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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
背負う罪
23/162

23.青い光

邂逅の時来たれり。

 巌人はあの後ニュースで、

『外で黒髪を見つけたら注意し、絶対に近づかないでください! 一人で何とかしようとせず警察を呼んでくださいね!』

 と迷惑極まりないことを言っていたのを見て、致し方なくマントを羽織って屋根の上を高速で移動していた。


「はぁ……こんな感じで移動するの、すんごい久しぶりだな」


 巌人はそう呟くと、人の気配を感じてルートを修正する。

 この道程で最も大切なことは、人に見つからないことである。もしも見つかれば黒髪ということで通報され、下手をすれは下着泥棒何かと間違われる可能性もある。そして何より、時間が取られる。

 だからこそ彼は人に見つからず、そして現場への最短ルートを突っ切らねばならない訳だが──


「あぁ、この時間って……」


 巌人は眼下の交差点を見て眉を顰める。

 そう、本来ならばこの時間は通勤時間。いくら黒印団が暴れているからと言って直接関係ない人々が休むわけでもなく、そこにはいつもと変わらない人混みがあった。

 巌人は「はぁ」とため息を吐くと、視線を前へと向ける。

 目算──およそ三十二キロ。

 巌人は自らが足場としているビルへと視線を落とすと、心の中で「悪い」謝って──



「ま、勘が鈍ってなければ着くだろう」



 その場から、地を砕く勢いで大きくジャンプした。




 ☆☆☆




 彩姫は、頭の中で様々なことを考えながら移動していた。

 移動していたというのも、それは決して走ったり歩いたりしている訳ではなく、彼女の身体は赤い光を纏いながら、地上十数センチの所を浮いて(・・・)移動していたのだった。

 彼女の異能は俗に『超能力』や『エスパー』と言ったものに類されるものであり、それと同時にその最高位、SSSランクに位置するものである。


 その名も──六神力。


 それぞれ六つの能力から成るその能力は、神速通、天耳通、天眼通、他心通、宿命通、そして超神通の六つから成る。


 それぞれを簡単に説明するとすると──

 神速通(しんそくつう):自由に体を浮かす能力。

 天耳通(てんにつう):とてもよく聞こえる聴力。

 天眼通(てんげんつう):全てを見通す神眼。

 他心通(たしんつう):相手の感情や心を見通す力。

 宿命通(しゅくめいつう):相手の生命力を見通す

 超神通(ちょうしんつう):対象を支配し、操る能力。

 ──と、このようになる。


 だがしかし、本来この能力は神が使うべき能力。

 それを人間の、それも子供がが使いこなせるわけもなく、彩姫がそれらの能力を使用する際は全ての能力にリミッターがかかっている。

 けれども、制限されてもなお十分すぎるほどにそれらの能力は強力無比であり、闘級だけならばもうすぐB級の最低ランクに達する程であった。


 閑話休題。


 そんな彩姫はサッポロの都市の中心部近辺にある巨大な都市公園へと訪れていた。

 今現在、内閣総理大臣は都心の特務署に居り、その場所に行こうとするならば、この公園を通るルートかもう片方の街中を通るルートの二つしか無い。

 そこで彩姫が参考にしたのは、ニュースで放送されていた彼らの主な能力と武器についてである。

 ──それは、炎属性の異能に火炎放射器。

 それに加え、彼らは必要以上に自らの力を誇示したいらしく、目に付いた燃えそうなものは片っ端から燃やして回っているとのことだ。

 なればこそ、何も無い街中と燃えるものが所狭しと生えているこの都市公園、どちらを通るかとなれば後者の可能性が限りなく高い。


「さぁ、全員ぶっ飛ばしてあげますよ!」


 そう言って彼女は地へと降り立ち──


「あ、ちょっとやばいかも……」


 突如として上空から聞こえてきたそんな声に、思わず目を見開いて上を見上げた。

 しかしそこにはその声の主はおらず、背後から物凄い風切り音がして、ドゴォォォンッッ!! と爆音が響き渡る。


「なぁっ!?」


 彩姫はその爆音地を振り向き、あまりにも意味不明な現状に思わず驚愕の感情を帯びた声を上げた。

 なにせ、彼女が天耳通にて察した現状をいえば、突如として上空から落ちてきた人間が自身のすぐ近くに墜落したのだ。

 まず前提条件から色々と聞き正したい所だが、おそらくはそれも不可能だろう、彩姫は思った。


(あれだけの速度で地面に墜落したんです……。人間ならもちろんのこと、それが聖獣級のアンノウンだって重傷ですよ……)


