145.援軍
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拳を振るう。
それだけで全てが木っ端微塵に吹き飛んでゆく。
聖獣級は余波だけで消えてゆく。
神獣級は多少耐えても、数秒かからず命を散らす。
そういう強さが、巌人にはあった。
「紗奈さん!」
「わかってるよん!」
剣を振るう。
それだけで全てが木っ端微塵に切り刻まれる。
目の前に在る悪は、片っ端から殺されてゆく。
逃げることは適わない。距離も強さも関係ない。
ただ、目に入ったモノ全てを殺す殺戮機、英傑の王。
世界最強と、世界第2位。
その2人が今、肩を並べて戦っている。
共に闘級は、軽く300を超えている。
正しく理外の化け物だ。
いかに神獣級といえど、今の二人には適わない。
『クソォ……コウナリャ一般人ヲ人質二……!』
知恵ある神獣級の一体が、近くの民間人へと手を伸ばす。
だが、その動きは途中で完膚なきまでに止められた。
『ゴ、ガ……! ウ、ウゴケネェ……!?』
赤い光が、アンノウンの体を包んでいた。
空を見上げれば、同色の光に包まれた彩姫が空に浮いており、彼女が手を捻ると、いとも簡単にアンノウンは捻り潰された。
「今の私は、世界の頂点お二人から、信頼を得てこの場に居ます。……先に謝ります。ここから逃がすことは絶対に有り得ません」
彼女は、両手を広げる。
凄まじい重力場が周辺へと発生し、それを察知した巌人と紗奈は後方へと飛び退いた。
その光景にアンノウン達も焦り出すが……既に遅すぎる。
「『潰れなさい』」
その言葉は、現実となって敵を襲った。
その場の重力が何倍にも膨れ上がり、周辺全てが押し潰される。
一般人は、グレイと入境が既に避難を進めている。
だからこそ、三人はアンノウンを倒すことに専念できる。
「にしても、数が多い……!」
殴っても殴っても、後から後からアンノウンは現れる。
どれだけ倒しても、キリがない。
いくら最強のふたりに加えて、覚醒した彩姫がいたとしても、この量を倒しきるのは骨が折れる。
「くそ……ッ」
巌人は歯噛みすると、同時に遠くの方から爆発音が響き渡った。
そちらへと視線を向ける。
この国の特務も向かっているだろうが……神獣級がこれだけの数出てきている以上、正直、足止めにすらならないと思う。
そこまで考え至って、巌人は拳をにぎりしめる。
しかし、彼が決断を下すよりも先に、紗奈が声を上げた。
「巌人くん! ちょっと別れて殲滅しよう!」
「……! さ、紗菜さん……」
「ちょっとねー! この数もキツイけどさ。あっちはもっときついわけじゃん? まぁ、ボクは死んでも死んでも生き返るわけだし大丈夫っ! 巌人くんは、安心してあっちに行っておいで!」
そう言って、紗奈はサムズアップを向けてくる。
その眼前へとアンノウンが迫るが、空中から彩姫が叩き潰す。
「巌人さま! 今も昔も、1番強いのは貴方です! ここは私たちに任せて……好きなように動いてください! 安心してください……これしきで倒れるような鍛え方はしておりませんので!」
「彩姫……!」
彩姫は、控えめにも運動が得意ではない。
強力な異能とは引き換えに、壊滅的な運動センス。
それは、もう1人の居候、駒内カレンとは正反対のものだろう。
最弱の異能と、神に愛されたとしか思えぬ天才的な運動能力。
加えてたゆまぬ努力を、カレンは行っていた。
だからこそ。
彩姫は常に、その2倍の量をこなしてきた。
決して負けぬように。
もう二度と、期待を裏切らないように。
もしも愛する人が、過去の二の舞になったのならば。
その時は、自分が側にいて支えてあげられるように。
彼の道を、自分が切り開いてあげられるように。
だからこそ、オーバーワークで倒れもした。
何度も心配をかけた。心労をかけた。
でも今は、この瞬間だけは。
もう、心配はかけさせたくない。
いいや、否が応でも掛けさせない。
「巌人さま。私は、大丈夫です!」
彼の目を見て、彩姫は言った。
その目を見た巌人は、大きく目を見開いて。
ふっと笑って、遠方を見た。
「死んだら殴るぞ、彩姫」
それは、巌人が初めて『彩姫を戦力として』信頼した言葉だった。
それが、彩姫は一人の女性として扱われるより、ずっと嬉しかった。
幼少期に見た、彼の後ろ姿。
アンノウンに襲われた。
それを助けられた。
それだけの、ありふれた記憶。
それが、彼女を動かす原動力だった。
今度は、守られる側じゃない。
次はもっと、彼の近くで。
彼に肩を並べて、戦いたい!
