表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
追憶の時計塔
149/162

147.殺せぬ者を殺す者

初出張。

日本最北端から、99キロの場所に来ております。

「お前は……!」


 目の前に現れた、白髪の少年。

 死の風を漂わせ……下手をすれば、僕に匹敵するだけの【死】を背負い。

 彼は威風堂々と、そこに立っていた。


「よお、無能の黒王。……そっちの呼び方の方が良いだろ? 南雲の兄貴よォ」

「……いつぞやの死の帝王」


 絶対者、序列三位。

 つまるところ、あのツムよりも強い男。

 ……以前に見たときの感じだと、ツムが本来の異能を使えば勝てるだろう――と。その程度の印象でしかなかったが。


「凄まじいな……この短期間でこうも成長するか」


 僕は、背後から襲ってきた聖獣級のアンノウンに裏拳を叩き込み、思わず呟く。

 この短期間における成長速度。

 そのただ一点のみならば、全盛期の僕にすら勝るかもしれない。

 そんな手放しの賞賛に、されど、彼は苦渋を舐めたような顔をした。


「てめぇ……嫌味か? テメェが誰かの強さを褒めるなんざ、余程だぜ」

「その余程と認めてるんだよ、死の帝王」


 そう言うと、彼は目を丸くしたが、やがてバツが悪そうに頬をかいた。


「……ま、半分お世辞として受け取っとくぜ。今は、それよりも優先すべき事が沢山あるからな」


 彼はそう言うと、神獣級アンノウンの死体から降りてくる。

 僕のすぐ近くへと降り立つと、周囲を見渡し、地面を蹴った。


 ――瞬間、街中を駆け巡ったのは死のオーラ。


 触れれば即死。

 しかも今回のソレは『効果対象を定めた』類の即死攻撃だった。


 周囲にいたアンノウンたちが、軒並み糸が切れたように即死していく。

 その光景には、さしもの僕も苦笑い。


 ……お世辞なんか言うものか。

 死の帝王。君は対多数戦において言えば、全盛期の僕よりもずっと優れてる。


「たまたま上空を飛行機で通りがかれば、とんでもねぇ事態になってんじゃねぇか。泣いて感謝しろよ、南雲の兄貴」

「あぁ。今度、なにか手料理でもご馳走しよう。こう見えて腕には自信があるんだ」

「はっ。最強に手料理振舞ってもらえるとは、栄光の極みじゃねぇか」


 そう言い合って、僕らは笑う。

 以前はただの、守る対象だったけど。

 どうやら今は――背中を預けるに足るらしい。


「死ぬなよ、死の帝王」

「うるせぇ無能。こっちのセリフだ」


 そう言って、僕らは互いに歩き出す。

 無数の死体を乗り越えて、多くのアンノウンが迫り来る。

 僕は拳を握りしめ、少年は右手をかざす。


 それぞれ、目の前の群れへと向けて攻撃を放とうとした。




 ――その、直後の事だった。





『疾く失せよ。不敬であろう』




 鮮烈な言葉が。

 強烈な意思が。

 その場を――この街を突き抜けた。


「「――ッ!?」」


 僕らの攻撃の手が止まる。

 頭の中に響いた声。

 胸に飛来した圧迫感と、押し潰されそうな威圧感。そして明確な死の香り。


 こんな感覚は……初めてだ。

 何がなにやら分からないけれど。

 これだけは分かった。


 黒棺の王として――今まで出会った()()()()()()