 先ほどの人間は、まず間違いなく即死だろう。

 なんでこんな時にこんな事件が起こってしまったのか。彩姫はそんなことを考えてため息を吐き──


「いやぁ、死ぬかと思った」


 その土煙の中なら見え始めた、その人影に目を見開いた。

 それはまず間違いなく先程上から降ってきたその男と同じ声色であり、それはその人物があの速度で地面へと墜落し、その上で軽傷だったということを示している。

 ──まさに、化け物だ。

 考えるまでもなく格上と言わざるを得ないその存在。彩姫は緊張にゴクリと息を飲む。

 そして──その奥から現れた黒髪に、目を見開いた。


「黒印団……ッ!?」


 彩姫は確信した。目の前のこの男が件の組織が送り込んできた最強の刺客であることを。

 するとその男も彩姫の声を聞きとったのか、ガバッと顔を上げて彩姫の方への視線を向ける。

 所々クルクルとした天然パーマにどこか見覚えのある青い瞳。これにもしもメガネでもしていればかなりのモブ男だったに違いない。


(あれ……? この人、どこかで見たような気が……)


 一瞬、その姿に──先程の横顔に引っかかるものを覚えた彩姫ではあったが、彼女は首を思いっきり横に振ってその感覚を破き捨てた。

 そう、目の前の相手は黒印団の者なのだ。つまりは彼の無能力者を害する犯罪者集団。敵である。

 そう考えると、緊張で思わず俯き勝ちになってしまう。相手は遥か格上、勝てる可能性など皆無に近い。そんな相手を前にしていると考えると手足が震え始める。

 けれども彼女は彼──黒棺の王(ブラックパンドラー)の姿を思い返す。


(あの人は……、あの人は! 聖獣級のアンノウンを前にしても、恐怖なんてしてなかった!)


 彼女はそう内心で叫んで自らを鼓舞すると、カッと目を開いて顔を上げ──


「さぁ! 勝負です黒印団の…………あれ?」


 誰もいないその現状に、思わず目を点にした。

 そう、先程までそこにいた黒髪の男はもうその場にはおらず、あるのはただ、その存在を証明する大きなクレーターだけ。

 まさか──逃げられた!?

 彩姫は咄嗟に周囲を見渡す。もしも万が一あのレベルの脅威を見逃したとなるとそれは致命的な一打にもなりかねない。それはそう思っての行動だったが──


 ぴろりろりん!


「おおっ! なんか当たったぞこれ!」


 その男は──背後の自販機で当たりを引いていた。

 彩姫はその意味不明な行為と自販機で当たりを引いた事実に思わず驚愕したが、すぐに体を浮遊させると彼の近くへと移動する。

 ──だがしかし。


「ちょ、ちょっと貴方! 一体なにをして」

「あぁ、さっきの。ほら、当たったからこれやるよ」

「え? あ、ありがとうございます……」


 彩姫、当たりの缶ジュースにて買収される。

 彩姫もついその缶ジュースを受け取ってしまったが、後になって騙されたのではないかと思った彼女は急いで顔を上げる。

 すると案の定、そこには彩姫へと背を向けて歩き出している男の姿があった。

 ハッとした彩姫は異能を使用して彼のすぐ隣まで移動する。


「ちょ、ちょっと待ってください! 貴方、一体さっきから何がしたいんですか!? とてもじゃないですけど、あの黒印団とは思えません!」


 そう、彩姫にはその男の行動が、件の意味不明な思想を振りかざしている黒印団のものとは思えなかったのだ。

 まるで、そう、黒印団ではないかのよう──


「……って、あれ?」


 彩姫は突如としてその可能性に思い至り、思わず冷や汗を流した。

 この少年は一度として自らが黒印団だと言ったであろうか?

 この少年の黒髪は、本当に染めたものであろうか?

 この少年の強さは、噂に聞く彼と同位のものではないか?

 そう考えれば考えるほどに何故だかすべて辻褄の合うその答え。もはや彩姫はこの少年の正体にだいたい気づきつつあって。



「いや、僕、オリジナルの黒髪なんだけど」



 他心通が嘘偽りのないと判断したその言葉に、彩姫は思わず膝をついた。




 ☆☆☆




 巌人は、何故か目の前で四つん這いになってズーンとしている少女を見て、思わず目が点になってしまった。

 と言うのも、自身がオリジナルだと言ったところでどうせ「嘘だ!」と言われるのが目に見えていたからであり、まさかたった一言でここまで信じられるとは思ってもいなかったのだ。


「お、おい……大丈夫か?」


 巌人はそう言おうとしてしゃがみこみ、突如として周囲に木霊したその声に、その身をピクリと反応させた。


「ふはっ、なんだ貴様……見ない顔だな?」


 そちらへと視線を向けると、そこには身体中へと火炎放射装置を装備した集団が集っており、その一番手前の大男──バイソンがニタニタとした笑みをその顔に浮かべていた。

 ──黒印団。

 もはやその正体は彼らが全員黒髪だということからも明らかであり、巌人はそれらを見て、ため息混じりに立ち上がる。


「怪しいな……、おい貴様! 黒印団ならば我らが合言葉を声たたらかに叫ぶのだ!『我らの前に敵はおらず──』」

「えーっと……『なぜなら僕らは最弱だから』……とか?」

「…………貴様ァ、今、なんと言った?」


 バイソンはその侮辱行為にも似た言葉を受けて、怒気を含ませてそう呟いた。

 けれども巌人は何でもないというふうに腕を組むと、ふむと唸ってこう呟く。


「いや、僕が年上に敬語を使わないこと自体珍しいんだけどな……。てか、お前ら全然黒髪似合ってないな? もう逆に違和感しかないぞ」


 ブチッ!

