回受ければ戦闘不能になってしまうだろう。

 衛太は思いもせぬ威力に額の汗を拭う。

 そしてカレンは──



「なーんだ、師匠の攻撃ほど強くも早くもないっすね。ツムさんよりちょっと遅いくらいっすか?」



 そう、軽々しく言ってのけた。

 確かにそれは正しいことなのだが、今の攻防を経験した上でそれを平然と言えるかどうか、と聞かれればほとんどの人が否と答えるだろう。

 それは彩姫や衛太をしても同じことだったし、極白クマ本人も思わずその言葉には目を点にした。

 それらの視線を受けながらも、カレンは他の生徒達がほとんどと言っていいほどこちらを見ていないことを確認し、ふぅと息をつく。


「マクベス先生から武器召喚はまだしも、『変身』だけは皆の前で使っちゃダメだ、って言われてるんすけどね……。今回は致し方なし、って感じっすねぇ」


 その言葉に、彩姫と衛太は思い出す。

 何故か(・・・)たまに巌人がカレンのことを『魔法少女』と呼んでいることに。

 そして、これまた何故か、彼女が平然と、武器を召喚していることに。

 それを見た者達は無自覚に『あの男の弟子だから』ということで片付けてしまっていたため、あまり彼女へとその真相を聞くことは無かったが⋯⋯、



「ふふんっ! 魔法少女のお披露目には最高の舞台っすね!」



 瞬間、カレンの身体が光り輝く。

 ──否、その周囲の背景まで、どういう理屈かキラキラとしたものへと変化している。

 そして、彼女の口から、魔法の言葉が紡がれる。



「イレーズ・テーテン・フラッペ・カルチャーレっ!」



 それを聞いた彩姫は戦慄した。

 何せその言葉は多種多様な国の言葉であったが、日本語に直せば『消す』『殺す』『殴る』『蹴る』だったのだから。

 彼女の肢体が光に包まれ、まるでアニメを見ているかのごとく、徐々に衣服が その青いドレスに換装されてゆく。

 そして──数秒後。



「魔法少女、駒内カレン! 師匠に代わってお仕置きっすよ!」



 そこに居たのは、青いフリフリドレスを着た、正真正銘の魔法少女だった。




 ☆☆☆




 絶句。

 逃げ惑う生徒達とその悲鳴だけは変わらないが、今回ばかりは極白クマでさえも絶句していた。

 それも当然だろう。修行中、カレンがこの魔法少女形態を見せた時はあの巌人でさえフリーズしていた。それほどまでに印象的で──何よりも非現実的。

 それをくるりと眺めたカレンは満足げに頷くと、腰に手を当てて胸を張って見せた。


「ふふん! もうこうなった以上大丈夫っすね!」


 その言葉に、彩姫はやっと硬直から回復した。


「か、カレン!? そ、その服装……はこの際置いておくとして、それになった事でのパワーアップとかはあるんですか!?」

「もちろんっすよ〜」


 即答だった。

 カレンは馬鹿だが愚かではない。

 そのカレンがこの一大事でそう言ったのだ。なればこそそれはきっと正しいことで⋯⋯、


「闘級も異能もまだあいつより格下っすけど……」



 ──体術だけ(・・・・)なら、十分張り合えるっすよ。



 瞬間、カレンの姿が掻き消え、極白クマが焦ったように緊急回避に移る。

 その直後、先程まで彼のいた場所に出来上がる、超巨大ハンマーによるクレーター。

 それを見て、彩姫は、衛太は、そして極白クマは、直感する──今の彼女は間違いなく『強者』だ、と。


 基本的に、強さの位は闘級で決まる。

 それはどんな状況下でも言えること。

 けれどもことカレンに関していえば、その限りではない。

 彼女は異能がとてつもなく弱い。

 体術だけならばそれこそA級隊員の練習相手すら務まるほどの実力がある。武器召喚という『魔法』も鑑みれば十分B級隊員としてもやっていけるだろう。

 だからこそ──彼女という存在はとても歪だ。まるで、南雲巌人のように。


 南雲巌人は、異能が無く、体術が最強。それゆえに闘級すらもぶっちぎっている怪物。そう表現するとしよう。

 ならばカレンは、異能が最弱、体術が二流。それゆえに闘級が落ちてせいぜいが三流。そう表現できるだろう。

 似ているようで似ていない二人。

 異能が足を引っ張って実力が落ちているか、異能が足を引っ張ってもなおあまりある強さを持っているか。

 けれども、


「はぁぁぁっ!!」


 ──もしもカレンが、その体術をさらに向上させる術を持っているとすれば。

 さすれば、いくら異能が弱くて闘級が落ちようとも──こと体術だけに関していえば、一流である。


 直後、ハンマーから『バールのようなもの』へと武器を変換したカレンは、極白クマ目掛けて方向転換。武器を構えて突撃する。

 けれども相手は聖獣級。しかも魔王クラブスターのようなもの後衛タイプではなくバリバリの前衛タイプだ。その体術ランクは紡と同位のSランクにまで達している。

 彼は一撃で沈めんとばかりに大ぶりの一撃を繰り出す。

 だが、


「ん? もしかしてアンタ、戦闘慣れしてないっすね?」


