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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
追憶の時計塔
154/162

152.前日譚-兵たち-

今回の章、最終話。

「南雲巌人が殺された……だと?」


 深い、深い、暗闇の中。

 男の、愕然とした声が響いた。

 その場所は現代日本において最大深度、最大強度を誇る巨大牢獄。

 サッポロという都市の地下に続く、深度1000mにも及ぶ地獄の園だ。


 その中でも、最も凶悪な犯罪を犯した者たちが投獄される場所。

 最深層――『死の間』。

 男の声は、その奥深くから響いていた。


「……いや、しかし。異能を失った状態でならば……可能性はあるか?」

「そうですね。現に、貴方は一度、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 牢獄に、もう一つの声が響く。

 女の声だ。

 闇の中から現れたのは、緑髪の秘書の女性。

 腕を組み、暗闇の中を見下ろすその女性は、間違ってもか弱くは見えない。

 絶対者、という存在が特務以外の人間をも含むのならば、その序列は間違いなく変動する。

 そう言わざるを得ないほどの力。

 それが彼女には、確かにあった。


「【電脳王】……といったか。それでも敗北という結果には変わりはない。私は真正面から南雲巌人と殴り合い、敗北した。……まあ、余計な横槍が入ったことは事実だがな」

「それでも。異能を失った後、南雲巌人が極限まで追い詰められたのは……たったの()()です」


 言い方を変えれば――本気を出したのは、三度だけ。

 そう、電脳王は言い直す。


「その内の一度は、今回の敗北。そして残る二度は――どちらもアンノウンと戦った際のこと」


 彼女は暗闇の奥へと目を凝らす。

 無数の鎖に繋がれて。

 異能すらも封印されて。

 身じろぎ一つで銃口が向けられる。

 己が命のすべてを握られている状況で。


 それでも、その怪物は健在だった。



「貴方を殺さなかった――あの時の巌人君の判断は間違っていなかった」



 彼女は、牢獄の鍵を開ける。


 ヒトならざる者。


 それでいて、絶対者に匹敵――否、それ以上の力を持つ者。


 絶望的な状況において、諸刃の剣となり得る者。




「力を貸しなさい。そうすれば、貴方を釈放すると誓いましょう」




 闇の中で、人型の獣は笑った。





 ☆☆☆





 屍が、天高く積み上げられていた。

 いずれもが神獣級に匹敵する獣たち。

 竜も、天馬も、死霊の王も。

 誰一人として例外なく、()()()()()()()()()()()


 まさしく死屍累々。


 血臭が蔓延する地獄の中で。


 獣は、肉を喰らっていた。



『apple』



 傍らの本から、音声が響く。

 肉を噛みちぎり、咀嚼し。

 人型の獣は遠方を見る。


 強者の気配だ。


 誰とも知らない、兵のニオイ。

 北の方から、いくつもソレが感じられる。

 その内の一つは見知った気配。

 己が生の中で、唯一敗北した、強者の気配。


 ……それが、どういうわけかとても弱弱しく変化していた。


 獣は困る。

 やっと見つけられたのに。

 これほど弱くなったのでは、ニオイで追うこともできやしない。


 自分はあの当時よりも強くなった。

 獣を喰らい、強者を嬲り、言葉を覚えた。

 あるていどは。


 今なら、あの当時の『彼』には勝てる。

 彼と語れる。

 今度は勝てる。

 それだけの自信があった。


 だというのに。



『pen』



 本から音声が流れてくる。

 幼児向けの、英語の本。

 簡単な英単語しか流れないうえに、半分壊れたガラクタの玩具。


 人型の獣は、本を大切そうに抱え込み、喰らった骨を放り投げる。


 ()()()()()

 かつて、頭を冷やして出直して来いと言われたから。


 だから、時間をかけてゆっくりと。


 言葉を覚え。

 知恵を蓄え

 力を増して。


 ただ、一人の人物のため。


 世界最強格の獣は、異次元な強さを身に着けた。



『我が主よ、貴方はどこに居るのだろうか?』



 彼を思うと、雌が疼く。

 絶対的な強者である自分を、唯一打ち負かした一般人。

 今度は負けない。今度は勝つ。


 そして、私を従僕として認めてもらう。



 獣は再び歩き出す。

 向かうは――とりあえずは強者の気配がする方向。


 それが貴方の敵ならば、全身全霊で屠り去ろう。

 それが貴方の味方ならば、貴方に繋がる橋になろう。

 それが全く無関係な強者ならば……己が糧として喰らい尽くそう。



『貴方のためならば、どんな道でも――』



 人型の獣は、薄曇りの下で嗤う。


次回、最終章【紡ぐ物語】編、開幕!

長かった物語もついにフィナーレです。

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― 新着の感想 ―
[一言] エンディングは気になるけど終わって欲しくない
[良い点] もうう最終章なのか.... 思えば長かった..
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