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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
不屈の心
30/162

30.宿泊研修

突然ですが、ストックが切れかかっています。

明日⋯⋯は更新できます。明後日は⋯⋯怪しいですね。まだ書き終わってません。

申し訳ありませんが、近いうちに不定期更新となるかも知れません。

GWで作者が頑張って、その日が伸びることをご期待ください(泣)。

 一方その頃。

 カレンたちは、宿泊研修先の旅館へと到着していた。


「ほえぇぇ……、す、凄いっすねぇ……」


 そう呟いたのはカレン。

 けれどもそれは仕方のないことであろう。

 ここはサッポロの郊外──それこそ木々が生い茂る山の、さらに奥地に建っている高級旅館。

 そこの一室、カレンと彩姫が泊まる二人部屋の窓から見える景色は『見事』という他なく、畳の匂いに木造の壁や椅子。それらは悲劇の年よりも前の『和風』を体現しているようであった。

 そんな部屋に入ったところで固まっているカレンを他所に、それこそ最初見た時は固まってしまったものの、すぐに立て直した彩姫はその部屋の中へと足を踏み入れた。もちろん靴は脱いでいる。


「カレン、しっかりしてください。ここに荷物を置いて運動できる服装に着替えたらロビーに集合ですよ。まだ時間はありますが余裕を持って行動しないと後々で痛い目を見ますよ」

「はっ! そ、そうだったっすね! 流石は彩姫ちゃん、一緒の部屋になれて良かったっす! ありがとうっす!」


 そのストレート極まりないド直球に思わず頬を赤らめる彩姫。

 彼女は今まで黒棺の王(ブラックパンドラー)を追い続けてきたがゆえ、あまりの他人から感謝されるようなことはなかった。だからこそこうして真っ向面からお礼を言われることには慣れていなかったのだ。

 そんな傍から見れば百合百合しい雰囲気を醸し出す二人ではあったが、そんな空気など知りもしないカレンは──


「よーし! 師匠が居ないのはちょっと寂しいっすけど、これはある意味師匠を驚かせるチャンスっす! この二日間でビックリするほど強くなってやるっすよぉーー!!」


 そう意気込んで、両拳を胸の前でぎゅっと握った。




 ☆☆☆




 その数十分後。

 その旅館から徒歩十分程のところにある特務の訓練施設。

 そこにカレンたち生徒諸君は集まっていた。


「よし、みんな集まったな? これから宿泊研修、最初の訓練を行う!」


 瞬間、生徒達から漏れでる嘆息の声。

 そう、せっかく宿泊研修に来ているのにその初っ端がこの訓練なのである。真面目な者であっても気乗りしないのは自明の理であろう。

 けれども、それらをあらかじめ察していたその教師は、ニヤリと笑みを浮かべてこう告げた。


「今回は特別に、特務から一人のB級隊員にお越しいただいている。しかもかなーり有名な方に、だ」


 瞬間、ざわめき出す生徒達。

 彩姫は有望株の多いフォースアカデミーの宿泊研修には毎年特務隊員が護衛につくことは知っていたが、まさかC級ではなくB級隊員が着くとは思いもしていなかった。

 その上──


「それではどうぞ、壇上にお上がり下さい!」


 その声とともに、訓練室へと入ってきたその男に、思わず目を見開いた。

 その男は女子生徒たちから黄色い声援を浴びながら先ほどの教師が登っていた壇の上に立つと、マイクを握って口を開く。


「えっと、お久しぶりです! B級隊員の芦別(あしべつ)隼人(はやと)っていいます! B級隊員の中ではあんまり強くないんですけど、まぁまぁ強いと思いますのでどうぞ宜しくお願いします!」


 そう言って頭を下げたのは、つい前日職場見学会に参加していたイケメンB級隊員、芦別隼人であった。

 そして彩姫は内心で呟く──強くないだなんて謙遜もいいところだ、と。

 彼の異能は『超視力』である。

 それ自体は視力が良くなるというだけの地味な異能であり、傍から見れば全く強いようには思えないだろう。

 けれども──地味でこそあれど、彼はかなりの実力者だ。

 近接戦闘では全ての攻撃を見抜き、全てを最少の動きで躱してその隙に剣戟を打ち込む。

 遠距離戦闘では相手の攻撃を躱しながらも一瞬で接近し、相手が離れようと行動する前に勝負をつける。

 そんな彼が『弱い』などと、そんなことを言えるのは一握りの強者とそれすらも分からない弱者だけだ。


「それじゃあ自己紹介は二度目なんでたぶん要らないでしょうし、訓練を早く終わらせるためにもなるべく早く始めちゃいましょうか!」


 そう言って彼は、その手のステータスアプリを数度タッチする。

 それと同時に、彼の背後にスクリーンが現れる。


「今回の訓練は簡単で、言うなれば徹底的な戦闘訓練ですね。最近問題になってますが、無音のワープホールって言うのが一度だけありまして、もしもそういう場に遭遇した際、何とか逃げ切る、又は倒しきる力をつけていきたいと思います」