 そんなものは、常日頃から最強の体術相手に訓練をしているカレンにとって、躱すに易い攻撃であった。

 彼女はその腕の上に乗って肩まで駆け上がるとその武器の先端部を──


「ふんすっ!」


 その頭蓋めがけて、振り下ろした。


『ギャぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?』


 轟く悲鳴。弾ける鮮血。

 もはやその攻撃に魔法の要素など皆無であり、それを遠くから見ていた彩姫と衛太は、その強さに驚くとともに、その容赦のない物理攻撃にかなりドン引きしていた。

 そして、それを行った張本人であるカレンは極白クマの肩から降り立ち、彼めがけてこう告げる。



「今の私は、体術だけならツムさんレベルっすよ?」



 その言葉に、微かに沸き立つ彩姫と衛太。

 彩姫は紡が絶対者だということこそ知らないが、強いということは知っていた。

 衛太はその本人とは会ったことはないが、巌人の妹ならばさぞかし強いだろうという考えを持っていた。

 だからこそ生じたそれらの感情。


 けれども、それ故に三人は見逃していた。


 極白クマの瞳に──狂気の炎が宿ったことに。




 ☆☆☆




『なるほど、君だけ(・・)はちょっと厄介なんだな……。さぞかし強い師に出会ったんだろうね』


 極白クマはそう告げた。

 それにより少しだけ気を良くしてしまったカレンだったが、



『なら、他の奴らを……殺せばいい』



 そのせいで一歩、出遅れた。

 ──まずいっ!

 そう思った時にはもう既にカレンは駆け出しており、視線の先には逃げ場を失った生徒達が戦闘の現場を見て恐怖に怯えており、彼らは極白クマが自らの方に向かってきているとは思っていない──否、その速度を目で追えないのだろう。

 だからこそ、カレンは必死に。それこそ地を砕く勢いでそちらへと駆け出して……、



『なーんて、ね?』



 そう言って振り返った極白クマのその瞳を見て、頭の中に大音量の警鐘が鳴り響いた。


「ま、まずっ……」


 ドゴォォォォッ!

 咄嗟に両手を合わせてガードしたカレン。

 その直後に極白クマの大ぶりの一撃がクリーンヒットし、カレンは弾かれたように何度も地面へとバウンドし、最終的に内壁へと激突した。


「かハ……ッ!?」


 肺の中の空気が全ての吐出し、それと同時に口から鮮血が吹き出す。

 まず間違いなく両腕の骨はやられてしまっただろう。

 もしかしたら肋骨も数本やられているかもしれない──下手すれば背骨にまでダメージが入っている可能性もある。

 半ば埋まりこんだ壁からはなんとか脱出した。

 痛みが強すぎて逆に気絶する余裕もなく、常に身体中へと感じたこともないような痛みが伝わってくる。

 それでも何とか身体を起こそうとして……、


『は〜い、腕一本』


 グシャッ!

 右腕を──踏み砕かれた。


「───ッッッ!?」


 声にもならない悲鳴が響き渡る。

 極白クマはそれに愉悦を見出したのか、さらに足をグリグリと踏み込んで、そのへしゃげた右腕に──カレンに、さらなる痛みを加えてゆく。

 だが、それを良しとしない者が二人。


「カレンから離れてください!!」

「うぉらぁぁぁぁっ!! 離れやがれッ!」


 極白クマの身体が突如として横に数メートル吹き飛ばされ、先程カレンから受けた傷、寸分違わずそこに打ち込まれる金属バット。


『うがぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 極白クマへとさらなる痛みが加わり、彼は頭を抱えてたたらを踏む。

 そしてその隙にカレンの元へと向かった二人が見たものとは……、


「く、クソッ!」

「ひ、酷い……」


 間違いなく修復不可能であろう程に踏み潰された右腕と、身体中から油汗をかく、満身創痍の様子のカレン。


「あっ! カレン! ちょっと痛むかも知れませんが我慢してください!」


 咄嗟に出血死の可能性に至った彩姫は、カレンの傷口からの出血を多少無理矢理に異能で押さえつけ、



『お前らも、処刑なんだな』



 瞬間、二人の身体は弾かれたように吹き飛ばされた。

 それぞれが左右の内壁の間際まで吹き飛ばされ、二人はあまりの痛みに悶絶する。

 その痛みは今までの人生の中で感じたことのないものであり、悶絶している()の元に──影が差した。



『お前の攻撃は痛かったんだな。だから、敬意と殺意を持って、お前を一番最初に──殺してやる』



 その言葉を聞いて、彼──平岸衛太は、引き攣った笑みを零した。

前回よりもピンチです。

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 フラッペなんとかって、もしかして魔導神化ですかね?
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