 目の前まで迫っていたアンノウンの群れは、恐怖に全身を震わせて静止していた。

 その異様な光景は、次第に明確な形をもって異質へと変化する。


 僕らに差した、巨大な影。

 それを見上げて、僕は頬を引き攣らせた。


「……心の底から、嫌な相手だな」


 巨大な鎌が振り下ろされる。

 それらに触れたアンノウンは皆等しく塵へと変わり、それを見た死の帝王――弟子屈君が僕へと駆け寄る。


「お、おい! アレやばいんじゃねぇか!?」

「……純粋な闘級だけなら、アレよりも上は知っているんだけどな」


 僕の知りうる限り、最強の玉藻御前。

 今の僕と互角に戦えた獄王ディアブル。

 他にも僕は、ヤバい相手を知っている。

 ただ、彼らには勝てても……この相手には、()()()()()()()勝ち目が見えない。


 なんてったって、目の前の神獣級アンノウンは、僕の苦手中の苦手な相手――。



『巨大な魂の持ち主……貴様だな。黒髪の男よ』



 宙に浮かぶ、巨大な姿。

 されどその姿は半透明で、明らかに『霊体』であると言わんばかりで。

 もしかしたら、物理攻撃が通用しないんじゃ。

 そんな考えが浮かんできてからは、もう、嫌な予感が止まらない。


「……ちなみに言っとくが、さすがにコレ、一人で相手すんのは無理だからな」

「……だろうね。紗奈さんでも十数回は死ぬんじゃないかな」



 ───────────

 種族:霊王フシノカミ

 闘級:330

 異能:死[SSS]

 体術:SSS

 ───────────



 その怪物は、僕へとデスサイズを突きつけた。



『我らが王の勅命である。貴様を殺す。異論の類は一切を認めない』




 ☆☆☆




『――【死】――』


 短い呼気と、鋭い刃。

 一息で振り抜かれた大鎌を空中に飛んで躱すと、鎌の通り抜けた場所が全て塵へと変わっていた。


「非生物、無機物も何も関係なしに殺すのか……。どこかの誰かにそっくりだな」

「っせぇな! 喋ってねぇで集中しやがれ! やべぇぞコイツ!」


 死神は返す鎌で、空中の僕を狙う。

 咄嗟に空気を蹴り抜いて移動すると、直前まで僕のいた場所を即死の攻撃が抜けていった。


『……面妖な』

「その言葉、そっくり返すよ」


 拳を握り、一気に放つ。

 大気を震わせる衝撃が、強烈な圧となって死神へと襲いかかる。

 まるでそれは、暴風の砲弾。

 あまりの風圧に、見上げるほどの死神の巨体もだいぶ押されたようだが……それでも、ダメージの一切は窺えない。


 僕は地面へと着地すると、同時に僕の後ろにいた弟子屈君が異能を放つ。


「死に晒せ!【死の誘惑(デスコール)】!」


 迸る、即死の風。

 彼の手から放たれた黒風は死神の全身を覆い尽くす。

 僕の攻撃とは異なり、その巨体へと確かなダメージが入ったのがわかった。

 ……ただ、それでも。


『ふん。所詮は同系統の力……即死の攻撃など児戯にも劣るわ』

「チィっ、だろうと思ったぜ!」


 炎を扱う者が、炎に強いように。

 毒を扱う者が、毒に抗体を持つように。

 即死の攻撃を扱う者が、即死への耐性があるのは、まぁ、ある意味当然のこと。

 僕は少し考えるが……やはり、作戦は変わらない。


「弟子屈君。僕が前面で攻撃を防ぐ。あわよくばさっきみたいに隙を作る。……君は、少しずつでいい。確実に相手を削ってくれ」

「……しかねぇよな。クソッタレが……」


 不幸中の幸い、僕も弟子屈君も即死には大きな耐性を持っている。

 僕の場合は……まぁ、考えうる限り、ありとあらゆるものに対する耐性を、存在力『100』で保有している。

 即死もまぁ、ほぼほぼ無効化出来ると考えていいだろう。


 弟子屈くんは、この死神と同じ仕組み。

 彼の攻撃が死神に効きにくいように、死神の攻撃も弟子屈君には効きにくい。

 ……問題は、闘級の差がどれだけ攻撃に現れてくるか……ってことだよな。


 結論からいえば、いずれも未知数。

 即死を無効化、弱体化()()()()()()