 その言葉に生徒達は──一年三組の生徒達は思い出す。

 かつてゲームセンターで襲いかかってきたあの恐るべきアンノウンを。

 そしてそれをあろう事か太古の達人のバチで瞬殺した、彼の人外シャンプー男のことを。

 そして、カレンと彩姫はきっと顔を引き締める。

 そう、二人はこの場にあの男に追いつくために、そして超えるために来たのだ。そのためには下手な体力訓練なんかよりもよほど戦闘訓練の方が役に立つ。

 そんな生徒達を眺めた芦別は、自らの言動に火がついたのだと勘違いして、ニッコリと笑ってこう告げた。


「それじゃあ皆さん、頑張りましょう!」


 そうして、カレンたちのもう一つの二日間が幕を開けた。




 ☆☆☆




「ハァァァァッ!!」


 瞬間、彩姫の周囲の大地が砕け、いくつもの岩石となり狙った先へと吹き飛んでゆく。

 そして、その先にいたカレンはそのハンマーを肩に構えて腰を下ろし、


「ふんすぅっ!」


 それら全てを、粉砕した。

 たったひと振りで、それら全てを跡形もなく粉砕するその攻撃力に彩姫も思わず頬を引き攣らせる。


「闘級二十五じゃなかったんですか……? それ絶対三十くらい来てますよね?」

「ふふんっ! 私だって向こうでマクベス先生と訓練したっすし、師匠の所でも結構頑張ってるんすよ!」


 そう言って彼女はハンマーを消してトンファーを召喚すると、彩姫目掛けて一直線に駆け出した。


(は、早いっ!?)


 彩姫は想定していた以上の速度に思わず目を見開くが、けれどもすぐに落ち着いて対処し始める。


「ハァッ!」


 彩姫が右手を振り下ろすと同時にカレンの周辺へと赤い光が弾け、それと同時に彼女の動きが目に見えて遅くなる。

 ──重力操作。

 六神力、その内の超神力によって行われるその力はかなりのものであり、カレンからすればその体が文字通り鉛のように感じられるであろう。

 だがしかし──カレンはそんなことで攻撃をやめる程度の弟子ではない。


「ま、マジカル☆マジカル! いでよ私の魔法武器!」


 そうしてカレンの持つトンファーは光に包まれ、それと同時に彼女の前方には、黒光りする一つの巨大な武器が形成された。

 そしてそれを知る彩姫はシャレにならないソレに思わず息を呑む。

 何せそれは──



「召喚! 超電磁砲(レールガン)!!」

「なぁっ!?」



 そう、それは正真正銘、あの超電磁砲だったのだ。

 彩姫は一瞬の硬直の後、すぐに計算を始める。

 果たしてあの超電磁砲の威力はどれ程が。

 普通の超電磁砲であっても止めるのは難しいだろう。なればあの不思議な原理で生み出されたアレはどうなんだ? 果たして下位互換か上位互換か。

 そこまで考えたところで彼女は考え至る。


 ──今の自分には、止められない。


 気がつけば彼女は異能を解除して両手をあげており、それは見間違うはずもなく降参の合図であった。

 それを見たカレンはホッと安心したように息を吐き、そしてその様子に彩姫は自分の推測が正しかったのだと確信した。


「きっとそれはシャレにならない武器。それを敢えて生徒達のいるところで放つと無言でアピールすれば、一応特務にいる私にとっては降参する他道はない。正直戦闘訓練の風上にも置けない戦法ですが、さすがは巌人さまの一番弟子ですね……。素直に感服しました」

