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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
紡ぐ物語
158/162

156.絶望と希望

「と、そんな感じです」


 絶句。

 その表現が相応しかった。

 理解が追いついていない訳では無い。

 非常に解りやすく、明快な説明だった。


 だからこそ絶句した。

 それが本当なのだとしたら。

 白河言外という男は、天才なんて言葉じゃ言い表せない。


「ある意味、白河言外は正しかったのでしょう。彼の思い込みは正しかった。異能も魔法もない個の力で、たった数十年で世界を改変するなんて……現人類史の『人』の枠には収まらない」


 故にこそ見下した。

 猿だと蔑み、見下げ果て。

 その上で、自らの性能をこれ以上なく明確に示して見せた。


「……だがよ。今の話じゃおかしいんじゃねぇか?」


 ふと、弟子屈雄武が異論を挟む。


「勉強しか脳のねぇインテリが、どうして南雲巌人を屠れるってんだ? 俺の目が正しィんなら、あのジジィは南雲巌人と同等の速度、同等の拳をもってやがった。……んなもん、土台無理な話じゃねぇか」

「ええ、そうでしょうね。()()()()()()()()()()()()、の話ですが」


 その言葉に、本日何度目とも知らぬ緊張が走る。


「彼が異能に目覚めたのは、世界変革の少し前。彼は自らに備わった新たな力を前に考えた。『これは人の身で使えるような力ではない』と」

「……だから、変えたと?」


 緊張交じりの言葉に、アイは静かに頷いた。


「アンノウンを造ったような怪物です。自らの肉体を改造、強化することなど容易かったでしょう。加えて彼の異能が、全ての無茶を可能に変えた」


 白河言外の持つ【異能】。

 この場に居る全員が知りたい情報。

 突然死の原理より。

 彼の保有する兵力より。

 南雲巌人を単体で屠り去ったという、その異能。

 未知に包まれた、おそらく現状最凶であろう、その力。



 それでいて――誰もが既に、【最悪の仮定】として考えているモノ。




「白河言外が持つ異能。その名は――【()()()】」




 それは、世界で最も有名な異能。


 人類の守護者たる【防壁】に掛けられた、古き英雄が異能。

 全てを防ぎ、全てを反射し。

 あらゆる外敵の侵入を禁じる。


 世界で最も多く、人を救った異能。


 されど、その名を聞いて疑念の声はない。


 ……かもしれないと、思っていたから。

 150年を生きる怪物性。

 南雲巌人をして傷つけられなかった防御力。

 そして、世界でも有数の、防壁を破壊できる異能。

 それらをすべて実現できるのは、その異能しかありえない。


「し、しかし……、な、何故……ッ」

「……言いたいことは分かりますよ」


 その場にいた皆が、きっと言いたかったこと。


 なぜ白河言外は、防壁なんてものを作ったのか。

 なぜ彼は、()()()()()()()()()()()()()


 アイは過去を見て、目を細める。


「……まあ、それは本人に聞けばいい話です。問題は、絶対化という歴代()()()の異能を持ち、南雲巌人に匹敵する身体能力を持つ怪物――白河言外を、どうやって倒すのか、という話になります」


 言語化すればする程に、無理難題。

 絶対に傷つけられない異能。

 それを破壊できる異能が存在するのか。

 仮にその異能があったとして、その人物にあの身体能力を凌駕できるのか。


 真っ先に候補に上がるのは、枝幸紗菜。

 だが、いかに彼女といえど絶対化の異能を越えられるかどうかは……正直わからない。

 誰もが口を開くのを躊躇う中、アイは額に手を当てた。


「……絶対化を打ち破れる人物は……そうですね。生存している中では()()()()でしょう」

「……三人、も居るのですか?」


 彩姫は思わず声を上げる。


「といっても、うち一人は南雲巌人です。彼は半生半死につき……実質、白河言外を倒せる人物は二人だけになります」


 アイは、とある方向へと視線を向ける。

 残る二人の内の一人は、既に()()()()についている。

 何もせずとも、白河言外の前に立つ。

 そうに決まっている。



 だけど、それだけじゃ足りない。



「白河言外に勝利する。……その最低条件として、ある人物を味方に引き入れなければなりません」

「ある人物…………って、魔術師ガール。先程の話を鑑みるに、なんだか嫌な予感がするのだけれど」


 確たる証拠は何も無い。

 だが、先程アイが語った過去を思い出し。

 グレイジィは、嫌な予感に駆られた。


「その、嫌な予感の通りですよ」


 そして、アイは告げる。


 白河言外を倒せる存在。

 それでいて、絶対に敵に回してはいけない存在。


 生まれながらの怪物にして。



 白河言外をして、別格と言わしめた天才。




「その人物の名は――」




 ☆☆☆




「――示現。何をしているんだい?」


 聞きなれた声。

 銃を片手に俯いていた男――真弓示現は顔を上げた。


「白河か。傷は癒えたのか?」

「問うているのはこちらなのだがね。それに、この腕を見れば分かるだろう。答えは全く癒えていない」


 彼は片腕にギプスをはめており、その腕がまだ言えていないのは誰が見ても明らかだった。

 それでも問うたのは、ただの嫌味か。


「だろうな。お前さんの絶対化は死ぬほど硬いが、それだけだ。一度受けた傷には何も出来ない。絶対化の硬度を上回る強度をぶつけられれば……白河。お前はただの一般人に成り下がる」

「耳が痛い話だね。絶対化の力に慢心し、自分の身体に治療効果を植え付けなかったツケが来たのかな」


 その言葉を聞いて、示現は銃を机に置いた。


「まぁ、お前さんの異能を筋力でぶち抜く、なんて誰も考えんだろ。だが、考えてみりゃ道理だよな。異能もあくまで、人間が作った力なんだから」

「…………」


 示現の嫌味に、白河は言葉を返さない。

 人の力に、人の力が勝る。

 そんなものは当然のことだ。

 より優れた方が勝つ。

 今回もまた、その優劣がついただけ。


 言葉を返さない白河に、示現はさらに言葉を重ねる。


「つまりだ。南雲巌人はテメェの探し求めた【相応しい人間】の代表例だったってワケだ」

「そうだな」

「それを、お前は殺したな」

「……あぁ、そうだな」


 まるで気の籠っていない返事。

 それを聞いて、真弓示現はため息を漏らす。


「……お前も、随分と変わっちまったな」


 その言葉に、初めて白河は明確な反応を示す。


「……変わらざるを得ないほど、人類というのは愚か極まりなかったのさ」


 その言葉に籠っていたのは、ひたすらの憎悪。

 空気が重く感じるほどの殺気。

 それを真正面から受け止めて。

 それでも真弓示現は動じない。


「ま、どうだっていいけどよ。俺はお前さんについて行くだけさ。それが楽で楽しいからな」


 白河言外は、部屋の外へと歩き出す。

 その背中を一瞥し。


 もう一人の怪物、真弓示現は呟いた。




「お前より【面白い奴】が現れねぇ限り、俺はお前の味方でいるさ」




 究極の極楽主義者――真弓示現。


 人が勝利する最低条件。

 それは、彼を味方に引き入れること。


 それ以外には有り得なかった。

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