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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
紡ぐ物語
161/162

159.警告

 ――獄王ディアブル。


 その名を紡は覚えていた。

 南雲巌人と真正面から戦い。

 その上で、相打ちまで持って行った男。

 横槍が入ったことで【黒棺の王】に敗れた彼だったが――。


『……やめた。お前は殺さないでおくよ』


 いつかの彼の言葉を思い出す。

 獄王の頭へと銃口を突きつけながら。

 それでも青年は、目の前の敵を殺すことをしなかった。


 曰く『これだけ強いなら、きっといつか役に立つ』との事だった。

 あの時は、そんなわけがないと思った。

 誰もが思った、殺すべきだと。


 けれど、偶然か必然か。

 南雲巌人が倒れた今。

 その『いつか』は訪れていた。



 獄王はその場へと降り立った。



 驚きに目を見開いて彼を見る三人と。

 目を細め、警戒を示す真弓示現。


「……うわぁ、めんどくさそう」

「我らが製作者側にそう評価されるのであれば、余程なのだろうな」


 彼はそう言うと、コートのポケットから両手を取りだした。


「ご、獄王……!」

「安心しろ、妹君よ。俺は必ず義理は返す。命を救われたのなら、相応の返礼をせねば気が済まない。故に……此度『製作者側』を潰すまでは協力するさ」


 それに、と。

 彼は指を鳴らした。

 その音は目の前の空間で連続して弾け……()()()、威力を増幅させた上で黒いアンノウンへと襲いかかった。


【ぎゅぐげっ!?】


 たったの一撃。

 それで決着は着いた。

 黒く堅固な外殻は簡単に砕け、その体には巨大な風穴が空いている。

 ――不可視にして不可避。

 音速の小さな衝撃を何倍にも増幅し、放つ。

 言葉にすれば簡単なことでも、現実に起こせば凶器となる。


「あ、あの体を……」

「す、凄いっすね……」


 二人をしての反応をよそに。

 獄王ディアブルは、目を細めて示現を見る。


「これが新型だと? この程度の雑魚が、我らの辿り着くべき姿とでも言うのか」

「いやー、参ったな。あれでも並大抵の人間、並大抵のアンノウンより強いはずなんだが。……それこそ、絶対者の居ない国に送れば、それだけで滅ぶぜ?」


 示現はそう笑うと。


 ――瞬間、その姿が掻き消えた。


「――ッ」


 正確には、視線で追えぬような速度で走り出した。

 向かう先は、獄王ディアブル。

 目を見開いた彼の周囲へと、無数のワープホールが浮かぶ。

 それらを一瞥、すぐに視線を戻したディアブルだったが。


 視線の先から、真弓示現は消えていた。


「……チッ」


 思わず舌打ちがこぼれる。

 真弓示現には『一瞥』だけの隙で十分。

 それだけあれば、死角に入るのは実に容易い。

 周囲へと視線を巡らせたディアブル――の、すぐ背後で。


「それに、おまえも強いって言えるほどじゃねぇだろ」


 時空の隙間から、拳が生まれる。

 背後を振り返るディアブル。


 その瞬間には、異能は発動されていた。


「ああ、貴様もな。真弓示現」


 顔面へと直撃したはずの拳は。

 次の瞬間、鮮血と共にはじき返された。


「おっ」


 空間の歪みから示現が現れる。

 彼の拳は皮膚が裂け、肉が露出し、血が滴っている。

 それでも『原形を留めている』のがおかしいのであって。

 大してダメージを感じさせない示現の様子に、ディアブルは歯噛みする。


「嫌になるな……」


 ディアブルはそう呟き、そして、炎が瞬く。

 一直線に示現へと駆けた焔は彼の体を飲み込むと、その背後十数メートルにわたって炎の海を吐き出した。


「油断しない。……それはお前にも、だけど。こいつは異能をうしなった兄さんと同格だと思ったほうがいい。なんせ、敵でいちばんつよいかもしれない相手」

「で、あろうな。()()()()()()()()では笑えもせん」


 反射で拳が砕けなかった。

 それはつまり、それだけ強靭な肉体強度を誇るということ。

 そして同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()ということの証明でもある。

 だが、それを補って余りある技術と、機動力。

 速度の面では確実に南雲巌人を上回る。そんな予感が二人にはあった。


 やがて炎が止むと。

 その向こう側から、無傷の示現が現れる。


「馬鹿にしてるつもりはないんだぜ? 俺よか弱いお前らでも、二人もいたらそれなりに厄介だし。此処が戦場なら、本気で、一切の手加減なしに潰してやるところなんだが……」