「はいッ!」
彩姫は涙を流して、返事をした。
巌人はもう、彼女へと見向きもしない。
一直線に遠方へとかけてゆき、それを見送った紗奈は、彩姫に言った。
「彩姫ちゃん。言っとくけど、この街はもう手遅れだよ? 残念だけど、圧倒的に手が足りない。正直なところ、絶対者が、あと……そうだねぇ。4人くらいは欲しいところだよ」
自分を含めて、絶対者は4人だけ。
彼女の願望は叶わない。
仮に、紡と弟子屈の2人が合流したとしても、きっとまだ足りない。
それほどまで、絶望的な戦力差。
しかし、それを前に彩姫は笑った。
「ご安心を。私は、絶対者級の『味方』を、あと二人知っております」
といっても、両方とも元はと言えば敵なのだけれど。
彩姫はそう笑うと、紗奈はキョトンと首を傾げる。
「んんぅ? まぁ、私達並に強いヤツなんて限られてるけど……」
と、そこまで言って、紗奈は目を見開いた。
彩姫の手には、スマートフォンが握られていた。
それは、れっきとした電子機器。
日本には、それを媒体に地球の裏側まで探る【怪物】が、存在していた。
『そうですね。たった今、もう一人も牢屋から解放したところです』
スマホから、紗奈にとっては懐かしい声がした。
声を聞きとったグレイが、興奮したように目を見開いて。
紗奈は、呆れ返ったように、彩姫へ言った。
「……まさか。特級犯罪者に、牢屋に閉じ込められてた謎の怪物? なにそれ、そんなの頼るとか、彩姫ちゃんてばほんとに特務?」
「はい。手段を厭わず、人を救う。それが、私が追い求めた背中でもあり、この先も決して曲がらない信念です」
その姿に、彩姫は笑った。
あぁ、なるほど。
やっぱりこの子は、あの子の弟子なんだな、って。
「……そうかい。なら、ボクはその信念を守ってあげよう」
「お気遣いどうもありがとうございます。ですが、無用ですよ。私は負けません」
彩姫はそう返し、2人は笑った。
前を見る。
無数のアンノウンが2人へと牙を向いていた。
それを見て、紗奈は剣を、彩姫は右手を突きつける。
「さぁ、行きましょうか!」
「うん。ぶっ殺しショータイムの幕開けだ!」
ここに、2人の亜人による殺戮ショーが幕を開けた。
☆☆☆
その頃、巌人。
彼は道行く最中、襲われていた人々をアンノウンから守りつつ、被害の大きな場所を目指して突き進んでいた。
「後方のアンノウンは殲滅しました! アンノウンの死骸が転がっている道を通って! 後方の特務基地は無事なはずです!」
「あ、ありがとう……! 助かったよ!」
人々は感謝を告げながら走り去ってゆく。
その姿を見送りながら、巌人は決断できずにいた。
(くそっ……、この人達を確実に救うために、一緒に特務基地まで送っていくべきか。……でも、そうしたら他の人たちが確実に助からない……!)
『ぐげげ! 今度は黒髪の獲物……ぶげぇ!?』
出会った神獣級アンノウンを一撃で粉砕しながら、巌人は駆ける。
しかし、多くの人々と生死を賭けた現状、決断を前に、彼の動きは控えめにも精彩を欠いていた。
無論、それでも並の神獣級相手には一切の引けをとるつもりは無い。
が、ここは神獣級のバーゲンセール。
異様に強いアンノウンなど、ザラに居る。
「――ッ!?」
周囲の気温の変化に気がついたのは、直後のこと。
巌人は大きく目を見開いた。
瞬間、地面から、無数の氷が飛び出してくる。
彼は地面を蹴ってそれらの氷を回避したが、上空へと舞い上がった先、建物の影から青い腕が彼の体を直撃した。
「……っ」
凄まじい衝撃が彼を貫く。
彼の体はビルを数棟貫通して、それでも止まらず、1キロ程は吹き飛ばされた。
巌人は青い腕の見えた方向へと視線を向ける。
そこに立っていたのは、青色の巨人だった。
───────────
種族:青銅王タイタン
闘級:210
異能:巨人王[SSS]
体術:SSS
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『お、おお、オマエ……標的、確認。コロス』
「チッ、また硬そうな……!」
闘級だけ見れば、変身前の酒呑童子すら上回る。
巌人は拳を握りしめる。
これで防御力に特化していると言うなら、厄介極まりない。
巌人は獄王ディアブルに瀕死の重傷を負わされ、改めて自分の過去を振り返り、そして、いい意味でも悪い意味でも慎重になっていた。
自分は決して最強では無いのだと。
慢心すれば、死ぬ可能性だって十分にあるのだと、理解したから。
特に、闘級が200を超えた相手には、もう一分も油断出来ない。
「こうなりゃ、本気で――!」
巌人は全力で拳を握りしめる。
青銅王タイタンは、高層ビル程もある巨大な体躯を揺らして巌人へ迫る。
巌人は思わず喉を鳴らし、両の脚へと力を込めて――。
「おいてめぇ、死に晒せや」
たった一言。
聞き覚えのある少年の声が響いて。
ドス黒い瘴気が、周囲へと突きぬけた。
近くのビルが、灰になったように崩れ落ちる。
まるで、寿命が尽く奪われてしまったような光景だった。
まるで、地獄。
巌人は呆然と立ち尽くし、彼の目の前で、青銅王は地に沈む。
「い、今のは……」
「オイオイ、第1位! 情けねぇ姿見せてくれんなよなァ!」
どこからか声がした。
巌人は声の方向へと視線を向ける。
そこには、青銅王の背中を足蹴に、巌人を見下ろす一人の少年が居た。
――4人いる絶対者の、内一人。
四人の中でも凶悪無比な能力を保有し、敵対した者を言葉一つで殺してしまう恐ろしき男。
かつては、地竜王に手も足も出ずに敗北した。
だが、彼は変わった。
上を知り、頂点の背中を見て、理解した。
自分の弱さを、さらなる伸び代を。
故に鍛えて鍛えて、ここに、至った。
「お前は……序列の、第三位!」
巌人は目を見開いて、彼を見上げた。
その反応に、少年はとても楽しげに笑うのだった。
名前:弟子屈 雄武
年齢:十三
性別:男
職業:貴族・特務最高幹部
闘級:190
異能:即死宣言[SSS]
体術:SSS
「さぁ、助けに来てやったぜ、最強野郎」
弟子屈くん、再臨!
覚えておいででしょうか?
絶対者序列第3位、死の帝王。
能力は即死宣言。死ねと言ったら相手は死にます。
ある程度の格上までなら通用するクソチートです。