 総勢数十名から成る黒印団の方向から、何かが切れたような音がした。

 バイソンは額に青筋を浮かべて唸ると、森へ火を放つように命令しようとして、さらにその言葉も巌人によって被せられた。


「おーっと、まさか気高い思想を持つ黒印団はたった二人を前にチキって森に火をつけるのか? いやぁ、まさかだよなぁ? そんなことするのは相手に勝てないと思ってるチキンか雑魚だけだもんなぁ?」

「え!? な、なんで私まで……」

「え? 逆に聞くけど君、あの人たちより弱いの?」

「そんなわけないじゃないですか」


 ブチブチッ!

 堪忍袋の緒が、音を立ててブチ切れた。



「お前らァァ!! あのガキ二匹をぶっ殺せ!!」



 黒印団はつい先日のカレンの如く、巌人の煽りにまんまと引っかかった。




 ☆☆☆




 彩姫はそれらの怒り狂った集団を見ながら、内心で隣の少年に対して感動を抱いていた。


 彼女はその能力故、相手の言葉か嘘か真か、そしてどんな感情を抱いているか知ることが出来る。

 だからこそ先ほどの行為には悪意がなく、ただ単純に相手を煽るための言葉だったことも分かっていた。

 だからこそ──その手腕に感動した。


(相手の行動を先読みして森への放火を防ぎ、その上で私の戦力まで把握して……あぁもう! とにかく凄いですよこの人!)


 稀代の天才と自他ともに認める彩姫でさえ認めるその頭のキレ。天才かどうかは別として、恐らくは頭脳だけでいえば──否、頭脳においても自らより上だろうと考えられる。


(この数はちょっと難しかったですが……これなら、これなら何とかなるかも知れません!)


 彩姫は思わず興奮して内心でそう叫ぶと──それと同時に巌人が彼女へと口を開いた。

 だが──彩姫はその言葉に思わず硬直してしまう。



「君の異能さ、たぶん超能力系統のSSSランクでしょ。それ、アイツらに対して絶対使うな(・・・)よ?」



 意味が、全くと言っていいほどわからなかった。

 視線の先の黒印団は着々とこちらへと迫っており、今にも異能を使用しようとしていた彼女は信じられないとばかりに目を見開いた。

 けれども巌人は、それらを見据えて淡々と言葉を重ねる。


「異能は、言わばハサミみたいなものだ。特務は敵対者に銃を使う権利は認めているが、それはハサミを敵対者に向けていい理由にはならない」


 もうすぐ目の前まで敵は迫っており、けれども巌人は、焦りを見せる気配が微塵もない。


「まぁ、正当防衛って言葉もあるし、僕もこんな状況じゃ咎めるつもりは無いけど、それでも人間に異能を使っちゃ、それはアンノウンとやってる事が何も変わりやしない」


 ──正確には、知性ある生物に対して、か。


 巌人はそう呟くと一歩前へと踏み出し、それと同時に巌人へと一斉に炎が吹き荒れる。

 それには彩姫も目を見開いたが──次の瞬間、確かに彼女は、あの青い光(・・・・・)を目撃した。



「ならどうすればいいか。人間の敵対者には異能を使わず、正当防衛の、それも物理のみで対処すればいい」



 瞬間、それらの炎が青い光となって(・・・・・・・)消え失せた(・・・・・)


 その現象は、彩姫が夢にまで見たあの光景に瓜二つであり、その黒色のマントを風に揺らす彼の後ろ姿には、不思議とあの人物の姿が重なっていた。


 瞬間、彩姫の脳内に存在するいくつかのピースが結びつき、完全に合致した。

 どこか見覚えのある彼の顔。

 色落ちしない黒染めシャンプー。

 遥か格上の黒髪の少年。

 かつて見た、純白髪の少年。

 そして──その青い瞳と、青い光。


「んじゃ、お前ら覚悟できてんだろうな?」


 彩姫は、悪い笑みを浮かべて拳をゴキゴキと鳴らしている彼の姿を見つめながら、頬を赤く染めてこう呟いた。



「やっと⋯⋯、やっと、見つけました」と。


彩姫の能力チートですね。

次回!『背負う罪』です。

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