「ふっふーん! 師匠とツムさんに言われたっす! 戦闘には勝つか負けるしかない。ならどんな手を使ってでも勝つべきだ、って!」


 その言葉を聞いて彩姫は思う。

 ──たしかにその理論は果てしなく正しいのですが、それでもこの作戦を思い立ったカレンの方が何倍も凄いんですよ、と。

 彩姫がそんなことを考えて頬を緩めていると、


「ちょっと君たち。それは少し違うよ」


 無粋にも、その会話に割り込んでくる者が現れた。

 彩姫とカレンはその言葉に明らかに眉を顰めると、嫌そうにそちらへと視線を向ける。するとそこには案の定──芦別隼人の姿があった。


「すいません、聞き間違えでしょうか? 今貴方、その考えが間違っている、なんて言いませんでした?」


 彩姫の口からは、絶対零度すら生ぬるい程の、概念でさえ凍りつきそうな程冷たい声が出る。

 それには流石の芦別も頬を引き攣らせたが、時として善意は悪意よりも鬱陶しい。


「そ、そうだね。戦闘には勝つか負けるかしかない。その考えはとても危ないよ。少なくとも、君たちのような若い娘が使っていい言葉じゃない」


 その言葉に、カレンと彩姫は少しだけイラッとしてしまった。

 たしかに世間一般で言えば、本当の意味でその境地まで到れるのは年老いた人物や、入境学のような若くして高みまで上り詰めた一握りの天才くらいなものだろう。

 だがしかし、二人が目指しているのはその天才すらぶっちぎっている凡人であり、その時点で世間一般の考え方から外れている以上、常識なんかに囚われていればいつまで経っても追いつけやしない。

 だからこそ──必死になっている自分たちに水を指す、その常識人に苛立ちを覚えた。


「失礼ですが、私たちが目指しているのは貴方よりも若くて圧倒的に強い人です。たしかに貴方の訓練は役に立ちますが、だからといって貴方にあの人の言葉を侮辱する権利はありません」

「そうっすね……。ちょっと『何言ってんだこいつ』って感じっすね」


 その言葉に、芦別は再び頬を引き攣らせるかと思ったが、その予想とは裏腹に、彼は一瞬の硬直の後、思わずと言ったふうに吹き出した。

 そして、その行動に、明らかに二人の発する空気が数段階冷え込んだ。

 けれどもそれに気づかぬ芦別は、勘違いに勘違いを重ねて言葉を紡ぎ出す。


「あははっ、それってもしかして絶対者(ワールド・レコーダー)の『死の帝王』のことかな? たしかに彼は十五歳の若さで世界に名を轟かせているからね。君たちくらいの娘が憧れるのは無理ないことだけど、彼みたいな天才と自分を比べちゃいけないよ」


 それは彼の経験からの言葉でもあった。

 彼の同年代には、入境学という正真正銘の化物がいる。

 彼は天才で、同期にも関わらず一度としてまともに話したこともなく、いつからか彼の中では『天才と自分を比べてはいけない』という考えが生まれていた。

 だからこそ彼は今その言葉を口にして──そんなの不可能だと言っているようにも取れるその言葉を口にして、


「「…………は?」」


 彼女らの怒りを買ってしまった。

 気がつけば彼女らからはシャレにならないレベルの威圧感と殺気が漏れ始めており、それと同時に周囲の一年三組の生徒達からも冷たい視線が注がれ始める。

 そして、今になってその自らが置かれている状況に気がついた芦別隼人。

 その、まるで馬鹿にしているかのような行動に二人の堪忍袋の緒が切れ──



「おいアンタ、人様の夢を馬鹿にして、一体何様だ?」



 その二人よりも遥かに強い殺気のこもったその言葉に、思わず背筋に冷たい汗をかいた。

 気がつけば、芦別隼人の首には禍々しいバットが添えられており、その背後には、怒りに顔を歪めた衛太が立っていた。

 芦別は衛太から向けられているその怒りに焦り、思わずと言ったふうに──否定した。


「い、いやっ、俺はそんなつもりじゃ……」


 瞬間、衛太の怒りが爆発し、彼はバットを捨てて芦別の胸ぐらに掴みかかる。

 そして、睨みを利かせて、


「アァ!? 人様が必死に頑張っているところに口を挟んで! 水を差して! その上で『憧れるのは無理ないことだ』だ!?『比べるな』だ!? 親切心にカマかけて人の夢を潰すんじゃねェよ、クソがッ!!」


 そう言って彼はその胸ぐらごと芦別のことを投げ捨てると、それを見下すように、失望したように見下ろして、



俺ら(・・)はもっと先を目指してんだ。それを自分の物差しで邪魔しようってんなら、テメェはここには、相応しくねぇ」



 そうして一日目にして、大人気を誇る芦別隼人のフォースアカデミーでの人気は、没落した。


そろそろこの作品(キャラ名)に隠されたネタをわかってくる人もいるのでは⋯⋯?

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