 だけど、と。

 彼は目を細め、遠くの空を見上げる。


「すぐこの後に【祭り】が控えてるってのに、こんな所で発散しちまうのもちょいと考えものだろ?」

「……まつり、だと?」


 紡は嫌な予感を覚え、問い返す。

 それに対して示現は笑う。


「白河の居場所、知りたいんだろ? なら教えてやるよ。……まぁ、教えるっつーか、その『反射男』も、それを伝えるために来たって感じだが」

「……?」


 ちらりと、視線だけ獄王へと向ける。

 対して彼ら頷き返すと、示現を睨みながら『この場に来た理由』を語る。


「つい先程、【神威会】を名乗る組織より、全世界へと宣戦布告があった」


「……っ!?」


 驚き、視線を示現へと向ける。

 彼はヒラヒラと手を振ると、気軽に、悠々と、世間話をするように言う。


「攻めるのは【明日一日だけ】。だから、今日は生まれ育った街に別れに来たんだ。明日が終わった頃には……もう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……宣戦布告時に、白河とやらも同じことを言っていたな。曰く、世界を滅ぼすなら一日で足る……だったか?」


 随分と舐められたものだと、獄王は歯噛みする。

 その姿を一瞥し、紡は示現へ向き直る。


「だから、楽しみは明日に取っとくさ。俺はここらで逃げるとするぜ」

「……白河言外、奴の居場所を聞いてない」

「そう急くなって。ちゃんと教えてやるからさ」


 そう言って、彼は告げる。

 神威会。

 人ならざるもの達の巣窟。

 真なる人間を自称する者たちの、棲み処。


「誰一人として人の住まない大陸、二つあるだろ?」


 一つは、旧北アメリカ大陸。

 アンノウンの発生時、首都が陥落し、その勢いのまま大陸全てを怪物に奪われた大陸。

 そしてもう一つは――元より、その環境が原因で人が住めなかった大陸。



「【南極大陸】。そこに俺らの拠点がある」



「……やっぱり、そこしかない、か」


 示現の言葉に、紡の驚きは存外少ない。


「……? 薄々分かってた感じか?」

「うちの特務には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ばけものがいる。あれの目をかいくぐるなら、それこそ……もとより人類が繫栄していなかった場所。地下か上空か、南極か。どれかしかないと思ってた」


 そのため、彼女の言う【ばけもの】を筆頭に調査は進めていた。

 地下はアンノウンが少ないが、逆に調査に時間がかかり。

 空はアンノウンが多く、燃料補給の問題でも調査に手間取っていた。

 そして、南極大陸。

 幾度となく度ローンを飛ばし、調査を行ったその地は。

 文字通り、神獣級アンノウンの巣窟だった。


「この時代において、人類史とは既に隔絶された異界の地。独自の進化を遂げたアンノウンだけが集い、殺し合い、今もなお進化し続けている。過去の言葉を用いるなら……【蟲毒】と言ったところか」

「……なるほど。それすら作られたモノだとしたら、あの場所以上に安全な地はないでしょうね」


 後方から彩姫の納得が返る。

 紡と獄王に合流した二人。

 総勢四人にもなった敵勢を眺め、示現は目を細める。



「……明日が、最後だぜ」



 ふと零れた言葉は、誰に対するものだったか。


「いい加減、俺らは長く生き過ぎた。本来ならずっと前に終わってる計画を、だらだらだらだら引き延ばして……もう、いい加減終わらせたくなったんだ。俺も、白河も」


 そうして、彼の背後にワープホールが生まれる。


「……おわらせない。私と……兄さんの物語は。おわるのはおまえたち」

「はっ、言うは易し。でも、大切なもんを守るには力が居るぜ、がきんちょ」


 そう言って、彼の姿は消えていく。

 残ったのは散々に破壊され尽くした空き地と。



「――ただ、期待はしてやるよ。楽しくなるならそれでいいからな」



 そんな、意味も分からぬ独り言だけだった。

作品内の時間軸で。

残り1日ですべて決着します。

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