 そんな程度のあやふやな考え。

 無論、そんなものに頼る訳には行かない。


「即死は即死と考えて動く」

「わぁってる。即死なんて空前絶後のチートだぜ。甘く見れるような力じゃねぇよ」


 そう言い終えたところで、再び鎌が振り下ろされる。

 それを大きく回避しつつも、僕は周囲へと視線をめぐらせた。


『我が眼前で作戦会議、加えて余所見とは……! 余裕だな、黒髪の!』

「余裕はないよ。状況が状況だからな」


 今も、アンノウンの軍勢は押し寄せている。

 戦闘の余波で吹き飛んでいくアンノウンも大勢いるが、残るアンノウンはいずれも強力な個体ばかり。

 僕らの他にも、この国の特務隊員たちが戦ってくれているが……正直、力不足は否めない。


 あぁ、余裕はないよ。

 いつまでも……お前に構っていられる余裕がない。


 弟子屈君が即死を放つ。

 それはわずかに死神の体力を削る。

 しかしそれは、竜の鱗を一枚一枚削いでいくようなもの。

 永遠でこそないが、それこそ一日二日じゃ終わらない。


 だから、その方面からの「攻撃」をメインには据えない。


 奴は大鎌を振り上げる。

 その瞬間を逃すことなく、僕は一気に加速した。

 目指す先は奴の懐。

 拳を握り、筋肉を震わせる。

 大きな殺意に死神も目を見開いていたが、直ぐにその表情は余裕へ変わる。


 目の前での作戦会議。

 幾度となく放った僕の攻撃。



 ――南雲巌人の攻撃が通用しない。



 幾度となく……何度も何度も繰り返し印象づけた、僕の弱点にして――()()()()()()



『はっ、貴様の攻撃など――』



「効かないだろうな。()()()()()()()()()()()()()



 殴ると見せかけた右手を、背中に伸ばす。

 コートの内側、手馴れたホルスター。

 嫌になるくらい手に馴染む鉄の塊を取り出して、弾丸を一発、放り込む。


 過去の僕が残した、最悪の虎の子。


 手放したくとも、手放せない。

 危険性という意味でも。

 紡への罪悪感、という意味でも。

 いつか来るべき時へと向けて、ひっそりと持ち歩いていた――ただ一発。


 復元の弾は幾つか在庫はあるけれど。


 こっちの弾は、これで最後だ。




「【消去(イレイズ)】」




 ただの、弾丸一発。

 平凡なハンドガンから放たれたソレは、通常ではありえない速度で飛来し、死神を穿つ。


 本来、物理攻撃の一切が効かない相手だ。

 弾丸なんて以ての外。

 そんなものが通用するはずがない。


 死神本人も、きっとそう思ったはず。



 そしてそれが、最期の思考になったはずだ。



 パァン、と。

 呆気ないほど、味気ない音。

 それが死神の断末魔。


 弾丸を受けたその体は、青い光に弾けて消える。


 あまりの光景に弟子屈君も目を見開いて固まっている。

 その姿を一瞥して――僕は、静かに銃をホルスターへと戻した。


「……クソッタレ。やっぱり強いな、昔の僕は」


 今にして、心の底から思う。

 あの当時の僕に勝てる存在は、多分、天上天下どこを探してもいないと思う。

 そういうレベルのクソチート。

 ……まぁ、手放したことに後悔はない。

 ただ、こういう局面に至った時に、初めて「力があれば」と願う……時もある。


「さ、いつまで惚けてるつもりだ、弟子屈くん」

「て、て、テメェ……! 俺の異能を囮に使いやがったな!? そんなもん持ってるなら――」


 彼は額に青筋を浮かべて僕の方へと詰め寄ってくる。

 その姿に、微笑ましさ半分、苦笑半分で笑っていたが……やがて、彼の顔から怒りが消えた。



 そして現れたのは、大きな驚愕。




「お、おい……! 南雲の兄貴――」




 彼の焦ったような声。

 その視線は僕の後ろに向かっていて。




 ぐさり。




 胸を、衝撃が貫いた。



ありがとう、南雲巌人。

あんな力を捨ててくれて、ありがとう。

あぁ、なんて感謝すればいいんだろうね。

拙い語彙力が、今ばかりは恨めしい。


兎にも角にも、ありがとう。



おかげで君を――殺せそうだ。



次回【最強の異能】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 全盛期にもかてるかもしれない〜 から あの当時の僕に勝てる存在は、多分、天上天下どこを探してもいないと思う って矛盾したこと思ってるけど今にして思えばとも言ってるから勝てるかもっ…
[良い点] 更新ありがとうございます!!!! [一言] 気配もなく近寄るとは...何者
[良い点] もう本当にありがとうございます!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